秘密  (鈴×主)


試験前のクラブ禁止週間がはじまった
先生のすきを見てこっそり体育館に忍び込めたのは最初の2日だけ
おせっかいな誰かが告げ口したのか、体育館の窓から侵入するのを見られたのか 今日は体育館前に教師が二人立っていた
成績が下がろうが、クラブばかりしようが、いいじゃないか
バスケがしたいんだから
和馬にとって、それが何より一番、 大切なことなんだから
「ちぇ・・・」
ふてくされて、校門をくぐった
どうせ早く帰ったって勉強なんかしないのに
禁止されたら余計やりたくなる
「あーあ、バスケしてーなぁっ」
思わずそう言ったら、後ろで誰かがウンウン、と
おかしそうに笑った
驚いて振り返ったら そこにが、いた

「ねぇねぇ、そこって遠いの?」
「チャリで40分くらいだな」
「けっこう遠いね〜」
「まぁな」
和馬の自転車が 風をきって走っていく
後ろのステップに、スポーツバックを背負ったを乗せて
「おまえ ちゃんと掴まってろよ」
「わかってるよ」
初夏の風が、頬に気持ちいい
通学路、俯いて帰っていく生徒達
普段バカやってる子達も、今は真面目に勉強する
「試験なんかなかったらいいのにね」
「不公平なんだよな
 バスケなら俺 負けねぇのに」
「私もー」
後ろで笑ったに、和馬も声を上げて笑った
学校の校門を出たところ
バスケやりてぇな、なんて独り言に 相づちをうったのがおかしくて
なんだ、お前もかよ なんて言ったら は悪戯な顔で笑ってた
「こんなに練習しなかったらナマっちゃうよね」
どっかにゴールないかなぁ、って
の言葉にふと、思い出した
そういえば、昔 親戚が住んでたあたりの堤防に バスケのゴールがあったかもしれない

夏に近い気温の中、40分も自転車で走り続けて 二人はようやく堤防へやってきた
「あーーー、ほんとにゴールがあるっ」
「な、言ったとおりだろ」
本当はうろ覚えな記憶だったけれど 和馬の思った通りの場所に古びたバスケットゴールが立っていた
「やったーーーっ」
自転車から下りて、草の坂道をが走り下りていく
「おいっ、待てよっ」
慌てて、自転車を止めて後を追った
二人乗りの自転車、足は疲れているはずなのに 勝手に走っていく
ああ、今、とても楽しい

の背負っていたスポーツバックからボールを出すと、二人はまるでじゃれあうようにバスケをはじめた
「女に負けるような俺じゃないぜ」
「私、コントロールいいんだから」
二人顔を見合わせて、笑いながら
「おまえ、今のファールだろ」
「あれ位の当たりで女々しいこと言わないでよねっ」
子供のように、声を上げて
「どわっ、あぶねーーーっ、おまえ前見ろよっ」
「あんたがモタモタしてるからでしょーっ」
しまいには、緑の草の上 二人して身を投げ出した
熱を乗せた風が 吹いていく

「ここ風強いね、気持ちいい」
「んー」

制服が汗だくで、草がいっぱいついて、くつも泥で汚れて
二人、まるで小学生みたいに 寝転んで空を見上げた
なにもかもが吹っ飛んでいく
わずらわしい試験のことも 今はもう頭になかった
「あー、楽しかった」
「おまえムキになりすぎ」
「あんただって」
「俺はいつも冷静だろ」
何言ってんのよ、と
隣で笑ったの声が心地よかった
こんな風に、自然体でいられる女は初めてだ
飾らない自分、気取らない
こんな風に心地いい時間を過ごせるなんて、
女と二人きりでいて

「おまえ、いいな」

なにが? と
いつもの明るい声で問いかけてきたを見て 微笑する
「なんでもねー」
「なによぉ、気になるでしょ」
「秘密」
「えーーー!!!? サイテーーーーーーっ」
といる時は、こうはいかない
格好悪いところを見せないように いつもいつも気を張っているし
彼女が好きになってくれるような男でいたいと思うから 変に自分をねじ曲げている気がする
大声で笑ったり 軽口を叩いたりしない
作った自分を演じるのは 面倒臭くて、バカらしい
「言いなさいよぉ」
「言わねぇ」
身体を起こして、こちらを覗き込んできたに にっと笑ってやった
の髪に草がついてる
女のくせに そんなこと気にもしないところがいい
自分と同じように笑うのがいい
こうやって、同じ場所に立ってくれるのがいい
まるで気を許せる男友達みたいで

もぉいい、と
膨れて また寝転がったの隣で 和馬はくすくすと笑った
といるより、おまえといる方がいい
そう言ったのは秘密
まだ自覚のない、恋にもなってない想いだから


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