秘密のKISS (マスター×主)


夜の6時、あの人のお店が開く一時間前
は、聞き慣れた声に顔を上げた

「こらっ、高校生がこんなところで何してる?」

どこかおもしろがったような、明るい声
よく透るそれに、は顔を上げた
「マスターさんっ」
ぱっと顔が輝く
それが自分でもわかる
おかしい位に嬉しくて を見上げた
「あの・・・っ」
「何してるの、こんなとこで
 もしかして零一と一緒?」
「違いますっ」
大きくかぶりを振る
学校が終わって、まっすぐここに来た
彼が店を開けるまで待っていよう、と立っていた
今日はどうしても会いたかった
にとって特別な日だから
「一人? なんでまた」
怪訝そうに、は言うと、それでも鍵を開けて中にを入れてくれた
「どうかしたの?」
「あの・・・ごめんなさい、急に・・・」
何も考えず、来てしまったけれど
そうか、一人でこんなところにいたら確かにおかしい
とは、数える程しか会っていないのに
そしてそれは、いつも氷室と一緒の時たったのだし
「ごめんなさい・・・忙しい時に・・・」
「いいよ、別にたいした準備なんかしないから」
いつも適当だよ、と
は笑って、グラスに透明な液体を注いだ
「どうぞ、ちゃん」
「あ・・・ありがとうございます」
いいえ、と
カウンターの向こうでが笑う
その笑顔が大好きで、
彼の声にドキドキして
会うたびに、また会いたいと思うようになってしまった人
は、に今 淡い恋心を抱いている
「そういえば吹奏楽部だったね、これ良かったら零一といっておいで?」
「え?」
突然、思い出したようにはチケットを二枚差し出した
「これ・・・」
「お客さんがくれたんだ
 ちゃん、そーゆうの好きかと思って」
今度来たらあげようと思ってたんだよ、と
は笑って を見た
ドキとする視線
「あ、あの・・・ありがとうございます」
顔が赤くなるのが自分で分かって、は慌ててグラスの液体を咽に流した
少しすっぱい、これはグレープフルーツジュース
「あ、おいしい・・・」
「それは良かった
 特別な子にしか出さないスペシャルだよ」
「え・・・?」
その言葉に、思わずを見つめた
特別な子にしか出さない?
見上げた先で、本気なのか冗談なのかわからない顔をして、が笑う
「どうしたのさ、そんな顔して」
おかしそうに、クスクス笑って
彼は自分のグラスに冷たい水を注いだ
その手付きに見とれる
長い指
水滴がしたたってその指を濡らしていく
「マスターさんって・・・」
「ああ、ちゃん
 そろそろ名前で呼んで欲しいんだけどなぁ」
の言葉を遮り、が笑う
「俺の名前、忘れた?」
「いっ、いいえっ」
忘れたわけじゃない
初めて会った時に 教えてもらった素敵な名前
でもそんな、
親し気に名前を呼ぶなんてできなかった
だからずっと、マスターさん、と
そう呼んでいたんだけれど
「あの・・・さん・・・」
少し照れて呼んでみると、は顔をしかめて唸り
それから悪戯っぽく視線をこちらへと移した
「あの・・・?」
「下の名前で呼んでみてよ」
「え?」
「下の名前、忘れちゃった?」
「いっ、いいえ・・・・」
今度はさっき以上に戸惑った
突然どうしたのだろう
そんな気軽に、こんな年上の人の名前を呼んでもいいのだろうか
上目づかいに彼を見上げながら は口を開いた
さん・・・」
満足気に、がうなずく
「いい声してるね、艶があって俺、好きだなぁ」
「え?!」
「女の子に下の名前で呼ばれるのって、すごく嬉しいよ
 ちゃんの声好きだよ、もっかい呼んでみてよ」
まるで子供みたいな言葉に、は戸惑いながらも言われた通りにくり返す
さん・・・?」
「なに? ちゃん 」
悪戯な微笑
まっすぐに目をみつめられて、は真っ赤になった
「あ・・・あの・・・」
言いたいことがある
今日ここに来た理由
どうしても、彼に会いたかった理由
「あの・・・あのっ」
勢い込んで、は身を乗り出した
「あのっ、私 今日誕生日なんですっ」
きょとん、と
一瞬 が驚いたような顔をして、
それから ふっと笑ってくれた
「へぇ? 17才?
 じゃあもう大人だねぇ」
その言葉に、胸がどきどきする
いくつも年上の彼の目に、自分なんかてんで子供に映るのだろうなと、思ったらそれはとても切なくなるから
今の言葉はとてもとても、嬉しかった
紅潮した頬に、ツン、との指が触れる
「顔が真っ赤だよ、ちゃん」
「えっ・・・」
心臓が、口から飛び出しそうな程に驚いて、を見上げた
今 彼が触れた
思いがけないことに、今ごろ心臓がばくばく言い出した
「それで、俺に会いにきてくれたの?」
悪戯な顔
これはもう、バレてしまったのだろうか
この恋心
こんな風に突然やってきて、
今日が誕生日だから会いたくて、
考えたら、一人突っ走った変な子なのに、
は それでも呆れたりせずに笑ってくれた
「光栄だなぁ」
クス、と笑みが落ちる
それから、彼がクイクイ、と指でこちらに来るよう示した
「・・・?」
立ち上がって、身を乗り出す
細いしゃれたカウンターに、手をついたらその冷たさが伝わってきた
「17才、おめでとう」
すぐ側で 囁かれた
それが何故だなんて、一瞬で理解はできなかった
ふ・・・、と
の吐息を側で感じて、それから頬に一つ
甘い口付けが落とされた
それは、彼からの17才のバースデープレゼント

「あ・・・あの・・・・」
彼が離れると、の身体は全身の力が抜けたように椅子にポスンと落ちた
今や全身が心臓になったみたいにドキドキとしていて
どうしようもないくらい熱い
「零一には内緒だよ
 生徒サンに手出したなんてバレたら怒鳴り込んで来かねないからね」
悪戯に片目を閉じた彼を見つめると 優しい手がぽんと髪に触れる
「今ならまだ、戻れるよ?」
それは、どういう意味なのか
「いいのかな? こんな俺で」
クススクと、笑って 彼は可笑しそうにした
「やっぱりダメだって言っても、俺の方が放さないけど」
知ってた? と
彼は言うと にニコっと笑いかけた
「君が初めてここに来た時に、ちょっと、いや、かなり妬いたよ
 零一と同じ女を好きになるのは小学校ぶりだったけど、本気で妬いた
 今は、優越感でいっぱいだけどね」
かぁ・・・、とまたの顔の熱が上がる
真っ赤になったに は嬉しそうに付け足した
「17才おめでとう
 もう少し大人になったら、今度はココにね」
唇に、彼の指が触れる
それでもぅ、はどうしようもなく ただ彼をみつめるしかできなかった

17才の誕生日
好きな人がくれたのは、初めてのキス
誰にも言えない、秘密のKISS


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