86. ノック (尽×主人公)  ☆リクエスト(尽。切ない話。喧嘩して仲直り)


姉ちゃんは、高校生
俺は小学生
例えば、高校生の試験ってのは将来を左右する すごく大事なものなんだってこととか
先輩や後輩との上下関係や、友達や先生との関係のこと
嫌いな人にも笑ってあげたり
友達の好きな男を好きになったらダメだってこととか
なんか、そういう面倒くさくてやっかいな高校生事情が俺にはわからない
嫌いな奴とは友達にならなきゃいいんだし
友達の彼女だって好きになったら遠慮なく奪ってやる
テストが少々わるくたって卒業できないわけじゃなく
一番大事なのは、自分が楽しいこと
誰にも気なんか使いたくないし、そんな俺が気に入らないなら一緒にいなきゃいい
幸い、俺は天才的に世渡りが上手いみたいだから そうやって思ってても人に好かれる
だから何の問題もなくうまくやってる
姉ちゃんはそうじゃないらしく
ちょっと気が弱くて、誰にでも優しくて、人から頼まれたら断れなくて
いつもにこにこして友達も多いけれど、人がいいからよく利用される
不器用な姉ちゃんは、結局憂鬱な人間関係に悩まされてる
好きになった人が友達と一緒だったとか何とか
そんなの知らないよ
だったらやめれば? と
言った側から別の男に告白されて また悩んで
そうやって、いつも色んな男にいい顔してるからそうなるんだよ、と
言ってやったら、泣きそうな顔してた
そういう誰にでもいい顔をする高校生な姉ちゃんが 俺は好きじゃないんだ

「そういうのって、八方美人って言うんだぜ」

つまらない嫉妬
でも本音
全員に笑いかけてあげて、全員に優しくしてあげるってことは
俺にくれた笑顔も言葉も、全部全部特別なんかじゃないってことだろ
そんなの、許せない
俺は姉ちゃんが一番なのに
姉ちゃんは、俺以外に好きな人がいるんだから

夕方のおそい時間
放課後グラウンドでサッカーをしてて遅くなった帰り道、
近所の公園で 男と二人でいる姉ちゃんを見た
「・・・誰だあいつ」
尽のいい男リストに載っていないから雑魚だろう、と
思いつつ そっと近付いてみる
俯いて困った顔をしているが見えた
ああ、また男に告白されてるんだろうか
嫌になる
誰にでも期待させるようなことしてるから こうやって色んな男が寄ってくるんだよ
「ごめんなさい・・・私・・・好きな人がいるから・・・」
「・・・そっか・・・」
シン・・・とした空間で、二人気まずい会話をしている
「ごめんね・・・」
「いや、でも俺 のこと好きだから・・・諦めないでいていいかな
 好きでいて、いいかな・・・」
それだけでいいから、と
言った男の言葉にはとても困った顔をして、だが僅かにうなずいた
「ありがとう、本当に好きなんだ
 ・・・だから、これからも友達でいて欲しい」
「うん・・・」
そうして、男は帰っていく
その後ろ姿をみながらため息をついたに 尽の方こそ盛大にため息を吐いた
「きゃっ?!!」
「あんな風に期待もたせたら可哀想だろ」
「つ・・・尽・・・いたの?」
「いたよ」
戸惑って真っ赤な顔をしたを見遣って、尽は言った
ふられたのにまだ好きでいたいなんて、言う方の気も知れないけれど
それを「うん」なんて言う
「あんな奴はもっとはっきりふってやればいいんだよ
 そしたら諦めて さっさと次に行くのにさ」
姉ちゃん 余計可哀想なことしてるよ、と
その言葉には眉を寄せた
「だって・・・なんていっていいのかわからないよ」
今にも泣き出しそうな顔
には、好きな人がいて
それが親友と同じだったからって 絶交されてるんだって
「あんたには他にも好きになってくれる男がいるじゃない、私はあいつだけだもん」
そう言われたって言ってた
そうだよね
姉ちゃんには、他に男がいっぱいいて
みんなが姉ちゃんを好きで
だから、誰でもいいんじゃないかって時々思う
みんなのこと、一緒だと思ってるんだろ
俺を含めて

「姉ちゃん、その八方美人やめないと友達とかなくすと思うけど」
「どうしてそんなこと言うの?
 そんなつもりじゃないのに・・・」
「姉ちゃんがそんなつもりじゃなくたって周りはそう思ってるよ」
「そんな・・・」
暗い公園に立ち尽くして は俯いた
泣きたくないのに涙がこぼれる
ひどい言葉
本当にそんなつもりじゃないのに
みんなのことを本当に友達と思っているだけなのに
「尽・・・ひどい・・・」
ぼろぼろ、と
は泣きながらそう言うと、鞄をぎゅっと掴んで そのまま公園を出ていった
大好きな姉ちゃん
姉ちゃんが泣くのなんか見たくない
なのに、ひどいことばかり言ってしまう自分
これはつまらない嫉妬
高校生事情のわからない、子供な小学生のひがみ
大人になったら、周りとうまくやってくために嫌いな人にも笑ってあげなきゃなんないんだし
姉ちゃんは本当に天然だから 相手の男が自分に好意を持ってるだなんて、告白される瞬間までわかんないんだろう
そして、優しいから
俺にいつも笑ってくれるように、他の奴にもああやって
楽しそうに笑ってあげるんだろう
だからみんな、自分は特別なんだって錯角するんだ
姉ちゃんを好きになるんだ
俺みたいに

悶々、と
部屋に戻ってもイライラしながら 尽はのことを考えていた
尽のいい男データに載っている男の半分程が ととても仲がいい
このあいだの誕生日にはたくさんプレゼントを持って帰ってきて
それで本気で腹がたった
小学生はバイトなんかできないんだから、そんな沢山のプレゼントに俺のあげたやつがかなうわけないのに
あんなちつぽけなヌイグルミなんて、きっと霞んでしまうだろうから

ころん、と
ベッドで寝返りをうつと、がくれた目覚まし時計が目に入った
その頃流行っていた声が録音できるやつ
二人して子供みたいに 1時間もかかって録音した
笑いながら、楽しかった
側にいると、年の差なんか感じないのに
こんなに側に、こんなに近くに感じるのに
どうして、高校生ってだけで 遠くにいってしまった気がするんだろう
はば校の制服を着ているは 知らない人みたいな気がする
知らない場所で、知らない人たちと笑ってるなんて
想像しただけで嫌だ
この想いは、まで届かない
そんな気がする
「姉ちゃん・・・」
かちっと、ボタンをおしてみた
気取った声で「おはようございます」なんて言ってるメモリの他に もう一つ予備で録音できるのを知ってたから こっそり取ったデータがある
キャーキャーいいながら、今の失敗、とか
笑ってないでちゃんとしてよ、とか
普段のの声が入っている
大好きな
笑いかけてくれるのも、こんな風に優しく話してくれるのも 俺だけにだったらいいのに
他の奴なんか見ないで欲しいのに

大きく、ため息をついて
尽はベッドの上に起き上がった
泣かせてしまった
あの泣き顔が目に焼き付いている
泣いてなんかほしくない
いつも、笑っててほしい
つまらないやきもちで、ひどいことを言って
が悪いんじゃないのに
そんな八方美人が こんなにもこんなにもみんなに好かれているわけがないのに
全部全部 本当は本気でそんなこと思ってない
悔しくて、言ってしまった言葉達
ごめん、って
言ったらもう一度笑ってくれるだろうか
他の人に向けられる笑顔と同じでもいい
が泣くよりずっといい
誰よりも大好きなには、誰よりも笑ってて欲しいから

夜中の12時
いつもならまだも起きてる時間
大きく深呼吸をして、尽はの部屋をノックする


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