赤いセーター  (鈴×主)


本日ははばたき学園のクリスマスパーティ
着飾って、学年で5本の指に入る程に可愛いと言われている彼女を連れて、和馬はパーティ会場にやってきた
の今日の格好は、ふわふわのピンクのドレスに白のリボン
まるで天使が降りてきたみたいだと思うような可憐さ
長い髪が揺れて、会場にいた男の視線を誘った
こういう時、ちょっと気恥ずかしくなる
だから和馬はいつもより早足で、会場の奥の空いてるテーブルへと向かった
後からがついてくる

「ええなぁ、おまえは可愛い彼女おって」
パーティが始まると、まどかが側へ寄ってきて言った
にこにこと、隣では笑っている
可愛いとか、好きだとか
多分言われ慣れてるんだろう
だから まるでナンパしてるみたいなまどかの態度にも にこにこ笑って応えている
「お前は幸せもんやな、そんな気張った格好して」
「・・・おまえだって正装だろ」
ホストみたいな格好の悪友に言ってやったら、奴は笑って片目をつぶる
そうして会場内を見回した
参加している生徒の7割が、いつもより気合いの入った格好でいる
女の子はドレスを着てる子が多いし、男はスーツが多い
似合う、似合わないは別として、今日は誰にとっても特別な日らしく
それなりに服装から楽しんでいる、そういう感じだった
「お前もちゃん一人占めしてへんで こんな日くらいはみんなに分け与えーや」
「なんだよ、それ」
このテーブルには、いつのまにか男ばかりが集まっている
さっきまでまどかに笑いかけていたは、今はまどかの隣の男と話していた
楽しそうに笑ってる
ころころと、笑うと年より幼く見えた
お花屋さんでバイトをしようか迷ってるの、とが言うのが聞こえた
「おまえのちゃんは大人気やな」
にやり、
その笑みの意味は よくわからなかった
「そうだな」
別に、当然のことだろうと思う
は、恋愛にあまり興味なんかなかった和馬が可愛いと思う程に 誰が見ても可愛いと思わせる
彼女とつきあいたいという男は何人もいるだろう
どうして、が自分とつきあいたいだなんて言ったのか 時々不思議になる程だ
他にも男はいっぱいいるのに
(タイミングだよな・・・多分)
二人の出会ったタイミング
は別れた男に付きまとわれて泣いていた
和馬は、たまたま通りかかって助けてやった
だから、は和馬に色んなことを相談にきた
話す機会が増えて、親密になった
これが自分でなくても、
たとえばまどかだったとしても、結果は同じだったろう
「おまえのそれは恋やな」
そう言ったまとかの言葉の暗示にかかって、ああ俺はのことが好きなのか、なんて
そう思ってた時だったから、つきあった
あの時と想いは何も変わってないし、
だからこそ、が笑うたびに可愛いなぁなんて、思うのだけれど
「お前、妬けへんねんなぁ」
空になったグラスをカウンターへ戻しに行くのに まどかがついてきた
はテーブルのところで 男数人と話をしている
「何に?」
「自分の彼女が他の男と喋ってても平気なんや」
「・・・喋るくらいするだろ」
並んだ飲み物の中から、オレンジジュースを取った
なんとなく、この色が好きだ
夏の色という気がする
和馬は夏が好きで、見てると何かを思い出す気がするから
「俺やったら妬くなぁ
 俺以外の男と喋んな、とか言うな」
「はぁ?
 ガキじゃないんだから」
「独占したならへん?」
「するなって言ったのおまえだろ」
「ゆうたけど」
「別に、
 だろ、俺のもんとかそんなんじゃない」
そんなことを言いはじめたら、自分だって以外の人と話せなくなるのではないのか
以外の女と話すのがダメだっていうなら、クラブのマネージャーとか担任の先生とか
「あれ・・・そういやは?」
ふと、の顔が浮かんで 和馬は会場を見回した
「来てへんみたいやなぁ」
「なんだよ、話したいことあったのに」
昨日の深夜、
正確には今日の朝2時頃にテレビでやっていたアメリカのバスケの試合
あれを見て大興奮した
最後の逆転シュートに、震えが止まらなかった
3人にマークされてのラインギリギリからのシュート
体勢がくずれて、もうダメかと思った
なのに、入ったのだ
試合終了間近の、執念のシュート
しばらく、テレビの前で興奮に震えていた
なら、きっと見てるはずだ
クラブの帰りに、その話をしてたから
今日は寝れないね、なんて言ってたから

「お、噂をすればなんとやら」
「え・・・?」
まどかが、入り口を指差した
赤い色が見えた
人込みに見隠れするの姿
勝手に、身体が動いていた
和馬はオレンジジュースのグラスを片手に、の方へと向かっていた

今夜はクリスマスパーティ
みんなが着飾って特別な夜を楽しむ日
は 赤いセーターにジーンズをはいて、髪はいつもみたいにポニーテールにしていた
「おまえ いつもと変わんねーな」
笑ったら、がこちらを振り返った
頬が寒さで赤くなっている
手に、プレゼント交換用の袋を持っていた
そういえば、和馬もまだズボンのポケットに入れている
途中で誰かが回収でもするのだろう
参加者は必ず持ってくるようにと案内状に書いてあった
「どうせ私はあんたみたいに気合い入れる必要ないもん」
恋人と来てるわけじゃないんだから、と
が悪戯っぽく笑った
「・・・俺、似合わねぇ?」
ちょっと不安になって聞いてみる
出かける前、何度鏡を見ても不自然で気持ちがわるかったのだ
こんな格好の自分がおかしくて、ちょっと呆れたりもした
クリスマスだからこれくらいオシャレしてね、と
に言われていなければ、自分も普段着で来ていたかもしれない
「それはそれで似合ってるんじゃない?」
は、そう言っただけだった
ホッとしたような、物足りないような
そんな気になって 複雑な表情をした和馬に がまた笑う
「ねぇ鈴鹿、あんた昨日の試合見た?
 最後のアレどうよ? 私興奮してなかなか寝れなかったよ」
のキラキラした目
それで一気に体温が上がった
そうだった
自分もそれが言いたかった
その話がしたかった
試合の後、思わずに電話をしそうになった
時間を考えてさすがにやめたが、だからこそ
今日会ったら絶対この話をしようと思っていた
こんなことを話せるのは しかいない

あのシュートが、とか
あのファールは、とか
賑やかな会場の隅の方で、誰にも邪魔されないようバスケの話で盛り上がっているところへ、またフラリとまどかが現れた
「お二人さん、こんな隅っこで何盛り上がってんの?」
「姫条、あんたホストみたい
 そういうの似合うね」
が笑った
ナンパなまどかの差し出したジンジャエールのグラスを受け取る仕種にムカ、とする
せっかくいいとこだったのに、話の腰を折られた そんな気になった
「何か用かよ、姫条」
「挨拶回りや」
盛り上がっていた会話の邪魔をしていることを悪びれもせずまどかは言い
いつもの調子で もうすぐプレゼント交換だの、
自分はどんなプレゼントを出しただの
そんなことを話しはじめた
イライラする
ふんふん、と聞いている
まだ話の途中なのに
昨日の試合の審判の公平性について、二人の意見が一致したとこだったのに
「おい、姫条」
いつまで続くのかわかったものじゃない まどかの調子のいいおしゃべりに 和馬は途中で言葉を挟んだ
「俺達 話の途中なんだよな」
軽く睨み付けてやる
そしたら奴は、おもしろがったように笑って肩をすくめた
ちゃんのことは独占したいんや」
「は?」
「鈍いなぁ、おまえも」
くくく、と
まどかが笑う
和馬には、よく意味がわからなかったし にも同じだったろう
不思議そうに少しだけ首をかしげたに意味深にウインクしてみせて まどかは側から離れていった
「姫条、何て?」
「さぁ、あいつ時々意味わかんねーから」
それよりも昨日の試合、と
ようやく話を戻しにかかる
なのにまた、和馬が口を開いた途端、司会のアナウンスがマイクで入った
それがまた煩わしい
ゆっくり話がしたいのに、の声が聞こえない
「外出ようぜ」
そう言って、ホールの出口に向かっていった
一方的に決めたけど、は黙ってついてきた
二人して、賑やかな会場から逃れ出る

「明日、また試合やるだろ」
ホールの側の階段に、二人は座り込んでいた
飽きもせず話題はバスケ一色
昨日勝ったチームと別のチームがまた試合をする
その放送が明日の夜中だとアナウンサーが言っていた
楽しみでならない
和馬の好きな選手のプレイがまた見れると思うとワクワクする
たまらない
「なんかアナウンサー、間違ってたらしいよ
 放送 多分今頃始まってるんじゃないかな」
「・・・はぁ?!!」
浮かれていた和馬に、がさらりと爆弾を落とす
「マジかよ、嘘だろ、今から帰ったって間にあわねーよ」
「ふふん、私ビデオセットしてきました」
「・・・・・おおっ」
豪華な絨毯のしいてあるフロア
人気のない階段
正装の男と、赤いセーターの女の子
扉の向こうはクリスマスパーティなのに、こんなところでバスケの話ばかり
「おまえエライっ
 ビデオ貸してくれるよなっ」
「私が見た後ね」
「いつ見るんだよ、今日か?」
「んー・・・明日かな」
「今日見ろよっ、そんで明日持ってこい」
「今日は帰ったら寝るの、昨日あんま寝てないんだから」
「おま・・・っ、根性なしっ」
「なんとでも言って」
が笑った
それが妙に心地よかった
「じゃあ明日のクラブの帰りにおまえん家に行く
 一緒にビデオ見る」
「・・・そんな見たいの」
「お前見たくないのか?!!!
 またあんなプレーするかもしれないんだぞっ」
「だって私の好きな選手 怪我でベンチだもん」
「おま・・・っ、そんなことでひがむなよっ
 俺の好きな選手応援してろっ、なっ」
「・・・いいよ、明日ね」
「よっしゃっ」
和馬の声は静かなこの空間に響いていた
隣でが笑う
赤いセーターは、クリスマスにはよく似合ってる気がした
まるでサンタクロースの女の子みたいだ
この心地いい時間が、彼女からのプレゼントみたいで
「俺も今日帰ったらとっとと寝よ」
和馬はそう言って立ち上がり、のびをした
気持ちがよかった

二人が会場へ戻ると、プレゼント交換は終わっていた
「ありゃ、せっかく持ってきたのに」
「なんだよ、やるならやるって言えよ」
二人して顔を見合わせる
もしかして、二人が煩わしいと思って外に出たあのアナウンス
それが、プレゼント交換の説明か何かだったのかもしれない
ポケットにつっこんでいたプレゼントの袋を引っ張り出した
無駄になったんなら自分で使うからいいけど、と
そう思った時 それが手からひょいと取られる
「はい、交換」
「お・・・?」
代わりに、が持っていた袋が手の上に乗せられた
ああそうか、二人で交換すれば まぁ成立か
「中身、何だよ
 ぬいぐるみとか勘弁してくれよ?」
「使えるよ、あんたなら」
言いながらが袋を開けて笑った
赤いリストバンドが出てくる
昨日、よく行くスポーツ店で買った 和馬の好きなメーカーのリストバンド
赤を選んだのは 一番ユニフォームに似合う色だったから
なんとなく、バスケ部の誰かに当たればいいと思って買ったものだった
「あはは、あんた私と考えること同じだ」
からよこされた手の中の袋からも、同じ様なリストバンドが出てきた
やはり赤で、これはが好きなメーカーのもの
星のマークが可愛いといって、は最近バックもTシャツもこれで揃えている
「おまえホントにこれ好きだな」
「あんたもコレ好きよね」
「格好いいだろ、俺の憧れの選手も愛用してる」
「ミーハー」
風みたいなシャープなロゴマークのメーカーで、好きな選手がそこのバッシュをはいてるのを見て好きになった
それからはやっぱり、和馬もそのメーカーのジャージだのスニーカーだのを買うようになったのだ
「俺ら似てるかもなぁ」
は笑っただけだった

クリスマスが終わる
ずっと放ったらかしだったは、和馬が迎えに行った時には また別の男と話をしていた
「そろそろ帰るか?」
「うん、
 聞いて、ね、プレゼント交換はヌイグルミが当たったの」
「へぇ、良かったな」
「和馬くんは?」
「俺はリストバンド」
「わぁ、見せて
 格好いいね、和馬くんによく似合いそう」
「俺もそう思う」
を送るために、家とは別の方向に向かって歩きながら 和馬の心はまだの方を向いていた
楽しかった時間
バスケの話
赤いセーター
そして、星のロゴのリストバンド
全てがに結びついていく
クリスマスの夜、思い出すのはの存在


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