側面 (姫×主)


とまどかがつきあいはじめてから一週間ほどたったある日
クラスメイトの女の子がまどかに言った

「ねぇ、なんでさんなの?
 別に私とだって、あんくらい仲よかったよね」

誰もいない教室で
はクラブで一緒に帰れないからと、一人で帰ろうと鞄を持って立ち上がったところだった
「は?」
「だから、あんたって昔は誰とでもつきあってたし、すぐ彼女変えてたじゃん?
 なのにどうして今はさんだけなの?」
まじまじと相手の顔を見下ろすと、彼女はいつになく真剣な顔で、
それでまどかは持っていた鞄を机の上に置いた
「別に私とでも良かったじゃない?
 さんとはクラスも違ったのに、いつのまにって感じだったよ
 そりゃーあの子可愛いけど・・・ちょっと真面目っぽくない?
 私との方が断然話だって合うし、頭のレベルだって似たようなものだと思うんだけど」
彼女はちょっと色っぽい雰囲気のある子で、最近バイトも一緒になった
2年から同じクラスで、興味あるものとか好きなものとかが似てたからよく話をした
2年の最初の頃はよくデートもした
それで、まどかの中では特別に仲のいい女の子という位置にいる
あくまで、友達として
「あー、頭の出来のこと言われるときっついなぁ
 たしかにオレはあほやからなぁ」
にかっと笑って、まどかは相手の顔を見た
懐かしい感じがする
女の子とのこういうやりとり
たしかに昔の自分なら、こんなに仲良くなった子なら速効でつきあっていた
「私、姫条のこと好きだよ
 ・・・・わかってくれてると思ってたけど」
上目づかいに見つめられ、まどかは苦笑する
わかっていた
女の子のそういう態度にはピン、とくる
気付いて、好みだったら「つきあおうか」なんて言って恋人同志になる
それが今までのパターンだったし、それで十分だった
今までは
「うーん、気持ちは嬉しいんやけどな
 オレら今つきあったばっかりやで」
盗ろうとするには早すぎるんじゃないか、と
軽口を言うと、彼女はいたずらっぽく笑った
「だって、あんな子どうせ姫条すぐ飽きるでしょ?
 別に二股とかでもいいんだけど、私は」
魅力的な女の子
活発そうな目と、色気のある口元と、まどか好みの身体
こういう積極的なところも大好きで、
自分に似た、いいかげんな性格も気が合うと感じて不快じゃない
さんがカタイ人だから前みたいに遊ばないわけ?
 姫条がそんなだったらしらけるよぉ?
 仲よかったのに急に遊ばなくなったらつまんないじゃん?」
不服そうに言う様子も、可愛いなんて思うし 言っていることも不愉快ではない
でも、まどかは少しだけ苦笑した
がカタイから遊ばへんとかちゃうねん
 オレがしかいらんって思ったから、遊ばんくなってん」
下心のある相手とは、という意味でと
つけ足してまどかは笑った
「友達とやったら遊んでるで?
 別に以外誰とも遊ばんって言ってるわけちゃうしな」
「・・・ようするに、さん以外とつきあう気ないってこと?」
「そう、そーゆうこと」
友達やったら大歓迎やけどな、と
その言葉に彼女は小さくため息をついた
「あのさ・・・さんのどこがいいの?
 なんか姫条、変わったよね・・・」
不服そうな顔
に会う前なら、二つ返事でオーケーだったんだけれど
「んー、難しいなぁ・・・
 ほんなら何で、おまえはオレのこと好きやねん?
 どこが好きやねん? 難しいやろ?」
の好きなところ
たくさんある
それから、それはもう部分ではなくて 色んな面をひっくるめて全て、と
そう言える
不満はあっても、それもの一部と思う
それもまた可愛いと思う
それが、今の自分だと自覚している
ようするに、に惚れ込んでいるということ
そういう状態が、と接しているうちにどんどん重症になっていっているということ
「どこって・・・そりゃ姫条は格好いいし、目立つし、背も高いし・・・
 ばかだけど話合うし優しいし、守ってくれるって感じがするし頼れるし
 センスいいし、何でもできるとことか見てたらやっぱり惚れるよ」
告白に慣れているのか、
いたずらっぽい目で見られて、まどかは少しだけ相手を可愛いと思った
男を誘うのに慣れた、女の子
恋愛を楽しめる、まさに自分好みの子ではあるけれど
「うーん、聞いてたらものすごいエエ男やん、オレって
 けど実際はそんなんちゃうねんでー」
よく言い過ぎや、と
笑った顔に彼女は頬をそめてまどかを見つめた
「格好いいよ、姫条は
 だからモテてるんでしょ?」
「そんなんオレの一部やん」
一度だけ時計をチラと見て
それからまどかはもう一度鞄を手にした
に聞いてみーや
 多分そんな風には言わへんて」
そうして、少しだけ笑った
「んじゃまたバイトでな」

クラブの後、廊下ではクラスメイトの女の子に会った
「あれ? どうしたの・・・?」
「聞きたいことがあって」
含みのある笑みに戸惑いながら は相手の顔を見た
「姫条のどこが好きなのか聞きたくて
 二人ってつきあってるんだよね?」
「え・・・・・あ・・、うん・・・」
途端に頬を染めてはうつむき、ドキドキしだした胸を押さえようと必死になった
まどかの名前が出るたびにドキドキするのをなんとかしなくては、と思いつつ
相手の質問に答えるべく、まどかのことを想った
好きなところ
まどかの、好きなところ
「え・・・と」
最初はルックスだったっけ
よく日焼けした肌に、よく笑う顔
活発に動き回ってるのがすごく印象的で心魅かれた
友達になってからは優しいところが好きだと感じた
だんだん二人でいる時間か長くなって、色んなところが見えてきたら、意外な面に魅力を感じた
たとえば努力家だったり、
たとえば人によく気を使っていたり
たとえば呆れる程に子供っぽかったり
「不器用な・・・ところかな・・・」
自分の気持ちをうまく表現できなくて、軽口で流してしまうところとか
苦しい想いを誰にも言わずに、一人で意地はってたりするところとか
知るたびに好きだと感じて
知るたびに、愛しいとおもうようになった
そんな風にまどかも、悩んだり苦しんだりしていると思うと、それは彼の存在をいっそう近くに感じさせたし、
自分を必要としてもらえていると感じることができた
こんな自分でも、彼に何かしてあげられるんじゃないかと思うことができるから
「ちょっと弱いとことか・・・」
急に照れくさくなって、また頬をそめては少しだけ笑った
「あんな何でもできる奴捕まえて不器用って・・・?」
「え? あ・・・うん、そーだね」
相手の、少し呆れたような口調にはちょっとだけ苦笑した
「格好いいとか、思わないの?
 あいつ目立ってるし、顔だって格好いいし、頭は悪いけどスポーツ万能だし
 頼りになるじゃん? そうは思わない?」
目が悪いんじやないの、と
言われては少しだけ、胸が痛んだ
でもそれが、まどかの全てじゃないと、わかってあげられる人は少ないんだと
「私は姫条のこと格好いいから好きなんだけどな」
「うんでも・・・それって姫条くんの一部だよね・・・」
その言葉に相手がきつい顔をした
「そんなの・・・」
うつむいて、それからその子は小さな声でつぶやいた
「私には見せてくれないもん
 そんな弱いとことか・・・見せてくれない
 それって所詮、私はその程度の相手ってことじゃない・・・」
それは独り言か、
彼女はの顔を見て、少しだけ笑った
「かなわないなぁ・・・・私なんか所詮は友達止まりかぁ」

その日、バイトが終わった後、まどかはまたあの子に会った
「お? 何してんねん?」
「待ってたの」
家の側に立っていた彼女を不思議そうに見つめると、彼女は大きくため息をついてまどかを見上げた
「なんか私じゃかなわなさそうだから、私は友達で我慢しといてあげるわ」
「は? 何が?」
さん
 あの子勉強ができるとかじゃなくて・・・なんか本当に頭いいみたいね
 姫条と同じこと言うからびっくりした
 あの子にはかなわないかも」
その言葉にああ、と
まどかはにまっと笑った
オレのどこが好きっていうとった?」
にやけた顔をしたまどかを睨み付けて彼女は意地悪く言う
「悔しいから教えない」
それで不満ぶーぶーのまどかを置いて彼女は帰ってゆき、まどかはその後ろ姿を見ながら彼女の言葉を思い返していた

「姫条と同じこと言うんだもん」

それは、がやはり自分の全てを見てくれているということ
格好つけた表面だけでなく、不様な面も見てくれているということ
そしてそれでも、側にいてくれるということ
(ま、あんだけ格好悪いとこ見せたらなぁ・・・)
思い返して、まどかは少しだけ笑った
特別な相手にはありのままの自分でいたいから、の前では飾らない自分でいられる
それを許してくれたのは、が最初だった
だからまどかは、しかいらない


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