75. 言葉 (氷室×主)  ☆リクエスト(氷室。喧嘩して仲直り。ラブラブ)


零一は車内でため息をついた
数分前まで助手席にすわっていたは、先程目に涙をためて出ていった
多分、自分が悪いのだろう
いつも優しく笑っているが、あんな風に泣くのを見たのは初めてだったから
の想いを、
自分は理解してやれなかったから

が卒業して半年が過ぎようとしていた
二人は恋人同士になり、週に一度こうして会うようになって
まだ一度も恋人に触れもしない零一に が言った
「どうして、零一さんは私にキスしてくれないんですか?」
は、零一の知っている少女の目ではなく
それよりも少し年上の、大人の女の目をしていた

「意識して、触れないようにしているのだが」

大切な恋人
いくつも年下の、このあいだまで高校生だった
傷つけないよう、細心の注意をはらって行動している
問われたことに、動揺した
だから、多分間違った言葉を選んでしまった
は、悲し気にこちらを見上げて 言った

「私、もう子供じゃありません
 ・・・ほんとはキスだってはじめてじゃないもの・・・」
その声は震えているようだったが、零一にはの様子よりも言ったその言葉が衝撃だった
容易に触れて傷つけないよう、悲しませないよう
が大人になったら、と
のことばかりを考えて、いつもいつも見ているから
「・・・そうか、それは知らなかったな」
自分でも思ったより 冷たい声だった
の家の側の公園のわき
そこに車を止めて、隣でうつむいているの腕を掴んだ
「・・・っ」
「君がそんなに軽い人間だとは思っていなかった」
の目に、涙がたまったのを見ながら、その身体を引き寄せた
まだ触れたことのない唇に 冷たいキスを降らせる
ぴくっ、と
が怯えたのにも、かまわなかった
しか見えていない自分には、今のの言葉は衝撃的すぎた

言葉に翻弄されて、盲目になる

「・・・嘘です・・・・っ」
はじめてにしたキスは、
優しさのかけらもない、一方的で激しいキスだった
ぼろぼろと涙をこぼしながら、ようやく解放されて、は言った
「嘘に・・・決まってるじゃないですかっ
 私、3年間ずっと零一さんだけを好きだったんだから・・・っ」
そして、は車を飛び出して
そのまま家の方へと走っていってしまった
零一には、おいかけることができなかった

何度目かのため息に、零一はようやく顔を上げた
そのまま車を降りて、の家の方へと向かう
恋人にキスもしなかった自分
突然に、そんなことをしてが傷ついたら、と
臆病になっていたのだろう
まだ少女のを汚したくない、と
触れられることを求めているの想いに気づかなかった
失うことや嫌われることばかりに怯えて
を、傷つけることを恐れて
「そして結局、泣かせてしまった」
最低なことをした
の言葉
キスなんかはじめてじゃない、と
それは氷室の心を踏みにじった
大切に想っていたに裏切られたような気持ち
言ったの想いにまで、気を回す余裕がなかった
相手がでなければ、もっと冷静に対処できるのに

暗い夜の下、は家の前に立っていた
・・・」
ああ、ここで待っていたのか
自分が来るのを
来なければ、一晩だって立っていただろう
一途で、まっすぐで、素直なが好きだと感じた
は何度も好きだと言ってくれたのに
3年間あたためつづけた想いを、伝えたいんだと言って 恋人同士になってからも、何度も何度も繰り返してくれたのに
「零一さんは・・・まだ私のこと・・・好き・・・?
 卒業式の時に聞いたきりで、時々不安になります・・・」
の声はまだ震えていた
「私・・・零一さんに触れてほしい
 もっと好きって言って欲しい
 ・・・好きじゃないからキスもしてくれないの?
 私・・・零一さんになら 何だってしてあげられるのに」
ぼろぼろと、涙がこぼれていくのが見えた
いたたまれなくなって、その身体を抱きしめる
を好きでなくなるなど、あるわけがない
日に日に、想いは増していくのに
触れたい衝動を、必死で押さえているのに
「零一さん・・・」
震える身体を強く強く抱きしめた
愛おしさが溢れ出す

涙で濡れた頬に まだ滑っていく雫を指にぬぐい、
零一はそっと、その唇に自分の唇を重ねた
ありたけの想いを込めて、愛しさを込めて
何度も角度を変えて、そのたびにこぼれる吐息を飲み込むようにして
が立っていられなくなるくらい、
熱いキスを繰り返した
「あ・・・零一さん・・・」
震える身体
それを抱きすくめて、だが逃がさない
押し込めていた分だけ、一度解放してしまったら止まらなかった
何度も何度も、に触れる
舌を滑り込ませ、戸惑うのをからめとると 今度こその身体から力がぬけた
「ご・・ごめんなさい・・・」
強い腕に支えられ、が真っ赤になって胸に顔をうずめてくる
「すまなかった・・・
結果傷ついた
こんなにも想ってくれているのに、疑ったり、ひどい言葉を吐いたり
どっちが年上なんだかわからないな、と
こっそりため息をついたら、が少しだけ笑ってくれた
「私も、ごめんなさい」
それは嘘をついたことについてか
腕の中で、は目を閉じた
「零一さん、大好きです
 ・・・時々でいいから、零一さんも、言って・・・?」
人は相手の心が読めないけれど、かわりに想いを伝える言葉を持つ
それは、恋人にきっと甘い時間をもたらす
「・・・愛してる、
零一にとっては、苦手なことだけれど
それでもを泣かせるよりはマシだと感じる
身体中の熱が上がり、鼓動がいつもの倍くらいに跳ね上がる告白も、
が泣いて出ていってしまうのを見るのに比べたら
「愛してる」
そっと囁いて、零一はもう一度 にキスをした
優しい、キス
傷つけてしまった心を癒すように、甘く囁いて
この言葉が、二人をずっと結び付けてくれるように

「好きです」
「愛している」

戸惑いがちに、恥ずかし気に、切ない想いをこめて、だが愛おしく
伝える言葉は、互いの距離を近付ける
それは人だけに許された、愛の魔法


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