権利  (鈴×主)


と三原がつきあってるらしい、と妙な噂を聞いた
どこからそんな、と
最初思ったけど、見てたら噂は本当なんじゃないかという気がしてくる
と三原?
どうしてあの二人が
はスポーツ系で、三原はひきこもり系
どう考えたってつりあわない
絶対、二人は合わない

今年のクラスは、と同じ
は、また隣のクラス
三原はと同じクラス

「おまえ三原とつきあってんの?」
「うん」

気に入らない
信じられない
「俺は反対だな、おまえとあいつは合わねぇよ」
「前もそんなこと言ってたね」
「だってあんな軟弱な奴」
ひきこもりだし
「鈴鹿にはわかんないよ」
「どーせ俺は芸術なんかさっぱりだしな
 だいたい絵に巧い下手もないだろ
 芸術なんて見る人がどう思うかで、決まった評価基準とかねーしよ」
「おっ、いいこと言うね、その通りだよ」
は笑ってた
いつも通りの
俺達は親友だから、特別なんだ
思ったことを言って、遠慮しないで、隠し事もなしで、通じ合ってる
それが許された仲
誰よりも意気投合してるとうぬぼれていい仲
そのが、三原とつきあってるなんて
「俺は絶対反対、あんな奴」
「あんた私がとつきあうの反対したら別れるの?」
「おまえは応援してくれてたろっ
 今だって相談とか乗ってくれるし」
「でもまぁ、そういうことだよ」
どういうことだよ、意味わかんねぇ

「意味わかんねぇ」

渡り廊下のところに飾ってある絵
これが一番身近な三原の絵
タイトルは海
ブルーで黄緑でピンク色の海
「そんな海あるかよ」
芸術なんてさっぱりわかんねぇ
だいたいこないだのテストだって33点だった
芸術に点なんかつけるなよ
いいも悪いも感じ方一つだとか言っておいて
「感じ方ねぇ」
ピンク色の海の絵を、見上げてため息を吐いたら 視界の端に誰かが映った
顔をそっちへやる
気取ったみたいにすました、三原が歩いてきた
勘にさわる
こいつとは絶対に似合わない
「珍しいこともあるもんだね、君が僕の絵を見てくれるなんて」
「ピンクの海なんかあるわけねぇだろ」
「それは優しさの色だよ、それから微笑み」
「はぁ?」
「ブルーは涙、僕は悲しかったのかもしれない
 でも、泣きはしなかった、失恋なんて言葉をまだ知らなかったから」
意味がわからない
こいつとはきっとマトモな会話ができない
平気でしゃべってるの気が知れない
「おまえ とつき合ってんだってな」
「そうだね、側にいると約束した」
「それだけかよ」
「それだけって何だい?」
言葉が咄嗟には出てこなかった
男と女がつきあったら、電話したりデートしたりするだろうに
そういうこと、してるのかと聞きたかったのか自分がわからない
そして、こいつの言い方も なんかよくわからない
それで本当につきあってるのか、わからない
「例えば、キスをしたり、彼女の服を全部脱がせてみたり?」
驚いて、三原の顔を見つめた
予想外の言葉、すました奴の顔
言葉は出なかった、かわりに手が出た

部活の後、が近付いてきた
「あんた三原のこと殴ったって?」
黙って見上げたら、は苦笑してた
「やめなさいよ、あんたケンカっ早いよね」
「うるせーな」
の唇
あいつとキスした唇
「怪我させないでよね、三原に」
あんたと違って頑丈じゃないんだから
サバサバと笑う
今はジャージに隠れてる身体
あいつにはさらした身体
無性にカッとなった
気付いたら手が出てた
三原は片手で俺の拳を受けて言った
「乱暴だね、君は」
にはつりあわないよ、と
いつも俺が三原に思ってることを、言われた
腹が立ちすぎて吐き気がする
つりあわないのはどっちだ
俺とは特別だから、つり合わないなんてありえない
誰より気が合って、誰より似てる
そのはずなのに

「おまえ、あいつとつきあうのやめろよ」
「からむねぇ、あんたも」
が隣に座った
練習の終わった体育館には他には誰もいない
「なんかむかつく、俺はあいつは好きになれない」
「私は好きだよ」
「あいつの絵も、意味不明だし」
「私は、好きだよ」
「俺は好きじゃない」
「子供みたいだね」
わかってる
親友だからって、好きな奴とつきあってるのを別れろだなんて言う権利はない
は三原が好きで、だからつきあってる
俺が何を言おうとそれは変えられない
俺だってとつきあってるんだから
「おまえは、バスケとかスポーツやってて もっと男っぽい奴を好きになるんだと思ってた」
その言葉に、は答えなかった
少しうつむいて、足下を見てる
赤いバッシュ
はじめてマトモに会話した1年前の今頃、意気投合して買いに出かけたバッシュ
さんざん迷って、こいつは俺と同じメーカーのを選んだ
なんか、無性に嬉しかった
二人はそこからずっと、仲がいい
今では誰よりも特別な、親友
「俺が別れろって言っても別れないよな、お前達」
「私がと別れろって言っても 別れないでしょ?」
それと同じだよ
は、いつもみたいに笑ってた

があいつと別れるなら、と別れてもいい
一瞬、そう頭に過った、一瞬だけ

静かな体育館を後にする
は美術室に寄った
この想いは何だ、気持ちが悪い
苛立ちは消えない
への独占欲が、身体に渦巻いて消えない


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