夢のように美しい (鈴×主)


あいつが生け花なんてやってる姿、想像もつかなくて正直驚いた
かたっくるしい着物と、かたっくるしい綺麗な言葉遣いと、厚化粧のババァ達
生け花ってそんなイメージだった
なんでって、俺の母親がそんな感じだから

「だから何でオレが生け花なんか見に行かなきゃなんねーんだよ」
「あんた今日暇なんでしょ?
 たまにはそういう芸術に触れて心を綺麗にしなさい」
「荷物持たせたいだけだろ
 せっかく部活休みなのによー」
「何の予定もないくせに」
「・・・・・・」
日曜の朝、和馬は母親と一緒に家を出た
両手に花を抱えて、背中には着物だか何だかまで背負わされて
文句たれたれの休日である
(こんなんならさっさと起きてどっか行けばよかった・・・)
久しぶりにクラブが休みの日
日頃の疲れが出たのか、昨日夜更かししたのがいけなかったのか朝寝坊していた和馬は生け花の展覧会へ行くという母親に叩き起こされ、荷物持ちとして任命された
押しの強い母親には逆らえず、ぶーぶーと文句を垂れながらも会場へ向かうと、まだ設営中のようで ざわざわとそこは騒がしかった

「じゃあお母さんはちょっと挨拶してくるから」
いそいそと、着物をもって母は奥の控え室に行ってしまい、和馬はひとり取り残された
「・・・・こんなとこで何しろってんだよ・・・」
生けてある花を運んでくる人や、設置している人
その場で手直ししている人など色々な人がいるが、どれも和服のオバサン達で
並んでいるものを見てまわっても、和馬は特に何も感じはしなかった
(つまんねー・・・)
10分もしないうちに飽きてしまった和馬は、側にあったソファに腰を下ろした
(あーあ・・・・)
母親が戻ってきたらとっとと帰ろうと、大あくびを一つする
その時、裏口から入ってきた人物に目を疑った
「え・・・・?」
「へ?」
手に花を抱えて、がこちらを見た
「あれ? 鈴鹿?
 あんたこんなところで何してんの?」
にこっと、いつものように明るく笑うその顔はまさしくのものだったけれど
「おま・・・おまえこそ・・・」
見たことのない着物姿
練習の時はいつも無造作にくくっている髪をきれいに結い上げている
ドキ、とした
こういう姿は、想像できなかったから
自分はのことを、あまり知らないのかもしれない
「俺は荷物持ちにかり出されたんだよ
 お前は・・・・何してんだよ」
「何って見たらわかるでしょ」
がおかしそうに笑った
「私時間ないから行くわ、あとでね」
それから、奥の控え室に行ってしまった
その後ろ姿に、ぽかんとしながら 和馬はいつのまにか ドキドキしている心臓を慌てて落ち着けた
「びびった・・・・」
おしとやかな人しか着ないと思っていた着物を着こなして、
いつもみたいに笑ってる様子は、とても新鮮で驚いた
ドキドキしたのは、見愡れてしまったから
綺麗だと思った
素直にそう思った
ああいう面もあるんだと、新しい発見が少し嬉しかった

それから一般の客が入場してくる時間になると、はまた会場に出てきた
「よぉ、おまえのどれよ」
「ん? あれだよ」
指差す先には、他のものよりも大きい作品が置いてあった
一体何がどう凄いのか、とか
どういうのがいいのか、とか
和馬にはさっぱりわからなくて、うーん、と唸っただけだった
「わかんねー」
「あっははは、だろうなぁ」
鈴鹿に芸術は理解できないっしょ、と
笑われて少しだけむっとしながらも、和馬はいつもの明るいにチラと視線をやった
ドキドキする
普段は一緒に走りまわってるから意識しないけれど、こうしているとも女の子なんだと、
それで妙にくすぐったくなった
「それにしても意外だよなぁ、 おまえが生け花なんて」
似合わねぇよな、と
からかい半分で言った
その言葉に背後で、失敬な、と
ひときわ大きな声が上がり、和馬は驚いて振り向いた
「あ、三原」
隣でが笑う
「君、失敬じゃないか
 くんの作品はすばらしい
 彼女の心を写し取ったように白く清らかで、みすみずしい活力に溢れている
 似合わないことなどあるわけがない」
色は、唖然としている和馬に言い放った
「この良さがわからないなんて君の目は節穴かい?
 それとも・・・美しい者にしか、美しい芸術は理解できないのかな」
「あはは、三原言い過ぎ〜」
隣でがおかしそうに笑う
それにはっと我に返って、和馬は相手を睨み付けた
「わるかったな
 どーせ俺は芸術なんてわっかんねー凡人だよ」
「可哀想に・・・このすばらしい世界が理解できないなんてね
 くん、この作品はすばらしいよ
 この花の持つすがすがしさが君の勢いある手によってこんなにも輝いている
 ほら、ここからは静かな強さを感じるよ
 ああ、僕の寝室にも欲しいよ」
に向かって絶賛の色に 和馬はうんざりしてため息をついた
なんなんだ
突然現れてベラベラと
世界的な芸術家だというけれど、高校生でそんな世界的だとか言われてもうさん臭くて信用ならないし
やっぱり生け花の良さなんてわからない
どこをどうみたら、静かなる強さとか、みずみずしい活力とかいう言葉が出てくるんだ
しばらく色はの作品を見ながらなんだかんだと感想を述べて
それから奥の方へと消えていった
「なんなんだよ、あいつは・・・」
どっと疲れた
「三原ってちょっと個性的だよね〜」
くすくすとおかしそうにが笑う
「そんなもんですむか?」
「本人悪気はないから無敵だよね
 あれで本当にすごいもの作るから人ってわかんないよね」
「そうなのか?」
「そうだよ
 見たことない?
 学校にも3階の渡り廊下のところに絵が飾ってあるよ
 小学生の頃に描いた絵だって、凄いよ」
笑ったに ふーん、と
興味なさげに返事をして、和馬はひとつため息をついた
「俺そろそろ帰るわ」
「え もぉ?」
「あいつのせいで疲れた」
またため息をつくと、がおかしそうに笑って、それから生けてある花を一本抜いた
「じゃこれをお土産にあげよう」
「え? いいのかよ・・・これ作品なんだろ?」
「いいのいいの、たいしたものじゃないんだから」
(・・・たいしたものじゃないのを三原が絶賛したりするか?)
思いながらも、和馬は差し出された花を受け取った
白い、あまり花っぽくない花
「お前 この花好きなのか?」
「え? うん・・・なんで?」
「だっていっぱい使ってるもんな」
全体的に作品が白いのは、この花がたくさん使われているせいか
「へへ、似合わないかもなぁ、私には」
「は? 何が?」
「なんでもない」
にこ、と
は笑っただけだった

それから母親に先に帰ると伝えて、もらった花を片手に会場を出た
出たところで、色に会った
「・・・・」
色は、和馬の手にしている花をじっと見て、そうして小さなため息とともにつぶやいた
「カラーは清清しくみずみずしく<夢のように美しい>
 まさに、彼女にぴったりの花だね」
「なんだよ・・・それ」
「花言葉さ」
それだけ言って色はきびすを返した
「・・・・夢のように美しい・・・?」
それが花言葉なのか
だからは、自分には不似合いだと言っていたのか
(そんなこと・・・ないけど・・・)
たしかにいつものには程遠い言葉だと思うけれど
今日のは、まさにそんな感じだった
夢のように
半ばボーとしながら、和馬はまんざらでもない気分で家路についた
手には真っ白な、カラーの花


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