ざわめきの正体  (鈴×主)


この日、体育館に集合したバスケ部員の顔は緊張に引きつっていた
本日、ハードな合宿の後の唯一の休暇が明けての月曜日
まだ世間は夏休みで、外ではセミなんかが鳴いててうるさい午前10時
まちにまった、レギュラー発表の日

「あ、男子はじまったね」
「ほんとだ、ウチの顧問まだかなぁ・・・」
準備運動に、と
誰からともなく身体を動かしはじめた女子部員の隣のコートで、男子バスケ部のレギュラー発表が始まった
ちょっとだけ気になって、きき耳をたててみる
「・・・11番、鈴鹿」
落ち着いたコーチの声と、続いてヨッシャ! と
いつもの元気のいい声が響いたのに、は何だかほっとした
(鈴鹿はレギュラー取ったかぁ・・・)
夏休みの最後には試合がある
それがレギュラーとしての初の試合
コーチの話を聞いているのかいないのか、遠目に和馬がニコニコと、心ここにあらずといった様子でいるのが見えた
「男子決まったねー、私レギュラー取れるかなぁ」
隣で誰かがつぶやいた
入部してからずっと練習を頑張ってきたのはレギュラーを取るため
バスケは5人でやるスポーツだから レギュラーの枠は本当に少ない
女子バスケ部は人気の部だから、部員は1年だけでも約20人ほど
(ほんと狭き門・・・)
加えて2年生も含めてのレギュラー争奪戦だから 1年が選ばれる可能性はほんとうに少ないんだけれど
「鈴鹿って 毎日あんなにコーチにどやされてるのにキッチリ取るんだからやっぱり巧いんだね」
「そだね」
パラパラと、練習を始めた男子バスケ部を盗み見、部員の言葉に相づちをうち
は ふぅ、と小さく息を吐いた
中学の頃から始めたバスケは、やればやる程楽しくて
練習も、試合も、は大好きだった
だから今もこうして、バスケ部に入っている
狭き門とはいえ、もちろん1年からレギュラー狙い
いつも上を目指していないと強くなんかなれない、と
中学の時の先生が言っていたから、
だから
(私も・・・取りたい)
レギュラーになって、たくさん試合をして、たくさん勝って
あの高揚を感じたい
こんなにも、バスケが好きだから

「女子部レギュラーを発表する」
いよいよきた、と
集合時間から大幅に遅れた 女子部の名だけの顧問がそう言って、体育館は一瞬シン、となった
「男子は関係ないだろ、鈴鹿 さっさとパスしろ」
すかさずコーチの声が飛んできて、鈴鹿をはじめ 思わず練習の手を止めた男子部員がまた走り出す
「ああ、緊張する・・・」
隣で誰かが言った
うん、緊張する
でもこの高揚に似たもの、嫌いじゃない
「レギュラーは 1年 
「・・・?!」
「ポジション フォワード 背番号12」
「・・・はいっ」
突然、しょっぱなから名前が呼ばれた
驚く前に、男子バスケのコートから またしてもヨッシャ! と声が上がる
「鈴鹿っ、お前真剣にやらんなら下ろすぞ」
続いてコーチのどなり声
みんな笑ったのに、もつられて笑って
それからようやく実感した
(やった・・・取った)
次々とレギュラーが発表される
そんなの聞こえなかった
まっ先に、が自分で喜ぶより先に 喜んでくれた和馬を見ると 視線に気付いたのか 彼はこちらを見てニッと笑った
コーチにヨソ見がバレないようこっそりと、
それでもニッ、と笑い返す
高揚が、胸いっぱいに広がってどうにかなりそうだった
今、最高に気持ちいい
この想いを共有している和馬と喜びを叫びあいたい

と同じ気持ちだったのか、練習の合間の休憩時間 和馬がドリンク片手にやってきた
「さすがだなっ」
「あんたもねっ」
二人して頬を紅潮させ笑いあう
1年でレギュラー入りしたのは 結局二人だけ
「実力だってのっ
 帰りにレギュラー獲得祝いしよーぜっ」
「うんっ」
そういえば昨日のデートもレギュラー獲得前祝いだとか言ってなかったっけ、と
思いつつ、この興奮に身を浸している今 和馬の提案にに異存などなかった
「じゃあ練習終わったらどっか行こーぜ
 あの河原行ってもいいし、バスケゴールあるとこ」
「いいね、それ」
「1 on 1しようぜ」
「乗った!」
和馬が右手を顔の前に出すから、パン、とそれを叩いてやった
なんかまるで男同士みたい
でもこういうの、心地いい
あのバスケットゴールのある河原で 二人きりでバスケするのも
そこまで自転車で なんだかんだと言いながら行くのも
「楽しみだなっ」
どれも好き
たまらなく楽しい
同じ興奮、同じ高揚感の共有
それはお互いを特別と認識させる
友達、でも特別
和馬もも、多分お互いをそう思っている

無意識のうちに

、お茶してかない?」
「ごめん、先約があるんだ」
練習後、10分程先に終わった和馬を待たせないよう 慌てて着替えたは、体育館の前で和馬を見つけた
レギュラー獲得後の興奮はまだ続いている
同じ思いの共有者と、一緒にいたい
語りたい
これからの練習のこととか、今度の試合のこととか
「あ、・・・っ」
なのに、の姿を見て駆け寄ってきた和馬の顔色はなぜか浮かない色をしていた
「わりぃ、明日にしてくれないか?」
「えぇ?! どうしてよー、今ノッてるのにー」
ゴメン、と
困ったような顔をしてみせた和馬に 心からの文句を言って
だが次の瞬間には、不満の言葉もひっこんでいった
和馬の向こう
体育館の前の花壇のところにいるのは?
ちょっと俯いて立っていて、
時々心配そうにこちらを見ているあの様子は
「・・・もしかして?」
「あ・・・んー、」
ほんとわりぃ、と
心なしか和馬の表情がゆるむのは、彼がを好きだから
ふわふわの髪、背が低くて可愛い
泣き虫で守ってあげたくなるような、クラス一モテてる女の子
彼女のことを、和馬が好きだから
「・・・しょうがないなぁ・・・、がらみじゃ」
わざとらしくため息をついて、そう言って笑ってみせた
ああ、ちょっとだけキツい
笑うのって、こんなにキツかったっけ?
「さんきゅ、やっぱお前っていい奴っ」
助かった、というような 和馬のほっとしいような顔
それを見て無性に悲しくなった
友達と好きな子なら、誰でも好きな人を取るよね
「明日絶対なっ」
「ハイハイ、期待しないで待ってるよ」
「明日は絶対だからっ」
「わかったわかった」
こちらをビシッと指さして、そう言い残すと和馬はの方へと走っていった
ズキン、
これは心の痛みですか?
「・・・・・まいったなぁ」
見なれた和馬の後ろ姿、何故か胸が痛んだ
が顔を上げて、にこっと笑って
そうしたらまるで花が咲いたような感じがする
ズキン
和馬はああいう女の子が好きなんだよね
「可愛くて、ちっさくて、頼りない子」
可愛い
天使みたいなクラスのアイドル
ズキン
この痛みはなんですか? まさか心の痛みですか?
「どうして?」
自分に問いかける様つぶやいて、それからは苦笑した
特別な友達
夢や目標を共にする気の合う存在
一緒にいたら楽しくて、自然体でいられた相手
胸がざわめくたび、戸惑った
その正体にこんな形で気付くなんて
ああ、私、

「・・・鈴鹿のこと好きなんだ」

二人並んで帰っていく後ろ姿に、は苦笑することしかできなかった
初恋以来、はじめての恋愛
気付くのが遅かった?
でもどうせ、和馬はみたいな女の子が好きで
自分のことは、まるで男友達みたいに思ってて
特別でざわめてい、戸惑ったのは自分だけ
気付いた時には失恋だなんて
(・・・ほんと私って恋愛向いてないのかも)
女の子なら、ここで涙の一つも流すんだろうか
生憎そんな機能はないらしく、出てくるのは苦笑だけ
(私、こんなとこまで女の子らしくないのかな・・・)
まだ明るい夏の空を見上げて、はため息をついた
気付いた想いは叶わない
それはが一番知っている
そしてそれでも、気付いてしまえば無視できない
特別な友達が好きな人に変わる
叶うはずないのに


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