側にいてほしい人 (姫×主)


その日は朝からイライラしていた
でがけに父親から電話が入って、今日学校に来るといってきた
「はぁ?! 何言ってんねん」
「お前の進路について担任の先生にお話がある」
どれだけ、口出しするなと言っても
何度来るなと言っても、無駄だった
電話のせいですっかり遅刻
一限目が運悪く数学だったから余計に、まどかの機嫌は悪くなる一方だった
こんな日は、を見ても心が弾まない

天気のいい昼休みに、珍しく教室でぼんやりしていたまどかにが不思議そうに声をかけた
「姫条くん、具合でも悪いの?」
「え・・・・・・・?」
心配そうな顔が、こちらを見下ろしている
ああ、こんなに近くでを見たのは今日はじめてかもしれない
いつもはまっ先にのところへいって、昨日みたテレビだとか新しい遊び場の話だとかをするんだけれど
「どうかした? 元気ないね・・・」
優しい声で、気遣ってくれていて、
の態度は、いつものまどかにとっては嬉しいはずだった
だけど、今日はそんなこと感じる余裕がない
あいつが来る
それだけが、朝から心を支配してまどかを重苦しい気分で一杯にさせていた
「なんでもあらへん、放っといてくれへんか」
言った後、しまったと思う程に その声は冷たくて まどかは慌てて顔を上げた
今のはナシだ
イライラしてにまで怒った風に言ってしまった
訂正しようとしてを見たら、
「あ・・・ごめんね」
にこっと、
いつもみたいに優しく笑って、は席から離れていった
追い掛ける言葉は、出なかった

その日の放課後、久しぶりに見る父親の姿に まどかは軽い吐き気を覚えた
職員室の側の特別教室で、氷室と3人の進路面談
何のために人の進路に口を出そうというのか
人の気を知りもしないで、何を勝手に喋っているのか
いずれば会社を継げるような人間に育たなければ意味がない、と言い
進学は必ずさせていただきたい、と言った言葉にイライラはピークに募った
「オレはあんたの思い通りに生きる気はないっ
 進学もせーへん、やりたいことをやるんやっ」
こんな息のつまりそうな場所、一刻も早く出たかった
「姫条・・・君は親御さんの気持ちを考えたことがあるのか」
氷室の言葉も、まるで耳に届かず
まどかは父親の、その淡々とした目だけを睨み付けて言い放った
「オレはオレの夢を捨てへんっ
 おまえみたいな人間になるために生きてんのとちゃうっ」
あとはただ、
腹の底から込み上げてくるような衝動のままに、立ち上がった
「姫条、待ちなさい」
氷室の声が追い掛けてきたけれど、無視した
荒々しくドアを開け、廊下に飛び出した
怒りに似たこの感情は、自分ではどうしようもない

鞄を取りに教室に戻ると、そこにはがいた
・・・何してんねや」
心を落ち着けて、なるべく平静を装って側まで寄ると は書いていた日誌に視線をやった
「今日日直だったの忘れてたの
 慌ててクラブから戻ってきちゃった」
穏やかに、優しい笑みでは言い それからまどかを見上げて少しだけまた、あの心配そうな目をした
「姫条くん、大丈夫?
 何か・・・・・・嫌なこと、あった?」
その言葉に溜め息が出る
の前の席に腰かけて、それから笑う努力をした
無駄だったけれど
「すごく辛そうだよ」
「うん、辛いねん今」
うつむいた
自分でも、格好悪いことを言っていると自覚がある
よりにもよって好きな相手にこんな姿を曝すなんて
こんなことを言うなんて
「道が強制的に決められることが嫌なんとちゃう
 なんで、オレの意思を無視するのか、それがわからん・・・」
だけど、止まらなかった
一つ言葉にすると、あとからあとからたまっていたものが溢れるようで
それは誰とへもなく、こぼれつづけた
「なぁ、なんでやろーな
 あいつはやっぱりオレのことなんか見てへんくて、
 だからオレのことなんてどうでもいいんやろ
 大事なのは会社と仕事だけで、オレは所詮その道具に過ぎへんわけやねん」
自嘲に似た笑みが無意識に浮かんだ
またイライラして、吐きそうになった
「オレは道具とちゃう
 オレにはオレの意思があって、考えがある
 なんであいつはそれを認めてくれへんねやろ・・・・」
自分の言葉は、痛い程に痛感させた
この反発は、一人の人間として認めてほしいというあがきなのだと
必死にもがいて、必死にやってきて
それでもあいつは、自分のことなんか見てさえいなくて
今日みたいに、駒をすすめるかのように行く先を、決めようとするのだ
彼はまどかを見ていない
「そんなことないよ、姫条くん・・・」
ぽつ、と
が言った
顔を上げられなかったけれど、側でが席を立った気配があった
「ねぇ、そんなことあるわけないよ
 きっとお父さんだって姫条くんのこと考えてくれてるよ」
すぐ側に、を感じた
まどかの側まできて、は少しかがんでそっとまどかの頬に手を触れた
「姫条くんは何も考えてないわけじゃないし、
 ずっと一人でパイトして誰にも頼らずに生きようとしてたでしょう?
 それを・・・お父さんだってきっと認めてくれてるはずだよ」
その優しい声は、不思議とまどかの心にスウ・・・と入ってきて
頬に触れた手の感触も、妙にまどかを落ち着かせた
「ね・・・姫条くん
 だからそんなに悲しそうな顔をしないで
 きっと、すれ違ってるだけだから
 姫条くんがお父さんを嫌いじゃないように、お父さんだって姫条くんのこと ちゃんと想ってくれてるよ」
それから、その優しい腕は うつむいたまどかをそっと抱きしめた
温かくて泣きそうになる
ああこんなにも、自分を慰めてくれる存在は他にはいない

・・・・・」
しばらく、まどかはに抱かれていた
の言葉は、多分一番欲しかった言葉
素直ではないこの心を代弁したもの
そう、自分はあの人を心の底から嫌ってはいない
悲しかっただけ
道具としか見てもらえないこと
心の通った人として、見てもらえないこと
認めてもらうには、どうしたらいいのかわからなかった
一人前になって、自分だけで生活できるようになって
誰の助けもなく、一人で生きていけるようになったら認めてくれるかもしれないと
意地をはっていた
強がって、平気なふりをして、余裕に見せて
「あかん・・・・・・・・・・・・」
その声は震えた
に出会う前
恋愛はただの遊びで、女の子はその賞品だと思っていた頃
いい女とつきあうことが、いい男のステータスだと言って
まるでアクセサリーみたいに 恋人を何人も作ったけれど
そしてそのくせ、
そんなものなくたって、生きていけると豪語していたけれど
「あかん・・・・オレ、がおらなあかん・・・・・」
背中に回された優しい腕
温かい身体
いつもはちょっと手を触れただけでも真っ赤になっているのに、
今こうして抱きしめてくれているは、そんな取り乱した風もなく
ただただまどかを安心させてくれる
こんな人は、以外にいない
ずっと側にいてほしい
がおらなあかん・・・・・・・」
ずっと、離れないでほしい
・・・・・ずっと側におって・・・・・・・」
まるで懇願みたいに、
まどかの言葉は不安定に、静かな教室に消えた
「うん・・・・ここにいるよ・・・」
大丈夫だよ、と
まるで小さい子を慰めるみたいに、
まどかを抱きしめたまま、は言い
まどかはその言葉に目をとじた
このあたたかさが、心地いい
この他にはもう、何もいらないと思える程に


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