プール (姫×主)


今日で3回目
をプールに誘って断られた

「冬にプールってのもオツやと思うんやけどな〜」
先輩の代わりにちょっとだけやった温水プールの監視員のパイトで、タダ券をもらって、喜々としてを誘ったのが先々週のこと
その時は都合が悪いから、と断られて
それなら別の日に、と誘い直したら また断られた
の水着姿が見たい、と欲を出して粘ったのがダメだったのか
今日、3度目誘ってみても、はいい返事をくれず まどかの気分はドーンと落ち込んだ

「鈴鹿、これやるわ」
「え? おまえ行かねーの?」
「ええねん、一緒に行く子もおらんしな」
「ふーん、んじゃいただき」

結局タダ券は和馬の手に渡り、まどかは3連続で空いてしまった日曜に溜め息をついた
(あーあ、先々週も先週も、明日もフリーか〜)
最近はととてもいい感じで、
時々も自分を好きなんじゃないかと感じるくらいに二人は周りからも噂されていて
まどかもいい気分になっていたのだけれど
「久々やなぁ・・・デート断られたんは・・・」
つぶやいて、溜め息をついた
もしかしたら、自分が思う程二人はいい仲ではなく、盛り上がっていたのは自分だけなのだろうか
あんまりしつこく誘い過ぎたのだろうか
それともただ単にタイミングが悪かっただけか
憂鬱に、まどかは歩いていた
恋愛は難しいと、最近よく感じる

次の日曜日、朝イチで入った先輩からのヘルプの電話にまどかは着替えて温水プールへ向かった
「たのむ、どーしても抜けられない用事があって・・・」
「どーせ暇やしええけどな・・・先輩何かおごってや」
またしても、先輩の代わりに監視員のバイトに、と
日曜なのにとぼやきながらも、悲しいかな、デートの用事もないまどかは監視台につくのだった

夕方、
何事もなく仕事を終え、夜の部の人と交代をしたまどかはプールサイドを歩いていた
軽く泳いで帰ろうか、と
上級者用のプールへと向かう途中、それは突然に目に飛び込んできた
と、千晴の姿
二人仲良く手をつないで、水の中にいるのを

「・・・・・・・・・・・・・・・」
いい様のない怒りのような、苛立ちのような、
それでいて何か心がぎゅっとなるような不安に似た気分になった
ふーん、と
自嘲ぎみた笑みが口許に浮かんで、まどかは大きく溜め息をついた
自分とのデートを断っても、あの男とは遊ぶわけだ
自分はもう他の女の子とは遊ばなくなったのに、は自分以外の男ともこうして楽しそうにデートするわけだ
いい気分ではなかった
そして、その苛立ちは自分ではどうしようもなかった
二人はつきあっているわけではないから、こんな怒りは自分勝手なもので、は何も悪くないのを知っていて
そしてそれでも、同じような気持ちでいてくれていると思っていたに裏切られたような気分で、
どうしても、腹が立った
所詮、にとったら 自分も千晴も同じレベルなのだろうか

「あ・・・・・・・・っ」
不覚にも、一瞬我を失って立ち止まってしまったからだろうか
が、こちらに気付いて声を上げた
はっとして、我に返ると 驚いたような、泣き出しそうな顔でがこちらを見上げている
千晴もまた、まどかを見た
瞬間に、カッ、と頭に血の上る気がして、
まどかはそのまま何も言わずに歩き出した
「あっ・・・・・・・・・姫条くんっ」
後ろでの声がした
やっぱり泣き出しそうな声だったけれど、振り返らなかった
そんなの、格好悪いと思ったから

「あーもーなんやねんっ」
ザブン、と
一番奥の上級者用のプールに飛び込んで、まどかは中央まで泳いでいった
イライラする
が誰か他の女の子といたのなら良かったのに
先約があったから断られたんだと理解できた
他の男でも良かった
そっちが先の約束だったんなら、タイミングが悪かったとあきらめただろうし、そんな男なんか相手にならないと余裕でいられたかもしれない
でも、千晴はだめだ
学校が違うから、相手がどんな男なのかよくわからないし、
何か二人は妙に仲がよくて まどかの入り込めない雰囲気があるし
何より、あいつの目は、まどかのそれによく似ているのだ
が好きで、誰にも取られたくないと、強く強く思っている目
勝負した時にわかってしまったから
だから、あの男だけとは一緒にいてほしくなかった
自分の誘いを3回もけったこの場所で、仲良く手なんかつないで
(あかん、イライラする)
ぶんぶんと、水に濡れた頭を振った
しぶきが飛んでいく
いっそ見つけなければよかったのに
知らぬふりをして通り過ぎれば良かった
あんな風に、に気付かれて
それでこうやって逃げてきてしまうなんて、格好悪くて仕方がない
こんなのはスマートじゃない
気になんか、しなければいいのに
笑って、よう、と言えれば良かった

「・・・・・・・・・・・・・言えるわけないわな・・・・・・」

大きく、溜め息をついた
相手がだから、こんなにも悩んでウダウダして
こんな風にガラにもなく、ひとりだけを想って想って
不格好でも不器用でも、とにかく奪われたくないと必死になって
それでもあきらめられない想いなんだから
「ああ・・・・もぉ・・・なんなんやオレ、ださ・・・・」
呟いた時、プールサイドにが現れた
まどかの姿を見て、びくっ、と
今にも泣き出しそうな顔をして、それからゆっくりと水際まで歩いてきた
「あの・・・・姫条くん・・・・」
プールの中央にいるまどかに向かって、震える声でがいう
「あの・・・・ごめんなさい・・・・・」
何が、と
冷静に言ったつもりだけれど、その声は自分でもびっくりする程冷たかった
「あの・・・・・私・・・・・・・・」
「ええよ別に謝ることないやろ
 はあいつと来たかったんやろ
 オレが3回誘ってもOKせーへんかったんやから、そーゆうことやん」
こんなことが言いたいんじゃないのに、
口をついて出てくる言葉は、どれもやっぱり格好悪くて
「ちがうの・・・・・・・っ」
違うの、と
消えそうな声でうつむいたに、またイライラとしたものが胸にたまった
「こんなとこ来てないでデートの続き、楽しんできーや」
が悪いんじゃない
わかってる
が何をしようと、誰といようとの勝手だし
自分が断られたからってこんな風に言うのは子供っぽいことだと自覚がある
だからこそ、イライラする
こんな格好悪い自分が嫌で仕方がない
「姫条くん・・・・ちがうの・・・・・」
震える声では言い、それからおそるおそるプールに入った
チャプン・・・と水音が響く
「あ・・・・・・・・・・・・・」
ガクガク、と
その身体が震えているように見えるのは気のせいだろうか
上級者用のプールはだんだん深くなるから、のいる所はまだ肩が出ているけれど、ここらにきたらの背では顔も出ないだろう、と
まどかは、どこか不安な気持ちでを見ていた
が、そっとこちらへ来ようと歩いている
その度に、びくびく、と恐怖に似た表情を浮かべているのが気になる
・・・・?」
「姫条くん・・・・・あのね・・・・・・・・・あの・・・・・・・」
がくがく、と震えながら
だがは途中で足を止めた
そしてまだ遠いまどかを見て、ぼろぼろと涙をこぼした
「姫条くん・・・・・・・ごめんなさい・・・」
震えているのは気のせいではなく、
は肩まで水につかって そこからどうすることもできずに震えながら泣いている
・・・・・・っ」
瞬間、まどかはに駆け寄った
ああ、もしかして、もしかして
・・・・大丈夫か?」
その腕を取り、腰を抱いて身体を浮かせてやると ぎゅっと震える腕で抱きついてきた
ああ、本当に震えている
・・・・もしかして水怖いんか?」
「ごめ・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・」
一気に、全てが納得できた気がした
そして瞬間、自分が許せなくて仕方なかった
こんなにも震えて泣いている
何度もプールの誘いを断ったのは、水が怖くて泳げないからか
そしてそれでも、今日ここにいたということは
「・・・・・ああ、良かった」
プールサイドで千晴の声がした
「お前・・・」
「姫条くんがのところに来なかったら、僕がさらっていこうと思っていました」
千晴は、きつい目をして言った
「あなたのために、は水が怖いのを我慢して泳ぐのを練習していたんだから」
「わかってる」
まどかも、千晴を睨み付けた
いかに自分が子供で、自分のことばかり考えていて、のことなんか思い遣ってあげられなかったことに悔やんでいても
今ここでをこいつに渡すのだけはしたくない
腕に抱きしめた震える身体を、放したくない
、もう大丈夫だね
 僕は帰るね」
「千晴・・・・・・・・」
「僕は大丈夫だよ、またね、
千晴が苦笑したように見えたのは、多分気のせいじゃない
優越感なんか感じている余裕はなかったが、まどかは安堵の息を吐いた
そっとプールの中を歩いて、プ−ルサイドにを上げた
「ごめんね・・・・姫条くん・・・・・」
まだ涙で目を濡らしているに、まどかは苦笑する
「いや、ごめんな、悪いのはオレやな
 ガキみたいなことしてごめん」
が水が怖いなんてこと知らなかった
あんまりしつこく誘うから、よっぽど行きたいのだろう、と
今度誘われた時にはOKが出せるように、と
こんな風に練習してくれる程に想われているなんて、思いもよらなかった
嬉しかったし、恥ずかしかった
勝手に拗ねてた自分が
「でもな、
 今度からオレと練習しよーや
 あんな男と一緒にコソコソ練習することないやろ?」
「でも・・・・姫条くんスポーツできる子好きだから・・・泳げないなんて・・・嫌われると思ったの・・」
「え・・・・・・・・・?」
頬を染めながら、まだこぼれる涙をぬぐって、が言い
その言葉にまどかはぽかんとを見た
「スポーツできる子が好きって、オレそんなこと言うたか?」
「あ・・・・・・・あの・・・」
ごにょごにょ、と
は真っ赤になってうつむいた
ああ、もしかして自分の好みのタイプとかを結構気にしてくれているのだろうか
そういえば、好きな服装をしてくれたりしたこともあったっけ
「・・・・そらな、スポーツできる子の方が好きやけど・・・
 できへんからって嫌ったりせーへん
 が他の男といる方がよっぽど嫌やわ
 それに・・・」
ぽん、と
濡れた頭に手をおいた
、スポーツそんな得意ちゃうやろ
 何でもやりたがる闘志は認めるけどな、全部下手やん」
にやっ、と
意地悪っぽく笑うと、が真っ赤になってひどいっ、と
同じように笑った
ようやく、心にあった重いものが溶けた気がした
が、側に戻ってきた気がした

「そうそう、今度水着買いに行こな」
「え?」
帰り道、まどかが有無を言わさぬ強い口調で言い出したのを は驚いて見つめた
「今日着てた水着はあいつも見たからな
 違うやつを買いに行くで
 そんで、夏になったら二人で海に行こーや」
「う・・・・うん・・・・」
「他の男になんか もぉ絶対見せたらあかんで
 の水着姿見てええんはオレだけや」
「え・・・・?」
にやり、と
どこか不敵な笑みを浮かべたまどかに、は真っ赤になってうつむいて
それでも小さくうなずいた
「よっし、ほんなら約束な
 夏には二人で海なっ」
「うん・・・」
そうして、二人並んで帰った
生まれそうだったすれ違いも、今はもうすっかり消えて


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