スノー・ホワイトデー (姫×主)


3月14日
卒業を目前に控えた、高校生活最後のイベント
は、まどかに電話で呼び出されて 彼の家の前にいた
だがチャイムを押しても 返事は帰ってこない
(・・・まだ帰ってないのかなぁ?)
今日のまどかは、用事があるから、と学校を欠席
なんでも、卒業後に働く会社に早くもコキ使われ、どうしても人数が足りないからと取材だか何だかに行かされているらしい
(たしか6時って言ってたよね・・・)
時計を見ると、6時15分
しばらく待てば帰ってくるかな、と
は、暗くなっていく空を見上げた
白い息が、すぐ側で出ては消えする
今日も、寒い

しばらく待っていると、手足が凍えてきた
立ってまっているからいけないのか、と しゃがみこんで身体を縮めるようにしてみる
はぁ・・・、と
凍えた手に息をふきかけて、それで少し感覚の戻った指を見つめた
こういう風に、まどかを待つのって なんだかとても気恥ずかしくて、嬉しい
待っていたら、帰ってきてくれる人
約束の時間から もぉ1時間近く経つから きっとまどかは「ごめんな」なんて言って すまなさそうに抱きしめてくれる
温かい胸に顔をうずめて、優しい声をきいて安心する
「なんややっかいな仕事でなぁ」
ちょっとだけ愚痴りながら、冷たくなった手にキスをくれて、
髪にも、頬にも、くちびるにも 優しく触れてくれるだろう
二人がつきあいだしてからもうすぐ1年が経つ
大好きだった人に、好きだと言ってもらえて
こんな風に特別扱いしてもらえる
それが嬉しくて、幸福で
はいつもいつも、その喜びを忘れないようにしていた
忘れて、わがままになってしまわないように
まどかが側にいてくれるのか、当然だと思ってしまわないように
「おそいなぁ・・・大丈夫かなぁ・・・」
下の駐車場に まどかのバイクがなかったから きっとバイクで出かけているのだろう
事故にあってないかと心配しながら はすっかり暗くなった空を見上げた
チラチラと、何かが降っている
今まで気がつかなかったけれど、これは

「わぁ、雪・・・?」

思わず立ち上がって、手を差し出した
チラチラ、と
それは風に乗ってすぐに消えてしまうけれど、たしかに雪が降っている
(今日、寒いもんね)
嬉しくて、はしゃいだように手ですくおうと は手すりから身を乗り出した
そこに、聞き覚えのある音がして 赤いバイクが帰ってきた

っ」
慌てて止まった、そういう印象を受けたバイクを見遣ると メットを外してまどかが大声を上げた
「すまんっ、遅れたっ」
「おかえりなさい、平気よ」
手をひっこめて、にこりと笑う
やっぱり慌てたようにバイクを止めて、まどかはダッシュで階段を上ってきた
そしてぎゅっと、抱きしめてくれる
「ああ、オレのアホ・・・
 こんなに冷たなってるやんか・・・!!」
髪に、頬に、唇に、
キスをもらって、は頬を染めながらまどかを見上げた
「平気」
にこり、
まどかを待っている時間は嫌いじゃないから
無事に帰ってきて、こんな風に抱きしめてくれるなら そんなの全然苦痛じゃないから
「大丈夫
 雪が降ってきたからね、見てたの」
キラキラした目で言ったに、まどかは苦笑して その頬に手を触れた
はほんまにオレにはできすぎやな」
そうして、ドアをあけ 中へと入れながら その笑っている顔を盗み見する
1時間近くも寒い中待たせて、文句一つ言わずに笑ってくれる
今日はホワイトデーだっていうのに
不満な顔なんか一切しない
胸がぎゅっとなる
それで、後ろからまた抱きしめた
「姫条くん・・・」
まだ冷たい身体
つけたばかりのストーブが、真っ赤な色をして部屋の中をあたためようとしている
「ごめんな
 オレが格好つけたりせんと、もっと早うに渡しとけばよかった」
ポケットに手をつっこんで、今日、バレンタインのお返しに、と用意していたものを握った
どうせなら、ホワイトデーに渡そう
二人にとって、大切なものだから、と
格好つけたのが間違いだった
もっと早くに渡しておけば
あげようと決めた時に渡しておけば、は凍えずにすんだのに
「これ・・・」
チャリ、と
片手でを後ろから抱きしめたまま、それをに手渡した
両手で受け止めて、手の中の冷たいそれを見つめる
銀色の、雪の結晶のキーホルダーのついた鍵
これは、この部屋の鍵
「これ・・・?」
ぎゅっ、と
を抱きしめて、首筋にキスをした
腕の中にすっぽりと入ってしまう
何があっても、もう放さないと決めた
他の女の子はいらない
だけ
だから、に持っていてほしいと思ったもの
「この部屋の鍵
 同棲っちゅーわけにはいけへんやろうけど・・・まぁお守りみたいなもん・・・やな」
持ってると便利やし、と
今さら照れて まどかは苦笑して笑った
「今日みたいな日でも凍えんでエエやろ?
 中でぬくぬく待っとってくれたらええ」
な? と
その言葉に ほろほろとの目から涙がこぼれた
手の中の、鍵
まどかがくれた、特別の証
「嬉しい・・・」
ぎゅっと握って、後ろから回されたまどかの腕に頬を寄せた
嬉しくて仕方がない
「嬉しい、ありがとう・・・」
「な・・・泣きなや・・・?」
困ったように まどかは言い、
腕を放して、の前へと回り込んだ
そっと、顎に手をかけ その涙で濡れた顔を上向かせ
が自分を見つめたのを確認して、そっと唇にくちづけた
もう、冷たくはなかった

その日、雪のちらつく中
二人仲良く傘をさしての家までの帰路につく
「今度な、オレがバイトの時に家におってーな
 ほんで、帰ってきたらおかえり〜とか言うてもらえたら最高やなっ」
「うん・・・じゃあ頑張って御飯作って待ってる」
「おっ、ええなぁっ
 の手料理、たまらんなぁ」
「あっ、でも・・・期待しないで・・ね?」
「あはは、そら無理やて
 可愛い奥さんがエプロン姿で御飯なんか作ってくれてたら悩殺や
 新婚サンみたいやん?」
「う・・・」
頑張る、と
頬を染めて言ったに、まどかは満足気に笑った
冷たい雪
でも二人でいれば、素敵な演出に変わる
スノー・ホワイトデー
贈られた銀色の鍵は、二人のこれからを彩っていく


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