道 (姫×主)


今日はの進路相談の日
授業が終わっての最初の順番だったから、終わるのを待って一緒に帰ろうと思った
廊下に座り込んで、ぼんやりと雑誌なんかを見ていた
たまたま、まどかのクラスは廊下の一番端で、
たまたまここらはクラブで使っていないから、静かで
だから、中の会話が聞こえてきたのも たまたまだった
が、氷室に向かって言った言葉に、ぴくんとまどかは反応した

「私、将来は通訳になりたいんです」

明るい、落ちついた声
まどかの大好きなの声
「そうか・・・・それで一流大学の外国語学科に・・・」
返す氷室の声も、明るく嬉しそうなもので それにまどかは一瞬息を飲んだ
教師のお気に入りの、
今や学年トップの成績を誇る
それでも、そんなところを微塵も感じさせない恥ずかしがりやで、優しくて
気取ってるわけじゃなく、すぐに真っ赤になっているような
そんなが好きだったけれど
(・・・・通訳・・・・・・・・・・)
あの成績だから、一流大学へ進学するのだろうことは察しがついていた
それが当然だろうし、そうすべきだとまどかも思う
だけど、
「もっとちゃんと勉強して、それを仕事にできたらって思うんです」
が、そういうしっかりとした夢を持っていることがショックだった
いつもにこにこ笑っていて、
まどかがいなければ抜けていて どこか危なっかしい雰囲気さえあるのに
こんなにもはっきりとした夢があり
それに向けて歩き出そうとしている、そのことにまどかは妙な焦りを覚えた
(そっか・・・・そうやんな・・・・)
漠然となら、自分にだって夢はある
だけど、今この時点でそれに向かって何をする、といったような具体的な行動に まどかは出ていない
オレには夢があるから、と
父親の言葉にも背を向け続け、張り合い続けている
それが今の自分で、
この教室の中で、氷室と向かい合い 堂々と夢を語ったとは大きな差がある気がした
少しだけ、腹に重いものがたまった
それはまどかに暗い影を落とす

その日、と一緒に帰っても いつもほどは楽しくなかった
「あかん、イライラする」
家に帰って、お気に入りのCDを聴きながらもどこか落ち着かなくて
まどかは大きく溜め息をついた
は努力をしている
多分、毎日勉強しているんだろうし、授業中だってちゃんとノートを取っている
やらなくてもできるわけじゃなく、
自分の夢のために、ちゃんとやるべきことをしているのだ
そう思うと、また気分が重くなった
比べて自分はどうだろう
やっていることといったらバイトくらいか
夢だって、漠然としていて説得力がなく、そのために行動しているわけでもない
この焦りの理由はわかっている
を好きな自分にとって、あまりにもしっかりと歩き出そうとしている
いつまでもフラフラと道を定めない自分の
このつり合わなさにイライラするのだ
に、自分が不釣り合いな気がして、焦るのだ
おいていかれた、そんな気になる
そんな男は、格好悪くてたまらない

いつのまにか、うとうとと眠りにおちていたまどかは、チャイムの音で目を覚ました
「こんな時間に誰や?」
時計を見遣ると10時
玄関のドアをあけると、少し居心地悪そうにが立っていた
「え・・・・? どーしたんや」
あまりにも意外で、まどかは一瞬口をぽかんと開けて相手を見た
「あ、ごめんね・・・
 ちょっとお使いに出たから・・・」
頬を染めて言うは、手に小さな包みを持っている
「あのね・・・はじめて作ったんだけど・・・
 あ、じゃなくて・・・はじめてちゃんとできたから・・・」
またゴニョゴニョと、は言ってさらにその顔が赤くなった
何が言いたいのか
急にどうしたのか
寝起きの頭でフルに考えていたまどかは、の次の言葉で完全に目が覚めた
「あの・・・なんか今日姫条くん 元気なかったから・・・」
心配で、と
上目づかいに見上げたを、まどかは思わず抱きしめた
「えっ?!」
甘くて香ばしい匂いがする
抱きしめながら、その温かさを感じた
優しい
今日の帰り道、イライラしたような雰囲気が、伝わっていたのだろう
元気がなかったから、とこうして会いにきてくれたなんて
こんな格好悪い自分なんかのために、わざわざ来てくれただなんて
しかも
「こ・・・これ、おいしくないかもしれないけど」
差し出されたのはクッキーだという
前に手作りのお菓子なんかが食べてみたい、と言ったことがあったのを覚えていたのか
「何回も失敗しちゃって・・・今日はいつもよりはマシにできたから」
お使いのついでに持ってきた、と
の頬は真っ赤で、
いつもみたいにうつむいていて
それでまどかはやっと笑った
「そんなんが作ってくれたやつやったら何でもうまいわ
 それにしても意外やなぁ
 お菓子とか作んの得意そうやのになぁ」
「全然したことないから・・・」
多分、まどかの方がうまいだろうという ちょっと焦げた固めのクッキー
それでも甘くて香ばしくて、
一つ口に入れてまどかは破顔した
「ありがとうな、
 なんや元気でたわ」
「あ・・・うん・・・食べてくれてありがとう」
恥ずかしそうに、それでもは笑った
どこかほっとしたような顔に見えたのは気のせいか
まどかは心の中でそっと苦笑した
はいつでも真直ぐで、素直で
一生懸命だから、こんなにも愛しいんだと思う
それにつり合う男になりたいと思うのなら、努力をしなければならない
目の前の楽しさに流されてチャラチャラしているだけではいけない
の焼いてきたクッキーのように 少々見た目が不格好でも
それでも、それがその時の精一杯なら 
こんな風に誰かを満足させられるんだと思う
がそうであるように

帰っていくを見送りながら、まどかは大きく深呼吸した
とりあえず、逃げていては始まらないと
覚悟を決めるところから始めよう
やりたいことを、しっかり考えて
自分の道を、見つめて
の隣を歩いていけるよう、の側で笑って立っていられるよう
何かを始めようと思う
夢のために
自分のために


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