海へいこう-中編- (姫×主)


その夜、やっぱり同じ宿だった珠美達バスケ部の面々を誘って、皆は花火を楽しんだ
「すごい偶然だったね〜
 ちゃんの水着 すっごくセクシーだったよ〜」
「うわーん、言わないで〜
 すごく恥ずかしいんだから〜」
「明日は私達も海で遊べるんだ〜
 合宿明日で終わりだから」
「そーなんだ、じゃあ一緒に遊べるね」
「うん〜」
パチパチと花火をしながら、はチラ、とまどかと和馬を見た
庭のすみの方で、先程から二人して何か話している
何を話しているのか ここからではわからなかったけれど、
二人の表情はを不安にさせた
どこか含みのある顔をして、二人ともいつになく真剣な顔をして
見遣って一つため息をつくと、珠美が心配そうに顔を覗き込んだ
「どうしたの?」
「あ、ううん、なんでもない」
「ねぇ、ちゃん
 今日私の部屋に来ない?
 3年のマネージャー一人だから 私一人部屋なんだぁ
 ちゃん、あの先輩達と一緒の部屋なんでしょ〜?
 気、つかわない?」
珠美の言葉に内心苦笑しつつ、
実はまどかと同じ部屋なんだとは、言いにくく
曖昧に返事をして、はふるふると頭を振った
まどかと和馬のことは心配だけれど、そんなこと考えても仕方がない、と
なんでもないというまどかの言葉を信じようと
それでは大きく息を吐いた

結局、花火の後、珠美の部屋へ行ってもいいかとまどかに聞くと、まどかは笑って答えた
「ええよ、ええよ
 紺野サンら明日で帰るんやろ
 今日はゆっくり女同士のつもる話ちゅーやつ、しときー」
オレは先輩と飲むから気にせんでええ、と
それで はどこかほっとした気持ちで珠美の部屋へと向かった
まどかと二人きりで、夜を過ごすということ
変な意味などないと、思っていても分かっていても
やはり気にしてしまうのは、まどかはきっとそういうことを今までつきあってきた女の子としてきただろうと思うから
自分は初めてでも、まどかはそうではないと知っているから
そして、きっと
そういうことを、まどかは自分には我慢してくれているんだとわかっているから
未だにキス一つで真っ赤になってどきどきが止まらないを、まどかは傷つけないよう に合わせてくれているんだとわかっているから
だから、

「なんかびっくりしちゃったな、ちゃんと姫条くん 旅行なんてうらやましいなぁ」
布団の中で、珠美がため息をつきながら言い、
その言葉には少しだけ気が重くなった
「たまちゃんも、合宿で一緒じゃない」
「うん、そうなんだけど〜」
珠美は鈴鹿が好きだから、二人にはぜひともくっついてもらいたい
ずっとそう思っていたから、このあいだの和馬の言葉は衝撃以外の何ものでもなかった
「俺、お前のこと諦めないから」
それは、告白
思いもかけなかった、和馬の気持ち
「俺、おまえが好きだから」
真剣な顔で、言った言葉
「だから姫条なんかには、渡さない」
それから、まどかと和馬の様子がおかしい
ため息をつくと、珠美が笑った
ちゃん、幸せ者のくせにさっきからため息ばっかりだよ〜」
それで、も笑った
どうして、うまくいかないんだろう
恋愛って、難しいとつくづく思う

朝方、眠りが浅かったは、目が覚めて部屋を出た
(ちょっと散歩してみようかな)
波の音が聞こえたから、そういう気分になって そっと宿を抜け出した
砂浜はうっすらと明るくなりかけていて、まだ涼しい風が吹いている
「気持ちいいなっ」
夏なのに、こんなにすがすがしい風が吹いていく
嬉しくなって、砂浜まで駆け出したら 側の階段で誰かがくすくす笑った
「え?」
「何はしゃいでんだよ、
「鈴鹿くん・・・っ」
自主トレでもしていたのだろうか
和馬がそこに座っていた
「だ、だって気持ちよかったから・・・」
真っ赤になったに、鈴鹿が笑う
「お前って、可愛いのな」
「え・・・」
照れたように笑って、和馬は立ち上がり それから大きくのびをした
「俺、前に言っただろ
 おまえのこと、好きだって
 あれ、本気だから」
そして、まっすぐにこちらを見て、そう言った
「あ・・・あの・・・」
「別に今どうこうしようなんて思ってねーよ
 ただ、分かっておいてほしいと思っただけ
 俺は姫条がいいかげんな奴だって知ってるから、おまえを渡しておきたくない」
それだけ、と
和馬は苦笑して、それからまた大きくのびをした
「今日の昼でオレら合宿上がりだから、それまで遊ぼうぜ
 いいだろ?」
「・・・うん」
戸惑いと、不安に似た感情が心を支配しかけたけれど、
和馬の笑った顔に、それを必死に押し殺した
和馬が何といっても、自分はまどかが好きだから、と
思っていても、不安になる
どうしていいのかわからなくて、は小さくため息をついた

その日の朝、昼になってもまどか達男性陣は起きてこなかった
「二日酔いだって、あのバカ達
 放っておいてバスケ部君達と遊びにでましょ」
女性陣の容赦のない一言に、男性陣はおいてけぼりをくらい、
水着に着替えて遊ぶ準備万端のバスケ部の面々と合流した
「向こうに洞くつがあるんだって
 探検に行こう、ボート借りたから」
3つのボートに分かれて乗り、東の海岸にある小さな洞くつまで漕いでいく
「ちょっと恐いかも・・・」
つぶやいたに、一緒に乗った和馬が笑った
「怖がりすぎだぜ、は」
ボートは進む
暗い、小さな洞くつにむけて

洞くつの中は湿っていて、暗かった
「思ったよりでかいなぁ」
「波に削られてできたのかなぁ?」
中を歩きながら話すと、声が反響して気味がわるい
「そろそろ戻ろうよ・・・」
飽きて、戻りはじめた他のボートを見ながらが言い、
奥の方で物珍しそうに見ていた和馬がを手招きした
「ちょっとここ見てみろよ
 カニがいる、カニが」
「え? ほんと?」
奥へと歩いていく途中、ぐらっと足下が揺れた
「きゃあっ」
「どした? ・・・」
「いま、ここ揺れて・・・」
驚いて座り込んだの元に和馬が心配気に寄ってきた
途端、またグラリと足下が揺れ
「きゃあっ」
それは二人の体重に負けて勢いよく崩れ出した
ズザザーーーーーーっと細かい土砂を上げながら 2人は下へと落ちてゆく
そのあとには、細かい砂がつくり出す煙と、大きくあいた穴だけが残った

穴は意外に深く、和馬が何度やっても登ることができなかった
は無傷だったものの、二人が穴に落ちたことに誰も気付いてくれず
みんな帰ってしまった後では どうやってここから出ていいのかわからない
「ちっくしょう・・・どーすりゃいいんだ」
遠くで波の音が聞こえて、ぞく、と背筋が寒くなった
恐い
こんな暗い場所で、どうすることもできず、波の音だけが無気味に響く
潮が満ちたら ここにも水がくるんじゃないだろうか
恐ろしくて、口に出すこともできず、は必死に考えないようにした
大丈夫
きっと、まどかが来てくれる、と
心の中でまどかを呼びながら、必死に震えるのを止めようとした
まどかが側にいれば、こんなにも こんなにも不安になんかならないだろうに
まどかなら、きっと大丈夫だと笑っていってくれるのに
(姫条くん・・・)
まどかが起きるまで、宿で待っていればよかった
どうして、まどかがいないのにこんなことろに来てしまったんだろう
後悔は、激しくの心を締め付けた

カタカタと、僅かに震えるを和馬はどうしようもなく ぎゅっとその身体を抱きしめた
「え・・・す、鈴鹿くん・・・っ」
驚いて、は身を堅くし、その腕から逃れるように慌てて身体を放した
「だ、大丈夫よ、私・・・」
「そんな震えてるくせに何言ってんだよ」
「だ、大丈夫
 すぐに姫条くんが来てくれるよ、だから・・・」
だから平気、と
言った途端、今度はもっと強い力で抱きしめられた
驚いて、声がうまく出ない
身体が硬直したようになる
知らない腕の感触に、恐くなる
まどか以外の人に、こんな風にされるのははじめてで、どうしていいのかわからない
「鈴鹿くん・・・」
「こんな時にいない奴のことなんか口にすんなよ」
その力は強くて、痛くて
まどかの安心する腕とは逆に、をとても不安にさせた
恐いと感じさせた
「鈴鹿くん・・・」
声が自然と震えた
それが、和馬の気持ちを逆なでしたのか 和馬は今度はの身体を 側の岩におしつけるようにした
、あいつじゃないとダメなのかよ」
朝の言葉とは、比べようもないくらいに切羽詰まったような声
その目は真剣で、まっすぐで、
だが、どこか怒っているような色は、ますますを怖がらせる
「今は俺が側にいるのに
 俺じゃダメなのかよ」
まっすぐに見下ろしてくる目
目の前の和馬が知らない人のようで、恐かった
強い力は腕が痛い程で、
岩に押し付けられた背中も、痛かった
遠くで波の音がして、大好きな人は側にいなくて、和馬の声はイライラしていて
「鈴鹿くん・・・・」
は、どうしようもなく ただ怯えたように和馬を見た
悲しくなる
まどかが大好きな自分
和馬には、珠美とくっついてもらいたいとずっと思っていた
友達として、いつもバスケに頑張っている和馬を好きだったけれど、それはまどかに抱くものとはまた別の感情
まどかは特別だから、彼を想うような気持ちには 他の誰にもなれない
今もこんなに、まどかが来てくれると信じてるから
「なんだよ・・・あいつのどこが、そんなにいいんだよ」
強引に、腕を掴まれた
痛みに驚いて顔を上げた途端 まるで噛み付くようなキスをされて それで頭が真っ白になった
本気で、何が起こったのかよくわからなかった

「いやっ、やめて・・・っ」

唇を乱暴に塞がれて、舌を無理矢理に割り込まれて の全身を嫌悪に似た感情が駆け抜けていった
「やめて・・・」
ぼろぼろと涙がこぼれて、力いっぱい突き放した和馬を必死で睨み付けた
こんなことをする人じゃないのに
どうして、と
胸が痛くて、涙が止まらなかった
唇が熱い
腕が痛い
まどか以外の人に、触れられた
その嫌悪が、身体中を支配して震えた
ひどい気分だった
「ごめん・・・」
悔しそうな和馬の顔
今にも泣き出しそうな顔
大好きな友達に、そんな顔をさせている自分が辛かった
どうして、こうなってしまったんだろう
どうして、うまくいかないんだろう
「ごめん・・・鈴鹿くん・・・
 でも私、姫条くん以外に、こんな風に想える人いない・・・」
私なんか好きにならないで、と
最後の言葉は消えそうだった
「でも俺は・・・」
でも、それでも、と
和馬は何か言いたげに顔を歪ませた
不器用な和馬には、想いをうまく言葉にできない
それでも必死に、震えるに言葉を伝えようとした
だがそれは、大きく響いた波の音でかき消された
ーーーーっ」
遠くで、まどかの声がする
聞き間違えようもない、あの声
自分の名を呼んでいる
途端に、冷たくなってしまった心に、すっと温かさが戻った気がした
「姫条くんっ」
立ち上がって、呼んだ
大好きな人の名前
今すぐ抱きしめてほしい人の名前
?!
 うわっ、なんやこの穴っ」
「うわー、崩れたのか?
 おまえらよく無事だったなー」
頭上の穴から知った顔が3つ覗いて、まどかはすぐに下へと下りてきてくれた
その間に先輩達が、持ってきていた縄梯子を穴の中にたらしてくれる
「姫条くんっ」
「大丈夫か? 怪我してへんか?
 なんや心配したで、起きたらおらんし、みんなが洞くつから戻らんゆーてるしなぁ」
必死にまどかにだきついたに、いつもの顔でいつものように優しく頬に触れられて
はまたぼろぼろと涙をこぼした
「もぉ大丈夫やって、泣かんでええ、
強い腕が震える身体を抱きしめてくれる
まどかの腕の中が一番いい
ここが、一番安心する
波の音が無気味にしても、和馬とあんなことがあっても
側にまどかがいてくれたら、不安も恐怖も全部消える
それくらいに、まどかを想っている
まどかだけを想っている
「姫条くん・・・」
(放さないで・・・)
それは言葉にはできなかったけれど、
「大丈夫やで、
降ってきた優しい声に、はぎゅっと目を閉じた
言わなくても伝わったのかもしれない
何よりも求める、この想いが
誰よりも想っている、その人へ


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