忘れるから  (鈴×主)


忘れるから、と
朝イチで に言われた
部員達が帰りのバスに荷物をつめこんでる時間
周りはざわざわしてて、いつも通りの喧噪
何もなかったかのように、は言った
昨日のことは、忘れるから

「ようするに、大迷惑ってことだよな」

空は憎たらしいくらいの快晴
日射しは強くて、気温も高い
部員達はみんな、合宿を終えて清清しい顔をしていた
和馬の心だけが、苛立っている

「そりゃまぁ、そうか
 あいつは三原とつきあってんだし」

口にすると、吐き気のする名前だった
大嫌いな奴だ
を手に入れて、得意そうに笑ってる奴
腹がたった
気に入らなかった
とのキスの感触は、今もまだ残っている

冷房の効いたバスの中で、はため息をついた
後ろの方の席では男子がはしゃいでいる
それを遠くに聞きながら、無意識に指で唇をなぞった
熱い
まだ熱い
突然に、触れられた唇
伝わった熱
まるで噛み付くみたいなキスだと思った
驚いて見開いた目は、花火の明るさだけを映していた

和馬が自分に触れるなんて思ってもみなかった
そして、その理由もわからない

「意味わかんないよ・・・」

和馬には彼女がいる
可愛い、可愛いと言っていた女の子
あいつ、前の男と別れられなくて怯えてるんだ、なんて心配して
俺なら守ってやれるかも、なんて嬉しそうに頬を染めて
可愛いんだ、だから好きになる奴の気持ちはわかる、とそう言って
それから二人はつきあいだした
良かったね、なんて言って笑ってた
一生懸命、和馬の隣で笑ってた

「意味わかんない」

夜中、眠れなかった
布団にもぐり込んで、必死で考えた
回らない頭、熱い唇、心が痛くて気分も悪くなって
どうしていいのかわからなかった
好きな人にキスされたのに、どうしてこんなに苦しいのかと
途中で何度も泣きたくなった
和馬がキスした理由なんか わからない
必死に隠してたこの想いを、掴み出されて引きちぎられた
そんな気がした
和馬が好きなのは、のくせに

喧噪の中、和馬は目を閉じた
バスの揺れ、痛む心
何通も何通も届くからのメールに 大きくため息をついた
が好きだ
もうわかってしまった
に対する想いは、恋愛ごっこみたいなものだと ようやく今になって気付いた
可愛いから、頼りにされて嬉しいから
そんな子供みたいな恋愛
今、に対して感じてる痛みなんかない
メールは煩わしかった
そんな自分に、嫌気がさす
女なんか、とそう思った
じゃないなら、いらない
が昨日のことを、忘れるというなら自分もそうするしかない
この痛みに似た想いを、押し殺して消してしまうしかない
泣きたくなった
と別れたって、こんな風に心は痛んだりしないだろう

バスはスピードを上げて進んでいく
やがて、はしゃいでいた部員も疲れて眠り出し、車内は静かになった
流れる景色を見ながらはそっと目を閉じる
どうしようもなかったから、忘れると伝えた
は和馬への想いを消すために、色に側にいてもらっているのだから
優しい色を裏切れない
悲しい想いなんかしたくない
彼女がいる和馬に振り回されるのなんか嫌だと思った
キスの理由も いらない
忘れるだけ
何もなかったかのように、日常に戻れればそれでいい
友達に戻れたら、それでいい

「忘れるから、鈴鹿・・・」

つぶやいた
祈りみたいな声だった
もう一度だけ、唇を指でなぞった
痛みに似たものが チクと刺さった
そんな気がした


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