独占欲  (鈴×主)


が練習を休んだ
今は大会前の大事な時期で、いくら練習の時間があっても足りなくて
も和馬も毎日毎日遅くまで練習しているのに
なのに貴重な日曜日の、まるまる練習できる今日という日には練習を休んだ
しかも、あんなくだらない理由で

「前からの約束なんだ、そろそろ絵を仕上げたいんだって」
「お前今がどんな時期かわかってんのかよ」
「しょうがないよ、なんとか調整はする」
「インターハイ、かかってんだぞ」
「わかってるよ」

昨日、練習の帰りに言ってた言葉
色の絵のモデルをしなくちゃいけないから休むと
こんな大事な時に
貴重な時間を無駄にしてまで
「何が絵だよ、あいつも時期見て言えってんだ」
ガツン、と
手にしたボールを壁にぶつけた
ひどい音がして、ボールは跳ねて転がっていく
和馬にとって何よりも気に入らない色という存在
バスケのことなんか何もわかってないから、こんな時にをモデルになんて言うんだ
二人はつきあってるんだから、色がの絵を描こうが、が色のモデルになろうが知ったこっちゃない
だけど今はダメだ
これを目指してやってきた、そう言っても過言じゃないほど大切な大会
インターハイがかかった試合が控えてるのに
「くそ・・・っ」
イライラした
も和馬も、今とても調子がいい
夏に向けて 他の部員がバテだす中 二人は本当に調子がよかった
この季節が身体をよくする
気持ちが良くて、やる気があふれる
レギュラーじゃなかった去年の大会
先輩達が負けるのを見て、誓った
来年は絶対自分が行く
そのために必死に夏合宿をこなしてレギュラーを獲った
冬の大会はそこそこ
春の大会はベスト4
力は上がってきている
負けて強くなって、負けて必死にやって、それを繰り返して今 気持ちも身体も最高のところに持って行ってるのに
の迷惑考えろよ」
スポーツをやらない奴には、こういう気持ちがわからないのだ
試合に向けて調整して、ベストの状態で戦えるよう
毎日意識してイメージして 気持ちと身体をバスケ一色にもっていってるのに
「くそ・・・っ」
ガン、と
今度は壁を拳で殴りつけた
またひどい音がした
それで、ドアの方から声がかかる
聞き慣れた、このイライラをさらに煽るような声だった

「なんや男のヒステリーはみっともないで」
「・・・何の用だよ、姫条」
体育館には珍しい客
丁度昼御飯の時間だから、練習に出てきている部員も今はいない
ガランとした体育館に、まどかはぽくぽくと入ってきて それから足下に転がっているボールを拾った
「なんや荒れてんな、昨日は絶好調やゆうとったくせに」
「うるせーな、何の用なんだよ」
ちゃんにお願いごとがあったんやけどな」
「あいつは今日は休みだよ」
「え? 何で? 病気か何かか?」
「三原の絵のモデルだと」
言ってて反吐が出そうだと思い、和馬は顔をしかめて壁を睨み付けた
何が絵だ
そんなことより大事なことがあるのに
には、今バスケが一番大事なはずなのに
「へぇ〜、世界的芸術家も絵のモデルが恋人やなんて、青春まっただ中やな」
まどかはのんきに、ボールをてんてんつきながら笑った
「せやからお前機嫌わるいんか」
「はぁ?」
ちゃんを三原に取られたからやろ?」
「・・・っ、ちげーよ、何言ってんだよ」
ぎっ、とまどかを睨み付けてやる
まどかは、にやっと笑ってボールを和馬に投げてよこした
とす、と
手に馴染んだ感触、だがいつもより重い気がした
「そんなに好きなんやったら、さっさと自分のもんにしとけば良かったのに」
「す・・・?!!」
言葉につまった
つまりすぎて咳き込みそうになる
「何言ってんだよ」
「いやいや、いくらお前かてそこまでニブないやろ
 いいかげん認めぇや」
咽が痛かった
だから返事をしなかった
ただ、睨み付けるようにまどかを見る
奴は平然として話を続けた
「お前はちゃんのこと好きなんやで?」
「・・・ちげーよ」
のことをそんな風に見たことない
そう言おうとして、だがふと以前のまどかの言葉を思い出す
「だいたいお前、の時もそう言ってただろ」
「ああ、あれな
 あん時もお前、ちゃんが他の男と話してたら嫌な気してたんちゃうか?
 それを独占欲いうんや」
隣のクラスの可愛い子
ふわふわの髪で、にこっと笑ったり、不安そうに見上げてきたりして
あなたがいるから大丈夫なんて、震えながら言う女の子
誰だって可愛いと思うだろう
「それは恋やな」
そう言われて、そうかと納得した
自分を頼りにしてくれたと、知らない男
二人が楽しそうに笑ってたりしたら ちょっと嫌な気がした
これが独占欲かと思いもした
だからといって、何をするわけでもなかったんだけれど
「お前は好きな子が自分のモンになっただけで気ぃすむタイプなんかなぁ?
 余裕やん? ちゃんがどんだけモテても、どんだけ他の男と話してても干渉せぇへんやろ?」
「俺もバスケで忙しいからな」
言い返して、ため息をついた
がつきあって欲しいと言ってくれた時は、照れくさくて くすぐったかった
好きな子から告白されて断るわけがない、とOKして
だがなぜか、いつのまにか
最初の頃に感じた独占欲のようなもの それを感じなくなった
それよりも心はバスケへと向いていて
女とつきあっていても、本命はいつもバスケだった
だからだろうか
が男と話してたって、誰に告白されたと聞いたって嫉妬なんて感情は涌かなかった
ちゃんからむと、こんな荒れんのにな」
呆れたようなまどかの声
無言で睨み付けると 奴は肩をすくめて笑った
「今度は重症やな」
その独占欲
「・・・はそんなんじゃねーよ」
「つきおーてるちゃんには嫉妬せーへん、干渉せーへん、独占せーへん
 まるで友達やな、やのに・・・」
には、こんなにもイライラする
無意識でも、この感情は独占欲だ
和馬の中に、そういう想いがくすぶっている
「俺はただ、今はバスケが大事な時期だから・・・」
だから そんな時に絵のモデルなんかさせる色が気に入らないだけ
色が気に入らないだけ
「ふーん・・・まぁええけどな
 そうや俺、今度の日曜 ちゃんにデート申し込もう思うて来たんやった」
目の前の悪友の顔
イラとした
どいつもこいつも、今はそんなことしてる時じゃないっていうのに
「日曜はあいつは試合だ、その次もその次も」
つつけんどんに言ってやった
まどかは、何故かおかしそうに笑った
「ようするに、三原じゃのーても ちゃん取るやつはお前にとって気に食わんわけやろ」
その言葉
それにドキとする
そうなのか?
そういうことなのか?
色が気に入らないんじゃなく、他の誰でも
たとえば悪友のまどかでも、に意識を向けるなら気に入らないと思ってしまうのか
こんなにも、独占欲に心を支配されて
「ニブちん」
まどかは、にっと笑うと体育館を出ていった
悪戯を終えた後みたいな顔だった
呆然と 奴の出ていった体育館の出口を見遣る
わからなくなる
自分の気持ちが
このイライラしたものを、どうしたらいいのか
「くそ・・・っ」
腕の中のボールが重い
また床に投げ付けた
それは遠くへ跳ねていく
見遣って、どうしようもない気持ちになった
自分で自分がわからなくなる

持て余す、この想いを
戸惑う、へ向かう気持ちに
恋人には友達ほども干渉せず、親友だと言った相手には こんなにも独占欲をかきたてられて
「わけわかんねぇ、俺」
気が変になりそうで、和馬は何度もため息をついた
考えると、バスケに集中できなくなる
大事な大会がせまっているのに
何よりも、今はバスケだと頭ではわかっているのに
・・・」
呼んでみて、慌てて頭を振った
ダメだ
今はダメだ、考えてはいけない
「ちくしょ・・・」
に対して何を思っていようと、
親友という言葉で片付けたこの想いの正体が何であろうと
「今は考えるな・・・」
自分に言い聞かせて、和馬は大きく息を吐いた
大会が終わるまで
この大事な時が終わるまで
封印していよう、この独占欲を
バスケのことしか考えないで


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