恋人の条件 (姫×主)


朝、まどかは30分以上も の家の前につっ立っていた
その顔にはある種の決意がにじみ出ている

「え? 姫条くん・・・・?」
8時頃、家から出てきたは外にまどかがいるのに驚いて声を上げた
「おはようさん、
「おはよう・・・どうしたの?」
驚いた顔のまま、はまどかを見上げた
昨日のことなんか、少しも気にしていなさそうな表情に まどかは内心苦笑する
鈍いのか、それとも気を使ってくれているのか
「今日は仕切り直しに来てん」
にかっと笑ったが、実は今までにない程に緊張している
「昨日は不様なとこ、見せたから」
「え?」
昨日、自分でも信じられないくらいに弱気になっていた自分
まるで愚痴みたいに言ったのを、ちゃんと聞いてくれた
そうして、その優しい腕にだきしめてくれた
思わず、言ってしまった
「すっと側にいてほしい」

は、黙ってまどかを見上げていた
「昨日言ったこと、本気やねん」
告白は、いままで何度も経験した
されるのも、するのも慣れたものだった
なのに、言葉はスラスラと出てこなかった
「オレ、が好きやで
 放したくないし、ずっと側にいてほしい」
今までの、告白とはわけが違う
こんなに想ったのは初めてだし
こんなに、切実に求めるのも初めてだ
は真っ赤になって、ただまどかを見上げ
それから小さく「うん」と言った
「私も・・・・・・・・・・好きよ・・・」
その言葉は、まどかを安心させたし、
自分で思った以上に舞い上がらせた
「ほんまに? ホンマのホンマに?!!!
 じゃあ、オレ はオレの恋人やって言いふらすでっ」
「えぇ?!!」
それは恥ずかしい、と
うつむいたを力いっぱい抱きしめた
「よかった、オレだけがこんなに好きなんかと思っててん」
愛しい愛しい人
あんな醜態を見せたにも関わらず、それさえも受け入れてくれて
好きだといった言葉に、応えてくれた人
「よかった、オレふられるかもとか思っててん」
早速、手をつないだ
真っ赤になったまま、はまどかにされるがままになっており
それでまどかは破顔した
「絶対離さへんで、もぅ遅いで」
「うん・・・・・・・・・」
そうして恋人となっての初日
手を繋いで仲良く登校した二人の姿に 噂は一気に広まった
まどかが浮かれて吹聴してまわったのもその原因だったが

それから1週間程して、まどかはまた進路懇談を受けた
「君の希望進路だが・・・」
教室で向かい合って、進路希望の紙を見ながら氷室は小さく溜め息をついた
「親御さんの言う通りに進学する気はないのか」
「あらへん」
進路希望の紙に書かれた文字は、大きくて堂々としていた
「これは・・・就職希望か?」
「いや、バイトみたいなもんやけど
 知り合いの紹介で卒業したら雇ってもらう話ついてんねん」
書かれてあるのは小さな雑誌社の社名
「話がついている?」
「せや、一昨日ちゃんと話つけてきたんやから」
「・・・・・・」
ぽかん、とこちらを見つめた氷室にまどかはにっと笑った
「親の言う道は歩かへんで
 オレはオレのやりたいことをやるんや」
三者面談の時よりも、余裕のあるその表情に 氷室は怪訝そうにまどかの字で書かれた紙に目を落とした
「この会社が君の夢なのか」
「いや、ここで勉強さしてもらうんや
 オレの夢は自分の会社を建てることや
 音楽、絵画、芸能、レジャー、旅行、映画、演劇その他の、人の心の栄養になる分野全てを無節操に取り扱う雑誌、作りたいんや
 そんで、そういう方面で活動してる人達を支援できる会社にするんや」
豪語したそのまどかの目はどこか不敵で、
自信たっぷりなその様子に、氷室は小さく溜め息をついた
「夢を持つのはおおいに結構
 進路に関しても・・・決めるのは君だ
 だが・・・、学生の本分がおろそかになっては困る」
チラ、と厳しい目がまどかを見た
「本分て勉強か?
 そんなんとりあえず卒業できたらいいねん」
「君のそういう態度が、悪影響をおよぼしては困る」
コホン、と咳払いした氷室の態度に まどかは怪訝そうに相手を見た
「悪影響? 誰にや?
 別にオレが点悪くたって誰に迷惑かけるわけでもなし」
無言の氷室の視線がぶつかった
「その・・・・・・君たちはつきあっているそうだな・・・」
コホン、と
彼特有の、その咳払いに、ようやくまどかは理解した
ああ、そうか
学年トップのへの、悪影響を心配しているのか
自分のこういう態度が、一流大学受験をひかえたに影響しては困る、と
そう言っているのか

「失敬な話やな」
冷たい目でまどかは氷室を見遣った
じわじわと怒りに似た感情が沸き上がってくる
本当に失敬な話だ
ようするに、自分はには相応しくないと、そう言いたいのか
「悪影響なんかあらへん
 二度と そんなこと言わせへんからな」
ガタン、と席を立ってまどかは言い放った
「オレとのこと、他人に文句なんか言わせへん」
そうして、教室を出ていった

それから1ヶ月後の試験で、まどかは数学で見事90点という高得点をたたき出した
毎日毎日、勉強したかいがあったものだと
我ながら、この短期間でよくやったものだと満足しながら まどかは答案を返した氷室にいった
「これで文句はないやろ」

放課後、試験の結果がはり出されているのを見ながら まどかは苦笑した
悪影響どころか、今回もは学年1位
半ば呆れながら見ていると、職員室からが出てきた
「あれ、姫条くん」
「なんや、呼び出しか?」
「うん〜姫条くんは何してたの?」
「テスト結果見てた」
「あっ、姫条くん 数学がすごかったやつだ〜」
嬉しそうに笑ったに、まどかはおどけてピラピラと手を振った
「なんやカンニングしようとしたら氷室に見つかってやな〜
 その後どうしようもなくて勘で解いたらあの結果や
 なんやオレ、実はすごいんかもしれへんわ」
その言葉には笑う
「そんなんで数学が解ける〜?」
「それが解けたんやなっ」
神様は見捨ててへんわ、と
笑いながらまどかはの手をとった
相応しくないなどとは言わせない
二人の間には、二人にしかわからない繋がりがあって
はただ笑ってるだけのいままでの恋人のような女の子じゃなく、
あんなにも落ち込んで格好悪かったまとがを、それごと好きだと言ってくれた人
だからこそ、離れたくないと言ってしまった
他にはかわりなど、できないから
相応しくないなどと言う輩は、納得させるまで
数学だけで足りなければ、英語でも物理でも
は相変わらず凄いなぁ・・・」
「え? えへへ ちょっと気合いはいっちゃって」
帰り道、照れたように笑ったを見下ろした
「だって、先生が男の子とつきあってる暇なんかないだろうって言うんだもん
 そんなの・・・関係ないって言ってるのに」
長く伸びた髪が、さらっと揺れた
「だから、つきあってても平気だって証明しなくちゃって思って」
猛勉強しちゃった、と
照れたように笑ったが愛しかった
ぎゅっ、と
衝動のままに抱きしめた
同じように、想って
同じように行動した二人
少しだけ可笑しくて まどかは一人笑った
お互いのために、自分を高められる
多分それが、恋人の条件


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