夏合宿 ビビッと編 (鈴×主)


夏合宿が始まった
これの結果でレギュラーが決まるといっても過言ではない恒例の強化合宿
毎年 人里離れた寺で行われるそれは、男女混合
食事も自炊
朝から晩まで練習づけ、という かなりハードなものである
それぞれが、レギュラー獲得という狭い枠を夢にみて、辛い練習に励む
今日は、そんな合宿の3日目

「腹減った〜っ」

食事は女子部の当番の子と、マネージャーが作ることになっている
今日の当番は
メニューは定番のカレー
「お、うまそうっ」
「いいわよね、男子は食べるだけで」
「しょーがねぇだろ、俺達に包丁なんか持たせたら食える材料全部生ゴミになっちまうぞ」
「・・・それもそうかー」
まるで小学校の時の給食のようだと思いながら、ライスを自分でよそって一列に並ぶ男子部員には思わず口元をほころばせた
「なんだよ、早くついでくれよ、腹ペコなんだって」
「はいはい、大盛りね」
「おうっ」
午前中、土のコートで思いっきりすっ転んでいた和馬は、頬と腕にばんそうこうを貼っている
この合宿で また一段と陽に焼けた顔が たっぷり注がれたカレーに まるで子供のように無邪気に笑った
「今日の当番 だろ?」
「そうよ、心して味わいなさい」
「おう、うまそうだなー」
そう言って、いい匂いを漂わせながら和馬が席につくのを はくす、と笑って見守った
実は料理なんかしたことがなくて
今日もマネージャーの子の言うとおり、材料を切っただけだった
カレーなんて水にカレー粉入れるだけでしょ、と言った時のマネージャーの顔が忘れられない
ちゃん、あのね、それじゃあ具がないよぉ・・・」
人一倍おっとりした男子部のマネージャー 紺野珠美が困ったように包丁を差し出していったのだ
「あのね、このにんじんの皮をむいて切ってくれる?」
それで、言われたとおりにやっただけ
使い慣れない包丁で、大苦戦
当番なんてもうこりごりだと、そう思っていたところ
「私が作ったなんて本当は言えないんだけどね」
くす、と
それでも席についた和馬が 大口あけてぱくぱくと、おいしそうに食べてくれているのを見るのは嬉しいもので
和馬が こちらに気付いて にっと笑ったのに笑い返した
「うまいよ、
その言葉が なんとなくくすぐったくて嬉しかった

「ごちそーさん、
「はぁい、どういたしまして
 本当は私なんか全然役に立ってないんだけどね〜
 にんじん切ってカレーまぜてただけだから」
食器を洗ってるところに、和馬が自分の皿を持って来たのには笑った
山ほど作ったカレーは、バスケ部員達によって綺麗さっぱりなくなった
食事を終えた部員達は、自分の皿を片付けると パラパラと食堂を出ていく
「ほとんどマネージャーが作ってくれたんだ」
「へぇ・・・でも何だ、にんじんもうまかったぞ」
「そぉ? そう言ってくれると嬉しいなぁ」
にこ、
笑ったに和馬は少し照れてはにかんだ
カレーは美味しかった
だが問題はそこじゃない気がする
が作ったと聞けば、より美味しく感じるし
が実はにんじんを切っただけなんだと聞けば、中でもにんじんが格別に美味しかった気がするのだ
(仲いいからってヒイキしすぎか)
の隣では、おとなしくてトロい男子バスケ部のマネージャーが の洗った皿を拭いている
今日の美味しかったカレー
それに貢献したのは彼女だというが
「まぁ、あれだな
 次は肉切るくらいはレベルアップしろよな」
「あ、何よその生意気な言い種は
 あんた達は食べるだけでしょー」
「俺が試食してやる、おまえの料理」
「ふーん、お腹壊しても知らないから」
「なんだよ、そんにひどいのかよっ」
「ひどくないわよっ、失礼ねっ」
だったらいいじゃないか、と
笑った和馬に はしてやられたと苦笑した
「苦手なんだってば」
「お前に料理なんか似合わねぇもん」
「どうせ」
やいのやいの、と
昼の休憩時間を当番のにつきあって まるまるそこで過ごすつもりか 和馬はの皿荒いが終わるまでそこにいた
楽しそうに、練習のこととかレギュラーのこととか
秋にある試合のこととかを話す二人
それを、珠美は少し切ない気持ちで見ていた
は女子に人気がある
それは、男の子みたいなサバっとした性格を皆が慕うから
珠美も、何度か体育館の掃除なんかを手伝ってもらって、頼りになるなぁなんて憧れた
そんなだから、男友達も多い
誰とでもポンポン話ができる彼女に、和馬も当然のように軽口を言う
そんなの、自分が相手ではありえなくて羨ましいと思ってしまう
「鈴鹿? 趣味合うんだ、親友になれたらいいなと思ってるよ」
前にそう聞いた時、笑っていったの言葉を思い出して 珠美はこっそりため息をついた
がそう言うように、多分和馬も のことを友達と思っている
だから 和馬のことが好きな珠美にとっては恋のライバルにはなりえない
それでも、やっぱりこんなに仲のいい二人はうらやましくてやけた
目の前で、楽しそうに会話する二人に嫉妬する

「お疲れ様、ちゃん」
「マネージャーもお疲れっ
 さぁてと、鈴鹿、あんたヒマなんでしょ
 私 午前中当番で抜けてたから動き足りないんだ
 ちょっとつきあってよ」
「言うと思ったぜ、アレやろうぜアレ」
「1 on 1? 望むところよ
 負けた方がアイスおごることね」
「なんでお前 そうやってすぐ食いもん賭けるんだよ」
「何か賭かってた方が燃えるでしょー」
わいわいと、
楽し気に話しながら食堂を出ていくと和馬に、珠美は羨まし気な視線を向けた
彼女の目には、二人がとてもとても仲よく映っている

その夜、練習の後 寺の境内にと和馬が並んで座っていた
アイス片手に、床に雑誌を広げて 何だかんだと言っている
「二人とも・・・こんな暗いところで雑誌なんか読んだら・・・目、悪くなるよ?」
風呂の帰りなのだろう
タオル片手にパジャマ姿の珠美に が笑って顔を上げた
「私もそろそろお風呂入って寝ようかなぁ」
昼間のゲームの賞品であるアイスをもぐもぐやりながら言ったに 側で和馬が抗議するよう口を尖らせる
「まだ途中だろ〜」
「だって鈴鹿ワンパターンなんだもん
 そんなだから攻撃が読まれるんだよー」
「あんだよ・・・よーし、じゃあとっておき1個考えとくから風呂上がったらココにこい」
「はいはい、じゃちょっと待ってて」
笑って立ち上がり、風呂へと行ったの座っていた場所に、珠美は控えめに腰を下ろした
珠美にとっては、憧れに近い和馬という存在
言葉は乱暴で バスケ一直線という様子からして 彼が自分を特別に見てくれているとは思えないけれど
それでも今はいいと思える
こうやって、少し側で和馬を見ていられたらそれでいい
真剣な目をして、雑誌をみつめているその横顔を眺めた
見てるだけでいい
でも少しでいいから、こっちを向いてくれないかな
自分に笑いかけてくれないかな

珠美の存在を忘れたように、和馬は15分もそうしていた
うつむいて、雑誌を睨み付けるようにし、何か考えこんでいる
声をかけたかったけど、邪魔をするなと叱られそうで それで珠美は黙ってその横顔を見ていた
だがやがて、風呂の方から足音がして、
奥の廊下からが現れると 和馬はぱっと顔を上げた
「おせーぞ、
「なによぉ、これでも猛ダッシュで出てきたんだから」
さっきまで無造作にくくっていた髪が 濡れて肩にかかっている
パジャマにしているTシャツが少し濡れているのは ろくに拭かずにそれを着たからか
「・・・おまえ・・・なんか・・・」
「なぁに?
 とっておきの攻撃パターン思い付いた?」
ブラジャーはしてるんだろうか、とか
そのTシャツ ちょっと胸ぐりが大きいんじゃないのか、とか
お湯の熱さで火照った頬が、しっとり濡れたくちびるが、やけに艶っぽいじゃないかとか
そんなことを反射的に考えてしまった和馬は、無意識に顔を赤面させた
「なに? どうしたのよ」
いつもはジャージか、ゼッケンのついた練習用ユニフォームをきているから そんなところ目立たないし
何より練習中はバスケのこと以外は考えないから、と
今はじめて気付く の身体の様子に和馬はむぐり、と口籠った
(なんだよ、あんな胸デカかったっけ?)
さっきまで考えていたバスケの「試合で使える攻撃パターン」スペシャルが いつのまにか頭からすっぽ抜けてしまっている
「はい、時間切れ〜鈴鹿の負け」
「・・・」
変なの、と
言葉のない和馬に、は言うと足下に落ちたままになっている雑誌を拾う
かがむと肌が見えそうで思わず視線をそらした和馬に 相手のドギマギなんかには気付きもしないは肩にいた髪をうっとうし気にふりはらった
「鈴鹿も早くお風呂入ってきなよ、今すいてたよ」
「お・・・おう」
また明日ね、と
ヒラヒラ手をふりながら廊下を歩いていくを見送りつつ、和馬はようやく ため息を吐く
顔が熱い、身体が熱い
さっきの食べたアイスで冷えたはずなのに、と
思ってフルフルと頭を振った
それと同時に さっきからずっとそこにいる珠美に視線をやる
「お前も早く寝ろよ」
「あ・・・うん・・・」
「どしたよ? 何か用だったのか?」
「あ・・・っ、ううん、なんでもないの・・・なんとなく・・・」
慌てたように顔の前で手を振った珠美を、バツ悪気に見遣って和馬は 自分も立ち上がった
「俺も風呂入って寝るかー」
突然ムラムラしてしまったことが恥ずかしくなって 和馬は大きく深呼吸した
女の身体に反応するのは男の性だけれど、
男友達と錯角する程に仲のいいにドギマギするなんて
悲しいかな無意識にアレがビビっとくるなんて
(あいつフェイントなんだよな〜
 普段は男っぽいくせに・・・)
身体ばっかり、と
ひとりごちて和馬はもう一度ため息を吐いた
そんな背中を 珠美が悲しそうに見ているなんて気付きもしないで
焦がれる想いをその胸に抱いているなんて、思いもしないで


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