72. 贈り物 (氷室×主人公)  ☆リクエスト(氷室。誕生日の幸せな話)


成績優秀、スポーツもまずまず
周りによく気をまわせる 先生方からの信頼も厚いの、様子が最近おかしい

、あとで数学準備室へ来なさい」
放課後のHRのあと、そう言い残して教室を出た氷室は、秋色に色付きはじめた窓の外の景色に目を移した
最近少し寒くなってきた
どうも流行りの風邪をひいているらしいは、今日もつらそうに授業を受けていた
朝、廊下で見かけた時に頬が赤かったから 熱でもあるのかと聞いたら笑っていたっけ
大丈夫だと言って
ちょっと走ったからそのせいだと言って、

どさ、と
教科書を自分の机に置いて、氷室は窓を開けた
職員室から少し離れた場所にあるこの3階の数学準備室は、今誰もいない
やはり流行りの風邪で欠席の先生が一人
もう一人は月曜日はクラブの日だから、と早い時間からここにはいない
ここならゆっくりと話ができるだろう、と
一人、開けた窓から入る風にあたっていた
そこに控えめなノックの音
返事をすると、が中に入ってきた

「先生、来ました」
にこ、と笑って は言った
帰り支度を整えて、手に鞄を持っている
「座りなさい」
「はい」
他の先生はいないのかときょろきょろするのが可笑しくて、ちょっとだけ微笑した氷室は の髪にそっと手をふれて それからその紅潮した頬にくちづけた
「!!」
「大丈夫だ、私しかいない」
「・・・そ、そうですか・・・」
見上げてくるの顔が赤いのが可愛いくて
氷室はが側のソファに座るまで その顔を見ていた
自分のクラスの生徒であると、恋人という関係であることは他の誰も知らないこと
夏に想いを告げあってから二人
人前で言葉にできない想いを、しぐさで、視線で交わしあってきた
だからこうやって、側に他人のいない時 ふ、と氷室はに触れたくなる
可愛くて仕方のない、優秀な
どの先生にも評判のいい 氷室の自慢の生徒
「・・・そうだ、
「はい」
ふ、と
ここにを呼んだ理由を思い出して氷室は声のトーンをわずかに下げた
「最近調子が悪いようだな
 このあいだの数学のテストも点数が下がっていた
 あんな復習テストで君らしくもない
 聞けば他の教科でもそうだというじゃないか
 ・・・どうかしたのか? 何か悩みでもあるのか?」
教師用の顔になった氷室に、は一瞬姿勢を正して
それから困ったように俯いた
「えっと、ちょっと体調が悪いから・・・ちゃんと勉強ができてないだけです
 治ったら・・・大丈夫ですから」
悩みなんてないですよ、と
微笑して、また困ったような顔をした
「そうか・・・だったらいいが
 やはり熱があるようだし、そんなに辛いなら明日はゆっくり休みなさい」
「あっ、いえ・・・大丈夫です」
カタン、と
席を立ちの側まできた氷室に、は慌てて言った
「休むほどじゃないんです
 ただちょっと風邪をひきずってるだけで・・・っ」
熱もないし、と
その言葉に 氷室は苦笑して顔をしかめた
「そういう嘘が私に通じると思っているのか?
 触れたらすぐにわかる、君の平熱はこんなに高くはない」
かがみこんで、唇にそっとキスされて
うるんだ目を覗き込まれた
「そうまでして学校に来ようとする姿勢は感心するが、それでは君の体調がよくならないだろう
 受験も控えているんだ
 成績が落ちるようでは試験も危ないぞ」
「はい・・・」
震える声でうなずいたに、氷室はもう一度キスをして
それから苦笑した
「今日は送っていく
 明日は休むように」
すぐ側で、うつむいて返事に困っているの髪を撫でて
頬の赤い恋人に 氷室はやれやれとつぶやいた
学校に来てくれるのは嬉しいが、こんな辛そうなのでは意味がない
大事な恋人が 無理をして悪化してしまったら、と
氷室はそれが心配でたまらない

その日、を家まで送った後 氷室はもう一度学校に戻って仕事をしていた
夜の8時
そろそろ帰ろうかと、車を出して
いつもの道が工事で込んでいたから回り道をして、公園の方を通って帰った
そしてそこで、を見つけた
可愛いピンク色の制服をきて、まどかと二人歩いている
一体何ごとか、と
氷室は目眩を感じた
今見たことが、理解できない

次の日、やはりは登校していた
朝のHRの時に、顔を見たらはにかんだように笑っていた
それが無性に腹立たしくて
心配している自分の想いが ひとりカラ回りしている気がしてイライラした
だからHRの後、名前を呼んでそのまま廊下に出て
驚いたように走ってついてくるに 手加減ができなかった
すぐに授業が始まるから 廊下に出ている生徒などなく
シン、とした人気のない踊り場で 氷室はの腕を乱暴に掴んだ
熱い身体
まだ熱があるのだろう
昨日あれだけ休むよう言ったのに
わざわざ家まで送ったのに
その後は何をやっていたのだ
公園で、あんな格好をして、まどかなんかと

「君にとって、私の言葉は無意味なのか?」
イライラが、声に出た
冷たい色をしたそれに、が驚いて氷室を見上げる
「え・・・?」
「昨日、私は休みなさいと言ったはずだが」
「あ・・・でも、今日は英語が先に進むので・・・」
「そうか、では昨日は何をしていた
 私が家まで送り届けたのは余計なお世話だったか
 家ではなく公園へ送るべきだったか?」
戸惑いの表情が、一瞬ではっとしたような顔に変わるのを見ながら 氷室は必死に理性を保とうとしていた
を想っているこの気持ちは、夏からずっと大きくなる一方で
この年の差で、生徒と教師という立場だけれど
それさえも関係ないと言える程に 互いに想いあっていると信じていた
も同じ様に あの夏と変わらない気持ちで自分を想ってくれていると思っていたけれど
「あ・・・あのっ、違うんです・・・っ」
必死に、
今にも泣き出しそうにが言った
頬が赤いのは熱があるせいで、目が潤んでいるのも辛いからなんだろう
のことは毎日見ている
だから、いつもと様子が違えばすぐに分かるし、それはとても気になった
授業中うつむいているのが多いと 体調が悪いのかと心配するし
休み時間に笑ってるのをみかけたら、こちらまで幸せな気持ちになれた
こんな風に想っているのは自分だけなのか、と
氷室は、今にも泣き出しそうなの顔を見下ろした
泣きたいのはこちらの方だ
あんな風に他の男と歩いているのを見せられて、どう理解していいかわらなくて
悶々と過ごした一晩
のことばかりを考えていたのに
「あの・・・ごめんなさいっ
 昨日は・・・バイトの帰りで 私姫条くんと何かあるなんてそんなこと絶対ないですっ」
「バイト?
 君はバイトなどしていないだろう」
「あの・・・1ヶ月だけ姫条くんに紹介してもらって・・・公園のクレープ屋さんをしてたんです
 昨日が最終日だったから、だから・・・っ」
だから昨日は公園にいたんだと、は今にも泣き出しそうな声で言った
「先生・・・ごめんなさい
 黙ってたのは・・・」
黙ってたのはどうしてか、と
の言葉を聞く前に 氷室は大きくため息をついた
バイトをしていたから、成績が落ちたのか
公園で夕方に?
秋とはいえ、夜は冷えるから それで風邪をひいていたのか
治りきらないのはそのせいか
ゆっくり休む暇もなく、無茶なシフトでやっていたのだろう
そうまでして、氷室に秘密にしてまでして
一体どうして、と
言葉にしようとして、氷室ははっとした
ごめんなさい、と
言いながらの目からほろほろと涙が落ちた
ああ、泣かせてしまった
こんなに年の離れた少女を、泣かせることしかできないなんて
・・・泣かなくていい・・・」
遠くで、一時間目が始まるチャイムが鳴った
を教室に戻さなければ、と
頭のどこかでそう考えたが 目の前で泣くを見てそれは言葉にはならなかった
そのまま、震える身体を抱きしめた
何か理由があるなら言って欲しかったのに
体調を崩してまで、成績を落としてまで
やらなければならないバイトだったのなら、相談してほしかった
自分ではなくまどかに相談し、バイトを紹介してもらったというのがまた気入らなかった
自分では、頼りにならないのだろうか

ぽんぽん、と
熱いの身体を抱きしめて、氷室はそっとその唇に口付けた
「先生・・・嫌いにならないでください・・・」
「嫌いになどなりはしない」
「じゃあ・・・許すって言ってください」
「・・・何がだ」
「先生に秘密にしていたこと・・・」
「・・・・・許す」
むす、と
眉間に皺を寄せながら そんなことより今はの身体が心配な氷室は 少しだけ笑ったを見下ろした
「よかった・・・」
「よかったではない
 英語が心配なら補習をしてもらえるよう私が頼んでおくから、今日はもう帰りなさい」
「あ・・・はい、えと・・・違うんです」
「何が違うんだ」
「あの・・・そうじゃなくて・・・
 今日は先生の誕生日だから・・・」
「は?」
は? と
今度こそ がわからなくて氷室は動きをぴた、と止めた
そしての言葉を頭の中で繰り返してみる
誕生日? 誰の? 自分の?
(今日は何日だ・・・)
教室のカレンダーを思い出して、そうだったか、とつぶやいた
誕生日など、昨日のことで頭からすっかり抜けていた
のことばかりで、自分のことなど考えている余裕はなかったから
「だから・・・来たかったんです
 英語は口実です・・・ごめんなさい」
また嘘をついたのか、と
苦笑して、氷室はため息を吐いた
「私の誕生日を祝ってくれるなら 元気になって祝ってくれるのが一番嬉しい
 そんな熱がある身体で無理をされても嬉しくはない」
「でも・・・会いたかったんです」
他の人に一番に言われるのは嫌だったから、と
はやっと、にっこり笑った
「先生の好きそうなクラシックカーの可愛いアンティークがあったんです
 プレゼントしたくて、バイトしちゃいました」
そしてその言葉に、
にこっと笑って言ってのけた言葉に 氷室は盛大に目眩がした
ああでは何か、
の成績が落ちたのも体調が悪いのも
全部全部自分のせいか
「・・・誕生日などなければいい」
まるで呪いみたいにつぶやいて、氷室はの身体を抱き上げた
「きゃ・・・・っ」
「バカらしい
 私は体調を壊してまでプレゼントを用意して欲しいとは思わない
 君は強制送還だ
 家に戻って一刻も早く治しなさい」
むっすり、と
不機嫌な氷室に は少しだけ笑った
「私が先生に何か贈り物をしたかったんです
 特別な人の特別な日だから
 誕生日って、そういうものだと思います」
そっ、と
その肩に頬を寄せては言い、
恋人のいじらしい行為に 氷室は怒りと喜びの混ざった複雑な心境をどう処理していいかわからないでいた
「君が元気になるまでプレゼントは受け取らないからそのつもりで」
「すぐに元気になりますよ
 バイトが寒かったから引きずってただけです」
「だったら早く治しなさいっ」
「はい」
無断で学校を出て車を走らせる氷室と
その横で はにかんだように笑う
想いを交わしあった時から 二人同じ想いでいることはわかったけれど
「今後無理はしないように
 私は君が側にいてくれるだけで、充分だ」
「はい」
若さか、そういう性格だからか
少し無茶をしがちなに、氷室はこっそりため息をついた
高価なプレゼントも、当日の祝いの言葉もなくていい
が側で笑っていてくれるなら

次の日 は見事完治
かわりに何度かのキスで風邪をもらった氷室が いつもより少し憂鬱そうな顔をして登校した
元気そうなを見て安心したように笑って、それから手渡されたプレゼントの箱に視線を落とし、コホンと辛そうに咳き込んでつぶやいた
「余計な贈り物が、ひとつついてきたようだな」


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