プレイスタイル  (鈴×主)


春の大会でのバスケ部の成績は、男子がベスト4、女子が準優勝
去年の夏以降に選ばれたレギュラーは、冬を越して大きな成長を見せていた
女子バスケの準優勝という功績には、が大きく関わっている

のプレーって綺麗だよな」
コーチが撮った女子の決勝戦の試合を見ながら、和馬がぼそっとつぶやいた
のポジションはフォワード
同じフォワードでも敵と激しくぶつかりあってボールを奪い合い、無理矢理ゴール下に切り込んでいく和馬のプレイスタイルとはかなり違う動きをする
まず接触が少ない
うまいこと身体を移動させて敵の当たりを避けて、次の瞬間には仲間にボールをパスしてる
かと思えば、隙間に走り込んで、いい場所でパスをもらう
シュートは、ゴールから遠くても入る
ここからなら大抵入る、というラインが 和馬のそれより大分ゴールより遠くにある
「あいつ3ポイントも巧いし」
毎朝の自主練習で一体何本打ってるのか
3ポイトばっかりバカみたいにやってる
毎日毎日
最初の頃は、不思議だった
今ではもう見なれて何とも思わなくなったけど
「昔と大分違うな、さんのプレイ」
「え? ああ、そうなんスか?」
隣で先輩が、やはりため息まじりに言った
この先輩は、入部した時からのファンだった
毎日毎日、あのが同じ体育館にいる、とうるさくて
あの試合ではどうだった、この試合ではこうだったと色々聞かされた
そういえば最近はおとなしいな、と
ふと思って和馬は横目で先輩を見遣った
彼の目はビデオの中のを追っている
「昔はさ、さんはドリブルで運ぶタイプだったんだ
 ポジションも、お前と同じパワーフォワードだったしな」
ふーん、と
適当に相づちをうつ
はドリブルが巧いから、それは別に意外ではなかった
のいた中学のチームが、のそういうプレイを必要としたのだろう
今の女子バスケは、3年により体格のいい選手がいる
彼女は男まさりで、まるで猪みたいにボールをゴール下へ持っていく
そんな奴がいるから、には別のことが要求される
だからは今、パスを中心に攻めるようなプレイをするんだろう
チームに合わせて自分のプレイスタイルを変えられるなんて器用な奴、と感心する
和馬には、そういう芸当はできないから

その日は1時間程ビデオを見て解散となった
コーチが言う
女子のチームと男子のチームの違いを考えろと
女子が準優勝、男子がベスト4止まりだった理由を各自考えろ、と
「そんなの一人ずつが弱いからだろ」
今のチームは、和馬以外は3年生
どの先輩も、和馬の目には弱く映った
もっと強いチームメイトとやりたい
そうできたら、春の大会だってもっと上位にいけたのに
「だいたいディフェンスが弱いんだよな」
3年の先輩の顔が浮かぶ
先輩と和馬の二人が攻めて、残りが守る
点は入るのに、同じだけ取られる
試合が進むにつれイラだちがつのる
一週間前に終わった大会でも、和馬のイラだちは後半開始直後にピークに達した
点を入れても入れても、入れ返されるから
おまえら何やってんだ、と
試合中ほとんどリバウンドを取れなかった先輩につかみかかった
100点入れても100取られて、
体力は消耗して、いつまでも勝てなくて
それで、プレイが荒くなって5ファール
最後のなんか、たいした当たりじゃなかったのに 相手の奴が大袈裟に転がったりするから
それで退場、それでチームが負けて
「それで終わりだもんな」
もっと守りが強かったら、と
つぶやいて和馬は大きくため息をついた
春の大会、初めての大きな大会
達が自分達よりいい成績を残したから余計に、心に不満に似たものが残った
退場なんて終わり方をした自分への憤りは、それ以上に大きかったけど

「女子部との違いか」
ため息を吐く
今日見せられた女子部のレギュラーは みんながいい動きをしていた
女子部も以外は全員3年生
部長がポイントガード
いつも部長と一緒にいる相棒みたいな人がセンター
この二人が守りの要で、他はガード寄りのフォワード
猪みたいな特攻隊長が 基本的に一人で攻めてる
そういう印象を与えるチーム
でも、実際戦ってみたらわかるだろう
突っ込む猪と、パスを回す
それに撹乱されて 相手チームは動きが取りにくい
猪をマークしたら が遠くから3ポイントを入れる
3ポイントを警戒したら、猪が突っ込んで行く
二人を同時にマークできたとしても、部長が自ら点を取るのだ
部長は常に周りを見てて、自分の動くべき場所と時を知っている
「いいよな、バランスのいいチームって」
大きく伸びをした
試合が終わってからずっと 憂鬱な気分がぬぐえない
女子は準優勝、男子はベスト4
ベスト4だってすごいよ、なんて言葉は何の慰めにもならない
負けて終わる大会の、なんて気分の悪いことか

和馬は視聴覚室を出ると 真直ぐ体育館へ行った
次の試合では負けたくない、と
あれから練習量を増やした
いつもより1時間早く起きて走り込み、いつもより1時間遅くまで自主練習をしている
やりすぎると毒だよ、とが言ってたけど聞く気はなかった
負けた悔しさは、勝つまで心から消えはしないだろう

「おまえまだいたのかよ」
「お? 男子どこ行ってたの?」
体育館にはが一人でいた
もう帰るところなのか、制服姿で向こう側の窓を閉めていた
「反省会、こないだの大会の」
「ああ、あんたが退場になったやつね」
「言うなよな」
不機嫌に、バッグをその辺に投げ出して和馬は倉庫からボールを一つ取り出した
退場になったこと
最後まで戦えなかったこと
多分それが、一番気持ちを憂鬱にさせている
「あんた試合中にカッとなりすぎなのよ」
「あんな当たりがファールか?」
「だって当たりに行ったでしょ」
「俺はフォワードだからな」
ターン、ターン、とボールをついた
静かな体育館に音が響く
この音が好きだった
ボールの感触にわくわくした
コートを走って、高いところにあるゴールへと投げる
入った時の興奮がたまらなくて、
だから和馬はフォワードというポジションが好きだ
敵に突っ込んで行って 少しでもボールをゴールの側まで運んで
そのままシュート
高く、強く
そうしたら、いい音がして得点が入る
子供の頃、巧くシュートできる子はヒーローだった
この手から放たれたボールがゴールするあの興奮
たまらない
たまらない
「ウチのガード弱いんだよ」
不満を口にしてみた
敵に当たられて、それでも突っ込んでいってシュートする
試合が終わったら、痣ができてたりする
それほどに頑張って取った点なのに、同じだけ取られていたら意味がない
100点取ったって100点取られたら、勝てはしないのに
「おまえのチームはバランスいいよな」
「そうだね」
が、全部の窓を閉め終わって歩いてきた
はチームに恵まれてると、口にしようとして思いとどまる
それは負け惜しみに聞こえるだろう
そして、ディフェンスが弱いから負けたんだというのは言い訳だ
ため息が出る
何やってんだろう俺、なんて自己嫌悪まではじまりそうだ
「守りが弱いなら鈴鹿が守ればいいじゃない」
制服姿のが、にこっと笑った
たっ、と1ステップ
油断していた和馬から、いとも簡単にボールを取って はそこからシュートした
3ポイント
毎日練習してるだけある
それは綺麗にゴールをくぐった
「何で俺が守るんだよ、俺フォワードだぞ」
「でも守りもできらたプレイに幅が出るじゃない?」
いつもみたいに笑ってる
ボールを拾ってその場でついた
ターン、ターン
いい音が響く
なんとなく、ぼんやりと目でボールを追っていた
は和馬にかまわず喋り続けている
「たとえばあんたがゴール下でリバウンド取ったら そこからまた攻撃にいけるでしょ?
 自分じゃ無理でもパス出してもう一回攻めれる
 ディフェンスに頼ってないで自分でやんなよ」
「コーチはチームプレイ重視しろって俺にいつも言ってんぞ」
「私もそう思う」
「・・・なんだよ、どっちなんだよ」
イラ、とした
負けて終わった大会
5ファールで退場、後半はまだ始まったばかりだった
フォワードが欠けて点が取れるわけがない
ディフェンスは相変わらず弱くて結局120-160で負けた
やりきれなくて、見ていられなくて
途中で体育館から出てきてしまった
校舎の壁を蹴っとばして、それからさんざん罵った
弱いディフェンス
大袈裟に倒れた相手の選手
ファールを取った審判
そして、バカな自分

「あのね、鈴鹿
 できることは自分でやって
 できないことは、チームのみんなに頼るんだよ」
は相変わらず いつもの顔でそう言った
「もしゴール下であんたがボールを取れたら、そこからまた攻撃できるでしょ?
 できなくたって誰かが走ってる
 自分で走れなかったらパスすればいい、誰かがゴールまで持っていってくれる」
想像してみた
守れない先輩達
あそこにもう一人いたら、どうしてそこに誰もいないんだ
何度も思った
俺はここにいるのに、
今そこでボールを取れたら すぐにでも攻撃できるのに
「例え俺がそこでボール取ったって、フォワードの俺がいないと攻撃なんかできないだろ」
「もう一人いるでしょ、フォワード」
「あてになるかよ」
「あてにするのがチームプレイ
 信じて託すのが、コーチの言ってるチームプレイを重視するってことだよ」
「・・・それで勝てれば苦労はないんだよ」
「チームプレイ無視じゃ勝てないよ」
「・・・・・チームの質が悪いんだ」
「だったらあんたが補いなよ?」
の顔を見た
なんでもないことのように、こいつは言ってる
守りのフォローを入れて、攻撃もしろと
チームが弱いと思うなら、自分がそれを補えと
「俺ばっかり大変じゃねーか」
「無理になったら誰かが助けてくれるよ
 一人でやってるんじゃないんだから」
無理だと思ったら パスを出せ
危ないと思ったらフォローしろ
コーチが毎日毎日怒鳴ってること
それはこういうことだったのか
「・・・」
言葉は出なかった
何故だか憂鬱に似た気持ちは消えていた

が帰った後、一人でコートを走った
ドリブル、シュート
この間の負けた試合を思い出す
たとえばあの場面で自分が守りのフォローに入っていたら
当然自分は敵に囲まれて、せっかく取ったボールをまた奪われる
でもその前に、
コートの中央寄り、そこにいるもう一人のフォワードにパスが出せたら
このボールを託せたら
「・・・マイナス2が、プラス2になるのか」
失うはずだった2点を、得ることができるかもしれない
パスの後、全力で走る
追い付かれたフォワードが囲まれた時 もしもフリーでパスを受けることができたら
「・・・俺がシュートできる」
それはチームを勝利に導く
無理矢理に当たってファールを取られたりはしないだろう
あんな不様な負け方はしない
勝てるかもしれない、そのフォロー一つで
手にしたボールをシュートした
綺麗に入った
ザシュ、という音が響く
気持ちのいい、勝利の音
ふと、の顔が浮かんだ
「それで勝てるなら・・・」
つぶやいてみる
もう二度と、負けたくない
その想いがプレイを変える
の言葉と存在が、和馬のバスケを変えていく


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