55. 誓い (高校生尽×主)  ☆リクエスト(高校生尽。連載の設定で)


昔、を突き飛ばして怪我をさせた年上の男の子を殴ったことがあった
そのまま大げんかになって、親が出てきて叱られて
結局残ったのは 傷痕と、を泣かせてしまったという苦い思い出だけ

あの頃のことを尽はよく覚えている

「尽・・・?」
「あれ、
放課後、職員室から出てきた尽の姿に ははた、と立ち止まった
いつもののどかな夕方
今日はクラブがないから尽と一緒に帰ろうと 今から生徒会室を覗こうと思っていたところだった
「どうしたのそれっ、血が出てる・・・っ」
「ちょっと殴られた」
「えぇ?!!!」
いつもみたいに笑った尽の唇の端に血がついている
目の下も皮膚が切れて血が滲んで
どこから見ても普通じゃない
「その倍殴り返したけど」
「・・・喧嘩?」
「いや、正当防衛」
にこ、と
尽は笑って、呆然と立ち尽くすの手を取った
「今から保健室行くんだけど、手当てしてくれる?」
「え・・・、あっ、うん・・・」
なんでもない顔をして笑った尽に、の方が戸惑って
だがそれでも、尽について保健室へと向かった
尽は意地悪で攻撃的な所もあるけれど、けして喧嘩っ早いわけじゃないのに
いつも温和でにこにこ笑っているタイプなのに
どうしてこんな風なことになってるんだろう
殴られて、殴り返して
正当防衛だなんて言うけれど、一体何があったんだろう

保健室に行くと、明らかに尽の喧嘩の相手であろう上級生が保険医に手当てを受けていた
「ああ、くんもそこに座って」
「いえ、俺は姉にしてもらいますから」
「ああ・・・そうね、じゃあさんお願いね」
「あ・・・・はい」
チラ、と
は離れた場所で むすっとしてこちらを見もしない上級生を盗み見した
尽の怪我なんか比べ物にならないくらいに腫れた頬
保険医の手当てで血はもうついていないものの、痣みたいに変色した肌が痛々しい
腕にも湿布みたいなのが貼られていて 一目みて向こうが敗者だとわかる
呆れて、は何くわぬ顔でベッドに腰掛けた尽を見た
「あんた、やりすぎよ」
「力の差だろ」
ひそひそと囁いたら、悪びれもせずにそう言って笑う
「向こうが先に手だしたんだよ
 生意気なんだってさ、一年のくせに目立ってるから」
その視線かチラ、と彼を見遣って
それから悪戯っぽくへと戻ってきた
「殴られたからやり返しただけ
 正当防衛で俺はおとがめなしだよ?」
「・・・本当に?」
「本当に」
側にいた人がたまたま見ていたのもあるけれど、と
尽はクス、と笑った
「突然殴ってきたからね、避けられなかった」
だからここをやられた、と
切れた口の端を 尽はペロリと舐めた
「あっ、ためよ、ちゃんと消毒するから」
「うん」
本当はキスなんかして欲しいんだけど
さすがに保険医と上級生の前ではまずいだろうと
尽は衝動をぐっと我慢した
血を拭って、消毒液をつけて
丁寧に手当てしてくれるを見ながら 尽の思いは昔の思い出へと飛ぶ
あの時、はいつまでもいつまでも泣きやまなかった
だから尽は誓ったのだ
自分は喧嘩なんて一生しない
を泣かせてしまうから

「一生しないよ、だから泣き止んで」
幼かった自分
強い力、大きな身体
近所でも意地悪で評判だったその子は、を突き飛ばして転ばせた
膝をすりむいて、血がにじんで
それを見た瞬間に、尽の意識はフッと消えたのだ
思いのままに、その子を殴った
驚いて転んだのを蹴り飛ばして、起き上がって反撃をしてきたのに 同じように攻撃をした
あの時はを泣かされて怒っていたから
痛いのとか、何も感じなかった
気づいた時には多数対尽の喧嘩になっていて、駆け付けた大人に引き離されて みんな傷だらけで
側でが泣いていた
たくさん怪我をして血をにじませていた尽にぎゅっ、と抱きついて

「この程度ですんだから良かったものの・・・」
キズテープを目の下の切り傷に貼って、はため息をついた
「もぉダメよ、喧嘩なんかしちゃ」
「喧嘩じゃないってば」
「それでもダメ」
上級生の手当てが終わり、彼は保険医と一緒に職員室へと向かったようで 保健室には二人きり
は少し怒ったような目で尽を見上げた
「喧嘩はしないよ」
「・・・喧嘩じゃなくても怪我してちゃ一緒でしょ」
「事故だよ、これは
 だって突然殴られたんだから」
「・・・ああ言えばこう言う・・・」
「だって本当のことだもん」
悪戯に笑った尽に、はまたため息をついた
だがふいに、キスをされて目を見開く
「もぅ・・・私怒ってるんだからね」
「心配してくれてる、の間違いだろ」
「・・・調子に乗らないのっ」
「はーい」
の顔が赤くなる
それを見て、尽は満足気に笑った
可愛い
昔、ゆびきりしたことなんか覚えてないんだろうな
いつまでも泣き止まなかったに、尽は何度も何度も約束した
もう絶対、喧嘩なんかしないから
たとえを守るためでも、こんな風にを怯えさせて泣かせたりはしないから

「尽も職員室に行くの?」
「いや、俺はもう帰っていいってさ
 あの上級生は停学3日らしい」
「・・・なんか不公平〜尽も相手殴ったんでしょ?」
「正当防衛ですから」
「・・・腹黒」
「お利口って言って
 生徒会長が喧嘩なんかで停学って格好悪いだろ」
「・・・・・」
呆れた顔の、それでもまだ尽を心配しているに、尽はもう一度そっとキスした
優しいキス
を安心させるキス
大丈夫、
俺はあの時誓ったから
を守るためでも、を傷つけられて怒っていても
喧嘩はしない
が心配するから
が、泣くから

さて、と
鞄を持って尽は立ち上がった
「帰ろうか」
「うん」
そうして、何ごともなかったかのように二人は保険室出を出ていく
胸の中のこの誓いは、尽だけのもの
背中の姫がおびえるから
昔の記憶も、決意も、誓いも、には内緒
のために 尽は今も昔もここにいる


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