ダブルデート (姫×主)


夏休みも中盤にさしかかり、
そろそろ宿題のことが気にかかりだした頃
まどかは毎日飽きもせずにバイトに明け暮れていた

(あーあ、なんかつまらんな〜)

稼ぎ時だから、といって
早朝の新聞配達に、いつものガソリンスタンド
プール監視員も時々やって、今は深夜のコンビニ
いいかげん飽きた、と
まどかは一人ぼやいた
せっかくの夏休み、
思い返してみたら最初にと水族館に行ったきり どこへも行っていないじゃないか
はどうしているんだろう
他の男とデートなんかしてるんじゃなかろうか
(バイト減らそーかなぁ・・・)
客のいない静かな店のカウンターにもたれ掛かって、まどかは溜め息をついた
たまにはと遊びに行きたい
せっかく夏休みなんだから

そんな時である
ポケットに入れていた携帯が静かに振動した
「もしもーし?」
バイト中だか、客はいないし店長も帰ったし
まどかは電話に出た
相手は鈴鹿である
どこか楽しそうなその声に、何事か、と
話を聞くと、どうやら遊びの誘いのようだ
「人数足りないからお前も来い」
明日、と
いわれてまどかはうーん、とうなった
グットタイミング
だが、鈴鹿と遊びに行っても面白くもなんともないんじゃないか
場所は遊園地だっていうし
「女の子がいるんやったらエエけどなぁ」
「いるよ、二人
 そんで男が足りないからお前を誘ってやってんだよ」
「お?!
 それを早ぅ言うてぇなっ
 行きます、行きます! 明日やなぁ〜」
鈴鹿にしては上出来だ、と
まどかはにんまり笑った
女の子二人と男二人のダブルデートってやつか
相手の名前は聞かなかったが、どうせ鈴鹿のことだから
女子バスケ部の女の子か、マネージャーかなんかだろう
たしか可愛い子がいたなぁ、と
まどかは頭の中の可愛い子リストをペラリとめくった
ちょうど息抜きでもしたいと思っていたところ
明日は楽しい日になりそうだ

次の日、遊園地前に男二人は顔を合わせていた
「あいつら遅いなぁっ」
イライラしたような鈴鹿にまどかが笑う
「しゃーないやろ〜
 女の子ってのは支度に時間のかかるもんなんやで
 30分の遅刻くらいは大目に見たらなアカン」
「・・・・オレはお前と違ってそんなに気が長くないんだよ」
「だからモテへんねん、鈴鹿」
「そんなんだからタラシって言われるんだよ」
お互いに、
罵りあっていたところに、向こうからパタパタと二人駆けてくる姿が見えた
「お・・・・・・?」
想像していたバスケ部の可愛い子チャンではなく
がいる
急に、なんだか照れくさくなった
そうか
そういえば鈴鹿はと仲が良かったっけ
「遅れてごめんねぇ
 私が忘れ物しちゃって 取りに戻るのちゃんに付き合わせちゃって・・・」
そして、もう一人はおっとり喋るバスケ部マネージャー
たしか紺野珠美っていったっけ
「あっ、姫条くん・・・」
「よぉ、
 なんや照れるなぁ、こーゆうのって
 まぁ今日はよろしゅうな」
本気で照れたのを隠すように、まどかはにっと笑った
鈴鹿をみやると、トロトロしている珠美に何か文句でも言っているのか
あーだこーだと説教している
「鈴鹿〜
 そんなに怒んなよ、珠美ちゃん可哀想やろ〜」
「・・・・お前ほんっとに女に甘いな」
「女の子は優しく扱うもんやで」
なぁ? と
まどかの言葉にが笑って
それで一向はやっと園内に入った
楽しいダブルデートの始まりである

最初、4人はまるで子供みたいにアトラクション巡りで盛り上がった
「よっしゃ、ジェットコースター乗んでっ」
「うんっ」
取ったもん勝ち、とばかりに まどかがの手を掴んで行く
すると今度のアトラクションでは、鈴鹿がの背中を押して連れていった
それを繰り返しているうちに、二人の中に何か敵対心が燃え上がる
(くそ〜・・・コイツまさかマジでのこと好きなんか?)
楽し気にしている二人を見ながら まどかは自分の隣の珠美をみやった
さっきから感じていること
珠美が鈴鹿を好きなのであろうこと
そして、
微妙にそれをも知っていて、二人して鈴鹿と珠美が一緒にいられるようにしむけているんじゃないかってこと
(うーん・・・鈴鹿鈍感やからなぁ・・・
 せっかく好きや言うてくれてる子がおっても気づかんかったら意味ないわなぁ)
そして、
その状況は と一緒にいたい自分にとっては好都合で
鈴鹿には悪いが、存分に利用させていただこうと思うのである
このアトラクションが終わったら、せいぜい女の子二人に協力しての隣をゲットしよう
せっかくの、デートなんだから

それからたてつづけにまどかはを奪っていって、
鈴鹿はいぶかしげな顔をしながら なんだかんだで楽しそうに珠美とコーヒーカップに乗っていた
「うーん・・・・これはちょっとキツイなぁ」
「恥ずかしい?」
「恥ずかしない言うたら嘘になんなぁ・・・」
ギュンギュンと、ものすごい勢いでカップを回してはしゃいでいる鈴鹿を見遣りながらまどかは溜め息をついた
珠美の悲鳴が通り過ぎていく
「なんで珠美ちゃんはあんなガキがええんや・・・」
「あ・・・・やっぱり気づいてた?」
「そらな〜
 自分ら二人して、珠美ちゃんと鈴鹿が一緒になれるようにしむけとるやろ
 バレバレやで」
「あちゃ・・・
 ごめんね、姫条くん私とばっかりじゃつまらないかな
 でも今日はがまんして?」
タマちゃんのためのデートなの、と
すまなさそうに言ったに、まどかは慌てて手を振った
「ちゃうちゃうっ、そんなんちゃう
 むしろオレは嬉しいねんで
 とずっと一緒におりたいからな、もうけもんやねん
 だから二人に協力してんねん
 オレらはオレらで楽しんだらエエやろ?」
「う・・・・・うん・・・」
真っ赤になってうつむいたに、まどかは急にドキとした
ああ、今二人きりだったらいいのに、と思う
やっぱりデートはと二人でしたい
「なんやのそーゆう顔見んのも久しぶりやなぁ
 夏休みが終わるまでにもーちょっとデートしたいなぁ」
「う・・・・うん」
うつむきながらも、
小さく返事をしたに、まどかは満足気に笑った
やっぱりが可愛くて仕方がない
意外に友達想いでしっかりものの面もあるのに
こうやって相変わらず真っ赤になっているところとかが、たまらない

さんざん遊んだ後、一向はお化け屋敷の前を通った
「あれ? こんなの前あったか?」
「これね、最近新しくできたんだって」
鈴鹿と珠美の会話に、が何か言いたげにして、
それからうつむいた
(ん?)
見たことのない表情を浮かべている
どうかしたのか、と
声をかけようとした時、鈴鹿が明るい声で言った
「よし! 入ろう!!」
途端にビクっ、と
の肩が震えて、お化け屋敷に向かった皆の中 だけが足を止めた
「どした?
「わ・・・私、ここで待ってるから・・・」
にこ、と
無理に笑おうとしたかのような ぎこちない笑みを浮かべてが言い
その言葉を鈴鹿が大声で否定した
「何言ってんだよ
 せっかくなんだから、行こうぜ」
そして、の手を取ると強く引いた
ヨタヨタと、
歩きながらがささやかに抵抗する
「あの・・・あのね・・・
 私、あんまり好きじゃなくて・・・・・」
「お前怖いんだろ
 大丈夫だって、こんなの全部作り物なんだから」
「でも・・・・・っ」
ズルズルと、
まるで連行されるかのように連れていかれてしまったに、まどかが苦笑した
「ありゃあ相当きらいなんやなぁ
 なんや真っ青になっとったで」
「そ・・・そうだね・・・大丈夫かなぁ
 鈴鹿君 強引だから・・・」
ちゃん可哀想、と
珠美も心配気に 二人の消えていった入り口を見た
そして、
「ほな、ここにおってもしゃーないし
 オレらも行こーか」
二人も後を追った
とっても怖い、と評判のできたてホヤホヤお化け屋敷に

10分後、珠美とまどかはたっぷり楽しんで出てきた
しばらく待つと、鈴鹿も出てくる
「どーやった?
 泣きわめいてんのちゃうか?」
あれだけ嫌がっていたのを無理矢理に連れていったんだから、と
まどかが笑う
こんなのが全然平気なまどかでも、けっこう楽しめた
人が幽霊に扮している分、気配なんかも怖かったり
懐中電灯一つで歩いていかなければならないのがまた、効果的だったり
大評判なだけあっていい作りだと思う
きらいな人にとったら、そりゃあさぞかし怖いだろう
「それが・・・中ではぐれちまって
 あいつ、まだ戻ってないのか?」
出てきた鈴鹿は、そこにがいないのに戸惑った顔をした
「はぐれた?」
「おどかされて あいつびびって逃げちまって
 追い掛けたんだけど見失ったんだ」
探したけれど、いなくて
それで一人で先に出たかと思ったんだけど、と
その言葉にまどかは苦笑した
やれやれ、
どうして鈴鹿はこうなんだ、と
携帯の、の番号を押した
コール音数回で、の声が返ってくる
「オレや、姫条や
 、今どこにおんねん?」
声だけで、が泣いているのがわかる
姫条くん、と
震える声に まどかはまた苦笑した
どうやらまだ中にいるらしく、の後ろからはキャー、とかギャーとかいう声が小さく聞こえる
「そこにおりや
 今、迎えに行ったるから」
なるべくを不安にさせないように明るく言って
まどかは電話を切ると、もう一度中へと入っていった
戦場の側にいるっていってたな、と
今通ってきた道を思い出して中を走った
せめて自分が一緒に入っていれば、無駄に怖い思いはさせなかったのに

井戸と墓と処刑場を通り過ぎて、死体の転がる戦場にさしかかったとき
まどかはやっとをみつけた
っ」
うずくまっているその姿に声をかけると、
は顔を上げてまどかへと手を伸ばした
頬が涙に濡れて、
今もその両目からハラハラと涙が落ちている
「姫条くんっっ」
よほど怖かったのか、
普段なら考えられない行動に、が出ている
ぎゅっと自分に抱きついて、離れない
ドキドキしながらも、その背に腕を回して抱きしめてやると かたかたと震えていた身体がゆっくりと落ち着いてきた
「災難やったなぁ
 、そんなにオバケ怖いんか」
ポンポン、と
あやすように背中を優しく叩いてやると、コクリ、と
が小さくうなずいたのを感じた
「ごめんね・・・」
懐中電灯もないし、道もわからないし、
それでどうしようもなくて、ここに一人でいた
本気でこれだけはダメなのだ
偽物とわかっていても、気持ち悪いし夢にみそうで
結局子供みたいに泣き出してしまった
あんまり不安で、怖くて

「いやいや、役得とはこのことやで」
おどけた風に笑ったまどかに、がはっと我に返って身を話した
「お? オレはいつまででもこーしてたいけどなぁ」
「ご・・・ごめん・・・・」
あんまり怖かったから必死で、と
真っ赤になって口籠ったに、まどかは笑った
「さ、残りしっかり手つないでたるから
我慢して戻ろーな」
「うん・・・・」
それで、なきやんだと二人、出口を目指す
途中、おどかされるたびに悲鳴を上げてだきついてくるに、まどかは大満足だった
「お化け屋敷はええなぁ」
には聞こえないように こっそりつぶやいた
出口はもうすぐそばである

外で、心配気に待っていた鈴鹿と珠美は、無事出てきたに胸をなでおろした
「大丈夫だった? ちゃん」
「うん、ごめんね
 私、道わからなくなっちゃって・・・」
「いや、オレこそごめんな」
すまなさそうに言う鈴鹿に は何もなかったように笑って大丈夫、と
照れたようにした
「ちゃんと手ぇつないでへんからはぐれるんやで」
チラリ、と鈴鹿を見遣って言ってみる
おかげでいい目を見れたんだけれど、それは内緒にしておこう
「ば・・・っ、そんな恥ずかしいことできっかっ」
想像通りの返事が返ってくる
それにまた、満足した
(そんなんやったらオレが取るからな)
もとより譲ってやる気はないけれど
ひっそりと戦線布告して、まどかはほくそえんだ
楽しい一日になった
今度はと二人で来よう
他の男と差をつけるためにも


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