遊園地  (鈴×主)


1年前、と来た遊園地にと来た
合宿が終わって与えられた、久しぶりの休日
「私ね、遊園地に行きたい」
そう言って笑ったは、薄いピンクのワンピースを着ていた
天使みたいだ、なんて 前は思ったっけ

夏の日射しは強い
遅めの昼食を遊園地の中のレストランで取っていると 突然が驚いたような顔をした
新しく買った服のこととか、昨日出た好きなアーティストのCDのこととか
そういった何でもないことを話していた最中だった
「まどかくんっ」
そう言って手を振る
の視線の先、振り返ると 同じく驚いたような顔をしたまどかがいた
「鈴鹿 合宿やゆうてなかった?」
「昨日で終わった」
まどかは、遊園地の制服を着ていた
バイトでもしているのだろう
スタッフ証みたいなものが、胸のポケットから覗いている
「今日もバイトなんだね」
「明日も明後日もやで」
今は休憩時間なのだと、奴は持っていた食券みたいなものをピラと見せた
バイト代と一緒に昼食も出るのだろう
直接厨房の方へ行って、すぐにトレーを手に戻ってきた
「まどかくん、ここに座ったら?」
「いやいや、デートの邪魔はできへんて」
「でも、混んでるから席ないよ?」
の上目遣いに、まどかが苦笑した
昼を大分過ぎたのに、確かに店は混んでいた
「座れよ、別にいい」
言うと、が嬉しそうに笑って ありがとう、と言った
別に、まどかがいようといまいと変わらない
どれだけ探したって、ここにはいないんだから

「しかしバスケ部はハードやなぁ
 休みなんかほとんどないんやろ? ちゃんぼやいとったで」
「やだ、言わないでよまどかくん」
店内は賑やかで、カップルとか友達同士とか、小さな子供とか
そんなのが思い思いに会話してる
「たまにはクラブ休んでデートしたりや」
カレーをがつがつ胃に送り込みながら、まどかが笑った
半分くらい聞き流しながら、目の前に置いてあるグレープフルーツジュースに視線を落とす
最近飲み物はほとんどこれだった
いつかが言ってたから
グレープフルーツジュースって筋肉にいいらしいよ、って

「聞いてんのか? 鈴鹿」
「んー」
向かいに座って、にこにこしている
いつもの調子で笑ってるまどか
がまどかを下の名前で呼ぶのも、まどかがせっかくのデートの席にいるのも気にならなかった
まどかがバイトしているから、遊園地に来たいと言ったのだろうか
そうだとしても、別に何とも思わないけれど
「なんやテンション低いなぁ」
「どうかした? 和馬くん」
別に、と
言って甘酸っぱいジュースを飲み干した
カシャ、と氷が音をたてる
夏の音だと思った

夏なのに、がいない

、おまえ姫条といたいなら 俺帰るし二人でデートでも何でもしろよ」
怒っているわけではなかった
イライラもしてないし、むかついてもいない
ただ、そういう言葉が出てきた
ポカン、と まどかがこちらを見つめている
「え? 和馬くん・・・?」
「俺、帰るな」
は、大きな目を見開いていた
ふわふわの髪の可愛い
天使みたいで、男にモテて、モテてる自分を知ってる女
「じゃな」
席を立って、冷房の効いた部屋から外へ出る
暑い、陽が肌をやいていく
気持ちいいと思った
去年は、レストランなんかに入らずに 外でサンドイッチを食べたっけ
木陰は気持ちよかった
水遊びも、ジェットコースターも、楽しかった

あの時は、が隣にいた

「待ちやっ、鈴鹿っ」
足音が追い掛けてくる
振り返ったら、まどかが呆れたような顔で走ってきた
「おまえなぁ、あれはかけひきっちゅーやつやぞ
 ちゃん お前の気ぃ引こうとして俺と仲良うしてんねや」
「ふーん・・・」
特に、興味はなかった
だが まどかは真剣な顔で言葉を続ける
「たしかにな、俺がここでバイトしてるん知ってて来たんやと思うで
 飯食う時間とか電話で話したことあるしな
 けど、全部おまえにやきもち妬かそう思うてのことやん」
日射しが照りつける
側の木から、突然に蝉の声が聞こえてきた
「ガキみたいなことせんと、戻ったりーや」
「ガキはどっちだよ」
可愛い、男にモテる、モテてる自分を知ってる女
やきもちを妬かせて、どうするんだ?
小細工してる余裕があるなんて、たいしたものだと感心する
「アクセサリーとかになってる気ねぇから」
バスケ部のエースである和馬と
問題児で何かと目立ってる遊び人まどかと
他にも学校の有名人に 愛想を振りまいてにこにこ笑って
下の名前で呼んだりしているのだろうか
大きな目を潤ませて、守ってねなんて言うんだろうか
たくさんの男を秤にかけて、和馬が重かったから彼氏に選んでくれたってことか
「どうしたんや、おまえ・・・好きや言うとったやん」
そんな女だとわかっていたじゃないか、と
まどかの口調はそう聞こえた
可愛い
男受けは良くても、女受けは悪い
あの子性格がちょっとね、なんていうのを何回か聞いた
それはひがみってやつだろ、と
思っていた
可愛いからなぁ、なんて言って許していた
多少のワガママは、の長所だった
恋愛ごっこに冷めるまでは
本物の恋愛に、気付くまでは

「本気だったら、そういうことしねぇだろ」

自分はに本気じゃなかった
への想いに気付いてねそれを知った
そしてまた、も本気じゃないと感じる
いい男とつきあって、他の男に愛想を振りまいて、彼氏候補を何人も作って
楽しんでいる
モテる自分が好きなだけ
「そういうの時間の無駄って気付いたんだよ」
「おまえ、そんなん・・・」
まどかが、言葉につまった
を残してきたレストランを見遣って、窓際の席にその姿がないのにため息を吐く
「あかん、帰ってもーた」
「その程度だろ」
「何でやねん、今までもあんな感じやったやんか
 クリスマスパーティの時かて、他の男とばっかり喋ってても妬けへんかったやん」
「今も別に妬いてるわけじゃねーよ」
前も、今も想いは同じ
を可愛いと思う、ただそれだけ
彼女につきあって欲しいと言われなければ、自分からつき合いたいと言うことはなかっただろう
ただ見ていただけで終わったはずだ
可愛い子は、可愛い子のまま
つきあってみても、それは何も変わらなかった
これが恋ってやつかと、刷り込まれたような知識があっただけだ

「他に好きな奴、いるんだ」

は、どこにもいない
想いは否定された
忘れるから、という言葉
それは、だから忘れてくれ、と そういうことだ
ちゃんか」
苦笑に似たまどかの表情に、和馬は視線をやっただけだった
好きだと言ったって、どうにもならない
忘れろと言われた想いに、行き場なんかない
「俺、と別れるから」
こんなのに意味なんかないし、と
和馬はため息と一緒に言葉を吐き出した
なら、すぐに他の男を探すだろう
まどかとか、別の格好いい男とかを
「泣くと思うで、彼女」
「泣かないと思う」
そのまま、歩き出した
日射しが肌を射すようだ
去年は気持ちよかったもの
今はただ、痛いと思うだけ

がいた、あの夏には戻れない


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