70. 縫いぐるみ (鈴鹿×主)  
    ☆リクエスト(鈴鹿。不器用な主人公が鈴鹿の誕生日にヌイグルミを作る話)


どういう時、女の子のことを可愛いと思うか?
自分のためにタオルを持ってきてくれたり
弁当作ってくれたり、一緒に帰る時楽しそうにしててくれたり、笑ってたり
みんな、そう言って そういう女の子達がどんなに「可愛いか」を語り合ってた
恋愛とか女の子とか、面倒くさくて照れくさいけど
俺だって思うことがある
こういう時、あいつのこと、可愛いなって

「お前でもこーゆうことできんだ」
「できるわよっ、こないだの言葉撤回してもらうからねっ」

放課後、誰もいない教室で、
そう言ってどこか勝ち誇ったような、でも恥ずかしいのを隠すような口調で言ったのは同じクラスのだった
手にクマのヌイグルミを持っている
その顔がいびつに曲がってるのとか、手や足に縫い目がガタガタと見えてるのとか、
腹や背がぼこぼこと綺麗に綿が入ってないのとか、
一目でなんか変だってわかるようなものでも、それは何とかヌイグルミに見えて
その茶色いのはクマなんだろうってわかった
「私のこと不器用って言ったの撤回して」
「・・・・・・でもこれ、相当かわいくねーよ」
「なっ、なによっ
 そんなことないわよっ」
「・・・こことか歪んでるし 他の奴が作ったのはこんなぶさいくな顔してなかったぜ」
「・・・・・」
なによ、と
強気に返すのかと思えば、は手にもったヌイグルミをじっと見つめた
一ヶ月前、家庭科の時間でヌイグルミを作るって言うから 笑って軽い気持ちで言った
「おまえみたいな不器用な奴には無理だって」
あの時こいつは怒って そんなことないって言って
それから和馬が、そう言ったことを忘れてしまっていた今日、できあがったといってこのブサイクなくまを持ってきた
誇らし気に

「・・・そんなに変かな」
「変だろ
 他の女子が作った奴見たけどもっと愛らしいってのか?
 なんかちゃんとヌイグルミの顔してたぜ?」
それはクマっていうより つぶれた饅頭に耳がついてる感じだな、と
いつもみたいにケタケタと笑ったら は眉を上げて何かを言いかけた
いつもみたいに、二人してポンポン軽口を叩きあって笑うと、思った
でもは笑わなかった

「ちぇ」
力なく、ヌイグルミを自分の顔の前に持ってきてため息をつく
「すっごい頑張ったのに
 先生だって50点しかくれなかったし、私やっぱり不器用なのかなぁ」
情けないような、落ち込んだような
めったに見ないの顔に、和馬は驚いてまじまじとその顔を見つめた
「いや、そんな真剣に悩むことかよ
 たかが家庭科で」
「あんたが不器用って言ったんでしょ」
「別に俺が不器用って言ったくらいで」
「・・・何よ、どーせ女の子らしくないとか思ってんでしょ」
「女の子らしいとは思わねーけどいいだろ別に、そんなもん作れなくても」
「よくない」
小さな声でつぶやいたは、またため息をつくと苦笑を漏らした
バスケ部の子が、和馬は女の子らしい子が絶対好みだと言っていた
あいつ見てたらそういう感じがする、と
何の根拠もない話だったけど、それでもやっぱり気になった
だから、和馬に言われた時にショックだった
「おまえって不器用だなぁ
 そんなんで嫁に行く時どーすんだよ」
いつもの軽口で、和馬に悪気はなく
むしろ二人はそういう けなし合いみたいな会話が気軽にできるような友達だから
何もこんなに真剣に悩むことはなかったけれど
「家庭的な女の子って男にとったらやっぱり憧れだから」
男の子達の言葉が頭から離れなくて
やっぱり和馬も、そういう子が好きで
不器用な自分なんか相手にされないんじゃないかと思って
ちょっと悲しくて、
ちょっと切なくて、

「ちぇ・・・」
ため息をついたに、和馬は居心地悪気に眉を寄せた
「なんだよ、らしくねーなぁ」
「ふんだ、いいもん
 捨てちゃうから、こんなの」
「何も捨てることないだろ」
「だってこんなブサイクなの飾ってもしょうがないじゃない
 私だっていらないし、ヌイグルミなんか」
強がってように思える声とか
傷ついてるのに平気な振りして、ベーッとか言ってるのとか
ずっとばっかり見てたからなんとなくわかる
は自分の軽い気持ちで言った言葉に傷ついてしまっている
「・・・かせよ」
「え? 」
ぶさいくなクマのヌイグルミ
一ヶ月もかかって、家庭科は2だとか言ってたのに、一応はちゃんと形になってるし
何より女の子にとって、不器用だとか、お前には無理だとか
そういう言葉は自分が思っている以上にキツいのだろう
わからないから、
女の子なんか苦手だし、面倒だし、女じゃないから気持ちなんてわからないし
だけどは本当に気が合って、気を許していたから
これくらい平気だと思って本当に軽い気持ちでからかっただけ
こんな風な、切なそうな顔をするなんて思いもしなかったから

「しょーがねぇから俺がもらってやるよ」
「え?」
「まぁよく見ると愛嬌があるってゆーかなんてゆーか
 まぁ、見てて飽きねー顔だろ、こいつ」
半ば奪い取ったヌイグルミの、やっぱりブサイクな顔を見て苦笑した
ごめん、なんて照れくさくて言えないし
今さら、傷つけたよな、なんて
そういうことをあらためて言うような間じゃなくて、謝れないから
「俺の誕生日プレゼントってことにしとけ」
「・・・・あんたの誕生日、一週間も先でしょ」
「いいんだよ、もらってやるって言ってんだからっ」
多分、自分も赤くなってると思いながら 和馬はの顔を盗み見た
泣きそうな顔をして、真っ赤になって
でも、いつもみたいに強気に言葉を言おうとして、失敗して何も言えなくなってる
「も・・・もらったからには捨てたりしないでよっ」
「わかってるよ」
照れくさそうに二人して顔を気まず気に見合って、それから笑って
目の端に涙なんかためてるに、体温が少し上がるような気がする
こういうを、可愛いと思う
こういう、普段うるさいくらいのくせに、今 何も言えないでいるが、
なんかすごい、ツボにはまる
他の奴らが言ってたようなのじゃなくて、自分はこういう時 を可愛いなんて思う

二人して、チャイムの鳴り響く校舎を後にしながら、が悪戯っぽく笑った
「ねぇねぇ、じゃあアンタのために買ったプレゼントはもういらない?」
「は? 」
「だってさっきのクマ、誕生日プレゼントにするって言ったでしょ?
 私ちゃんと買ってあるんだけどなぁ、試合用のスポーツタオル」
「そっちもいるに決まってんだろ」
「えー? プレゼント2個もいるの?」
「俺のために買ったんだろっ
 おまえ持ってこいよ?!!
 持ってこなかったらコレつっ返すぞ」
「ぶっぶー、もう時効です
 鈴鹿はそんな可愛いクマちゃんを捨てたりしないよね〜?」
「どこが可愛いんだよっ、このブサグマっ」
「ひどい〜!!!
 苦労したって言ったでしよーっ 」
「お前が不器用だからだろっ」
「じゃあアンタが作ってみなさいよっ
 けっこう難しいんだからっ」
夕陽射す帰り道に、楽し気な声が響く
どっちも素直になれないまま
それでも、素顔に近い気持ちで一緒にいられる相手だから
こうやって、軽口をたたきあいながら、二人は帰る
まだ片思いの、帰り道
和馬の鞄の中には、これから毎日顔を見る 失敗作の不似合いなヌイグルミ


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理