彼氏レンタル (姫×主)


まどかは、まじまじと目の前のを見つめた
いつもの学校の帰り道、めずらしくサ店に寄ろうと言い出したにつきあって、二人は今落ち着いたコーヒー屋にきている
そこで、の口から出た言葉を、まどかは信じられない気持ちで聞いていた

「え・・・?」

ちゃんと聞こえていたけれど、聞き間違いかと もう一度聞き直してみる
「あの・・・だからね・・・」
は、困ったように
だが真剣な顔をして、まどかを見上げ 先程の言葉をくり返した
「ウチのクラスのさんが、姫条くんと一回デートしたいって・・・」
ああ、やっぱりそう言ったのか
と言えば 元々まどかと仲のよかった女の子
ちょっと派手でお色気な、まどか好みの子
いつも色んな男とつき合っているから、まどかとはただの友達で 今までつき合ったことはなかったけれど
お互いタイミングが合えば、きっとそういう仲になっていただろうと思う
「・・・なんでがそんなこと言うんや?」
ポカン、と
その言葉の意味をとりかねてまどかはをみつめた
「あのね・・・彼女引っ越すんだって・・・
 それで・・・あの・・・姫条くんのことずっと好きだったから 引っ越す前に一度でいいからデートしたいって・・・言われて・・・」
の顔には、ある種の決意のようなものが見える
悪い言い方をしたら、口の上手いに 人のいいが頼み込まれて断れなくなってしまっている、そんなところだろうか
「そんなんに頼んでくるんがおかしいやろ
 聞くことない、無視しとったらええねん」
苦笑して言ったら、はふるふると首を振って まどかを見上げた
「あのね、だって引っ越しちゃうんだよ・・・?
 最後に思い出にって・・・そう言ってるの
 さん、泣いちゃってて、私・・・なんだか気持ちわかるの」
あー・・、と
まどかはの顔を思い浮かべる
都合のいい時に涙を流せる、意図的に男をその気にさせるような女の子だ
多分、本気の涙じゃない
まどかには、そう思えるけれど 人を疑ったりしないには、そんなこと考えつきもしないんだろうな
「私も高校からこの町に引っ越してきたでしょ?
 だからわかるの
 引っ越すのってとても辛い
 好きな人がいるのに、お別れしなきゃならないって辛いと思うの・・・
 ね、姫条くん・・・」
お願い、と
自分の恋人に、他の女とデートしてくれなどと頼み込まれ まどかは複雑な気分でいた
の言い分はわかる
が上手くを乗せたのも理解できる
けれど、は 自分が他の女とデートして、それでいいのだろうか
何も思わないのだろうか
「あのな、
 例えば、鈴鹿が明日引っ越すとして・・・
 今日と最後の思い出が欲しいからデートさしてくれってゆーてきても、オレは嫌やで
 断るで」
その言葉に、の目が揺れる
「たとえそいつが引っ越ししておらんようなっても・・・
 最後の思い出やから頼むって頭下げてきても、オレは嫌や
 たった一回でも、が別の男とデートするなんて考えられへん
 そんなん許されへん」
探るように、の表情を読む
少し沈んだようにうつむいて、それでも、とは付け足した
「だって・・・さん・・・泣いてた・・・
 姫条くんのこと好きな気持ちよくかるから・・・
 だから・・・」
は優しい
泣いて頼むに、本気でデートさせてやりたい、と思ったのだろう
1度だけなら、と思ったのだろう
それに不安がないわけではないのは、見ていてわかる
だが、それでも まどかは少し気に入らない気持ちでいた
「じゃあは、オレがとデートしても何とも思わんねやな」
あえて、と名前で呼んだ
それに、が顔を上げて 今にも泣き出しそうにこちらを見る
「何とも思わないわけじゃ・・・」
そうじゃないけど、だけど
「わかった
 ほんなら今週末はの言うとおりとデートしてくるわ
 ・・・それでエエな?」
「う、うん・・・」
内心、苦笑する
優しいのもいいけれど、
これで自分とがくっついてしまったらどうするつもりだ、と
そんな心配かけらもしないのだろうか、と
まどかは小さくため息をついた
そして付け足した
「デートやねんから、キスしようが何しようが、かまわんよな」
それは、自分で思ったより皮肉な含みのある声になった

日曜日
朝からは、不安でいっぱいの胸をどうしようもなく持て余しいていた
クラスでも目立っているは、いつも彼氏がいて、
だがそれは、気がつくと別の男に変わっていた
モテるんだな、と
はそれを見て思っていた
だが、今週のはじめ、教室で二人きりになって話した時 は目に涙をためて言ったのだ
「本当は、姫条のことがずっと好きだったの」
だけど、まどかはとつきあっていて
忘れられなくて、寂しくて 自分は違う男とつきあっていた
だから、本気じゃなかったから、続かなくて 色んな男に逃げていた
「こんなこと、彼女のさんに言うの おかしいってわかってる
 でも・・・お願い・・・
 一度だけでいいの、姫条との思い出が欲しいの・・・」
ぼろぼろとこぼれた涙を見て、は胸が苦しくなった
自分なんかをまどかが好きだと言ってくれて
自分はまどかの側でこんなにも幸せだけれど
そのせいで、こういう風にまどかを好きな女の子達は みんなみんな泣いていると思うと とてもとても辛かったし、
引っ越す前、いろんなものにサヨナラしなくてはならない寂しくて不安な気持ちを思い出した
それで、どうしても彼女の願いを叶えてあげたくなった
だから、まどかに彼女とデートしてあげて、と頼んだのだ
不安は、心にずっとあるままだけれど

時計を見ると昼の12時
今頃、どこで何をしているんだろう
まどかの言葉が頭の中をぐるぐる回る
キスしたり、抱きしめたり、
まどかは普通にそういうことをする
きっと、今までつきあってきた子達も、まどかに触れられて、キスされて、抱かれているのだろう
デートなんだから、キスしようが何しようがかまわないだろう、と
その言葉はの胸に重くのしかかっている
大好きなまどか
あんなきれいな女の子と、デートなんかしてほしくない
自分だけのものでいてほしい
そんなの、それが本音にきまっているのに
だけど、それでも 泣いていたの気持ちがわかるから
それを我慢して言ったのに
(姫条くんの意地悪・・・)
涙がにじんで、は慌てて袖で目をこすった
あんなこと、言わなくてもいいのに
まどかとは普段から仲がいいから きっと自分がいなければつきあっていたかもしれない
デートをして、キスをして、抱きしめて、そのまま
「・・・姫条くん・・・」
まどかに何度も触れられた身体
その時の熱をまだ覚えている
優しくて、強くて、安心する腕
愛してると何度も言ってくれる、心地いい声
大好きな人
他の人になんか、渡したくないのに

一方まどかは、待ち合わせの場所でが来るのを待っていた
「おまたせっ」
「なんやこーゆうの、久しぶりやなぁ」
当然のように遅れてきたに内心苦笑しつつ、まどかは自分から腕にすがってきたに笑いかけた
「ほな、どこにいきましょか」
「カラオケーーーっ」
「はいはい、どこでもつきあいまっせ」
露出の高い服装
ノリのいい会話
どれも、とつきあう前には当然で、大好きだったもの
今でも好みは変わらないけれど でもそれよりも心安らぐものを自分はもう知ってしまった
「新曲歌って〜」
「お、まかしときっ」
個室で二人
のりのりに過ごしながらも の顔が目に浮かぶ
帰り際、泣き出しそうな顔をしていた
わざと意地悪で言った言葉
「デートなんやから、キスしようが何しようがかまわんやんな?」
それで、の目が揺れたから まどかはほんの少しだけ満足した
には、内緒だけれど

2時間程 なんだかんだと歌った後、急にふ、と沈黙になった
「どないしたんや?」
黙り込んだを見遣る
彼女はまどかにぴったりと肩を寄せ、それから上目づかいに見上げてきた
「姫条・・・私引っ越すんだ」
「ああ、きいた」
「今日、ありがとうね
 さんってねいい人だね
 私なんかに簡単に姫条、貸してくれちゃって」
「あー、せやな、お人好しやねん」
苦笑してまどかは言う
優しいけれど、残酷
まどかにとっては、少なからずショックたったのだから
それがにとっても平気じゃない、とわかってはいても
「ね、思い出欲しいな」
「ん?」
「キスして・・・」
上目遣いの、潤んだ目
以前の自分なら、そのままキスして、抱いたかもしれない
思い出に、と
二人 夜が明けるまで身体を重ねていたかもしれない
「ごめんな、そーゆうのオレ もぉできへんねん」
少しだけ苦笑して、まどかはの目をみてそう言った
拗ねたような目が見返してくる
「どうして・・・?」
「許さへんから」
さんが?」
「いや、オレが」
がひとつ、まばたきをした
目はまっすぐにまどかを見て、それでまどかは小さくため息をついた
が許しても、オレは嫌やねん
 おまえとキスしたら、にもぉ二度とキスできへん気がする
 に触れる資格、なくす気する」
だから、と
まどかは言って、困ったように笑った
「ここに来たのはがどうしてもって言うたからや
 あいつは自分が嫌や思うてても、優しいから行ってやってくれって言うねん
 おまえの気持ちわかるから、いうて」
それは、まどかにとってはショックなことだったけれど
多分、今ひとりでいるは、それ以上に不安で一杯だろうと思う
泣き出しそうなあの顔を見て、確信した
だから、そんな優しいを裏切るようなことはできない
したくない
「ごめんな、デートだけで堪忍な」
それで、はうつむいて小さく笑った
「まいったなぁ・・・姫条変わったよ」
「せやな、おかげさんで」
「うん・・・なんか・・・前よりいい男になった・・・」
その言葉に まどかは苦笑いした
だとしたら、それは全てのおかげ
に出会えたから、自分はこんなにも変われたのだから

それから二人は買い物をして、夕方には分かれた
家路につきながら まどかは手にした可愛い包みを見る
「なんかさんに悪いことしちゃったなぁ
 あんな優しい人は、利用しちゃだめだね」
そう言って、が今日のお礼にとに買ったもの
にはちょっと似合わないような、好みの派手な花のモチーフのついた携帯ストラップ
(さて・・・帰ったらに電話するか)
本当は今すぐに会いたい気分だったけれど、さすがにそろそろ日も暮れる
今日は声だけで我慢しよう、と
アパートの階段を上った
そこに、がいた

「え・・・? ?」
「・・・あ、・・・おかえりなさい」
ドアの側にうつむいて立っていたは、まどかの姿を見ると 顔を上げて笑った
だがその目から みるみるうちに涙がこぼれて それでまどかは苦笑した
「なんや、そんなに心配なんやったら あんなこと言わんかったらええのに」
「だって・・・」
ぎゅっ、と
その震える身体を抱きしめると、冷たくて冷たくて
まどかは愛しいを、力いっぱい抱きしめた
「ちゃんと帰ってくんで、
 オレはほんまに行きたなかってんからな」
「うん・・・ごめんなさい・・・」
「いつから待ってたんや、こんな寒いのに
 はよ中入り、あったかいもん煎れたるから」
「うん・・・」
鍵をあけて、中へと入ると まどかはをストーブの前に座らせた
震えている肩が 頼り無くてたまらない
「ほんまにしょーがない奴やな、は」
熱いコーヒーを煎れて、の前に置くといい薫りが、部屋中に広がった
「ごめんね・・・」
うつむいて、そのカップを手でにぎり熱をもらいながら はようやく安心した
家では何をしていても、気になってどうしようもなかった
今、二人は何をしているんだろう、とか
想像して、どんどん気分が落ち込んでいって
まどかの言葉ばかりが頭の中をぐるぐる回って
それで、いてもたってもいられなくて、まどかの部屋まで来てしまった
どうしようもなく、恐くて
不安で、寂しくて
寒い中、まどかが帰ってくるのを待ってた
1時間以上も

「せや、これ」
の隣に座って、まどかはからのお礼を差し出した
「え?」
に渡してくれって
 あいつ喜んどったから、そのお礼やて」
思い掛けないものに、が戸惑いながら袋をあけて、中から出てきたストラップに頬を染めた
いつも達が気に入ってつけているストラップやバッジと同じ柄の、花のモチーフ
嬉しくて、は思わずまた涙をこぼした
(可愛いなぁ、もぉ・・・)
本当に、他意がないというか何というか
こんなに素直に喜んでいるに まどかは自分やの計算高さに苦笑した
「嬉しい・・・」
は、早速携帯を取り出してそのストラップをつけている
やっぱりどこか不似合いな感じのするストラップ
だけど、には本当に嬉しかった
不安で、不安で、
でもの気持ちもわかるから、と思って言った今回のこと
待っている間中 何度も何度も後悔した
断れば良かったと、何度も思った
でも今、こうやって喜んでくれたんだと思うと 嬉しくて涙が出た
後悔していたことを、むしろ自分勝手だったと悔やんだ
はほんまに可愛いな」
その髪をくしゃ、と撫でて まどかは言い そっとその唇にキスをした
「あ・・・・」
頬が火照る
見上げると、優しい目をしてまどかが笑った
「言うとくけど、には指一本触ってへんからな
 キスもしてへんし、こっちから触ったりなんかしてへんで」
その言葉は一気にの身体に熱を戻し、
どこかにまだ残っていた不安を、全部全部とかしてしまった
「姫条くん・・・っ」
ぎゅっと、その胸にすがると、やさしくだきしめてくれた
髪をなでてくれて、それから何度もキスをくれた
「けどもぉ今後はこんなん一切ナシやで
 彼氏のレンタルなんか やめたってや」
レンタルされる方の身になったってくれ、と
言うと はまどかの胸に顔を埋めたまま 何度も何度もうなずいた
「ごめんね・・・っ」
こんな想いは二度としない
不安で凍えそうになって、無限に思える時間、たった一人で待ち続けるのは辛かった
もう二度としない
二度と手放さない

震えるの身体を、優しくだきしめて
まどかは、優しい恋人に その熱が戻っていくのを感じていた
寒い冬の日、二人でいればまた熱が灯る


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