おまじない  (鈴×主)


大歓声、ボールの音、それから選手達の足音
会場内は熱気に包まれる
夏の大会、インターハイ出場をかけて 選手達は太陽よりも熱くなっていた
会場につめかけた客や応援団も、つられて熱気を放っている

「すげー騒ぎ」
「去年の優勝校でしょ、今やってるの」

和馬は、会場から少し離れた階段のところでをみつけた
非常口の灯りの下
今は大注目中の試合の最中で、会場の外に出ている人はほとんどいない
この試合が終われば、と和馬の試合が始まる

「調子、どうだよ」
「すごくいい」
「俺も」

今年はいけそうな気がする、と
男子も女子も思っていた
去年は出られなかったこの大会
レギュラーを獲ってから このためにバスケを頑張ってきたと言っても過言じゃない
それくらい、バスケ部員にとっては大事な大会
はばたき高校バスケ部は、今日までて男子も女子も2回勝っていた
勝ち続ければ、いつまでも試合ができる
そして、インターハイという全国の強者が集まる大会へ行ける
夢のようだった
夢に向けて、二人は必死で戦っている

「緊張してんのか?」
「うん」

いつもより、口数の少ないに、悪戯っぽく言った
肯定の返事は、意外だった
「お前でも緊張すんだな」
「するよ、そりゃ」
の次の試合相手は、練習試合で何度かやった相手
力は5分5分
そうなれば、勝ちたいという気持ちの強い方が勝つんだと、コーチが言っていたっけ
「そんな顔してっと足もつれるぞ」
「だからここで集中しようとしてんの」
が笑った
いつもみたいな笑顔
あはきらはしっかりしてる
緊張してどうしようもなくなったって、誰にも言わずにここで一人精神統一
不安に思っても、誰にも言ったりしないだろう
一人で全部抱え込んで、一人で全部消化する
そうできる強さがある
は、一人でも大丈夫な人種なのかもしれない
「手、震えてんぞ」
「うるさいなぁ、ほっといてよ」
俯きがちに、何か考えているその横顔を見つめた
こんなは初めて見るかもしれない
膝の上に両手を置いて、じっとしてる
その手が僅かだけど、震えている気がする
意外
は、緊張なんかしないと思っていた
「次の相手、5分だろ」
「うん、負ける気はないよ」
いつまでたっても震えの止まらない両手を、がぎゅっと握った
握りこぶし二つ、膝の上
ふと、大袈裟な程に巻かれたテーピングが視界に入る
左膝
いつもはサポーターか何かをつけてたっけ
その下は こんな風にしてあるのかと思った
ちょっとやりすぎじゃないか?
「膝、なんかなってんのか?」
「念のためにね」
の言葉は短かった
側に転がってるバッグに いつものサポーターも入ってるんだろう
そういえば、試合ではいつもしてたっけ
決まって左膝
和馬も怪我の後なんかには、サポーターをしていたことがある
ちょっと不安だったりしたから
気休め程度にしかならないけれど、1週間程手放せなかった
思い返せば、は1年の頃からずっとつけている

不安なのだろうか、とふと考えた

「なぁ、緊張解くとっておき教えてやろうか」
「え?」

これは小学生の頃、初めての試合の時コーチが教えてくれたものだった
緊張で喋ることもできなくなっていた和馬の緊張が、ふ・・・と軽くなったおまじない
「目とじろよ」
不思議そうな顔をして、だがは黙って目を閉じた
あの初めての試合に勝ってから、和馬は試合前に緊張などしなくなった
試合が楽しいと知ったからだった
今でも、試合前にあるのは緊張ではなく高揚だけ
早くやりたくて 今もウズウズしている

ぎゅ、と
の身体を抱きしめた
驚いたようにが目をあける
「ちょ・・・っ」
何か、言いかけて だがはすぐに黙った
コーチはこうして抱きしめてくれて、それから背中を3回叩いてくれた
ぽんぽんぽん、
そうして、和馬はを放した
「どうよ?」
俺に初めてバスケを教えてくれたコーチのおまじない、
そう言おうとして、が真っ赤なのに気付き
「・・・・っ」
言葉は突然に消失した
瞬間多分、和馬も真っ赤になっただろう
顔が熱いと感じる前に まるで怒鳴るみたいに声を上げていた
「べ・・・っ、別に変な気とかないからなっ」
ただのまじないだろっ、と
その声は驚くほど廊下に響いた
は真っ赤なままで、一度だけうなずいた

それから10分程で、試合が終わった
会場から漏れる歓声を聞けば、去年の優勝校が勝ったのはわかりきっていた
その学校と、次の次の試合でが当たる
「さてと、」
いつもの顔で が立ち上がった
「行ってくるよ」
「おう」
その顔はもう赤くはなかったし、手は震えてはいなかった
和馬のおまじないなどなくても、は一人で緊張やその他の気持ちを克服できるのかもしれない
自分がここにいたのは、にとって邪魔なだけだったのかもしれない
「勝てよ」
「あんたもね」
階段を降りきった所でが振向いた
いつもみたいに笑っていた
「おまじない、効いたかも」
屈託のない笑顔
ありがとう、と そう言っては廊下を歩いていった
残されて、和馬の顔がまた熱くなる
抱きしめたの身体、
その感触が、両手、両腕にまだ残っている

試合はその日、どちらも勝った
はいつも通りのプレーを見せたし、和馬は3回ファールを取られながらも味方の弱味を補うようなプレーをしてみせた
夏、二人は絶好調
意識は同じように、夢を目指して駆けていく


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理