79. テレビ (氷室×主)  ☆リクエスト(連載の設定で。氷室に教育番組以外のテレビを見せよう!)


と週末同棲生活をするようになって、氷室の家のテレビは今まで映したこともないような番組を映すようになった
金曜の夜は大人気のドラマ
土曜の夜はバラエティ番組の後 歌番組へ
そういう具合にが当然のようにチャンネルを回すから そんなのに興味のかけらもない零一はたいてい、がテレビを見終わるまで自室で仕事をしている
試験問題を作ったり、その他学校のごちゃごちゃした雑用をしたり

「・・・?」
その日、いつものようにくいいるようにテレビを見ていたの側を通りかかった零一は、の目からぼろぼろ涙がこぼれているのを目撃した
「ど・・・どうした」
思わずそう声をかけたら、は無言で振り向くと、ぐい、と零一の腕をひっぱった
「零一さぁ・・・ん」
頼り無い声
機嫌よくテレビを見ていたんじゃないのか、と
戸惑って零一は、の側に膝をついた
「どうした、何をそんなに泣いている」
「ねぇ、零一さん
 零一さんは余命あと半年って言われたら ちゃんと私に言ってくれるよね?
 隠して一人で死んじゃったりしないよね?」
「・・・・・はぁ?」

ぼろぼろ、と
泣きながらは、零一にとって意味のわからない言葉を口にした
何が余命半年で、
誰が一人で死んでいくって?

「何の話だ?」
「ねぇ、零一さんはちゃんと言ってくれるよねっ
 約束してっ、たとえ辛い結果でも私にはちゃんと言ってくれるってっ」
「だから、何の話をしている」
「零一さんがもし、余命半年だったら」

それは例え話なのか、と
ようやくうっすらと、の言いたいことがわかりかけた零一の目に、の肩ごし
毎週が欠かさず見ているお気に入りのドラマが映った
白衣をきた医者と患者らしき人物
二人がさっきから 余命がどうのと言っている
「・・・ドラマの話か?」
「ドラマじゃなくて私達の話っ
 零一さんは言ってくれる? 私に黙って死んじゃったりしない?」
涙で濡れたの頬に手をふれて、そのしずくをぬぐい 零一は小さくため息をついた
何を泣いているのかと驚いたが
何を急に言い出すのかと思ったが
「そうだな・・・その時にならなくては わからないな」
ほんの少し微笑して、見上げてくる濡れた目に 零一はそっとキスを落とした
「ど・・・っ、どうして?!!」
「では君は言ってくれるのか?
 君があと余命半年と宣告されたら」
「・・・わかんない・・・・」
ふとうつむいて、言ったに零一はまた微笑する
もし自分の命があと半年で、
誰よりも何よりも大切な存在を置いて、先に死ななければならなかったら
(・・・ぞっとするな)
考えただけで、ため息が出る
の泣く顔が簡単に想像できて、それは例え話でもぞっとした
世の中には、そういう運命のようなものが巡ってくる恋人同士もいるだろう
最愛の人と死別するなんて
それはどれほど辛いことだろう
「私は言わないかもしれないな・・・」
ぽつ、と
言ったの髪をなでた
その肩を抱き、背中をぽんぽんと叩いてやる
「だって、言ったら零一さんを苦しめるのわかってるもん
 半年も、零一さんが悲しい思いするなら、急に死んじゃた方がいいかもしれない」
零一の胸に顔をうずめて、は言い
その声を聞きながら 零一は目を閉じた
「でも零一さんは私に言ってね
 急に死んじゃったら私、怒るからっ」
「・・・自分は言わないのにか?」
「そう、私は知りたいの
 半年の間、零一さんのことだけを考えて零一さんのためだけに生きるの
 何も知らないで、零一さんだけ苦しい想いをするのは嫌
 私も一緒に悲しくなったり苦しくなったりして、それから幸せも半分こで
 それから・・・」
また涙声になったを抱きしめながら 零一はこっそり苦笑した
感受性が強い方だとは知っていたが ここまでとは
こんな風に例え話で泣くなんて
これ程に、想ってくれているなんて
「君が想うように俺も想う
 だから君も言ってほしい、その時がきたら」
これはただの例え話
ドラマに共感して泣いたの、不安への解答
「・・・わかった、私も言うから零一さんも言ってね」
「ああ」
約束、と
顔を上げたの唇に、そっとキスをして
零一は微笑した
誰よりも愛している
こんな風に泣くのも愛しい
その想いも愛しい
(その時がきたら・・・か)
自然、目が今もテレビに映っているドラマへといった
恋人は、自分の余命を告白しない
二人はいつも通りの生活をしている
そんなシーンに がぎゅっ、と身を寄せてきた
抱きしめて、キスをくり返す
大丈夫
二人はそうはならないから
1分でも1秒でも長く
一緒にいたいから、ありのまま本当のことを伝えて
二人はずっとこうして一緒に
手の届く場所に 存在する

「ねぇねぇ、零一さん」
「なんだ」
「あのドラマ、今日スペシャルなんだって」
「・・・そうか」
「ねっ、一緒にみよ?」
「・・・ああ」
はじめの日に、くだらないと言って一蹴したドラマ
テレビは教育版組しかみない、と
そう言って を呆れさせたけれど
「はやくっ、ここ、零一さんの席」
「・・・・・・」
手許に仕事の書類なんかを持って
チラチラ、と
時々目をやるだけだけれど、それでも
あの日から、ドラマの中の登場人物の行く末が気になって こうして金曜の夜
まるで縁のなかった番組を見ている
隣に、今日もまた目を潤ませている恋人を置いて
その横顔に微笑しながら


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理