女心  (鈴×主)


夏休み前の1週間 試験の点数がかんばしくなかった者に与えられる特典がある
朝からみっちり補習期間
1学期の敗者が、特別教室に集った
その面子は、どいつもこいつも顔見知りだったりして

「あーあ、今日クラブ紅白試合なのによー」
「文句を言うなら普段から勉強をすることだ」

英語、数学、国語、社会
一体何教科分の補習を受けたか
隣に座ったまどかとぶつくさ文句を言い合いながら そういえば授業でやった気がするような内容をもう一度復習して、試験よりちょっと簡単なプリントを解いて、宿題がたくさん出て
1日4時間、それでようやく解放
「くあーっ、これがあと4日もあるのかーっ」
大あくびをしたら、教室の出口のところでが笑った
ああ、そういえば こいつも英語と数学は赤点だったんだっけ

「おまえさ、宿題どーすんの?」
「クラブ終わったら部室でやろーかなって思ってるけど」
「じゃーさ、一緒にやろうぜ、分担分担
 どっか空いてる教室でいいだろ
 二人でやれば半分で済むしな」
「お、いいね、乗った」
「そう言うと思ったぜ、おまえなら」

なによ、と
隣でが笑うのに 和馬もまた声を出して笑った
は女のくせに、サバサバしてる
女のくせに気取らないし、言葉をぽんぽん返してくる
まるで男友達といるみたいで 気を使わなくていいから好きだ
こいつといると、楽だから好きだ

「鈴鹿、このシャーペン可愛い」
「え? ああ、それ・・・」
そろそろ陽がかたむく時間、教室の窓際で補習の宿題を片付けながら
和馬のペンケースから転がったシャーペンを手にが怪訝そうな顔をした
「あんた こんなの好きなの?」
「ちげーよ、もらったんだよ
 それ好きならやるよ、俺は使わねぇから」
怒ったように顔を赤くして、和馬はふいと顔をそむけた
そのシャーペンは、とても可愛いピンク色のデザイン
今人気だか何だかのネコのキャラクターの入ったやつ
1週間程前にがくれた
お揃いだとかいって、こんなの恥ずかしくて使えないと思ったけれど 言い出せなくて
使ってね、と
笑ったに曖昧な返事をした
それ以来、このシャーペンはペンケースの奥に隠していたのだけれど
「え? いいの? 私このネコ好きなんだー」
「へぇ、お前でもそんな可愛いの好きなんだ」
「・・・何? お前でもって」
「だってガラじゃなくねー?」
「うるさいなぁ」
失礼ね、なんて言いながら
それでも御機嫌には もらったシャーペンをカチカチとやった
嬉しそうに早速それを使って宿題に戻る様子を見てたら 似合ってないこともないと思う
は性格が男みたいで、一緒にバスケをやってたりして
喋り方も雰囲気も、とはまるで違うから 男友達みたいだと錯角するけれど でも
(黙ってたら、そんなことないんだよな・・・)
こうして 向かいの机で宿題をやってる姿
瞬きする目、困ったように寄せる眉
わかんないや、と
つぶやいた唇にドキ、とした
少し離れて見てみれば、はちゃんと女の子で
時々ハッとする程 綺麗だったりする
いつも あまりに近くにいすぎて、それが見えてないだけで

それから、ほんの少しを意識して、和馬は手許の宿題がまったく進まなかった
「あー、タイムリミット」
下校時間のチャイムが鳴って、が大きく伸びをする
「しょうがない、持って帰るか」
「明日写させろよ」
「あんたのもね」
悪戯っぽく笑った顔に安心した
少し意識してしまったけれど、やっぱり
二人でも、ちっとも肩が凝らなくていい

結局、その夜和馬はにSOSして宿題を仕上げた
「鈴鹿くん 勉強苦手なのね」
クス、と笑う仕種がとても可愛くてドキドキする
ふわふわの髪の、笑顔の優しい女の子
守ってあげたくなるタイプ
最近毎日のように電話がかかってくるから、二人はぐっと親密になって
色んな話をして
補習の宿題がまだ終わらないなんて言ったら 手伝ってあげると言ってくれた
もしかして、二人はかなりいい関係なんじゃないだろうかと
和馬は心の底で少し、期待してしまっている
に好きになってもらえるように、幻滅されないように気をつかいながら

「鈴鹿くん、私ね、前の彼氏とはちゃんと別れられたよ」
「そっか、よかったな」
「うん、鈴鹿くんのおかげね」
「別に、俺は何もしてねぇよ」
「ううん、鈴鹿くんがいてくれたから私、強くなれたんだと思うの
 鈴鹿くんがいてくれるって思ったからよ」
「ん・・・・」
まっすぐにこちらを見上げてくる視線に、和馬はわずかに頬をそめて視線をそらした
こういうの表情が可愛いと思うし、たまらないと感じる
男だったら、みんなそうだと思う
こんな可愛い子に、あなたがいたから、なんて言われてドキドキしないわけがない
そして、
それが入学した時から いいな、なんて思ってた子ならなおさら
このドキドキが恋だと思うのは間違ってないはずだ
毎日電話して、毎日学校で会って、
こうして特別な言葉までもらって

「そうだ、鈴鹿くん、あのシャーペン使ってくれてる?」
「え・・・?」
にこ、と
笑った に、和馬は一瞬何のことだかわからずに瞬きをした
シャーペン? あのからもらったピンクの恥ずかしい色の?
「ああ、あれにやった
 あいつ好きらしくて、可愛いとか言ってたから」
やる、と言ったら嬉しそうにしてたっけ
意外だな、と思ったけど
それからずっと そのシャーペンを使ってたから それを見てるのは悪い気はしなかった
自分のあげたものを喜んで使ってくれている様子はとても、嬉しいものだったから
「あげちゃったの・・・?」
「だって俺にはちょっとな、色とか柄とか・・・」
ずっと置いておくより誰かが使ってくれた方がいいだろ、と
言った途端 和馬はぎょっとして言葉を飲み込んだ
目の前で笑ってたが、突然ボロボロと泣き出したから

夜の10時
回ってきた部誌を書き上げて 大きく伸びをしたところに携帯が鳴った
和馬だけに設定してある着メロ
和馬が好きだと言ってた昔のアニメの曲
楽し気なその音楽に、慌てて携帯を手に取った
珍しい
こんな時間に電話してくるなんて
毎日と電話してるから 夜は忙しいとか何とかノロけてなかったっけ?

「どしたの? 」
「おまえさ、今ちょっと出てこれるか?
 今おまえん家の近くの公園にいるんだけどさ」

電話の和馬の声は ちょっと沈んだ感じ
彼の告げる内容に、視線が机の上の部誌ノートに落ちた
今までそれを書くのに使ってた 可愛いピンクのシャーペン
和馬がくれたってたけで、何か特別な感じがして嬉しかったんだけど

「悪い、なんか泣かれちまって・・・返して欲しいんだ」

困ったような、声
今どんな顔してるんだろうなんて考えて ふと笑みがこぼれた
「しょうがないなぁ、待ってて すぐ持っていくから」
からもらったピンクのシャーペン
それを他の女の子にあげたなんて言ったら そりゃあ傷つくんじゃないの?
何も考えずに くれちゃったんだろうな、なんて
女心のわからない和馬がおかしくて、
一瞬だけの特別だったな、なんて 少し残念で
はピンクのシャーペンを手に、家を出た
鈴鹿の待つ公園まで、走ってく

「ごめんな、ほんとに」
「私はいいけどね
 あんたも女心の研究、した方がいいんじゃない?」
突然の電話に 嫌な顔一つせず
一度あげたものを返せと言っても笑ってくれたに 和馬は内心本気でほっとした
あのシャーペンはにあげたと言ったら は泣き出して酷い、と言った
鈴鹿にとったら、こうやって隠しもっておくより誰かが使ってくれた方がいい、と思うことも
はるかには泣く程にショックなんだと知って驚いて
それから 必死でをなだめて帰ってきた
あのシャーペンはちゃんと返してもらってくるから、と
ごめん、と
そう言って ここまで来た
落ち込んだ気分は、しょうがないなぁと言ってシャーペンを差し出してくれたの笑顔で少しだけ晴れた
「女って変、誰かが使ってくれた方がいいに決まってんじゃん?」
「そうでもないでしょ
 はあんたにってくれたのに、それを他の女の子にあげちゃマズいでしょ」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんよ」
公園の電灯の灯りに、の顔が照らされる
いつもと同じ サバサバした笑顔、言葉
なんだかどっと、気が抜けた
「あんたを好きなんでしょ
 もちょっと研究しなよ、姫条とかに聞いてさ」
「何をだよ」
「女心」
「女心ねぇ・・・」
面倒だな、なんて
つぶやいたら が呆れたような顔をした
「そんなんじゃの彼氏にはなれないよ」
「お・・・っ、俺は別に彼氏とか・・・っ」
「でも自分がつきあわないと、別の男に取られちゃうんだよ」
「それは・・・そうだけど」
こっぱずかしい単語
彼氏とか、彼女とか、好きとか、つきあうとか、
は可愛い
いいな、と思うし、守ってやりたいと思う
それが彼氏になりたいということなのかはわからないけれど
他の男といるのを見ると ちょっと嫌な気分になるから
言葉にしてしまえば、多分そういうことなんだろう
言うのも考えるのも恥ずかしいから、言わないけれど
「ちゃんとに言っときなね、返してもらったからって」
「おう」
悪かったな、と
バツわるそうに言ったら、はもう一度だけ笑った
「いいよ」
そうして暗い道を帰っていく
一人 公園に残って 和馬は手の中のピンクのシャーペンを見て、小さくため息を吐いた
とりあえずは、にこれ以上嫌われずにはすみそうだ

次の日も、朝から補習
朝練の後、持ち寄った宿題をお互いに写しあって補習へとのぞむ
「うわ、ここ、間違ってるかも」
「あ、ごめん、1ページ抜かしてた」
机を並べて、ヒソヒソしながら
黒板とノートを見比べながら
時々 隣のの手元を見て和馬はソワソワとした気分になった
和馬のペンケースの中に無造作につっこんだ真新しいシャーペンが2本
昨日、あの後まどかに電話してみた
女心ってなんだ、と言ったら 奴はバカみたいに笑った後言ったっけ
「そら、さんが可哀想や
 女の子ってのはお揃い、とかに弱いんやで
 お詫びにお揃いのシャーペンとか買うてやったらええねん」
それで、今朝コンピニで買ってきた
に悪いことをした、と 自分も思っていたから

「あのさ」
「ん?」
朝から いつ渡そうかと思っていたもの
こういうの、タイミングがわからなくて、なんだか改まると照れくさくて
「これ、やる」
「え?」
結局、補習が終わって、クラブも終わっての 恒例となった宿題分担会
そこでようやく差し出した
昨日が好きだって言ってたシリーズのはなかったけど、かわりに何だかよくわからないドクロみたいなクマみたいにキャラクターの黒っぽいシャーペンがあったから
これなら自分もまぁ、持ってても恥ずかしくないか、と思ったから
「昨日の返せって言っちまったからな」
「えー、鈴鹿こんなの好きなんだ」
「好きっていうか・・・昨日のやつよりはマシだろっ」
「変なキャラ、これ何?」
「知るかよ、いらねーのかよっ」
「あはは、いるよぉ
 怒ることないでしょ、気が短いなぁ鈴鹿は」
黒くて、変なキャラクターの書いてあるシャーペン
俺のも買ったんだ、と言って出して見せたら がほんの少し目を見開いた
この先っぽについてるキャラクターの人形は カチカチやってるうちに絶対首がもげる、とか
意外に書きやすいね、とか
振ってみたり、人形の顔を覗き込んでみたり、ぐるぐると試し書きをくり返してみたり
二人して、お揃いのシャーペンを手にしばらく笑った
女心はわからないけれど、がこうして笑ってくれるから
「ありがと、鈴鹿
 大事にするね」
そう言って、嬉しそうにしてくれるから
「とりあえずはこれで補習乗り切るぞ」
「おうっ」
照れ隠しに、そう言ってまた宿題にかぶりついた
とりあえずは、くすぐったいまま それでも気持ち落ち着いて


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理