対等  (鈴×主)


試合終了の音が、耳の奥に届くのに時間がかかった
全身が熱いのに、気持ちが冷えていた
試合に敗けた
けして人のせいにはできない敗け方だった
和馬のガードはファールを何度も取られたし、無理にもっていったシュートは強引すぎて外れた
いつもなら、仲間が下手なんだと思うだろう
技術や気迫で 和馬は先輩に劣らない
だから、試合に敗けた時 いつも納得できない何かが心の中にある
周りのレベルが低かったから負けたんだ、と

「ちくしょう・・・っ」

隣で女子の試合がはじまっていた
視線をやったら、の姿が見えた
いい動きをしている
コート全体が見れるフォワード
突っ込むだけでない、周りを活かしたプレイ
よくパスを出す
自分でシュートを決めたいという欲求はないのか、といつも思う
コートの中ではボールの奪い合いだ
一度手にしたら離したくない
この手でゴールに叩き込むまで突っ走る
自分ならそうする
だけどは周りを見て、パスを出す
そしてそのパスは、またのところへ返ってくる

ピピー、

2点入った
の手から放たれたシュートだった
「ちくしょう・・・」
自然と声が漏れた
こんな惨めな気分は初めてかもしれない
敗けた原因
それは自分自身にあった
集中できていないのだ
練習にも、身が入っていない
それを、誰より自分が一番知っていた
だから、悔しかった
いいかげんだった自分が、恥ずかしくて仕方がない

「和馬くん、残念だったね」
女子の試合を立ち尽くして見ていた和馬に、後ろから声をかけたのはだった
「あんまり落ち込まないで
 和馬くん すごく頑張ってたよ、格好よかった」
いつもの笑顔
ドキとする程甘い声
「しょうがないよ、負けちゃう時だってあるよ
 ちょっと調子が悪かっただけだよ」
にっこり、と
が笑うと 花が咲いたみたいになって
それでいつもは嬉しくなったりするんだけれど
「・・・どこ見てんだよ・・・」
今日はただただ、腹が立つだけ
頑張ってなどいなかった
と付き合い出してから、練習する時間が減った
夜中遅くまでの電話に、朝練に遅刻することが増えて、放課後の練習も が待ってたりする日は居残ってやることができなかった
そのくらいの遅れは、何とかなると思っていた
できる時にいつも以上にやったつもりだった
つもり、だけだった
集中できていなかったから、今日 こんな敗け方をしたのだ
「元気だして」
月並みな言葉しか言わない
当然だった
彼女にバスケのことなんかわからない
和馬が出るっていうから、見にきたのだ
この後 映画に行く約束をしてある
はデート気分なんだから
「ちくしょう・・・」
もう一度、口の中でつぶやいた
視線の先、が走っている
当たられても、左足で踏み止まった
そのままシュート
綺麗に入った

女子の試合が終わるまで、和馬はずっとつっ立っていた
コートから出る真際、が立ち止まって振り返る
こちらを見た
和馬は、固まったみたいに何も言えなかった
心に重いものがある

「気合い入れなよ、鈴鹿」

そんな大きな声でもなかったのに、の言葉は全身に響いた
そう言っただけで、は踵を返す
途端、衝動が身体を突き動かす
追いかけたかった
だができなかった
気だけが追い、身体は動かない
呪縛がとけたのは、の姿が体育館から消えてからだった
息が苦しい
あいつと自分は今、対等でない
はバスケに真直ぐ向かい、自分は気を抜いていた
のせいだと、思ってそれから
それから そんな自分に嫌気がさした
「違う、自分のせいだ」
ひとりごちる
敗けたのは誰のせいでもなく、自分のせい
練習に気が入らなかったのも、自主練習の時間が取れなかったのも
今日、敗けたのも
、悪ぃ・・・」
つまらなさそうに、側の椅子に座っていたに言った
彼女が顔を上げたのが視界の端に映る
「悪ぃ、今日の映画ナシにしてくれ」
の消えた体育館の出口を見遣る
こんな自分じゃと対等でない
1対1をやろう、だなんて そんな風に言えない
けして手を抜かないと、同志だなんて言えない

パチンと、両手で顔をはたいて気合いを入れた
そしたらようやく身体が動いた
の出ていった体育館の出口
駆け出して、外で先輩達の荷物の番をしているを見つけた
駆け寄る
何も考えてなかった
こちらを向いたから、数歩離れたところで止まる
ここから先へは近付けなかった
近付く権利が こんな自分にはない気がした
「次は絶対勝つからなっ」
「・・・勝てるの? そんなで」
静かなの言葉
不思議と腹も立たない
こいつは知ってる奴だから
自分が集中できてなかったってことを
勝てるつもりになってた、いいかげんな自分のことを
「絶対勝つ
 だからそん時は・・・」
またあの河原で1対1をしよう
いいかけて、言葉を飲み込んだ
「その時は何・・・?」
風がふきぬけていった
校舎のドアが音をたてて閉まる
二人して、無言でそちらを見た
言わなくても、伝わると思った
には

「じゃあ見に行ってあげる、次の試合」
その日は女子の試合はないから、と
は笑った
笑ってくれた
救われた気がした、たったそれだけで

見失いかけていたものを取り戻す
流されていたものを、掴み戻した
それはバスケに対する想い
そしての存在
和馬にとっては 対等でありたいと願う唯一の人


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