66. 毛糸 (日比谷×主)  ☆リクエスト(日比谷。主人公が日比谷を好きになりかける話)


運命の赤い糸なんか信じない
だって、だったらどうしてあの人はこっちを向いてくれないの?
どうして私を好きになってくれないの?

「どうしたんスか? 先輩」
「別に・・・」
泣き腫らした目が痛い
なんだかまぶたが熱くて、視界も曇った感じ
今日ふられた
先輩は、同じ学年に好きな人がいるんだって
「うわ?! 目真っ赤っスよ?!!」
「うるさいなぁ、何の用よぉ
 もぉ練習終わったんだからさっさと帰りなさいよ」
クラブの後、先輩に告白して
夏からずっと編み続けていたマフラーを渡した
好きです、好きです
私の気持ちがいっぱいつまった、贈り物
「それ・・・何してんスか?」
「見たらわかるでしょ
 ほどいてんの、もぉいらないから」
「なんか大変そうスね、自分どうせ帰っても暇っスから手伝いますよ」
「いいわよ、別に」
「まかしといてくださいよっ、これでも手先は器用なんス」

どこがよ、と
5分もしないうちに、指に手に毛糸をからませている渉にため息をこぼしつつ は泣きすぎてしばしばしてしまっている目をこすった
野球部で大活躍していた一つ年上の先輩
その人に憧れて、野球部のマネージャーになった
毎日話したり、練習を手伝ったり、時々一緒に帰ったりして
なんとなく、いい雰囲気だなぁ、なんて思ってた
いつのまにか大好きになった人
きっとこの人とは赤い糸で繋がってる、なんて思ってた
笑いかけてくれる先輩の目が、とてもとても優しかったから

「あーあ、所詮学年が違うと恋愛なんか成り立たないのかなぁ」
「え? そんなことないっスよ」
「だって先輩は私のことなんか妹みたいにしか思えないって言ったんだもん」
「それは先輩に見る目がないんスよ
 先輩みたいな人フるなんてもったいないっスよ」
「そう思う?」
「思うっス」
いつのまにか、話しはじめたと、
真面目な顔をして、聞いてくれる渉と、
二人は淡々とマフラーの毛糸をほどきながら、お互いあまり顔も見ずに言葉を交わした
大好きだった気持ちを、全部ほどいてしまおう
そうして、先輩のことを忘れてしまおう
いっぱい泣いたから
自分じゃダメなんだとわかったから
この気持ちは捨てなきゃならない
「ほんとっスよ
 ジブンの学年では先輩モテてるっスよ
 ・・・可愛いって・・・その、みんな言ってるス・・・」
制服のシャツの袖のボタンにからまった毛糸を外しながら、渉が少しだけ頬を染めたのには小さく微笑した
「年下にモテてもなぁ」
「え?!! 年下嫌いっスか?」
「別に嫌いとかじゃないけど・・・やっぱりなんか弟みたいだし」
「・・・そんな、それじゃ先輩と一緒じゃないスか」
「え? あ、ほんとだ」
「ひどいスよ、
 じゃあ先輩は年下は恋愛対象にならないっスか?」
「えー・・・、考えたことないからわかんないよ」
「・・・」
じっとりとこちらを見上げた渉と目があって、は慌てて苦笑した
「だって、ほら、私ずっと先輩ばっかり見てたから」
「ジブンは学年が違っても 恋は成立すると思うっス
 どんな恋愛も、成立するっス!! そう信じてるっス!」
「そうだね、そうだよね」
「そうっス」
また手許に視線を戻した渉に、も手許を見つめた
編むのにあんなに時間がかかったのに、ほどく時はこんなに簡単
今、ここに渉がいて良かったと思う
こうやって話をしながら、
好きだったのになぁ、なんていいながら
だから泣かずにいられる
多分独りだったら、また泣いてしまったかもしれない
悲しくて悲しくて、
好きだと言ってもらえなかった自分が寂しくて

どれだけ時間がたったのかわからなかったけれど、は大分長い間物思いにふけっていた
その間も渉は黙々と、がほどいた毛糸をくるくる玉に巻取っている
外の風が少し強くなって、遠くで下校時間を知らせるチャイムが鳴った
それで、の思考が戻ってきて、思わず、手許の毛糸を強くひっぱった
本当に無意識に
「え?!!」
「あっ、ごめんっ」
もうほとんどほどけてしまったマフラー
の手許に残った分以外 きっちり巻取ったその毛糸玉がころん、と渉の手から転がり落ちた
「わわっ」
「あーっ、せっかく巻いたのにーっ」
「先輩が急にひっぱるからっスよー」
慌てて二人して拾い上げようとしゃがみ込み、
それで今度は二人の頭が思いきり、ぶつかった
「いたーっ」
「あいたたっ、先輩大丈夫っスか?!!」
ごちっと音がした、と
目の前がくらくらするのを必死に耐え が顔を上げると 転がった毛糸玉を掴んで渉がすぐ側で笑った
「あはは、ジブン石頭っスから」
「何がアハハよー」
おでこを押さえて立ち上がる
それでまだ、座ったままの渉の持ってる毛糸玉に引っ張られた
「きゃあっ」
「わわっ」
するする、と手の中のマフラーのはしっこがほどけてからまる
ぐんっ、と腕ごと取られたは 転けるのを寸ででこらえて息をついた
「アンタも早く立ちなさいよ」
繋がってるんだから、と
ふと、自分の指先に視線をやる
指に絡まった赤い毛糸
渉が大事そうに持っている毛糸玉に、それは繋がってる
一瞬、世界が制止した気がした
ふと、音が消えるうるさい風の音も、ざわざわいってる生徒達の声も
そして視界だけが澄んで見える
繋がった毛糸、鮮やかな、色
側で、突然、笑い声が聞こえた
映画みたいにはっきりと、それは耳に届いた

「これってなんか赤い糸みたいっスね」

まるで子供っぽい笑顔
何よ、こんな時に
私はふられたんだから
これは大好きな先輩にあげるために作った 気持ちのいっぱい入ったマフラーだったんだから
「・・・・・ばかなこと言わないでよ」
それでも、ぼろぼろ涙がこぼれた
ああ、あんなに泣いてもぉ涙なんか出ないと思ってたのに
どうして、そうやって優しいこと言うんだろう
先輩に、好きだよって言ってもらえなかった私なのに
「わわっ、泣かないでくださいっっ」
慌てたような渉の声が、耳にくすぐったかった
オロオロして、どうしていいのかわからなくて、
私と繋がった毛糸玉を持って、こっちを見上げて眉を寄せた
先輩・・・」
学年が違うと、ちょっと不利だと思う
教室でのアナタを知ることができないし、
どれだけ神様に祈っても、同じクラスにはなれない
勉強だって一緒にできないし、行事だってバラバラ
だけど、だからこそ側にいられる時 幸せだと感じるんだろうな
新鮮で、いつも新しいことの発見で
いろんなところが見えてきて、それを好きだと感じたり
優しいなぁ、なんて泣けてきたり
「日比谷くんて、意外にロマンチスト?」
泣きべそで言ったら、不思議そうな顔で渉はこちらを見つめただけだった
「ただのスポコンかと思ってた」
「え?! それはどういう・・・」
「それに優しいね」
「え・・・?」
いつまでも涙が止まらない私と、真っ赤になった一つ年下の後輩
とっちも多分 不器用だと思う
でも二人とも、同じくらいまっすぐなんじゃないかなぁ
「ありがと」
「え? 」
ありがとう、今、側にいてくれて
赤い糸だなんて、笑ってくれて
どんな恋だって叶うと、言ってくれて
視線を落とすと、未だからまったままの毛糸
繋がったまま、先輩への想い出を断ち切るように
「うん、赤い糸みたい」
くす、と
は笑った
3秒後、渉も同じ様に照れくさそうに笑って、二人は顔を見合わせた
赤い糸
きっと誰かと繋がっている
運命の人は、すぐ側で笑っているかもしれない


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