対決! (姫×主)


そろそろ冬本番
北風の寒い本日、二人は室内でデート中

ビリヤードはできんの?」
「私、やったことない・・・」
「ほほう〜ほんならオレが手とり腰とり教えてやるわなぁ〜」
「う・・・うん」
最近改装して綺麗になったビリヤード場は若い客でにぎわっていた
まどかは機嫌よくキューを選び、後ろで辺りを見回しているを盗み見した
ビリヤードなんて、もしかしたら興味ないと言われるかもしれないと思っていたが、はあっさりOKを出し、ものめずらしそうにしている
いつもは悪友と、賭けなんかしながら楽しむのだが、今日はさわやかにと楽しもう、と
まどかはこの雰囲気には少し不似合いなに微笑した
「オレの華麗なショットを見せたるわな〜」
「うんっ」
いいところを見せようというわけではないけれど、
好きな子の前だと腕が鳴る
がぜんやる気にもなるというものだ
うでまくりして、まどかは空いている台へと向った
その背後で、突然知らない声がする
っ」
「え?!」
思わず振り返ると、驚いたようにも振り返って声の主を探している
少し離れたところから、男がひとり走り寄ってきた
「千晴っ」
ぱっ、との顔が輝いた
途端にまどかは、相手の顔を思い出して、心の中で舌打ちした
このあいだ、とカフェでデートしていた男だ
もビリヤード? 会えると思っていませんでした」
「私もよ、千晴とは偶然が多いね」
「運命かな」
にこっ、と
笑ったその男の様子に、まどかはゾゾっと寒気がしたのを感じる
ダメだ
こういうタイプとは仲よくなれない
運命って何や、と
おもしろくない顔をしたまどかに、が男を紹介した
「あのね、きらめき高校の友達なの
 蒼樹 千晴くん」
「はじめまして」
またしても、さわやかな笑顔で笑ったその顔に、まどかは曖昧な笑みを返した
なんなんだ
せっかくと二人でデートを楽しもうと思っていたのに
この突然降ってわいた「偶然」のせいで、断然おもしろくなくなってしまった
「千晴はひとり?」
「いいえ
 友達と待ち合わせです
 先に着いたから、中を見ていました」
優し気な話し方
どこかぎこちないのは、鈴鹿の言うように外国暮らしでもしていたからか
はデート?
 いいなぁ、今度は僕ともデートしてね」
チラ、と
まどかに視線を飛ばして、
それでも穏やかに笑っていった千晴に、イライラとまどかは視線を返した
なんなんだ
デートだとわかってるならさっさと消えろ、と
思っていると、突然千晴が英語で話し出した
「え・・・・?」
ペラペラ、と
何か早口で言い、それにが顔を赤くする
何を言っているのかさっぱりわからず、
唖然としたまどかは、その千晴に英語で返したに、また度胆を抜かれた
(な・・・なんなんや・・・・???)
ついていけない
突然に、どこか外国に放り込まれたような気になって まどかはただただ二人を見ていた
いくらが頭がいいからって
いくら英語が得意だからって、
こんな風にペラペラと話せるものなのだろうか
二言、三言、英語で会話を交わした後、がまた真っ赤になって何かいった
それに、千晴がまたさわやかな笑顔で笑った
そうして、彼の目がまどかを見た
「姫条くん、勝負しませんか?」
「は・・・?」
会話から、置いていかれたかと思ったら、今度は何を言い出すのか、と
まどかは呆れて相手を見つめた
「え? 千晴?」
も、驚いたように千晴を見た
から、姫条くん上手いと聞きました
 僕と、勝負しませんか?」
「え?」
まどかは、を見た
さっきの英語での会話は、このことだったのだろうか
まどかには、何が何だかさっぱりわからない
そんなまどかの表情を読み取ったのか、が慌てて説明した
「あ・・・だって千晴が・・姫条くん上手いか聞くから・・・」
困ったように千晴を見て、それからもう一度まどかを見た
「姫条くん、なんでもできるよって・・・言ったんだけど・・・」
にっこり、と
千晴が笑った
「何でもできるスーパーマンですね
 僕もビリヤードなら自信があります」
その表情に、まどかの中にピンとくるものがあった
単なる直感だけれど
この千晴の、顔に似合わない挑戦的な目はアレだ
ライバル宣言されているのだ
たった今、のことを
「・・・へぇ、そーゆうことか」
つぶやいて、無性に胃の辺りがソワソワした
が仲のいい男子なんて全部チェック済みで、
その中でも気をつけなければいけないのは鈴鹿くらいかと思っていたが
意外なところで出てきたこの男
千晴、だなんて
自分もまだ呼んでもらったことのない下の名前で呼ばれて
学校も違うのに、こんなにも仲良しで
あけくに単なる偶然を「運命」だとかサラリと言ってしまえる奴
そいつが、今 面と向かって言ったのだ
「勝負しよう」と

「ええでぇ、売られた勝負は受けな男ちゃう
 ほんなら、一発やりましょか」
まどかの言葉に、千晴もまた笑った
「はい」
おたおたと、
一体何が何やらわからないを間にして、二人は台を挟んで立った
「せっかくやから、なんか賭けよーか」
「そうですか・・・では、」
二人が二人とも、を見た
「え・・・?」
デートの最中に、友達に会っただけであるには、今だことの成りゆきにいまいちついていけなくて
困って二人を見返した
まどかも、千晴も、
多分同じとこを考えていただろう
「勝利の勇者にはお姫様のキスってきまっとるやろ」
「YES」
そうして、
本人の承諾もなしに、突然のバトルが始まってしまった
先攻はまどかである

「どうぞ」
ラックを組んだ千晴が、台から離れると、まどかは一度キューでトントン、と肩を叩くようにして構えた
競技はナインボール
一般的によく親しまれているベタなものを、と
エイトボールと迷ってこっちにした
「こっちの方が競争しているっていう気がします」
こそっと、耳打ちした千晴の言葉に、ビリヤードなどさっぱり知らないはふぅん、と
小さく答えた
カン、と
心地いい音が響く
どちらかといえば、強く打つタイプのまどかの手球は勢い良く転がり、散らした球の一つをポケットした
「わっ、すごい」
続けてまどかが、散らばった球を見ながら台の向こう側へと回って
それからまた、勢い良く突いた
カンカン、と
複雑な動きを見せる台を、くいいるように見つめて
今度もまた球がポケットしたのを見て はほぅ、と溜め息をついた
「うまいですね」
千晴が囁く
なんとなく、真剣なまどかの横顔にドキドキして
は頬を染めた
格好いいと思う
笑ってるまどかも好きだけれど、こんな風に真剣な顔も とてもとても格好いい
3度目のショットでまどかと千晴が交代した
(さてさて、お手並み拝見やな)
の側まできて、まどかは千晴の横顔を見た
ス、と構えるそのフォームが綺麗で、
それで苦笑する
(うーん、オレの我流とは比べもんにならんくらい綺麗やなぁ)
ふっかけてくるだけはあるわ、と
思っていると、つんつん、とが服をひっぱった
「ん?」
何かルールでも聞きたいのか、と
の方へかがみこむと、照れたようにしながらも はひそひそっと耳打ちしてきた
「姫条くん、格好よかったよ・・・」
「!!」
途端になんかもう、
それだけで勝ったような気になる程に まどかは舞い上がってしまいそうで
思わず、頬を染めて笑ったを抱きしめそうになったのを必死でこらえた
(あかんあかん、まだ勝負はついてへんねんやし)
とは思うものの、無邪気に何の他意もなく誉めてくれたのであったとしても
それでもまどかは嬉しかった
なんとなく、勝てそうな気にもなってくる
勝利の女神はオレのもんや、と
浮かれた気分になった
勝負はそれ程甘くはなかったけれど

お互いに、1歩も譲らない形で、勝負は後半戦に入った
基本がしっかりできている千晴の綺麗なショットと、
まどかの我流の、勢いさと強引さで押すショット
にはさっぱりわからなかったが、お互いはお互いに「やるな」と
静かに火花を散らしていた
「顔に似合わず積極的やな」
自分のショットを終え、まどかは溜め息まじりに言った
にこにこ笑っているようで、目が真剣なのは やはり彼もを好きだからなのだろうか
同じ想いを持っているから、わかるものがある
千晴が勝負しようと言った時、明らかに自分に対する嫉妬があった
とこうしてデートしている自分に、彼は妬いたのだ
それで、こんなことを言い出した
(なんやねん
 それ言うたらあいつだってこないだとデートしてたやんか・・・)
一方的に、妬かれて まどかは面白くない気分である
こっちも同じ条件なのに、と
戻ってきた千晴を横目で見ながら思った
「ダメでした」
「おしかったねっ」
残る球はあと2つ
小さく深呼吸して、まどかはス、と構えた
ああ、勝利の女神がついている
こういう配置を入れるのは、得意中の得意なんだ、と
まどかはカン、と
何の迷いもなく打った
「・・・・・すばらしいですね、彼は」
手球があたった球が、勢い良く転がってもう一つの球に当った
そのまま、それがポケットして
最後に、コロコロと、
最初の的球である9番がポケットした
「ほい、お疲れさん」
綺麗に決まったな、と
難しいといわれているキャノンをいとも簡単に決めてみせて
まどかはにっと笑った
千晴も、笑った

それから、千晴は友達が来たからといって別のフロアに行ってしまい、
二人は2時間程 そこで遊んだ
は全然うまくはならなかったし、
まどかはそんなと勝負を楽しんだりはできなかったけれど
それでも、二人でいると楽しかったし、
充実した一日になった

帰り道
「姫条くんってほんっと何でもできるんだね」
「そんなことないけどなぁ」
できるのはスポーツだけで、勉強なんかサッパリだし、と
言いかけて、そういえば、と
まどかは思い出してを見る
「二人で英語で何て言ってたん?
 なんや外国に来た気分になったわ」
「あ・・・・だから姫条くんがビリヤードうまいのかって聞かれて・・・」
「そんだけ?」
「う・・・うん」
「ふーん・・・」
それだけの会話で、があんなに赤くなったりするんだろうか、と
思いながらもまどかはそれ以上は追求しなかった
それよりも、もっと大事なことがある
「なぁ、
 オレ まだ御褒美もらってへんで」
「え?」
「勝ったんやから、お姫様のキスが貰えるはずやのになぁ」
「え・・・えぇ?!!」
はた、と
真っ赤になって立ち止まったに、まどかは意地悪く笑った
「ほ・・・本気だったの?」
「もちろんや、
 他の男になんか渡さんって気合いがあるから勝てたんやから」
ふふん、と
胸をはったまどかを、はどうしようもなくただ真っ赤になって見つめ
そんな様子に、まどかは可笑しそうに笑った
「ほんなら、ほっぺたで許したる」
そうして、こちらに身をかがめるので
もうどうしようもなく、
はまどかのシャツをつかんで、背伸びして
胸がバクバクいうのを必死で抑えながら そっと、そっと唇を触れた
恥ずかしすぎて、心臓がどうにかなりそうな気がした

(うわーーーーー、あかん、思ってた以上に嬉しい)
ふわっ、と
の柔らかい唇の感触が頬に触れて、離れた後
まどかはらしくもなく緊張していた自分に気付いた
「ああ、やっぱ、勝って良かったなぁ」
照れかくしに言うと、はうつむいたまま耳まで真っ赤になってぐいっとまどかを向こうに押しやった
「恥ずかしい・・・・」
こんなこと、したことがなくて
それも大好きなまどかに、自分からだなんて
よくもまぁ、できたものだと自分でも感心するほどに
はもう動揺しきっていて 歩いていてもふわふわしていて
どうにもこうにも、頭がパニックだった
そんなの手を握って、まどかが明るく笑った
「でもまぁ、負ける気はせんかったけどな」
「え・・・?」
「オレはを取られへんためやったら、何であろうが負けへんで
 他の誰かに渡す気なんか、さらさらないからな」
はっきりと、言い切ったその言葉に また頭がぼうっとなる気がする
こんなことを言ってもらえて、
こんな風に、二人でいられて
なんて幸せなんだろうと思う
まどかの想いが嬉しくて、は頬を染めながらコクリ、とうなずいた
千晴と交わした英語での会話をふと思い出す
「彼がの好きな人?」
「うん・・・」
「どんな人?
 ビリヤードは、得意かな?」
「姫条君は、何でもできるよ」
「ふふ、それはが彼を好きだからひいきして言ってるの?
 何だった? 日本の言葉で<恋は盲目>?」
「ち・・・違うもんっ」
メールで、何度も話題に出た<好きな人>のこと
千晴には、心を許して色んなとこを書いていたけれど
まさか、こんな偶然があって、二人が勝負なんてすると思わなかった
帰り際、彼は英語で囁いた
「素敵な人だね、の好きな人は」
笑ってくれた千晴のその言葉がとても嬉しくて、なんとなく誇らしかった
そう、まどかはとても素敵で、格好よくて
そんな彼に、自分はどうしようもないくらい捕われている
大好きで、仕方がない

帰り道、二人手はしっかりとつないだまま
同じ想いを抱いている
今だ、互いに言わないままで


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