バレンタイン (姫×主)


その日、は朝から熱があった
普段なら、学校を休んでいるような数字が表示された体温計を見て、それでもはブンプンと頭を振って気合いを入れた
今日はバレンタイン
こんな日に、学校を休むわけにはいかない
まどかを想って作ったチョコは、準備万端で鞄の中に入っているのだから

「なんか顔色悪いなぁ、大丈夫か?」
5時間目の体育の後、フラフラしているをつかまえて和馬が言った
その手を取って驚いたようにの顔を覗き込む
「おい・・・熱あるぞ・・・」
「大丈夫だよ・・・」
「大丈夫って・・・足下ふらついてるだろ」
「大丈夫・・・・・・」
まどかにチョコを渡したい一心で根性で学校に来たけれど、
さすがに体育は無理だろうと、休んでいようとしたのだが どうしても人数が足りないとかり出されてしまった
あんまり動かなかったけれど 寒空の下で体操服でいたから悪化したのか
朝よりも大分ひどい気分がを襲っていた
普段の日ならベッドに直行なのに
「無理すんなよ、保健室行こーぜ」
連れてってやるから、と
ぐいと腕を掴まれて、ふらりと身体がよろけた
自分の身体じゃないみたいに力が入らなくて、
朝からどんどん上がっている熱が、頭をぼーっとさせていた
ああもぉなんだか周りがよく見えない
和馬の声も、ぐにゃぐにゃした景色も、やがて全部 溶けたチョコレートみたいになって消えていった
は気を失った

気付いた時、遠くでチャイムが鳴っていた
(・・・今、何時・・・・?)
身体を起こすと、そこが保健室のベッドだと気付いた
和馬が運んでくれたのだろうか
あの後の記憶が一切なく、気分も同じくひどいものだった
それでもの頭の中にははっきりとまどかに渡さなければならないチョコのことがこびりついて
それで慌ててベッドを下りた
時計を確認すると、HRは終わっている
ということは、今は放課後
今日は、まどかはバイトのない日だから そんなに早くは帰っていないだろうけれど
それでももう下校してしまったかもしれない
とにかく鞄の中のチョコレートを、と
真直ぐに教室へ向かった
なんとか、歩けた

一方、まどかはを探して校内をウロウロしていた
今日はバレンタイン
いつもと同じく、たくさんのチョコをもらったけれど、その中にお目当てのものはなかった
(・・・まさかくれへんっちゅーことはないよなぁ・・・)
を好きになって、何度もデートを繰り返して、
自分はこんなにも本気になっているのだけれど、どうもの気持ちがまどかには読めない
二人でいる時に楽しそうにしてくれたり、笑ってくれたりしても
相手がまどかでなくても、はそうなのかもしれないと考えるとやはり、
惚れているのは自分だけなのかもしれない、と
そう思うのだ
この百戦錬磨の姫条まどか様が
(あーあ、せめて顔だけでも見て帰りたいなぁ・・・)
そういえば、今日は一度も顔を見ていない
休み時間のたびに女の子達に呼び出されたりかこまれたりしていて を探す暇もなかったし、いつものようにのクラスに遊びにゆくこともできなかった
に会いに学校に来ているのだから、と
まどかは廊下をうろうろしていた
そこで、バタッと和馬に会った

「よぉ、おまえ部活は?」
「今日は休みだよ
 それよか見てないか?
 あいつ熱あるのにフラフラどっかいっちまって・・・」
「へ?」
「保健室に寝かしてたのにいつのまにかいなくなったって先生が言っててさぁ」
「なんや・・・どーかしたんか?」
「風邪かなんかか知らねぇけど、高熱でぶったおれたんだよ
 おまえも暇だったら探すの手伝えよ、心配だろ」
「お・・・おう」

一瞬何が何だかわからなかったが、
和馬のいやに真剣な顔と「倒れた」という言葉がまどかをぞくっとさせた
(なんなんや、どっかでへたりこんでるんとちゃうか・・・)
二人して、廊下や教室をあちこち捜してまわった
一気にバレンタインの浮かれた気分がふっとんでいく気がする
大丈夫なのだろうか
和馬の話では 相当な熱があったようだが
どうしておとなしく寝ていないで、フラフラ出ていったりしたのか
(・・・・・・・)
その姿を探しながら、まどかは重い気分になっていった

(姫条くん・・・・・・・いない・・・・・)
ふらふら、と
まどかがいそうな場所を一通り探したは、そのどこにもまどかを見つけられずに自分の教室の側まで戻ってきていた
もうほとんどの生徒がクラブに行ったり帰ったりしていて、そこらは人気がなかった
(・・・もぉ帰っちゃったかなぁ・・・家まで届けに行ったら迷惑かなぁ・・・)
とりあえず自分も家に戻ろう、と
教室のドアをあけた
途端、気が抜けたのか何なのか
クラッと目眩を感じて、それから目の前が真っ白になった
(あ・・・・ダメ・・・・・・・)
必死で、意識を保とうとして、
倒れてしまわないように、へたへたと床に座り込んで手をついた
頭がぐらぐらする
あのままおとなしく保健室で寝ていれば良かったのか
冷たい床が ほてった身体に気持ちよくて
それではしばらくそこで動けずにじっとしていた
聞き慣れた声が、聞こえるまでは

・・・・・・・・・」
?! なんでこんなとこにいんだよ・・・」
教室に、騒々しく入ってきた和馬とまどかに、はふっと顔を上げた
「あ・・・・・・・・・・・・・いた」
まどかがいる
今までどこにいたのだろう、と
これでやっとチョコが渡せる、と
へたりこんでいたのを立ち上がろうとした
その瞬間
「アホかっ」
聞いたことのないような怒鳴り声を、まどかが上げた
勢い良く腕を掴まれて、は驚いてまどかをみつめた
怒っている
いつも笑っているまどかが怒っている
「どんだけ心配したと思ってんねんっ
 熱あんねやろ、なんで大人しくしてへんねん
 こんなに悪化さして、どーにかなったらどーすんねんっ」
の手首は、思ったよりも熱くて
火照った頬に、潤んだ目は高熱で苦しいのであろうことを想像させた
「オレも和馬もずっと探してたんやで
 先生だって心配しとってんからな、
自分の剣幕に驚いて、声もない
まどかは少しだけ言い聞かせるよう声を抑えて言った
「わかってんのか? 」
「ご・・・ごめんなさい・・・」
今にも泣き出しそうな
あまりの剣幕に驚いてぽかんとしている和馬
自分でも己の剣幕に驚いたけれど それほどが心配だったのだ、と
まどかは大きく溜め息をついた
「和馬、先生に知らせた方がええんか?」
「ああ・・・オレいってくるわ
 氷室が車出すって言ってたから」
冷静になったまどかの言葉に、和馬が慌てて教室を出ていった
足音が遠ざかるのを聞きながら、まどかはの手を放すと その顔を覗き込んだ
「大丈夫か?
 あんま・・・心配させんといてや
 本気でどーにかなってたらどーしよ、て思ったで」
つい、我を忘れて女の子相手に怒鳴ってしまった
は今も怯えたような顔をしているし、その目には涙がたまっている
「泣かんといてや、悪かった
 あんまりが無茶なことするから・・・」
ごめんな、と
言った言葉にフルフルとが首をふる
「ごめんなさい・・・・・私・・・姫条くんのこと探してて・・・」
「え? オレ・・・?」
ぼろぼろとこぼれてしまったの涙を見ながら まどかは困ったように首をかしげた
そういえば自分もを探していたけれど、それは何故だったっけ
このドタバタで忘れていたのを思い出したのと同時に が震える声で言った
「だって今日・・・・バレンタインだから・・・・・」

それから半ば泣きながら はまどかにチョコを手渡し、
受け取りながら まどかはたまらない気分になった
このために、
ただ自分にチョコを渡すためだけに 熱があるのに来てくれたというのか
こんなに調子が悪いのに、自分を探していてくれたということか
「・・・・・・・・・ありがとな、
あんまり愛しくて、思わずまどかはの身体を抱きしめた
「え・・・・・・っ」
熱い身体
驚いたように身を固くした様子が愛しくて、まどかはどうしてもどうしても我慢できなかった
「なんや、嬉しすぎてのこと放されへん・・・」
それから、それでも
「だけど、やっぱ無理はあかんで
 今度こんなことしたらもっと怒るからな」
やっぱり嬉しいよりも、が心配な方が勝ってしまって、まどかはを抱きしめたまま強い口調で言った
「しんどい時はオレを呼びつけたらええんや
 からチョコ貰えるんやったらどこにでも行くで」
だから無理せんと寝とき、と
その髪をなでながら まどかは笑った
小さく、がうなずいたのを感じながら

一応は、ハッピーバレンタイン
寒い冬に、今は+3℃の体温で


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