未来予想図 (姫×主)


でっかい会社
たくさんの、スーツに身を包んだ大人達が難しい顔で歩いているロビー
受付には、綺麗なお姉さんがいて
書類片手に、携帯片手に
誰もが、忙しそうに働いている
ここは、まどかの父の経営する会社
まどかは最上階の社長室に用がある

「姫条まどかやけど、ここの社長さんに用があるんやけど」

受け付けの女性に、そう言ったら 一人が驚いたようにこちらを見た
「姫条社長の御子息様でいらっしゃいますね
 少々、お待ちください」
そう言って内線をかける
繋がった先は秘書課だろうか
2.3話して、受付嬢は受話器を置いた
「少々お待ちください
 只今秘書が社長に確認して折り返してまいりますので」
「あー、はいはい」
大袈裟やなぁ、と
思いつつ まどかは辺りを見回す
磨き上げられた床
くもりのないガラス窓
エリートの臭いがする人たち
大袈裟な程、威厳のある入り口のモニュメント
(あー・・・なんかほんまに別世界やなぁ)
やれやれ、と
まどかはため息をつき、大きく伸びをした
その間に、内線が鳴り、受付嬢がまた2.3話した
「親父、なんて?」
「申し訳ございません、本日は会議と来客がありまして・・・
 いつになるかわかりませんが、時間が取れたらお呼びするとのことです」
申し訳なさそうに、どこか戸惑ったように言う受付嬢にまどかは苦笑する
「ほんなら、そこで待たしてもらうわ」
「あ、今 秘書が参りますので、応接へご案内します」
「・・・なんやほんまに大袈裟やなぁ・・・」
やれやれと、ため息をついて まどかはその秘書とやらが現れるのを待った
しばらくして、エレベーターで下りてきた やわらかい雰囲気の女に連れられて 最上階の一室へと案内される
そこは広くて、豪華な絵なんかがかけてあって、高級なソファが置いてあった
部屋の中には、花の匂いがたちこめている
「申し訳ございませんが、こちらでお待ちください」
コーヒーが出されて、秘書はそれで下がっていった
やれやれ、と
ソファに座り ため息をつく
わざわざ学校を休んでまで こんなところに来たのには理由がある
卒業を控えた今、父親に言っておきたいことがあったから
このまま、家を飛び出したままではいけないと、思ったから
だから今日はその決着を着けにきたのだ
男として

ふわぁ・・・、と
まどかは静かな部屋で欠伸をし、大きく伸びをして 多忙な社長を待っていた
そろそろ1時間が経つ
「ほんまにあのオッサン、会議くらいさっさとおわらしてこいっちゅーねん」
愚痴をこぼして、携帯を手に取る
授業中のにメールを送りつつ、
時々うと・・・、と眠りに片足をつっこみつつ
気づけば、時計は来た時から2時間も経っていた
「いいかげん、むかつくっちゅーねん」
もう帰ってやろうか
せっかくここまで来てやったのに、
話し合いってやつをしてやろうと、ここまで来てやったのに
「あーもー、無能やから会議に時間とかかかんねんっ」
イラついて、立ち上がった
その時、ドアのところで聞き慣れた声が聞こえた
「・・・2時間も大人しく待てないようでは・・・」
説教じみた言葉が漏れる
それにうんざりして、まどかは立ち上がったのをもう一度座り直した
「何の用だ?
 私は忙しい、こんな風に突然来ては困るのだが」
「せやからわざわざ秘書通したったんやろ
 別にいきなり社長室乗り込んだっても良かってんで」
じっ、と相手の目を見て言い
まどかは大きく息を吸った
「5分で終わるし」
そして、不敵に微笑する
怪訝そうにこちらを見遣る父親の、その顔は家を飛び出す前に見た時よりも柔らかく見えた
それは、自分が少しだけ大人になったからだろうか
自分に、かけがえのない女性ができたからだろうか
「まず、オレは卒業してもアンタのとこには帰らへん
 就職先も決めたし、そこで働く
 気済むまで、自分のやりたいようにやる」
言った言葉に、父親は眉をひそめた
だが黙って聞いている
「次に、オレはアンタのことを、アンタのやり方を認めてへんし、いいとは思ってへん
 けど、理解はできる」
少しだけ、まどかの声のトーンが落ちた
小さい頃、母が亡くなり
父は仕事に没頭し、まどかのことなど目に見えていないかのようだった
それが悲しくて、
母の死を悼みもしない父が理解できなくて
まどかは反発し、家を出た
「そりゃそーやわな
 好きな人亡くして、悲しくない奴なんかおらんよな」
ため息が、父親の口から漏れる
間違っていた自分
父の痛みをわかってあげられなかった幼い頃
ただ反発していたのは、自分がまだ子供だったから
今は違う
大切だと思える人ができて、一生を守っていこうと誓った
だからこそ、わかる
愛した人を失う痛みが、どれほどのものか
「それで・・・おまえは理解できてなぜ、戻ってこない」
淡々と話す父親に、視線を合わす
男同士だからこそ、
父と息子だからこそ、照れくさくて上手く言葉が出ない
だから今、互いの間にはくすぐったいような居心地の悪い空気が流れている
「そりゃあアレや
 オレにはオレの夢があるからや
 親父のもん そのまま受け継ぐなんかおもんない
 やるんやったら、自分の力で一から作り上げな意味ないやろ
 オレはそんで、親父を追いこすんや」
にや、と
不敵に笑った息子を見遣り、父親はまたため息をついた
誰に似ているって、自分に似ている
こういうところ
何かをやろうという、力
「そうか、好きにしなさい」
「ああ」
「それじゃあお前にきている縁談話は全部断っておく
 良家のお嬢様に、おまえみたいな先のわからん奴はつり合わんからな」
言われて、まどかは顔をしかめた
「縁談てなぁ
 そんなもん最初からいらんわ、オレにはもぉ大事な人がおるんやからな」
何を勝手に言っているのか
そんな見たこともない良家のお嬢様だなんて
油断もスキもありゃしない、と
つぶやいたまどかに、父親は小さく微笑した
「それは・・・物好きなお嬢さんがいたものだ
 おまえのようにフラフラした男についてくる女性がいるのか?」
「・・・あいにく、とびきりのんがおるんや」
「そうか、では今度はそのお嬢さんも連れて来なさい
 食事でもしよう」
最後の言葉はやわらかく、
微笑した父親に、まどかは顔が赤くなるのをぐっとこらえた
居心地悪い気恥ずかしさ
だけど、わだかまりが溶けた、そんな気がした
「・・・ほんなら、オレは帰るし」
「ああ」
一緒に応接を出て、社長室へと戻っていったその後ろ姿を見遣る
気分がすっきりしている
認めないから、自分は自分のやり方で、自分らしく生きていく
久しぶりに微笑した父親の顔をみて、まどかは満足気に笑った
行く先の未来
その未来予想図は、これから一つ一つこの手で描いていく


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