62. 指輪 (氷室×主)  ☆リクエスト(氷室。ラブラブ。キスあり)


放課後、クラブの後の音楽室
いつもなら、が日溜まりの中 窓の外を見ながら零一のことを待っている
もしくは楽譜をめくりながらメロディーをたどったていたり、
弾けもしないピアノの鍵盤を一つ一つならしていたり、
零一がドアを開けた時のの仕種や行動が 可愛らしくて、愛おしくて
金曜の放課後は、一緒に帰うと約束している二人の
その幸せの始まりは 待ち合わせの場所であるこの音楽室だった
だが今日は、の他に 誰かいる

さんって、誰ともつきあってないよね?」
同じく吹奏楽部の男子生徒の声に、零一は廊下で足を止めた
と零一が想いを寄せあい 二人誰も知らない「おつきあい」をはじめて半年ほどがたつ
教師と生徒であることに、抵抗を感じながら違いに想いを否定できなかった
あまりに魅かれたに、想いはつのる一方で
が、誰かのものになるのが耐えられなかった
だから、好きだと伝えた
そして、二人は今 同じ想いを確かめ合っている

「え・・・?」
「よければ僕とつきあってほしい」
男子生徒の言葉は、零一の予想した通りにに告げられた
いつも優しく笑ってるは、零一が知る限り男子生徒に人気があるようで
それは常に、零一の意識するところであった
どう考えても、他の生徒達の方が有利で
たとえ二人が想いを通わせ合っていても、その関係は誰にも言えるものではなかったから
それは、二人だけの秘密だったから

「私・・・好きな人がいるの・・・」
困ったような声で、は言った
「うん、でも・・・その人とつきあってるわけじゃないんだよね?
 僕 さんのこと好きだから・・・絶対悲しい想いなんかさせないよ
 つきあってみて・・・決めてもいいんじゃないかなぁ」
零一に言わせれば、一体どこからそんな自信に満ちた台詞が出てくるのか
絶対に悲しませない、など
本当にできるのか、と
心の中で舌打ちした
こういう場面にでくわすのは、実は初めてではない
はもてるから、何度かそういう話を聞いた
そのたびに、が断っているのを知っているし
二人が結ばれているのも事実だから、気になどしなければいいのだが
(・・・・・・・)
おもしろくないため息を、零一は吐き出し天井を見上げた
音楽室の中では会話が続く
「ごめんなさい・・・私・・・つきあえないの・・・」
つきあっている人がいると言えれば、もっと楽だろうか
戸惑ったような、今にも泣き出しそうなの声は 零一の心を憂鬱にした
二人、教師と生徒なんかでなければ こんな虫がに寄ってこないよう
は自分のものだ、と
世界中に公表したっていいのに
今すぐ出ていって、言ってやってもいいのに

「君は、今の状況に満足しているか」
帰り道、を家まで送りながら 零一はポーカーフェイスを装って聞いた
ああいうことがあった後は、はいつも元気がない
「え? 」
明るく振る舞おうとして、いつも通りに笑おうとして失敗している
誰かの想いを断ってしまうことに、優しいは傷ついてしまうのだろう
わからなくもないが、それは零一にとっては面白いことではなく、
それでつい、おとな気ないと分かっていても言ってしまう
「彼の言うとおり、ためしにつき合ってみてもいいかもしれないな」
前を向いたまま、いつもの声のトーンで
驚いたように目を見開いたが こちらを見上げたのが視界の端に映った
「君も教師などとつきあっているから、そういう嫌な思いをするのだろう
 同級生とつき合えば、隠すことなどなく、恋人がいると公表していれば他の男が寄ってくるようなことも少なくなるだろう」
自分でも、何を言っているのか
苦笑しながら零一は呟いた
「君はいつか後悔するかもしれない
 ・・・私とつきあっていても 他の生徒達のように毎日一緒に帰ったり、休日にでかけたりはできないだろう」
愛しくて、
いつくも年下の生徒に惚れた自分
一生懸命クラブに励んでいるのも、勉強を頑張るのも、好感が持てた
ふわっと、笑った顔から目が離せなかった
ああ、相手は生徒だというのに
こんな風に魅きつけられて
こんな風に目が離せなくて
いつしか、が他の男子生徒と話をしているだけで 気が気ではなくなった
嫉妬して、独占したいと思って、
止まらなくなった
を想っているのだと、確信した
そして 想いは消えなかった

「どうしてそんなこと言うんですか・・・」
震える声でが言った
きっと、泣き出しそうな顔をしているんだろう
今日の男子生徒の告白にも、最後には涙声で言っていたっけ
ごめんなさい、
ごめんなさい、
好きな人が、いるから
「君のためを思って言っている」
あまりにしつこかった告白は、零一の心に苛立ちと焦りを生んだ
表向き、誰ともつき合っていないことになっているは、当然つきあっている人がいるから、と告白を断ることができなかった
好きな人がいると言っても彼は聞かず、
つきあえないと言っても引かなかった
のような子が誰ともつきあってないなんて勿体無い、と
みんなとつきあいたいと思っているんだと彼は言った
ためしにつき合ってみてよ、と
その言葉は不快きわまりなかったが、
同時に自分の存在が の可能性の枷になっているのでは、と息苦しくなった
生徒と教師
この距離は、大きい

「私・・・先生が好きです・・・」
ほろほろと涙をこぼしながらは言うと、俯いてそれきり黙ってしまった
愛しい
こんなにも想っている
この心にうずいているものは嫉妬だ
誰よりも想っているから、嫉妬する
誰にも、を見てほしくない
誰にも、を好きだなんて言ってほしくない
は自分のものなのだと、言ってしまいたくなる程に
この焦燥は消えない
を想い、焦がれ続ける

うつむいて、目に涙を浮かべながら は家へと帰っていった
ため息をこぼしつつ、零一は夜の街を走っていく
危うい自分
届かないような錯角に陥る
結ばれているはずなのに、どうしてこんなにも不安になるのだろう
どうしてこんなにも、愛しさが増していくんだろう

「ばっかだねぇ、いっちゃえばいいんだよ、は俺のものですって」
「言えないから苦労している」
「教師と生徒なんて禁断の愛っぽくていいじゃないか
 大恋愛してるねぇ、零一も」
「茶化すな、真面目に話ているんだ」
「バレたくない、でもは俺のものだと言いたい
 わがままだねぇ」
「・・・・・」
親友のいれたカクテルを一気にあおった零一に、快活な笑い声が降りてきた
いつものバー、いつもの相手
頭を冷やさなければと、もっと冷静に考えなければ、と
言った零一に彼は笑った
「じゃあいいこと教えてやろう
 昔から男が虫よけにって、女の子にするおまじないがある」
視線をあげると、すぐ側で悪友が片目を閉じた
「ベタだけどね」

夕焼けが映って赤く染まった音楽室に は一人でいた
あれから一週間、一緒に帰る約束の金曜日
何をするでもなく、ぼんやりと窓の外を見ているの寂し気な横顔に、零一は小さく息を吐いた
「彼は、今日は来ていないのか」
「・・・・はい」
元気のないが、俯いたままつぶやくように言った
先週に告白した男子生徒は、この一週間ずっとにつきまとっていた
今日は用事でもあったのか、
は一人、寂しそうに俯いている
・・・」
けして、学校では呼ばない名前
それに、が驚いて顔を上げた
「え・・・?」
夕陽の中、零一はゆっくりとの座っている席まで歩いた
見上げる目が揺れているのがわかる
の瞳は、優しい光をいつもたたえて、
その目が自分を映すのが、零一は好きだった
側まで寄って、そっとその髪に触れる
二人きりの時、いつもそうやって髪にキスをして
名前を呼んで、揺れる目に自分の姿が映るのを確認した
が自分を見ている
今も、
涙のたまった目に、零一の姿がゆらりと映った

愛しい
こんな風に寂しそうな顔をしているのは、先週自分が言ったことを気にしているからだろう
つきあってみたらいい、と
あの男子生徒と、
他の生徒と、
教師である自分などでなく、他の生徒とつきあっていれば
告白をあんな風にはっきり断れなくて悩むこともないのだから、と
その言葉がを傷つけるとわかっていて、言ってしまった大人気ない自分
今にも泣き出しそうな
「すまなかった・・・」
そのまま、そっとくちびるにくちづけた
ここが学校であることも、
まだ校内には生徒も教師もいることも、
音楽室には鍵なんかかかっていないことも、わかってはいたけれど止まらなかった
を想っている、誰よりも
だからこんなにも、狂おしい程に愛しい

ゆっくりと唇を放すと、かすかに吐息がもれた
「せんせ・・・」
戸惑ったような、震えるような声
見上げた視線をまともに受けて、零一は無言でもう一度口付けた
歯列を割って舌をすべりこませ、からめとり
何度も何度も角度を変えて熱を伝える
誰よりも想っている
他の生徒とつきあってみればいい、と
あんな言葉、本心なんかではない

ほろほろと、の目から涙がこぼれたのに 零一はそっとその身体を抱きしめた
「私・・・先生に嫌われたのかと思いました・・・」
「すまない、私が大人気なかっただけだ・・・」
震える声で、震える身体で
泣くに、零一は何度も何度もキスをした
勝手に嫉妬して、大切な恋人を泣かせて
こんな風に傷つけて、
「君は私のものだ・・・誰にも渡さない」
これが本心
が彼の告白を断ることに傷ついたのはが優しいから
人の想いがわかっているから
だからといって、それで零一への想いが減ったわけでもないのに
「私はどうも・・・嫉妬ばかりしている」
苦笑して、その髪をなでながら零一は言った
そして、の手をそっと取った
いつも楽器を触っている、白い手
左手の薬指にキスをして、
それから、銀色の華奢な指輪をそっとはめた
「・・・これ・・・」
驚いたように が目を見開く
「この程度なら学校生活に支障はないだろう
 君が私のものであるという・・・印だ」
少し照れくさい
こういうことは苦手で
本当は高校生が学校にアクセサリーなんかしてくるのも あまり好ましいとは思っていない
それでも、自由な校風から 生徒達の大半は指輪なんかのアクセサリーを身につけているし
その中にはもちろん、こういう恋人の証、のようなものをしている生徒もいる
たしかにベタだが、
「・・・これで、少しは君に寄ってくる生徒が減るだろう」
想いを寄せる生徒は減らなくても
この一見して恋人がいるとわかる指輪は、少しは零一の気を休めてくれるに違いない
「・・・先生・・・・・」
また、の目から涙がこぼれた
顔を紅潮させて、抱き寄せた零一の胸に頬を寄せて
背中に回された腕、
その左手には、恋人の証
言わなくてもわかる、誰かのものであるという印
「君を愛している、
囁きは、静かな部屋に消えていった
二人、今は幸福に似た想いに満たされている


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