夏合宿4日目  (鈴×主)


その夜は合宿最後の夜だった
毎年、最後の日に何らかの企画がある夏合宿
今年は近所でお祭りがあって、それで花火が上がるときいた
練習後、みんなで花火のよく見える広場まで行くことになっている
「鈴鹿、先行っとくぞ」
「おう」
どうしてこんな日に、と思いつつ和馬は食堂の掃除をしていた
世話になった場所をそれぞれ、男子の当番が掃除している
何も花火のある最終日に当たらなくてもいいだろう、と半ばぼやきつつ 和馬はほうきで砂を外に掃き出した
辺りは静かで、部員達はほとんどが祭の広場へでかけたようだった
ハードだった合宿も今日で終わり
明日にはここを離れるから、部員達も開放感いっぱいだった
だから誰も、不運な和馬の掃除を手伝ってはくれない

20分ほどたって、ようやく仕事を終えた和馬は大きくのびをしながら渡り廊下を歩いていた
遠くでドン・・・と音が聞こえている
花火が始まっているのだろう
急げばまだ間に合うか、と
走り出そうとした時、聞き慣れた声が側の部屋でした
今夜は誰もいないはずなのに、どうしてこんなところにがいるのか

「あれ? あんた花火行かなかったの?」
「今から行くとこ」

障子の向こうには、と 布団で寝ている1年の女子がいた
そういえば、今日の紅白試合の時に怪我した子がいたような気がする
彼女がそうなのだろうか
それで、がここで面倒みているのだろうか
「どしたんだよ、そいつ」
「足、腫れてきたからちょっと心配で」
部屋には以外誰もいなかった
みんな祭に行っていて、ついてる人間が誰もいないということか
「コーチが30分くらいで帰ってくるって言ってたから、それまでついてようかなって」
「そんなのマネージャーの仕事だろ
 なんでお前がやってんだよ」
「うーん、やっぱり気になるから」
は笑ってそう言った
また遠くでドーン、と音がする
「30分も待ってたら花火終わるだろ」
「いいよ、しょうがない」
は優しいから、怪我をした後輩についていてやろうとしているんだろう
せっかくの花火の日に マネージャーが行けないのが可哀想で、代わってやったのかもしれない
広場までは少し遠いから、花火を見るのにでかけていったら もし後輩に何かあった時どうにもできない
そう思っているんだろう
「花火、見たくないのかよ」
「見たいけど」
仕方ないよと、が笑った
そういう優しいところが、好きだと感じた

「よし、5分だけならいいだろ」

唐突に、和馬がの手を取る
強く引いて、立ち上がらせた
「早くしろよ、花火終わる」
「だから・・・いいんだってば」
「5分だけなら こいつ寝てるから大丈夫だって」
強引だと思ったけれど、和馬は引かなかった
部員みんなが楽しみにしていた花火
だって、花火楽しみだね、と今日の練習の時はなしてた
せっかくの、合宿の最後の夜
だけ見れないなんて嫌だと思った
一緒に見たい
そう思った

の手を引いて寺の奥にある山道を駆け上った
少し上に丘があって、何かのデカい鐘がある
息をきらせて登り切ったら ドォン、と
視界に一斉な華が咲いた
大空に、花火が広がる

「ここって実は広場よりいい場所なんじゃねぇ?」
「ほんと、最高っ」
咄嗟に思い付いたにしては上出来だと 和馬は満足気に笑った
花火が上がるたびに、の横顔が照らし出される
風呂上がりで、髪は下ろしていて
やっぱり無防備なTシャツなんか着てる
嬉しそうに空を見てる横顔は、いつもみたいに笑ってた
無理矢理でも連れてきて良かったと思う
「おまえって優しいよな」
「え?」
「普通、自分だけ花火見れないとか嫌だろ」
がこちらを向いた
少しだけ笑って、言う
「見れたよ、あんたのおかげで」
夏の風が、の髪をさらっていった
心が熱くなる
二人きり、ここにいるということ
それが何より嬉しかった
がいれば何もいらない
またそう思った

「おおっ、これすげぇ」
「派手だねぇ」
しばらく二人ではしゃいだ
花火って、見てる人間を心の底から楽しませてくれる
そう思った
ここには誰もいなくて、誰も邪魔しなくて、二人きりで、がいて
「どうやって作るんだろう、こんな綺麗なの」
「さぁなぁ」
「大きな華みたい」
「隕石とか彗星とかみてぇだ」
顔を見合わせて、笑いあった
また、新しいのが上がる
空が色とりどりに染まる
「そういえば三原が怒ってたなぁ
 花火だけは描けないって」
空を見上げて、がつぶやいた
「あの美しさはキャンパスに再現できないって」
くす、とおかしそうに笑う
そう言った時の色の顔を思い出したのか
また、空で華がさいた

「言うなよ・・・っ」

ドォン、と
腹に響く音がする
ぱっと、の驚いたような顔が照らされた
気付いたら、強い力で、の肩を掴んでいた
衝動が、身体中を駆け抜けていく
心が、熱くてどうにかなりそうだ

「あいつのことなんか言うな・・・っ」

落ちていく光の筋
一瞬くらくなる空
また、音が響く
照らしたの顔は、無言で和馬を見上げていた
無意識に、の肩を掴む手に力が入る
どうしようもなかった
怒りに似た熱さが、身体を支配している

「どうしたの・・・、鈴鹿」
「三原なんかどうだっていいだろ」
俺といる時に、違う奴のことなんか話すな
違う男のことなんか考えるな

ドォン、
光は視界の端を明るくしただけだった
身体中を駆け回っている何か
嫉妬なのか、それとも別のものなのか
止めることなんかできなかった
ただ、力づくで その強ばった身体を引き寄せて、そのまま唇を奪っていった
熱でどうにかなりそうだ
無理矢理に触れた唇から、の熱も伝わってくる

次の花火は見てなかった
に振払われて、その身体を解放する
見下ろしたら 揺れる目が睨み付けていた
泣いてるのかと、一瞬錯角した

やがて花火は終わる
無言のまま 走っていったの後ろ姿
いつまでも見送って、和馬は大きく息を吐き出した
これほどの想いを知らない
どうしていいのかわからない
熱はまだ、唇に、心に、残っている


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