3days

  「あなたとクリスマス」投票 第1位 マスターSS


不思議な夢を見た
店のピアノを弾いていたら、中から妖精が出てきて笑ったんだ
長い髪がライトにキラキラして、
窓の外には白い雪が降っていた
美しい少女
君の名前は、何ていうの?

「お・・・・?」

目覚めたのは昼前
昨日は遅くまで店を開けていたから、と欠伸をして 義人はベッドから起きると伸びをした
天気は晴れ
クリスマスまであと3日
掃除でもして、酒の仕入れがてら街をブラブラしようかな、なんて
そんな予定の一日のはじまり
「なんか、夢見たなぁ・・・」
つぶやいて、どんな夢だったか考えてみた
さっきまで覚えていた気がしたけれど、今はもうすっかり抜けてしまった
何だったっけ
まるでフワフワした感覚になる、そんな夢だったと思うんだけれど

1時間程かけて店の掃除をして、最後にピアノを磨きあげた
時々、零一や 雇ったピアニストが弾くピアノ
友人の家で眠っていたのを譲ってもらってきた
それ以来、ろくに弾けもしないのに、毎日これだけは手入れしている
「こういうのって恋に似てるよな」
一目見て気に入った
ホコリをかぶって部屋の隅においてあったのに自然目がいって、なぜかとても欲しいと思った
一緒にいた零一が、マトモな音が出るかも怪しい、と
呆れたように言ってたっけ
でも、義人には何かがビビっときたのだ
それで、持ち主の友人に頼み込んで譲ってもらってきた
ピカピカに磨きあげるのに3日、
調律士を探してきて、ちゃんとした音が出るようにしてもらうのに1ヶ月
それからもう5年近く、このピアノは店のこの場所に置いてある

ポン、
白の鍵盤を、一つ弾いた
久しぶりに弾いてみようか
このピアノを手に入れて、一曲くらいは、と練習した曲がある
We Wish You A Merry Christmas
零一に楽譜をもらって、何度も手本に弾いてもらって
それで覚えた
あれから何年も経つけれど、未だに義人のレパートリーはこの一曲だけ

軽快な音楽
弾きながら義人は窓の外へと目を向けた
街路樹が、チカチカと光ってる
あと3日でクリスマス
12月に入った頃から盛り上がり出した街のムードは、今最高潮
この店も同じような時期に、シックながらも内装をクリスマス風に変えて
一応は世間のクリスマスムードについていっている
冬、楽し気な人々、明るい音楽
何か物足りないと思いながらも
それでも確実に、クリスマスは近付いてくる

「あれ・・・?」

調子よく弾いていた曲が、突然音をはずした
そんなに上手くはないといっても、ここまでひどく音をはずす程下手ではない、と
自分の指をみつめる
叩いた鍵盤はちゃんと合っているはず
ドレミファソ、と
弾いたら、とんでもない音が返ってきた
「えー・・・?」
突然に、音が狂う
こんなこと、あるんだろうか
「まいったな・・・」
クリスマスまであと3日
今夜から、夜の特別ショーとしてピアニストを呼んでいるのに
原因不明の突然の不調に、義人は小さくため息をついた
今から調整を依頼して、今夜のショーに間に合うのか

義人は、店のカウンターの裏のボックスから 名刺をガサガサと取り出した
たしか駅前に楽器の専門店があったはずだ
5年前、このピアノを使い物にしてくれた調律士
気難しいじいさんだったけど、腕は確かだ
幸い営業時間は6時までと書いてあるし、用がすんだら寄ってみようと
義人は名刺をポケットに突っ込んだ

駅前のその店では、高校生らしき女の子が一人、店番をしていた
他には誰もいない、小さな店
「ピアノ、急に調子が悪くなってね」
「そうですか、生憎店長が不在で」
「いつ戻るかな?
 今夜、使いたいんだよね、そのピアノ」
「今夜・・・ですか?」
どこかで見たことのある子だなぁ、なんて
店番の女の子を見下ろした義人に、少女は困ったような顔をしてみせた
「店長は今夜遅くに戻るらしくて・・・
 今日は店には出ないんです」
大人しそうな、眼差し
ちょっと引き込まれるような雰囲気がある
高校生くらいに見えるけれど、もっと大人なのかもしれない
伏せた目が印象的で、不安気に揺れるのがとても気になった
女の子がこういう顔をする時は、きまってる
きまって恋愛の、真っ最中だ
「まいったな・・・他にピアノ解る人いない?」
「店長しか・・・」
肩までの髪が揺れた
少女は困ったように、義人を見上げている
「君は?」
「私・・・ですか?」
「うん、君はわからない?」
「私はまだ、見習いで・・・」
「素人の俺よりはマシだと思うよ
 君、ちょっと診に来てくれないかな」
ね、と
半ば強引にそう言って、店の名刺をカウンターに置いた
「でも、あの・・・店番があるので・・・」
「うん、ここ終わってからでいいよ」
壁の時計は5時を指している
義人の店は7時から
どっちにしろ今夜のピアノショーは中止だな、と
思いつつ、まだ困ったような顔をしている少女に笑ってみせた
「何時でもいいから、よろしくね」
そう言って、その小さな店を出る
一度振り返ったら、少女はカウンターの中で、義人の置いた名刺を見つめていて
その様子に、心のあたりがザワザワとした
(どこで、会ったかな・・・)
見覚えのある少女
誰かに恋してる、青春真っ盛りな年下の少女
(うちの店の客じゃないしなぁ・・・)
記憶を辿っても、彼女の姿は出てこなかった
「気のせいかな」
街にはクリスマスソングが溢れている
心には、妙な感覚が残った

君は、誰だっけ・・・?

クリスマスソングを携帯の着信音にして2週間が経っていた
店のカウンターから見える景色はいつも同じ
忙しそうに歩いていく人々
笑ってるカップル
夜になるとチカチカ光る電色に飾られた木々
あと1時間でバイトは終わりで、
今日は帰ったら氷室先生が出した宿題をやろうと思っていた、そんな日
壁の時計が5時を知らせたすぐ後に入ってきたお客さん
片手に大きな箱を持って、グレーのマフラーを巻いた人
ああ、そういうマフラーも素敵だなぁなんて、思ってしまった
氷室先生へのクリスマスプレゼントにって、最近マフラーばかり見ていたから
「君、ちょっと診にきてくれないかな」
活発そうな雰囲気の、落ち着いた人
ピアノが壊れたんだといって、店長に調整を依頼に来たのに
急ぐからって、私なんかに名刺を置いていった
ここでバイトしてもうすぐ3年
ピアノが好きで、家のピアノは自分でいじったりするけれど、まだまだ人のものを調整したり、それでお金をとったりなんていうことはできない ただの見習い
ただのバイトの私にあの人は笑って言った
「素人の俺より、ましだと思うから」

ポケットの中に入っている名刺に書いてあった店の名前はCANTALOUPE
どこかで聞いたことがあると思いつつ、はバイトが終わるとまっすぐに名刺の地図を辿った
空はもう暗くて、行く先をずっとツリーみたいな街路樹が照らしている
冬の街
去年までは大好きだったけど、今年は嫌い
世界はこんなに輝いてるのに、その中でたった一人取り残されたみたいで寂しくなるから
冷たい風に、泣きたいくらいに切なくなるから
「あの・・・こんばんは・・・」
店の名前を確認して、はそっとドアを開けた
静かな店内
明かりはついているけれど、誰もいない
オーブンは7時からだと書いてあったから、開店前の店に客は誰もいない
辺りを見回して、は小さく息を吐いた
奥で何かしているんだろうか
待っていたら来るだろうか
今夜ピアノを使うから、と言っていたから急いでいるのだろうけれど
本当に自分なんかで何とかなるのか
下手に触ってどうにかするより、今日は諦めてもらって、明日店長に診てもらった方がいいのではないのか
色々と考えながらも、はいつのまにかピアノの前に立っていた
側のテーブルに鞄を置いて、そっとピアノに手を触れる
淡い店内の照明に中、そのピアノはとても綺麗に見えた
「わ・・・これすごく古い・・・」
触ってみて、はじめて気付く
遠くからみたらまるで新品みたいに輝いてるのに、
古くて、所々に痛みが見えて、でも黒く美しく光ってる
「そうとう手入れしてもらってるんだね」
ポン、
一音弾いた
綺麗な音が鳴り響く
(・・・どこが悪いんだろう?)
端から順番に鍵盤を弾いて、は首をかしげた
ドレミファソ、ドレミファソラシド
「・・・綺麗な音よね」
一度、鍵盤から指をはずして、静かな店内を見回してみる
誰もいない
あの人が、現れる気配もない
「・・・どこ行っちゃったんだろう・・・」
時計は6時半を指している
ピアノには一見不調は見当たらないから、いつのまにか直って、それで安心してどこかへ行ってしまったのだろうか
それとも、奥で用事でもしているのか

ポロロン・・・

目を閉じた
済んだ、気持ちのいい音が響いていく
こんな古いピアノを弾くのははじめてだ
いつ作られたものだろう
塗装の感じが少し違うから、外国のものなのだろうか
「素敵な音・・・」
ずっと練習中の曲を、弾いてみた
リストの溜め息
弾きたいと思うようになったのは、2年の時 音楽室で氷室が弾いているのを見てから
あの横顔
どこか切な気に弾く彼を見て、心を奪われた
あの音色が忘れられなくて、あれからずっと練習している
とても、氷室のようには弾けないから
どんなに上手くなっても、何かが違うと思うから

パチパチパチパチ、
弾き終わると、入り口のところで拍手が聞こえた
弾かれるように立ち上がって視線をやった先で、義人が笑っていた
一気に体温が上がる
恥ずかしくて、顔が真っ赤になった
お客の店で勝手にピアノに触ったりして、
ここに店長がいたら雷が落ちるところだ
義人は、のんきに拍手なんかしているけれど
「あの・・・、すみません・・・っ、勝手に・・・」
「いや、いいよ
 それにしても、もぉ直してくれたの?」
仕事が早いね、と
笑った義人に は怪訝そうに首をかしげた
「どこも、音はおかしくなかったですよ」
「え?」
「私、まだ何もしてないんです」
「じゃあ勝手に直ったの?」
「・・・そうかもしれませんね」
驚いたようにピアノに手を触れた義人を見つめて、は少し微笑した
古いのにピカピカのピアノ
この人が毎日磨いているのだろうか
こんな風に大切にしてもらえるなんて幸せだなぁ、なんて
ふとピアノが羨ましくなった
今も優しい目で、ピアノを見てる
ガガガガガ、ガガガガガ
「え・・・?」
「・・・・・・・・・・」
立ったまま、鍵盤を弾いた義人の指は、とんでもない音を奏であげた
考えていたことが一気にふっとぶ程にひどい音
「え、今の・・・」
「やっぱり壊れてない?」
くるり、
情けないような顔をした義人が、途方にくれたように手許に視線を落とした
が弾いた時にはどこもおかしくはなかったのに
今の何かが壊れるような音は何だ
彼が弾いたら、何故がそんな音が飛び出てくる
ガガガガガーーーー
「うわ、ちょっと勘弁してくれよ」
お手上げ、と
義人は肩をすくめて苦笑した
視線で診てくれと言うから、がもう一度鍵盤を弾く
ポーーーーーン
澄んだ音が響いた
もう一音
同じ様に、綺麗な音が響き渡った

怪奇だ、と
言った彼はの前に暖かい紅茶を置くと笑った
「俺は益田義人
 君は?」
・・・です」
すすめられるままに、それを手にとると香ばしい湯気が頬を撫でていった
男の人にお茶を出してもらうのって何だか不思議な感じがする
くすぐったくて、ドキドキした
「ほんと不思議なこともあるもんだ」
義人は、笑ってピアノに視線をやる
あのピアノはが触ると綺麗な音が出るのに、その他の人が触ると壊れたようなひどい音を奏でた
時計は7時を5分過ぎている
店に客はまだいないけれど、あと1時間もしたら、人でいっぱいになるんじゃないのか
今夜使うといっていたピアノがこんなでは、困るのではないか
かといって、こんな怪奇現象のピアノ、ではどうしようもないのだけれど
「今日、ピアノショーやる予定だったんだよね」
「・・・はい」
さん、雇われてくれないかな」
「・・・え・・・・・?」
「さっきピアノ弾いてたでしょ?
 他にも色々弾けるんだよね? ギャラはちゃんと支払うから 今夜店で弾いてくれない?」
ポカン、
は義人の顔を見上げた
カウンターの奥で彼はにこにこと笑っている
優しそうな笑顔、と 最初見た時も思ったっけ
見とれている場合じゃないけれど、また今もふと、そう思った
この人は、優しい目をしてる
女の子が安心するような顔で、話してくれる
(氷室先生とは大違い・・・)
心の中で比べて くす、と笑みがこぼれた
大好きな人
だから、好きになってほしくて色々がんばったこの3年間
想えば想う程、遠く離れていくような気がした 切ない程好きな人
「あの・・・私、そんなの・・・無理です」
「でも予約いっぱいなんだ
 みんなピアノ楽しみにしてるんだよ」
「そんな・・・っ、余計無理ですっ
 私のは・・・趣味で、人にきかせるとか・・・そんなのは・・・」
優しい顔が、困ったみたいな顔になった
少し子供っぽくなる
うーん、と何か考える仕種をした義人を見て、まるで悲愴感のない彼の、次の言葉を待った
「よし、じゃあコインで決めよう
 君が勝ったら今夜のピアノショーは中止
 俺が勝ったら、君が今夜ピアノを弾くこと」
え? と
その意味をちゃんと理解する前に、義人はもうコインをどこからか取り出していた
「なげるよ」
ヒュン、と
音をたてて、金貨が宙を飛んだ
「裏? 表?」
問われて、ほとんど反射的に答えてしまった
裏か表か、君の勝ちか俺の勝ちか

「はい、俺の勝ち」

店の2階は小さな部屋になっていて、バイトの人が休憩したりするのだろう
ソファにテーブル、テレビに雑誌と一人暮らしの人の部屋みたいになっていた
ピアノショーは8時からだから、と
それまでここで待っててね、なんて笑顔で言われて は居心地悪くソファに座った
下では客が増えて、賑やかになってきていて
それがどうしようもなくの心を緊張させた
なりゆきで、なぜかこんなことになってしまった
まるで魔法みたい
ここに来させたのも強引だったし、ピアノを弾くことになったのもかなり騙されたような気がする
口がうまいのだろうか
いつのまにか、彼の思惑通り
いつのまにか、思ってもみないことに
はじめて来る店で、ピアノショーに出るためにここで待機しているなんて
(・・・気、紛らわせよう・・・)
小さく溜め息をついて、鞄から宿題のプリントを取り出した
数学は一番の苦手科目で、氷室の授業はわけがわからない
それでも必死に努力して、今や平均点75点
友達の中では成績はいい方なのに、それでも氷室に好きになってもらうには全然足りなくて
気がつけばタイムオーバー
多分、今年のクリスマスもバレンタインもプレゼントは受け取ってもらえないだろうし
この想いも、否定されるんだとわかってる
そろそろ諦め時だ、なんて
自分でもわかっていながら、ずるずると
気付けば12月もおわり
彼へのプレゼントは選べないまま
気持ちだけが沈んでいくようで、クリスマスだというのにちっとも楽しくない
この切なすぎる恋に、溜め息ばかり
(なのにあの曲は全然もうまくならないし・・・)
また、溜め息をついた
いつか聞いたあの何とも言えない甘く切ないメロディ
あんな風に、なんて いったいどうやったら弾けるんだろう
氷室はあの時、何を想って弾いていたのだろう

8時になって、は義人に呼ばれて店におりた
落ち着いた店だけあって、客も落ち着いた人が多く
この時期、カップルが目立った
ドキドキ、と
緊張が身体を走っていく
「よろしくね、さん」
「・・・はい」
選曲は任せるよ、と言われ 10曲程頭の中で選んであった
ジャズバーだからジャズの方がいいのか、と聞いたら 彼は笑ってい言ったっけ
「贅沢は言わない、弾いてくれればそれで」
君だけが、綺麗な音を出せるんだからと
この状況を楽しんでるみたいな顔
カウンターを見遣ったら、彼はウインクして笑ってみせた
悪戯っぽく目が、きらりと光った気がした

店内は落ち着いた灯りに照らされていて
お客さんはおしゃべりをしながら、お酒を飲みながらピアノを聞いてる
最初の2曲、緊張した
でも3曲目になると、少し余裕ができた
発表会みたいに、みんながシーンとしてこっちを向いてるわけじゃないから
バックミュージック程度に、会話の邪魔をしない程度に、でも心地いい曲を
そういうのを、期待してるんだろうなぁなんて
大切なピアノが、以外が弾くと壊れた音がするだなんて難病にかかってしまった義人も可哀想だとふと思って
はくす、と笑みをこぼした
本人は落ち込むより面白がっているように見えるけれど
一度契約したピアニストを断って、せっかくのショーにこんな高校生を使わなければならないなんて ちょっと気の毒だと思う
せめて成りゆきとはいえ雇われた今夜は、精一杯の演奏をしようと
は鍵盤に指を踊らせた
綺麗な音が、店内を満たしていく

夜の10時に、はようやく解放された
「ご苦労様、家まで送るから」
そう言われて、慌てて2階から鞄をもって下りてきた
まだ客がいるのに店長の義人自らが送ってくれるのか
キーを持ってドアを開けた義人を見上げてはわずかに苦笑した
「あの、大丈夫です、一人でも」
店にはバイトが一人きりになる
こんなにお客がいっぱいなのに、と
言ったら彼はおかしそうに笑った
「女の子を一人で帰らせたりはできないよ
 ピアノの演奏までさせちゃったしね」
店は常連ばかりだから大丈夫、と
言って笑った彼にうながされ、彼がドアを開けてくれた車に乗った
ドキとする
男の人の車の助手席に、なんてはじめて乗った
いつも、思い描いていた
まるで恋人同士みたいな 車でのデート
「今日は本当にありがとう、助かったよ
 これは今夜のギャラとピアノ調整の出張費」
「あ、はい・・・ありがとうございます」
渡された封筒を受け取って、鞄にしまった
義人は上機嫌に、何曲目が好きだの何だのと、話している
「明日店長さんに来てもらいたいんだけど、いいかな」
「はい、言っておきます」
「面白いよね、君以外だとすんごい音がするんだから」
「・・・はぁ」
ちら、と
運転する義人を盗み見した
軽い口調
でも何にも動じないような落ち着きがあって、余裕があって
明日のショーまでに直るかなぁ、なんて
言ってるのが すごく可笑しかった
「ん? 何?」
「いえ・・・全然困ってるみたいに見えないから・・・」
「困ってるよ、すごく
 もし明日も直らなかったら、また君が弾いてくれる?」
「えぇ?!」
にこり、
冗談か本気か、わからないような顔で義人が笑って
困って彼を見上げたに、義人はくすと笑みをこぼした
「ま、店長が見てくれれば大丈夫だろ
 あのピアノ、あの人にちゃんと音が出るようにしてもらったからね」
その言葉に少し安心する
明日はクリスマスイブだから、今日以上にお客はいっぱいだろう
こんな素人の高校生でなく、ちゃんとしたピアニストの演奏でイブを演出してほしい
それがあの素敵な店にとてもよく似合う、なんて思って はそっと目を伏せた
明日はイブ
氷室へのプレゼントを買いに行こうと決めている

を家まで送って、店へ戻る途中
窓をあけて煙草をふかしながら、義人は小さく溜め息をついた
ピアノの修理の店のバイトの子
彼女が自分のビアノを弾いているのを見て 思い出した
どこかで見たと思った少女
あれは今朝の夢だ
ピアノの妖精が出てきて微笑した夢
美しい、あの少女
それが、の姿と重なった
なぜか、妙な気持ちになって、いつもの強引さで引き止めてしまった
ピアニストのかわりに君が演奏してくれなんて言って

「まいったな・・・」

彼女の弾いた曲は全部で10曲
優しい雰囲気の曲ばかり、丁寧に丁寧に手を抜くことなく
商売柄 目や耳は肥えているから弾き手の意識や姿勢なんかが曲を聞いているとよくわかる
高校生なのに、突然こんな店で弾けなんて
あのピアノがなぜか以外に弾かせないからといって、こんなとばっちり
それでもは一生懸命弾いてくれた、それがわかった
カウンターの中で、ずっと見ていた
ピアノを弾く横顔
伏せた目、踊るような指
肩までの髪、ふと上げる視線
がらにもなく、気がひかれた
こんな風に、年下の少女に視線がいく日がくるとは思いもしなかった
突然の、覚えのある感情
これは、あれだ
なりふりかまわなくなる一歩手前の、まだかろうじて自制のきく段階
誰かが恋と呼ぶそれ

 か・・・」

白い煙を吐き出した
夜の街は輝いてる
人通りは相変わらず多く、時々女の子の楽しそうな笑い声が聞こえてくる
明日はクリスマスイブ
煙草をくわえて、ハンドルを切った
よりにもよって、高校生の
誰かに恋してる少女にひかれなくても、と
自分で自分がおかしくなった
こういうものは、壊れたピアノと同じくして突然にやってくるものなのか
こんなにも、こんなにも突然に


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理