熱いこころ  (鈴×主)


バスケバカは、一年の最後の日も 遅くまで練習をする
世の中は年越し準備に忙しい大晦日の夜
さすがに練習に出てきているのは、と和馬、そして男子部員が3人、女子部員が2人だけだった
冬の空は澄んでいる
見上げて、が白い息を吐いた
「今年ももぉ終わりかぁ」
「俺らほんとバスケバカだな」
「まったくよね」
学校の側にある自販機で、和馬が二人分のあったかい飲み物を買った
ガタン、
静かな道に、音が響いていく
「ほら」
「わー、さんきゅ」
投げてよこしたそれを両手で握りこんで 胸のところに持っていった
あったかい
掌から熱が伝わって じん・・・と身体があったかくなる気がする
「なぁ、こないだのビデオまだ消してないよな」
「あんなスーパーシュート消せないよ」
「もっかい見たい」
「じゃあウチ来る?」
和馬は、カシュン、という音をさせてジュースの缶を開けている
「いくらなんでも大晦日の夜にはなぁ」
「うち誰もいないんだ
 みんなおばあちゃん家に行ってんの、明日まで」
「なんで? お前は?」
「私は練習があったから」
は、いつまでも缶を開けずに抱えている
首に巻いたマフラーに、半分くらい顔をうずめてにこっと笑う
それを見て、ちょっとおかしくなった
年末までバスケ
バカが二人、こうして並んで歩いている

「おじゃまします」
「どうぞー」
帰り道、二人は冬休み明けにある試合の話をした
の家に帰り着いてからは、今から見るビデオの話をした
クリスマスの夜に放送されたアメリカのバスケの試合
次の日に二人で見て、数日後 また見ようって盛り上がってる
「ストーブつけるね」
「おう」
リビングに通されて、人気のないその部屋のテレビの前に和馬は座った
少し離れたところで かちゃ、と
音がして、そっちが僅かに明るくなる
「おまえん家ストーブなんだな」
「あったかくていいよ」
「モチ焼ける?」
わかんない、と
笑ったような声が帰ってくる
トントン、と階段を上っていく音が聞こえた
自分の部屋においてあるビデオを取ってくるのだろう
待つ2分程が とても長く感じられた
こうして二人で何かに夢中になること
それが心地よくてたまらない

このビデオを見るのは は3度目、和馬は2度目
それでも 前半15分に出たダンクシュートに二人とも まるで初めてみるかのように盛り上がる
「すごいよな、ここでダンクだもんな」
「このバネすごいよね、私じゃ絶対届かないもんなぁ」
指差したり、巻き戻して見直したり
「やっぱここ当ててるよな」
「この審判 公平じゃないんだもん」
毎度同じところで、口をとがらせて悪態をついたり
気付いたら、11時前
二人してすっかり熱中して、ビデオを消した途端に紅白なんかがやってたのを見て顔を見合わせた
「こんな時間か、わりぃ、長居した」
ここに着いたのが9時頃だったから、もう2時間近くいるのか
そんな風には感じない との時間
あっという間で、矢のように過ぎていく
「どうせなら何か食べてきなよ
 年越しソバ、つくったげる」
バックを掴んで腰をあげかけた和馬に、が言った
先に立ち上がってリビングを出ていく
扉の向こうから、声が飛んできた
「適当にテレビでも見てて」
それで、和馬はもう一度腰を下ろしチャンネルを変えた
色んな番組が、賑やかにやっていた
それをボンヤリ眺める

ここのところずっと、考えていた
自分の中の の存在について

20分ほどした頃 がいい匂いのするソバを二人分運んできた
「すげー、本格的」
途端グゥと腹が鳴る
「おまえこんなの作れるんだな」
「ちょっとは私も成長してるのよ」
自慢気に、が背を反らせたのがおかしかった
「いただきます」
「どうぞ」
てっきりドンベエとか そんなインスタントなソバが出てくるのかと思ってた
夏合宿の時、料理は苦手だって言ってたから
ニンジン切るしかできなかったとか言ってたから
「しかし具がおおいな、食っても食ってもソバが出てこねぇ」
「ホウレンソウをいっぱい入れてみました」
「ソバは?」
「下の方に入ってるでしょ」
ちゃんと書いてある通り入れたもん、と
が笑う
あったかい湯気が、二人の間に流れていく
しばし、無言になって和馬はソバを口に運んだ
ちゃんとおいしい
ちゃんとそばだった
の言う通り、成長しているんだろう
バスケだけでなく、料理の腕もそれなりに

12時3分前 和馬はの家を出た
外まで見送りに出てくれたは、コートもなしで寒そうにしている
「俺さぁ、考えてたんだけど」
和馬の吐く息が、真っ白になった
今夜は寒い
3歩離れた所に が立っている
「俺ってお前とはすげー気が合う」
「そうだね」
の吐く息も白くなった
門のところにある明かりが、の横顔を照らしている
「俺達 親友って言えるよな」
「うん」
「男女間にそういうの成立すると思うか?」
「私は思うよ」
冷たい風が吹いていった
が寒そうに首をすくめる
「お前は俺にとってなんか他の奴とは違う
 お前は一年でレギュラーだし、練習とか手抜かないし、バスケうまいし」
男子バスケ部の同級生なんかより、一緒にバスケやって楽しいと思える
戦い甲斐がある
女なのに
「お前といると気つかわないから楽だ」
「私もあんたといるの楽しいよ」
が僅かに笑ってみせた
心が少し熱くなった
その理由を、この言葉に結び付けた
「親友だよな、お前は友達より特別だから」
寒いのに、心は熱かった
さっき食べたソバで身体があったまってるんだと思った
本当はそうじゃないのに気付かない
寒そうなを見て、和馬は笑った
「わりぃ」
帰りぎわにこんな話
「またな」
「うん、おやすみ」
ピラ、と手を振って 和馬が歩き出す
3歩歩いて、止まった
振り返る
、12時越してる
 ・・・あけましておめでとう」
にっ、
和馬の笑顔
の心も、熱くなった
「おめでと」
「来年もよろしくな
 これ言うの お前が一番最初だな」
「うん」
二人とも笑った
特別なんだから、最初に言葉を交わすのがお互いであったってかまわないはず
友達以上なんだから、こうして心が熱くなるのも罪にはならない
「じゃあな」
和馬の背中が遠くなる
心は熱いままだった
これで充分、これ以上求めない
いい友達になれると思った相手と、仲良くなれて
誰よりも気が合うと違いに認めあって、競い合えて
こんなにも特別になれたんだから、それで充分
は想いを恋に変えて、和馬は想いを友情に変えた
それだけの差
心の温度は二人同じ

白い息を吐いて、は空を見上げた
名前の知らない星がたくさんチラチラしている
しばらく、見ていた
こころの熱は引きそうになかった


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