初雪 (姫×主)


「姫条のことが好き・・・」
放課後の教室で、まどかはクラスメイトの女の子に告白された
と、一緒に帰ろうと約束していた日だった
「あのな、オレ好きな子おるから」
ごめんな、と
はっきり答えたまどかに、女の子の目から涙が落ちる
「どうして? 姫条、前は色んな人とつきあってたじゃない
 最近なんか、変わったよ・・・」
泣きながら、見つめられてまどかはどうしようもなく溜め息をつく
女の子の涙には弱い
この子も、とても気があって好きな子だった
昔の自分なら、二つ返事で速攻付き合い出しただろうに、と
まどかは相手を見遣った
それでも、今はもう のことしか考えられない

待ち合わせの場所で、はまどかを待っていた
体育館の側の花壇の、今は何も咲いていないのを見ながら春には何が咲くのだろうと想像する
最近花屋でバイトをはじめたから、そういうのに目が止まるようになった
小さな札がうめられていて、何か字が書いてある
花の名前だろうか、と
しゃがみ込んで見つめた
その時、背後で聞き慣れた声がした
「よっ、この寒いのに何してんだよ」
和馬が、ボール片手に立っていて、を怪訝そうな顔で見下ろしている
「待ち合わせなの」
「なんだ、もぉ帰んのか」
「うん」
今日はクラブがないから、と
笑ったに和馬は、気をつけて帰れよ、と
言ってボールを持って体育館に戻っていった
また一人になって、は時計を見る
まどかの言っていた時間から、もう20分も過ぎてしまった
何か急用でもできたのだろうか
はまた、花壇に目を落とした

それから2度、和馬が外へ出てしまったボールを拾いに出てきた
「まだ待ってんのかよ、寒いだろ?」
「うん、平気」
足下に転がってきたのを取り上げて差し出したに、和馬は心配そうに首をかしげた
「体育館入っとくか?」
「大丈夫、ありがとう」
「・・・風邪ひくなよ」
「うん」
ひらひらと手をふると、和馬は練習に戻っていき、
それを見送ってはまた時計を見た
もう50分もたつ
まどかはどうしたんだろう
もしかして、約束を忘れてしまったんだろうか

1時間たって、ようやくまどかが現れた
息を切らして到着するなり、の頬に手をふれた
「え・・・・っ」
「ごめんなっ、ほんまにごめんなっ
 こんな冷たなって・・・寒かったやろ」
「う・・・うん、大丈夫だよ」
そろそろ冬本番
たしかに寒かったけれど、それでもこんな風にされたら
こんな風に、大きな手で頬に触れられたら
それだけで体温が上がって、は真っ赤になってまどかを見た
「だ・・・大丈夫だよ・・・」
笑ったに、まどかはきゅっと胸が痛くなった
どうしても、
どうしてもあの女の子が泣き止まなくて、
それでなだめるように側にいた
のことは気になって仕方なかったけれど
目の前で泣いている女の子をこれ以上傷つけるわけにもいかなかった
「ああもぉ、オレって最悪やなっ」
教室の中は温かかったけれど、ここは外だから寒かっただろうに
はこんなに遅れた自分を責めもせず、理由も聞かずにいてくれる
「ほんまにごめんな・・・・」
まどかが、ようやくその手をから離したその時
バン、と
まどかの頭にバスケットボールが直撃した
「いっ・・・・・・・・・・・て・・・」
振り向くと、和馬が立っている
「お前か、待たせてたのは」
「なんやねん、関係ないやろ・・・」
「お前なぁ、こんな寒い中 女待たせたりすんなよ
 1時間も待ってたんだぞ、チャラチャラすんのもいい加減にしろよ」
「お前には関係ないやろ」
練習中、ずっと外でまっているが気になっていた和馬と
罪悪感でいっぱいのまどか
お互いに、バチバチと火花を散らした
だが、それも、側でおろおろとしていたを見て まどかから引いた
「言いたいことは明日聞いたる
 これ以上凍えさせられへん」
「なっ・・・・・・誰のせいだよ」
「明日聞くゆーてるやろ」
ふい、と
和馬に背を向けて、まどかはの腕を取った
「帰るで、
「うん・・・また明日ね、鈴鹿くん」
「・・・・・・・・・おう」
和馬を気にしながらも、はまどかと校門を出て
そのまま並んで歩いた
「ほんまにごめんな、
 ちょっと呼び止められて・・・出れんくて・・・」
「いいよぉ、もぉ 私、大丈夫だから」
何度も何度も謝るまどかに、が笑って答えると まどかは大きく溜め息をついた
「あかんな、オレって」
「そんなことないよ・・・? 」
「ある」
が何より大事なのに、
泣いていたとはいえ他の女の子を優先して をこんなに凍えさせてしまった
が優しくて、こういうことになっても許してくれると
心のどこかで思っていたのかもしれない
甘えていたのかもしれない
(ほんま、にはつり合わん男やなぁ・・・)
溜め息は、自分自身に向けて
その時、隣でがはしゃいだ声を上げた
「姫条くんっ、雪っ」
「え・・・・?」
見ると、ふわふわと風に舞いながら 雪が降ってきた
「初雪ってやつやな」
「なんか特しちゃった気分」
待ってて良かった、と
つぶやいたが無性に愛しくて
まどかはぎゅっと、を抱きしめた
「きゃ・・・っ」
思わず声が上がった
「き・・・姫条くん・・・・・・っ」
こんな、帰り道で、誰かに見られたら、と
が真っ赤になって身を固めると、まどかは少しだけ笑ってを離した
「ごめん、なんか抑えられへんわ・・・」
のぼせてるみたいや、と
まどかは突然上着を脱ぎ、それをの肩にかけた
「え・・・?!!」
「濡れるやろ」
「だ・・・大丈夫だよっ」
「ええねん、オレは頭冷やすねん」
「そんな・・・」
「大丈夫」
にっと、まどかが笑って
のその肩をだきよせた
「・・・」
まどかの上着は温かくて、
冷えていた身体に熱が戻ってくる気がして
抱き寄せられた身体は、ぴったりまどかによりそって、
その熱もまた、伝わる気がした
お互いに

冬の帰り道
初雪の中、まるで恋人同士みたいに
二人は歩いていく
温かい、想いの熱を伝えながら


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