心の中  (鈴×主)


バスケ部に休日が与えられた
一週間、クラブがない
そしてその後は、怒濤の1週間の合宿に入る
今のうちに遊んでおけということか、
今のうちに合宿へ向けて体調を調整しておけということか
部員達は、それぞれに休みを満喫していた

和馬は本日は、久しぶりのデートである

「おまえらデートやのに手もつながんの?」
「うっせぇなぁ・・・」
朝、顔を合わせて やっぱりやめれば良かったと和馬は一人頭をかかえた
プールの前に10時に集合
最近、デートしてないとが毎日のように言うから、と
休みに入った最初の今日、遊園地にでもでかけようかと言った
そうしたら新しい水着買ったの、と
が言って、それで決定
プールなんて高校に入ってから一度も行ってないんじゃないかと思いつつ 待ち合わせ場所に向かっている途中にメールが入った
お友達もデートだって言うから、一緒に行こうなんて
軽い気持ちで「別にかまわない」なんて答えたのが間違いだったのか
やってきたのは 朝っぱらから恥ずかし気もなく女と手をつないで顔にニヤつかせたまどかだった
急に頭痛がする
「ベタベタすんなよ、暑苦しいっ」
「何ゆうてんねや、手つながんかったら寂しいやん?」
「・・・おまえキモイ」
「おまえの方が健全ちゃうわ」
悪友とは、夏休みに入ってからは一度も会っていなかった
自分にはこの間の大会まで、バスケしか見えていなかったから
毎日寝ている時間以外はバスケばかりといった感じで、との電話も1日に30分程度で切っていた
「和馬くんが久しぶりにお休みなの」
がにこっと笑って見上げてきた
白いワンピースに、ふわふわの髪をなびかせて
こう言っちゃ何だが、まどかの連れてる派手な女とは比べ物にならないくらい可愛かった
「まぁええわ、せっかくやから楽しもうや、ダブルデート」
「ぐ・・・っ」
「ほな着替えてくるし、またあとでな」
がし、と
和馬の肩を掴み、更衣室へと追いやりながら まどかは隣でおかしそうに笑った
「何だよ」
「いやいや、お前もちゃんとデートとかするねんなあと思って」
「2ヶ月ぶりくらいだけどな」
「・・・はぁっ?!!!」
更衣室に、人はあまりいない
着替えなんかに時間のかかる女と違って、男は支度が楽だから みんな着替えるとさっさと外に出ていくのだろう
冷房のきいている涼しい空間の、開いているロッカーに荷物をつっこんで 和馬はTシャツを脱いだ
「おまえ、そんなんでようつきおーてる言うなぁ
 ちゃん可哀想やん、デートが2ヶ月ぶりて!」
「しょうがねぇだろ、バスケが忙しいんだから」
「・・・それでちゃんは何も文句言わへんのか?」
「言うから 今日来たんだよ」
本当なら、休みの一週間まるまる自主トレーニングをするはずだった
もう来年のインターハイを目指して、気持ちを切り替えているのだ
今度こそ負けない
今度こそ夢をつかむ
あの病院で、と二人 無言でそう誓った
届かなかった夢に向かって、もう一度頑張ると気合いを入れ直したから
「ほんまにお前 バスケバカや」
「うるせぇよ」
服を全部ロッカーに突っ込んだ
まどかを睨み付けてやると 彼は大袈裟な身ぶりでイヤイヤと首を振っている
「夏休みやのに、可哀想やわぁ
 ちゃんかて遊びたいねんで?
 俺がかわりにどっか連れてってやろーかなぁ」
「・・・・」
ちょっとムッとした
でも、それでが毎日のように電話で「つまらない」を連発しなくなるならまぁいいか、と
思い直して苦笑する
可愛い
久しぶりに会ったら やっぱりドキとする
上目使いに見上げてくる目
天使みたいな笑顔
彼女に対する想いは、出会った頃と何も変わっていない
可愛いな、と思って 仕種や笑顔にドキとして
これが恋なのかと 与えられた知識をもって判断する
そんな感じ
「そういやちゃんは怪我したらしいな」
「昨日は練習出てたけどな」
「おまえが休みっちゅーことは ちゃんも休みっちゅーことやな?
 明日デート誘ってみよかなぁ」
「やめろ、あいつは怪我治すのに専念すんだから」
もう一度 まどかを睨み付けた
日焼けした肌にチョーカーなんか巻いてるキザな奴
連れてる女はいつも違って、本気が誰に向いているのかわからない奴
「けど練習は出れんねやろ?」
「動けるようになったら 遅れた分取り戻したいって思うだろ
 あいつは家で合宿までの調整してんだから、かまうな」
「なんで鈴鹿がそんなこと言うねん」
クク、と
まどかは笑うと、大きく伸びをした
ちゃんは誘ってもいいみたいにしてるくせに、ちゃんはあかんねや」
「うるせーなぁ、バスケの邪魔になんのが嫌なんだよ」
心の中に、何かの感情が持ち上がったのを無視した
まどかの言葉に引き起こされるこの感情
得体の知れないもの
考えるなと自分に言い聞かせて、今までやってきた
「ほんま お前ニブチン」
「うっせ」
ロッカーの鍵を指でくるくる回しているまどかに背を向けた
これ以上話していたら またよけいなことを考える
それは 気持ちを不安定にする
「そんな彼氏 ふられるで?
 女の子は自分が一番やないと嫌やねんからな」
「一番だからつきあってるんだろ?」
「お前にはバスケの方が大事やん?」
「バスケと比べてどーすんだよ」
しつこく絡んでくるまどかと言い合いながら ようやく更衣室を出る
最近改装したというこのプールには、色んな深さのプールがあって なかなかどうして楽しそうだった
「お、あれ飛び込み台だろ? すげぇな」
「あっちのは滑り台やなぁ」
二人して、一気に盛り上がる
久しぶりのプール
たまには こんなのもいいと思った
今日はバスケは休みと決めたから、ここで思いっきり楽しもうとそう思った
だがその気持ちは、が着替えを済ませてくると一気に下がる
「え? 泳げねぇの?」
 水がちょっと恐いの」
「だったら別のとこにすれば良かったじゃねーか」
「だって和馬くんにの水着見てほしかったんだもん」
賑わっているプール
夏の太陽は頭上に輝いている
まどかは、やたらと露出度の高い女と ちょっと泳いでくるといって向こうの深いプールへと行ってしまった
それを見送って、は当然のようににこりと笑って行ったのだ
自分は泳げないから水には入りたくない、と
「日焼け止めもっと塗ればよかったかなぁ、今日暑いね」
「夏だからな」
つまらない
せっかくのプール
せっかくの太陽
せっかくの夏
なのに ここに来たいと言ったは、今は日焼けを気にして陰へといきたがっている
「ちょっと泳ごうぜ、そっちなら浅いから背つくだろ」
「うん」
誘えば大人しくついてくるが、
それでもちゃぽん、と
プールサイドに座り水に足だけつけて、それきり
動こうとはせずに にこにこといつもみたいに笑った
(・・・つまんねぇ)
例えば、今までしたデートの中で 最高につまらなかったのが植物園でのデート
花見て歩いて何が楽しいんだと思いながらも が行きたいならとついていった
どの花を見ても 綺麗ね、とか可愛いね、とか
そんなことしか言わなくて そのくせ園内を端から端まで見て回るのだ
可愛いに大抵の男は振向いて、
それで和馬に羨望に似た眼差しを向けるのだけれど 当の和馬は眠くてダルくてたまらなかった
そのベストオブつまらないデートをはるかに超える今日のデート
せっかくのプールで、泳がず足をつけてるだけなんて
(こいつと俺って合わねぇのかな)
ふと、思う
和馬はの可愛いところが好きで
頼りにされて嬉しくて
他の男とがしゃべってるのを見て ちょっと妬いた
それが恋だと聞かされたから、ああそうなのかと二人つきあっているけれど
(けど つきあうってそんなもんだよな)
よくクラスで 彼女と趣味が合わないだの言ってるのを聞く
みんなそうなら、やはり彼女っていうのはそんなもので
和馬くらいの年だったら、女といるより男同士でバカやってた方が楽しいに決まっているのだ
だからといて疲れるのも当然だし
友達であるといる方が楽しいのも当然なのだ
「和馬くん、泳ぐの上手いの?」
「まぁ普通かな」
「あっちの深い方へ行く?
 、和馬くんが泳ぐのを見てる」
「・・・いいのか?」
「和馬くんって格好いいね
 服きてるとわかんなかった、鍛えてるの?」
「いや、バスケやってるから・・・」
見上げてくる大きな目
恥ずかし気もなく投げかけられた言葉に、和馬は赤面してプールから上がった
和馬もまどかも そこらの軟弱な男とは違う
和馬はバスケをしているから、まどかはバイトで鍛えているから
だから二人は水着になって肌をさらしても様になっているらしく
時々女の子が見てキャーなんて言ってる様子に は得意気な顔をしていた
「和馬くんって格好いいな」
それは、和馬がを可愛いと思うのと同じ感情なのだろうか
誉められて悪い気はしなかったが、何かちょっとだけチクとした
それは自分の ただの外見にすぎないと思ったから

深いプールで泳いでいたまどか達と合流して、和馬とまどかはしばらく本気で泳いでタイムを競ったりしていた
その間、女達は側のビーチパラソルの下に入ってこちらを見ている
楽しそうだなと、見てて思った
いつも思うことがある
が楽しそうにする程、自分は楽しめはしない
今も、まどかと二人で泳いでいるから楽しいけれど、泳げもせず、水に入りもしない女と一緒にプールに来て 何が楽しいか
お喋りするだけなら喫茶店でもできるじゃないか、と
ため息をついた和馬に、まどかが笑った
「おまえは女に求め過ぎ
 女なんてあんなもんやで?」
「みんなこんななのか?」
「ほとんどそうやな、日焼けは嫌やし髪が濡れるのも嫌やし、けど水着は見てほしい
 おまえ、ちゃんとちゃんの水着ホメたったか?」
「え・・・?」
「ホメたれよ、めっちゃ可愛いやん
 今も男がじろじろ見てってんで」
「・・・可愛いからな、は」
何か声をかけてきた男に対して、が笑って答えていた
こちらを指さしているから、彼氏と来ているとでも言ってるのだろう
「モテモテやな」
「可愛いから」
「おまえ、そればっかりやなぁ」
「・・・」
それ以外に、のことを知らないのかもしれないと、ふと思った
最初会った時 可愛いと思った
それから想いは変わらない
つまり今も、可愛いとだけ思っている
ちゃんのこと好きなんやろ?」
「・・・そりゃ、つきあってるんだからな」
ちゃんのことは?」
「なんでが出てくんだよっ」
頭を振った
は、一緒にいて一番楽しい相手だ
プールなんかに来たら まっさきにこの深いところに走ってきて飛び込むだろう
くたくたになるまでばちゃばちゃ泳いだり、何度も滑り台から滑ってみたり
いつまでも笑ってるだろう
そして、自分も隣で笑ってるはずだ
バカみたいに、いつもみたいに
ちゃんのことになるとムキになんなぁ」
「お前が言い掛かりつけるからだろ」
側でうき輪に掴まって浮いていたお姉さんが、にこりと笑いかけてきた
「君たち格好いいね、スポーツでもやってる?」
「や、俺はバイト一筋やで」
見知らぬ年上の女と、まどかが楽し気に会話を始める
鍛えられた身体、まっすぐに伸びた長い手足
やはり目立っているのだろうか
側まで飛んできたビーチボールを投げ返してやったら 取りにきた同年代くらいの女の子が頬を染めたのに 急に恥ずかしくなった
なんなんだ
バスケをやってりゃ誰だってこの位の身体にはなれるし、珍しいものでもないだろうに

「おまえは欲ないなぁ
 せっかくモテてんねんから満喫したらええのに」
「なんだよ、外見だけだろ」
「最近軟弱な男が多いからなぁ
 これだけ引き締まった若い身体は 女の子達の目ぇ引くってわけやな」
「引きたくねぇよ、別に」
バスケ部はみんなこんなんだぞ、と
和馬は 相変わらずパラソルの下でかき氷なんか食べてるを見遣った
こちらが気にする程、は和馬を気にしていないらしい
をおいて一人泳いでいるのを引け目に感じているのだけれど、それでもはかまわないようだった
時々、こちらに手を振って嬉しそうに笑う
「女って変なの」
ちゃんはあれやな
 男をアクセサリーかステータスと思うようなとこあんな」
「・・・?」
「お前みたいな彼氏連れて、周りに自慢したいんやろ?
 ついでに可愛い自分も見せて男にモテて喜ぶタイプやな」
「意味わかんねぇ」
「おまえは純情やからなぁ」
まどかが涙をふく真似をしながら笑った
「小悪魔やな、けど可愛いから許す」
「アクセサリーって何だよ」
「お前がエエ男やゆうこっちゃ」
やっぱり和馬には、まどかの言う意味がよくはわからなかった
ただ、心のどこかがやはりチクとして
それで苦笑した
連れて歩けば自慢になるような男だと言われても、ちっとも嬉しくない
それはやっぱり外見だけで
自分がいい男でも、格好いい男でもないことは自分が一番知っているから
頭の中はバスケばかりで、成績は悪くて、試合ではファールが多くて
時々何やってるのかと自己嫌悪する程に、子供っぽい
そんな自分のどこが格好よくて、自慢になるのか
「嬉しくねぇよ」
「お互い様やろ
 おまえかて、ちゃんのこと可愛いしか言わへんやん?」
まどかを見た
奴はそんなのを全てお見通しで、
だから和馬にからむのか
そんな外見だけで判断して まるでアクセサリーみたいにを彼女にしているから
「おまえ、が好きなのか?」
「お前が手ぇ引いたらアタックしてみよかな」
本気なのか冗談なのかわからなかった
ただ奴は、気分を害した風でもなく、いつも通りに笑って言った
「俺はお前が心配やな
 俺が恋や言うたからそう思い込んでんねやったら、ちょっと気になるねんな
 おまえはちゃんより気にしてる女がいるみたいやから」
それはのことか、と
口には出さなかった
考えないようにする
考え出したらきっと、意味がわからなくなるから
とは親友
その答えを出すのに、たくさんたくさん考えたじゃないか
男女間に友情は成立するかと聞いたら、はすると言ったじゃないか
二人は親友のはずだ
だから一緒にいて気を使わないし、疲れないし、楽しいんだ

「わかんねぇ、なんか」

つぶやいてため息を吐き出した
水から上がると、肌を太陽がやくのがわかった
がタオルを持ってかけてきてくれる
側で女の子が 彼女持ちかぁ、なんて言ったのが聞こえた
一瞬そっちを見て得意気な表情をしたに また胸がチクとした

帰りのバスに揺られながら、和馬は隣で眠っているの横顔を盗み見した
前の席では まどかと女が並んで眠っている
客は少なく、車内は静かだった
(俺、をちゃんと見てないのかも・・・)
可愛い
甘えたで頼り無くて、ふわふわしていて、守ってあげたくなるタイプ
いつも上目遣いに男を見上げて、口元でにっこりと笑ってる
みんなアレに参るんだと 誰かが言ってたのを聞いたことがある
ドキとする
和馬だって、そうされたらドキドキする
だからって、それが恋ではないのかもしれない
好きだといえる程、和馬はのことを何も知りはしない
(アクセサリーか・・・)
だから、和馬がにとってその程度の存在でも仕方がないかもしれない
男が可愛い女がいいと思うように、女も彼氏にするなら格好いい男を、と思うのだろうか
まどかは外見をホメられると嬉しいと言っていた
和馬はうんざりした女の子のひそひそ囁く声も、こちらを見る目も
快感や、なんて喜んでいたっけ
あの中の誰も、内面なんか見ていない
そしてそれは、
同じく和馬も

バスはがたがたと揺れながら走っていった
窓の景色が流れていく
考えてはいけないと あんなに思っていたことを考えはじめようとしていた
心の中で目を覚ましたものがある
へ向けられている自分の気持ち
それから、に対する想い
まどかの言葉は、適格なのかもしれないと感じた
考えて答えは出るのだろうか
答えを、出してもいいのだろうか
(・・・わかんねぇ)
目を閉じて 思い浮かべたのはのことだった
だがすぐに、眠気がゆっくり降りてきて 和馬はそのまま眠りはじめた
迷いに似た感情に心の中を支配されながら


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