夏の約束 (姫×主)


去年の約束、覚えてる?
「来年の花火大会の予約、してもええ?」
そう言ってくれたあの夜から、もう1年が経つんだね

「覚えてんで、その日はバイトやけどちゃんと待ち合わせまでには終わるシフトやから」
「ほんと? 嬉しいな
 私ね、浴衣買ったの、朝顔模様やつ」
いつもの電話で、いつもみたいに話をして、
もう今週末にせまった花火大会を想う
一年前、浴衣で花火大会ってのもいいな、と
言ってくれたまどかのために、張り切って新調した紺色の朝顔模様の浴衣
もしかして あの約束をまどかは忘れてしまっていて、
バイトが忙しいから、と断られるかもしれないと思いもしたけれど
それでも、一目みて気に入ってしまったから ついつい買ってしまった
まどかのための、新しい浴衣

花火大会の日、約束の時間は7時
花火の打ち上げが8時からだから、それまで出店でも見ようと1時間前の指定
1時間程かけて、髪を結い上げたり浴衣を着たりして は約束の場所へと向かい、
5分前には まどかの指定した柳の木の下についた
(なんか、雨降りそうだなぁ・・・)
雨がふったらせっかくの花火大会が中止になってしまう
終わるまでもてばいいけど、と
はどんよりと重い空を見上げた
おかげで いつもの夜に比べたら涼しいけれど、それでも
こうして曇っている空よりは、星が輝く空の方が好き
祈るような気持ちで、はしばらく空を見上げていた

目の前を何人ものカップルが通っていく
知った顔も、通りすぎる
は、それらを見ながらため息をついた
7時30分
約束の時間から30分も経ってしまった
バイトが長引いているのだろう、と想像はつく
きっと連絡も入れられないくらいに忙しいんだろうと思う
たけど、やはり不安が広がる
何か来る途中で事故にあったんじゃないだろうか、とか
しても仕方のない心配で、胸が苦しくなる
(ダメだなぁ・・・私)
大丈夫、と
深呼吸してみる
待つのは嫌いじゃないし、まどかのバイトは本当に忙しそうだから、遅れたくらいでは怒ったりはしない
ただ、心配したり、不安になったりするのが嫌でため息が出る
早く来ないかな、と
つぶやいた時、ぽつ、と最初の雨を頬に感じた

「・・・どーしよぅ・・・」
雨は霧のようで、空気をしめらせている程度のものだった
それでも、長くあたっていると髪も濡れて浴衣も濡れてしまう
どこか屋根のある場所に移動しようか、と
思ったけれど、側にはそういう場所もない
(困ったなぁ・・・)
先程から何回かかけているまどかの携帯をもう一度鳴らしてみたが、何度かけても圏外だった
(困ったな・・・)
あんまり遠くには移動したくない
まどかと入れ違いになって、もうすぐ始まる花火が見れなくなってしまうのは嫌だった
「仕方ない・・・ここで待とう・・・」
少しなら、濡れても仕方ない、と
覚悟を決めて、空を見上げた
相変わらず曇っている空から、細かい霧が降ってくる

10分後、約束の場所にまどかが来た
っ、ほんまごめんっ」
来るなり大袈裟に頭を下げたまどかに、は苦笑する
「いいよぉ、バイト忙しかったんでしょ?」
8時15分前
一緒に見たかった花火には間に合ったから、と
笑ったをまどかは思わず抱きしめた
今日という日
一年前から約束していた日
浴衣を買ったのだ、というが可愛くて可愛くて
バイトも夕方までで終わるようにと店長に頼み込み、
自分も浴衣を着ていこうと張り切っていた
それが、当日になってこれ
工場からの不良部品の回収作業が思ったよりも長引いて、
極め付けに、客への謝罪や何やらでどうしてもどうしても抜けられなかった
連絡しようにも、今日という日に限って、携帯は家に置き忘れ
どうしようもなく、なんとか隙を見て抜けることができたのが7時30分
待ち合わせの場所へと向かう途中で雨が降ってきて、
がどこかで雨宿りをしていることを祈りつつ走った
走って、途中で、可愛い雑貨屋が目に止まった
2分だけ、と
店じまいする店員に無理をいい、髪飾りをひとつ手に取った
もう30分以上待たせてしまっている、恋人のために

「ごめんな、雨ん中待たせて・・・」
しっとりと濡れてしまったの前髪をかきあげるようにして、まどかはポケットから 先程かった髪飾りを出した
「これな、お詫びってゆーか・・・」
なんてゆーか、と
苦笑しながら、その髪にス・・・とさした
「え・・・?
 くれるの・・・?」
ん、と
見上げた恋人に微笑して、まどかは前髪をよけたせいで見えた額に、そっと唇を寄せた
触れると、雨のせいで冷たくて 少し心が痛んだ
の浴衣、朝顔やゆーてたから」
青紫色の、朝顔をかたどった可愛い髪飾り
きっと似合うだろうと思った
雨の中、こんなに待たせてしまっ た自分に文句の一つも言わないへの、溢れるほどの想いを胸に まどかはもう一度口付けを落とした
霧の雨を含んでしっとりと濡れた その唇に

それから雨はすっかり上がり、予定より15分遅れて 花火大会が始まった
「おおっ、さすがに迫力あんなー」
「綺麗・・・」
お互いに手を繋いで、大輪の華咲く空を見上げる
「来年も、こよーな」
「うん」
なにげない会話
でも、それは1年後も二人一緒にいるという約束
「よし、来年はオレも浴衣にする」
「うん、姫条くの浴衣見てみたいなぁ」
格好いいだろうな、と
付け足したに、まどかはらしくもなく照れたように笑った
キョトン、と
そんなまどかを見上げるに、まどかは小さく微笑する
(あかん、こいつ自分の言葉の威力知らんともの言うとる・・・)
格好いいだなんて、に言われた日には舞い上がりそうに嬉しいのに
多分 本人はそんなことには気づいてもおらず
嬉しそうに 新しく空に咲いた華に見入っている
「自分みたいなんを、罪な女ゆーねんで」
「え?」
つぶやいた言葉に、こちらを見上げたの頬に手を触れた
一瞬で奪った唇と、二人の繋がった横顔に 見のがした花火の影が散る
「き・・・姫条くん・・・」
真っ赤になって、うつむいたに まどかはクス、と笑った
「大丈夫やって、
 みんな空ばっか見て オレらなんか見てへんて」
心地よい夜
心に残る花火
来年も、そのまた来年も、自分の側にはがいて
二人でこの華を見る
それは、二人に交わされた甘い夏の約束


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