夏を待つ  (鈴×主)


本日は体育祭
スポーツ系の生徒達が一番張り切る行事で、一番盛り上がる瞬間
現在 和馬のクラスは総合2位
のクラスは最下位だった
今もグラウンドでは競技が続いている
午前の部最後のレース、パン食い競走
スタートのピストルが鳴って、選手が走り出した
しばし、クラスの応援も忘れて和馬はの姿を追う

パン食い競走や借り物競走は、足の速さよりも、いかに巧くやるかが勝利のポイントになると言われている
そんな競技に、そこそこ足の速いを出したりするから もっと高得点の100メートル走なんかで点が取れず最下位なのだ、と
和馬は思いつつ、やはりダントツでパンまで走ってきたにほくそえんだ
立ち止まって、パンを見上げて立ち位置を移動し、それからは軽くジャンプした
パンの入っているビニールに噛み付いて もぎ取ったかんじ
見てて笑えた
笑ってる間に、は走ってゴールする
本当にダントツだった
それが余計おかしくて、和馬はそのまま席を立った
ゴールまで、をひやかしに行ってやろう

「よお、1位だったな」

ゴールの側に設置された退場門のところで、はパンを片手に立っていた
「お前食いもん賭かると無敵だなぁ」
「む、失礼ねぇ」
下の方が食いちぎられたパンのビニール
それをそこからこじあけて、はにっと笑った
「半分あげようと思ったのにな」
「くれくれ、腹減ってんだよ」
「食い気発言を取り消しなさい」
「お前は何やらしても最高」
わざと、わざとらしく言ってやったらは可笑しそうに笑ってた
戦利品を半分に割って差し出してくる
「けどお前、余裕だよな
 飛びつく前に選んでたろ、パンの種類」
「だって食パンとかイヤでしょ、アンパンかジャムパンが良かったの」
もぐ、
の取ってきたのは見事にあんぱん
昼前のこの時間、それは何より美味しく感じた
「余裕だなぁ、けどもったいねーの
 おまえが100メートル出ればいいセンいけるのに」
「競技は公平にクジで決めたから」
「勝つ気ないのか?」
「参加することに意義があるって学級委員が言い出してね
 全員参加がウチのクラスの目標になった」
勝ち負けより、途中経過を重視しようと そういう結論な達したんだとは笑った
「いいことだと思うな、みんな頑張ってるし」
「つまんねぇじゃん、それで最下位だろ」
「鈴鹿が優勝してくれたらそれでいいよ」
もぐ、
は笑ってパンをもう一口食べた
ドキとする
思わず動きが止まった自分に気付いて、慌てて視線をグラウンドに向けた
の言葉に、特別な意味なんかない
「んじゃ午後からの100メートル決勝は俺の応援してろよ」
「うん」
が、また笑った
クラスの応援しなきゃ、なんて言葉が返ってくると思ってたから やっぱりちょっと動きが止まった
盗み見したはいつも通り
やっぱりの言葉に、他意はない
多分

「さてと、クラス戻るかぁ」
パン、と
体操服に着いた土を払ってが立ち上がった
ふと、視界にの足が映る
「・・・おまえこの痕なに?」
「ん? ああ、これ中学の時にこけたの」
膝の側に 薄い痕がついている
「今は何ともねぇの?」
「うん」
「ふーん・・・気つけろよな」
運動部の人間は、怪我とは友達みたいなものだ
当たられて転倒なんて、練習中にもよくあることだ
さして気にもせず、和馬も立ち上がった
あんぱんの甘い味が、なんだか妙に心をそわそわさせていた
の言葉のせいかもしれない
和馬が走る時は、クラスではなく和馬を応援すると言った
「あんたが1位取ったらアイス奢ってあげる」
「おう」
笑ってみせた
アイスはが大好きなもの
去年の夏も、ことあるごとにアイスアイスと言っていたっけ
そうか、もうすぐ夏か、と
ふと空を見上げた
眩しい太陽が、懐かしい去年の夏を思い出させた
の季節が もうすぐやってくる

「早く夏になればいいのにな」

前を歩いているの背中を見遣る
またそわそわした
の言葉に胸が騒ぐ
嬉しくて、照れくさくて、言葉に言い表せないような気持ちになる
試合の時に感じる高揚感みたいなもの
そんな特別な感覚
「ねぇ、鈴鹿っ」
「お、おうっ」
「頑張ってね」
「・・・まかしとけっ」
にっと、笑ってやった
も笑ってた
夏が似合う明るい笑顔
ああ早く、夏になればいい
それに似た日射しの中、今はただ夏を待つ


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