85. 見とれる (姫条×主)  
   ☆リクエスト(姫条。二人はまだつきあってなくて姫条が主人公にメロメロな話)


好きな人ができた
・・・・・・・・・・・・・気がする

「姫条、こないだのチケット取れたよっ」
「おぉぉぉおお? まじで?
 ええなーーーええなーーーっ、俺も行きたいやつやのにーーーっ」
「ふふ、言うと思った
 ちゃあんと2枚取ったから、一緒にいこ?」
「・・・まじで?!!!
 ジブン神様や〜天使様や〜!!!」
「大袈裟だなぁ、姫条は」

いつもの会話
いつも、こんな感じ
同じクラスでもないのに、は毎日昼休みにはウチのクラスに来て、何だかんだと話して帰る
雑誌に載ってた服が可愛いだの、今度ライブがあるだの、どっか遊びに行きたいだの
初対面で、はにかんだように笑った顔が印象的で、次に会った時に新発売のCDの話で盛り上がった
3回目は、まどかの方から声をかけたっけ
廊下で女の子数人と話してしたから
見つけた時、妙に嬉しくなったから
そしたらはパッと顔を輝かせて、教科書を忘れたから貸してくれと言ったんだった
一瞬それがおかしくて、
変な奴、だなんて思って
それから、そのさばさばした感じがとても好きだと思った
この子とは、いい友達になれそうだなんて予感がしてた
それは半分当たって、半分ハズレだったけど

「お? ・・・」
「最近おまえら仲いいな〜」
「あいつなんか可愛いやん?
 話合うし、気持ちええ子やねん」
「知ってるよ、けっこう男に人気あるんだぜ?」
「・・・え? マジ?」
「マジ」
のクラスはちょっと遠い
廊下の向こうで、誰か他の男と話している姿を見遣って まどかは苦笑した
「うーん、男はみんなおんなじこと考えるねんなぁ」
「けどはあれだ、葉月とつきあってるかもって噂」
「え?!!! マジで?!!!!!」
もう一度、遠くの姿を見遣る
背の高い男
ああ、あの一緒にいるのが葉月か
「・・・チェ、なーんや」
また苦笑して、それからつぶやいた
「まぁ、友達なんやから別にエエねんけど」
遠くで、が笑ったのがわかった
ああ、楽しそうな顔
肩までの短い髪が、窓から入る光に透けるようで それがとても綺麗だった
最初も、の笑顔に見とれたんだったっけ
くすぐったくなるような、明るい、笑顔

「なぁなぁ、自分さぁ」
「ん? 何?
 うわーなんか緊張してきたねっ、私ナマで見るのって初めてなんだっ」
「え? ああ・・・せやな・・・オレもや」
まるでデートみたいな日曜日
いい友達になれそうだと感じた女の子と、並んで歩いて、そっと手をとった
葉月とつき合ってるのか、なんて聞けなかったから
かわりに歯がゆい想いを握りつぶすかのように、の冷たくなった手を握る
「え? なに・・・?!!」
「いや、せっかくやからデートっぽくしよかなー、なんて」
「は・・・恥ずかしいでしょー」
「ええやん、今日くらいは」
「・・・ライブに免じて、今日だけだよ」
「わかってる、わかってる」
いつもの軽い会話
いつもみたいに笑ってる自分と、
いつもと少し違う、頬を染めたの横顔
誰が見ても、きっと二人は恋人に見えるだろうに
心はまどかからへの、一方通行
(なぁ、・・・)
今も楽しそうに笑いながら話すその横顔に、そっとつぶやいた
「オレとおっても、そうやって笑ってくれるんやん」
「え?」
「何でもない、こっちの話」
だったら、葉月でなく、自分でもいいんじゃないか
まだチャンスはあるんじゃないか
あんな風に がキラキラ笑うのが葉月の前だけじゃないなら
その笑顔が、彼だけのものでないのなら

好きな人ができた
・・・・・・・・・・・・・たぶん、が好きなんだと思う

よく晴れた月曜日
昨日は楽しかったね、なんて が笑って話していった日の放課後
人気のない廊下で、を見つけた
は、泣いてた
窓から入る光に、短い髪がキラキラしてて
だけど、この前みたいに、は笑ってはいなかった
初めて見た涙
泣くなんて、想像もしなかった
心が、一気に落ちていく

恋に堕ちるって多分、こういうことだ

その泣き顔から目が逸らせなかった
綺麗、だなんて
多分が聞いたら怒るようなことを思っていた
の泣き顔から、目が離せない

「姫条・・・」
静かな廊下で、まどかの存在に気付いたは、照れくさそうに苦笑した
涙に濡れた頬をぐいと拭って、それから取り繕ったように少しだけ笑う
だけどそれは、長くは続かなかった
「ごめん、帰る・・・」
潤んだ目から、大粒の雫があふれるのを ただ無言で見つめ
駆けて行く背中に、小さくため息をついた
どうしてこういう風なんだろうと、思う
確実に、他の誰かを好きな
笑顔を見せてくれても、
きっとは、自分のことでは あんな風には泣かない
には、特別な誰かがいる
そして自分は、そんなに ただ見とれるばかり

「実は葉月が好きなんだ」
「人の好みも色々やなぁ」
「何よそれー、ちょっととっつきにくいけどいい人よ?」
「まぁ、がそう言うんやったらそーやろうけど」
それから、はよく好きな人の話をするようになり
いつも心の中で苦笑しながら、まどかは曖昧に微笑し続けた
諦めればいいのに
他の誰かを好きななんて、これ以上好きにならなければいいのに
恋とは多分、そういう簡単なものではなく
まどかはに魅かれる一方
自分にはけして見せない切ない目で、彼を追い掛ける横顔を見つめるだけ

好きな人ができた
その人は、多分こっちを見ないだろうけど

切ない想いを知ってるからか、
その時 まどかは胸がぎゅっと締め付けられる程に痛かった
ぼろぼろと、涙をこぼして
自分の胸に飛び込んできた
震える身体を、そっと抱きしめた
「ふられた・・・・っ」
「・・・そりゃ、葉月はもったいないことしたな」
大好きな
葉月を好きな
いい友達として、いい相談相手として、
はいつもの調子で言ったのだ
「今から告白してくるね
 一人じゃ不安だから、ここで待ってて」
多分無理だと、笑ってた
そんなことないやろ、と 笑って見送って
誰もいない教室で 一人待っていた
の笑顔が好きだったけれど、今は同じくらい泣き顔も好き
女の子の涙って、神秘的で切なくて
まるで心の中の切なさが見えるようで、
の素顔に触れているようで
も、大概酷な女やけどな」
こっそりつぶやいて、自分の胸で泣くの髪にそっとキスした
止まらない想い
が誰を好きでも、関係ないと思える程に焦がれている
こういうのは初めてで、
だからこそ、この痛みも今は心地いい
、いつか・・・」
いつかが自分のために こんな風に泣いてくれる日が来るだろうか
想いは消えず、この先ずっとを見つめ続けて
笑顔に、見とれ続けて
けれど、本当に見たいのは この泣き顔
特別な人のためにしか見せない涙
切ない想いのかけら

「大丈夫や、
 俺がお前を好きやから」
腕に力を込めて、震える身体を抱きしめた
「だから、もぉあいつのためになんか泣くな」
ぼろぼろとこぼれる涙
明るい、らしくもないもの
あんな奴のためになんか、泣かないでほしい
「な、もぉ・・・泣きやみ」
そっと指で、こぼれた雫をすくった
そのまま、揺れる瞳を覗き込んで そっとそっと、唇をふさぐ
はっとしたような吐息を飲み込んで、熱い想いを注ぎ込んだ
の動揺が、抱きしめた腕から伝わったけれど、そんなのは無視した
葉月なんか忘れて、他の男なんか見ないで
今はこのキスだけ
ここにいる自分のことだけで、がいっぱいになるように
「好きやで、
だから、笑って、と
まどかは微笑して、濡れた唇にもう一度 優しいキスを降らせた
目に見とれてやまない、唯一の存在を映して
まだ震える、を映して


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理