隣  (鈴×主)


久しぶりの休日
珠美からの誘いででかけた遊園地に 和馬と色がいた
「やぁ、くん」
「よぉ」
色と和馬の取り合わせは異様で、まん中に挟まれた珠美は 今にも泣き出しそうな顔をしてる
「遅れてごめん」
は苦笑して珠美を見る
遊園地の券があるの、と
嬉しそうに言っていた昨日の夕方
男の子を二人誘うから ちゃんも来てね、なんて言ってた
誰を誘ったのか聞かなかったけれど、まさかこの面子とは
和馬はわかるけれど、何故色が? と
相性のよく無さそうな二人に視線をやりつつ はもう一度こっそり苦笑した
門をくぐる間にも、後ろで二人は何か言い合っている
「ずっとこんな調子?」
「そうなの・・・っ
 私 二人が仲悪いなんて知らなくて・・・っ」
はバスが遅れて15分遅刻した
待っている間、和馬と色はずっとこんな風に言い合いをしていたのだろう
今は色の着ている服について あーだこーだと言い合っている
「お互い お互いのこと気に入らないのよ
 三原も余計なこと言うし、鈴鹿もつっかかるし」
色の芸術家発言は あまりにあまりで人はまともに聞こうとしない
美しいものが全てさ、と言う彼に本気で怒ってもしょうがないのに、和馬には受け流すことができないのだろう
正面から言葉を取って、ギャーギャーと喧嘩腰だ
そしてまた、野蛮などと言われている
「あんた達恥ずかしいからやめてよ」
振向いて言った
「何でこんな奴誘うんだよ、紺野」
「だ、だって・・・」
「それはこちらの台詞だね
 こんなうるさい人と一緒だと疲れてしまう、そうだろう?」
「はいはい、二人とも喧嘩するなら帰りなさい」
ため息をついて、はごめんねと囁く珠美に肩をすくめてみせた
この取り合わせ、珠美に悪気はないのだろう
だがそれにしても、妙な人選だと思っていたら 珠美がそっと耳打ちしてきた
「だってちゃん、三原くんと仲いいでしょ?
 好きなのかなぁと思ったの」
「・・・え?」
どうしていきなりそうなるのか
色とは仲がいいと言っても、時々話をする程度
クラスも違うし、これといって目立って仲がいいという程でもないはずだけれど
「だって、あの三原くんとまともに話せるのはちゃんだけだよ
 三原くんって変わってるし、絶対に呼び捨てで呼ばせてくれないんだよ
 怒っちゃうんだって、呼んでも無視されちゃうのにちゃんは違うでしょ?」
「・・・そうなの?」
「だって、三原って呼び捨てで呼んでるじゃない」
きっとちゃんだけ特別なのよ、と
珠美はいい、頬を染めて笑った
「私はね、あの・・・鈴鹿くんと仲良くなりたかったから・・・」
寒いせいか、照れているせいか、頬が赤い
珠美は恥ずかしそうにそそくさと前方に見えているチケット販売機まで走っていった
「今日は風が強いね」
「んー、寒いくらい」
隣に色が立つ
呼び方なんて気にしたことなかった
は男子は全員 名字の呼び捨て
言われてみれば 色は「三原くん」とか「色さま」とか そういう風に呼ばれてるっけ
(ただの気紛れでしょうに・・・)
が呼び捨てにして怒らないのは 彼の性格を考えればわかる
深い意味はなく、ただの気紛れ
だから特別だなんてありえないと思ったけれど
(・・・そっか、マネージャーは鈴鹿のこと好きなんだ・・・)
全員の乗り物フリーパスを買おうと自販機と格闘している珠美に、ノロいと和馬が言ったのが聞こえた
真っ赤になって和馬を見上げる珠美が可愛い
好きだという想いを、彼女もまた消せないのだろう
和馬に恋人ができても、諦めることができないのだろう
だから、こうして少しでも一緒にいたいと みんなを遊園地に誘ったのだろう
(健気・・・)
想い続けるなんて きっと自分にはできない
だからは、この想いを忘れようとしている
珠美のように 少しでも一緒にいたいと言うのではなく
バスケに打ち込むことで、全部忘れようとしている
「何、ぼーっとしてるの?」
「なんでもない」
笑ってみせた
ちゃんと笑えた

秋はあっという間に日が暮れる
風は、昼間と比べ物にならないくらい冷たくなっていた
「さむ・・・っ」
バスケットのゴールにボールを入れるゲームに熱中している最中だった
吹き付けた風に 身をすくめる
「風が冷たくなってきたね」
「おまえ薄着してるからだよ」
二人一組でのこのゲーム
鈴鹿・紺野ペアが今のところ1ポイント勝っていた
「こりゃ俺達の勝ちだな
 運動音痴の芸術家には無理だろ」
次 色が外せば達の負け
入れれば、同点だった
「・・・くん、これ着をてるといいよ」
色がジャケットを脱いでの肩にそっとかける
白のブラウス一枚になって、身軽になったのか
色はボールを無言で取ると 軽い動きでスッと投げた
「お・・・っ」
「わぁ、うまーい」
ポスン
綺麗にシュートが決まる
「ふふん」
見たか、と言わんばかりに色が鼻先で笑った
「むっかつく〜」
「同点だったねぇ」
もう一戦、と和馬が言った
だが色が、静かにそれを制止する
風が、4人の間をひっきりなしに吹き抜けていった
「そろそろ帰らないかい?
 日も暮れたし、だいぶ寒くなってきた」
ジャケットを返そうとしたに微笑んで 色がの肩に手を添えた
「着てて、
 君は女の子なんだから、そんな薄着じゃ風邪をひいてしまう」
「大丈夫よ、三原が寒いでしょ、それ一枚じゃ」
「僕は平気さ」
にこり、
笑って見つめられ、は少し頬を染めた
恥ずかしいと思ってしまう
色の言葉、色の態度
自分はまるで男の子みたいに、毎日バスケばっかりで走り回って健康だから こんな風くらいじゃきっと何ともない
寒くて震える程だけど、寒いのは色も同じだろうに
「僕は男だから平気だよ?」
色は笑った
また、が頬を染めた

は僕が送っていくよ、と
色は言い 必然的に珠美は和馬が送ることになった
「わざわざ送ったりするか? ふつう」
帰り道、しこたま色の文句を言ってみる
「きっと三原くんはちゃんが好きなんだよ」
「・・・まじかよ、二人 全然タイプが違うじゃねーか」
「でも、三原くんの中でちゃんは特別なんだと思う
 三原くんとまともに会話できるのちゃんくらいだもん」
和馬と二人きり、なりゆきとはいえ送ってもらえた珠美は頬を染めて笑った
一方和馬はおもしろくない気で一杯である
色は気に入らない
軟弱だし、意味不明だし
あの人を小馬鹿にしたような喋り方も、あれで女に人気があるってことも腹が立つ
おまけにのことを好きだなんて
「あいつとは合わねぇよ」
吐き出すように言った
クラスやクラブで を好きだと言うのを何度が聞いたことがある
その度に思ったものだ
おまえ達にはつり合わない、と
意識はしていなかったけれど、そう思っていた
そして自分はいつも、と同じ位置に立てるよう努力している
バスケという場に、並んで立っている
つり合わない軟弱な男達とは違う
自分はの、隣にいるにふさわしい
そう思っている
この感情は、気に入っているものを他人に取られたくない
そんな気持ちにとても似ていた
意識なんか、していないけれど

名前をつけかねる
そういう想いの名前
だからこう呼んでいる
二人は同志だと、
同じものを追いかけている ライバルという名の親友だと


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