バイクデート (姫×主)


朝の6時に迎えに行くから、と
まどかからあり得ない時間に指定を受け、は風の冷たい中 待ち合わせの公園にいた
スニーカーにパンツルックで厚着をしてこい、と
変なことばかり言って、どこに行くのか何をするのかも教えてくれなかった
それで は今 ただただまどかが来るのを待つばかり

しばらくすると、ドゥルルン、という音とともに一台の赤いバイクが公園の入り口に止まった
「姫条くん・・・っ」
嬉しくなって、かけよった
あれは前に学校の前で見た、まどかのバイク
夏前から免許を取るのに講習に通い出していたけれど
彼がそれに乗っているのを見たのは初めてだった
「おはよーさん、
メットを外すと、まどかが笑った
「朝はやっぱ寒いなぁ」
そう言って の格好を見る
言った通りのスニーカーにパンツに、カーディガン
確かに、この季節ならこれで十分厚着
キョトン、と
こちらを見上げたに、まどかは苦笑した
「やっぱりなぁ、この程度やと思うたわ」
そう言って、着ていた上着を脱ぐと、の肩にかけた
「え?
 これじゃだめだった?」
「バイクは風きるから思ったより寒いで」
にっ、と笑ったまどかは バッグからもう一枚上着を引っぱり出してくると それを羽織った
「いつ免許取れたの?
 全然教えてくれなかったね」
「あはは、そりゃー安心してを乗せれるようになるまで黙っとかんとなぁ
 、乗せてとか言うやろ?」
「うん」
以外にもスピードマシーンが大好きなは、まどかがバイクの免許を取るのを楽しみにしていた
「自分だけの命ちゃうからなぁ
 を乗せるからには、それなりのテクを身につけんとな」
まどかは言い、ミラーにかけてあったもう一つのメットを差し出した
「これは専用
 ピンクやで〜可愛いやろ?」
「うんっ、ありがとうっ」
胸がドキドキする
わざわざに、と買ってきてくれたのか ピンク色のメットを受け取って はにっこりと笑った
「ほんなら乗って、メット被って」
バイクを止めて、まどかが下りる
かわりに、を後ろにのせて、ちゃんとメットを被ったのを確認した
「フルメットは重いから慣れるまできついかもなぁ
 でもハーフやったら風で息苦しゅーなるし、目開けてられへんしな」
ぽんぽん、と
まどかがのメットに手を置いた
「足はここに置いて、ふらふら動かしたらアカンで」
「うんっ」
乗り方の注意をちょっとだけ聞いて いざ出発
「しっかり捕まってんねんで
 しんどかったり何かあったりしたら ここぐいってひっぱりや」
言って、まどかは前に乗り、
の腕を自分の腹に回して、ぽん、と軽く叩いた
「どこに行くの?」
「ついてのお楽しみや
 1時間強走るから、ほんまにしんどかったら言うんやで」
「うんっ」
それで、まどかがエンジンをかけた
ぐん、とバイクが揺れる
それから、ゆっくりと走り出した
初めての、バイクデートのはじまりはじまり

まどかとを乗せて、バイクはまだ空いている道をぐんぐん走った
(すごーーい、こんな車みたいな速いのを姫条くんが運転してるなんてっ)
景色はびゅんびゅん飛んでいく
建物は、あっという間に通り過ぎ 遠くの山が近付いてくる そんな気がした
まどかの言ったとおり、出ている手が冷たくなる
上着も、まどかが貸してくれなければ 今頃震えていただろう
ぎゅっ、と
まどかにまわした腕に力を入れた
大好きな彼の背中に、そっと寄り添って は飛んでいく景色の中満たされた気持ちでいた
世界に二人きりになった気が、する

まどかが言っていた1時間はあっという間に過ぎていった
山に近付くにつれ、景色はゆるやかに流れていく
それはどれもが同じ緑や赤や黄色で、
それがずっと続いているから目に同じように映るのだと が気付いた頃 バイクは少し広目の道に出た
「もーちょいやで」
スピードをゆるめて、まどかが少しだけ振り返り怒鳴るように言う
「うんっ」
も、大きな声で返した
メット越しでは 声があまり聞こえなくて 二人は怒鳴るように会話をする
それも何だか楽しくて は一人クスクスと笑った
恐いなんて、少しも思わない
まどかの身体に、ぎゅっとしがみついた
どこからか、水音が聞こえる気がする

ずっと上るように走っていたバイクは、ざあっという風とともに止まった
「うわぁ・・・っ」
急に開けた視界
メットを外すと、気持ちいい風が頬を撫でていった
「すご・・・い」
ザワザワという水の音
絶えず吹き抜けていく風
まるで霧でもかかったような、目の前の光景
写真やテレビでも見たことのない、なんてなんて素敵な

「すごい・・・真っ赤・・・」

視界中 真っ赤
もやの中、それでも映える 紅葉の色
「きれいやろ、一番のオススメスポットやねん」
秋の朝
寒い山の上では、こんなに深紅の色に変わる紅葉たち
に見せたいと思っていた
側にはダムがあり、そこに流れる水が こんな霧をつくり出している
「幻想的ってゆーかなんてゆーかな
 ここ、オレの一番好きな場所やねん」
いつもは先輩の車やバイクで来ていた場所
気の合う仲間と騒ぎにくるとっておき
自分の力で来れるようになったら、一番に連れてこようと心に決めていた
に、この紅葉を見せたかった
「きれい・・すごい・・・」
あまりの景色に、は呆然と見つめていた
クス、とまどかが笑う
「ほんなら下りて、散歩でもしよか」
バイクから下りることも忘れていたに手を差し出す
「あっ、うん・・」
赤くなって、は慌ててバイクを下り まどかがキーを抜くのを見た
男の子の手
しっかりした、
ここまでを連れてきてくれた手
「よっしゃ、こっちや」
その手を差し出されて、迷わず握った
大好きなまどか
こんな場所で二人きりで、
本当に、まるで別世界に来てしまったみたいに思える

その場所にはほとんど人がいなくて、
静かで、空気が澄んでいた
側にはチロチロと水が流れる溝があったり、
ものすごい数の野生の花が咲いていたりした
どれも、普段の生活にはかけはなれているものたち
「ありがとう、姫条くん・・・」
嬉しくて、は隣を歩いているまどかを見上げた
まどかが連れてきてくれなかったら、こんな景色知らなかった
こんな素敵な場所、きっと来ることなんかなかった
「どういたしまして
 こんなん序の口やで
 これからまだまだ、いろんなところに二人で行くんやから」
「うん・・・」
頬が染まったに、まどかが笑う
「紅葉とええ勝負やな」
「・・・もぉっ」
心地よい笑い声
照れくさくて、はまどかの手を握って顔をそらした
その視線の先に、小さなほこらをみつけた

「なんやろなー、神様?」
「あっ、縁結びだ」
それは本当にちいさなほこら
おそなえものに、木の実がいくつかおいてあるだけの あまり手入れもされていないもの
「縁結び?」
「ほら、ここに書いてある」
消えかけた木の札を指してがいい、それに目を凝らしてまどかがふーん、とつぶやいた
「ほんならお願いごとしていくか?」
「うんっ」
無邪気な、に自然と笑みがこぼれる
神様なんかに頼らなくても、自分とは大丈夫
そう思っているけれど、どうせならご利益があった方がいい
神様だなんて味方がいた方が心強い
何よりここは、初バイクデートの記念の場所になるのだから
「ほんならちょっと待てよ〜」
肩からかけていたバックを、ごそごそとして まどかはラップにくるんだおにぎりをひとつ取り出した
「それ・・・」
「弁当作ってきてん〜
 ってもおにぎり握ったたけやけどな
 朝早いから腹へるやろ? けどここらへん店なんかないしな」
にかっと、
笑ってまどかは、ラップをはずすと そのお供え用の皿に一つ置いた
「姫条まどか特製おにぎりや、ご利益あるで〜」
「ふふっ」
二人して、手を合わせてお祈りする
神様、神様
(ずっと二人でいられますように・・・)
ずっとずっと、といられますように
ずっとすっとずっと、こんな風にが自分の隣で笑っていますように

秋の朝、誰もいないとっておきの場所
大好きな人と、世界に二人きり
手を合わせて、祈る言葉は二人とも同じ
声に出さなくても、きっと互いに互いを想う


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