49. 泣き顔 (氷室×主人公)  ☆リクエスト(氷室と主人公の新しい命の話)


公園でヒラヒラと落ちる落ち葉を見ていたは、突然空気が裂ける程の大声に我に返った
見遣るとすぐ側で 小さな子供が地面につっぷして泣いている
「え・・・?」
さっきまで元気に走っていた子供
まだ幼いから、可愛いなぁなんて思いつつ、どこか危なっかしくてハラハラしていた
急に吹いてきた風にヒラヒラと落ちた赤い葉に目を奪われているほんの少しの間に
子供は転んでしまったのだろう
大声を上げて、大粒の涙を流して 泣いている

「ど・・・どうしよう・・・」
思わず、座っていたベンチから腰を浮かせて立ち上がろうとした
助け起こしてあげなければ
どこか怪我をしていたら大変だし
あんなに泣いているんだから とっても痛いのだろう
そう思って、その子のところへ行きかけた時 ぐい、と腕を掴まれた
「手を貸してはいけない、君は座っていなさい」
「え・・・?」
見上げると、氷室がどこか呆れたような顔でそこに立っている
「え? でも先生・・・すごく泣いてるんです・・・」
「大丈夫だ」
「大丈夫って・・・怪我でもしてたら・・・」
不安気なの目を覗き込むよう真直ぐに見て やがて氷室は微笑した
「子供とは泣くものだ
 そして意外に丈夫だと聞く
 あの程度では大事にはならないだろう
 もう走って一人で遊べる年ならなおさら
 母親が手を貸さないのに他人の我々が手を貸したりしてはいけない」
「え・・・?」
ふ・・・、と
氷室の視線が、遠くでこちらを見ている女性へと向けられる
「彼女が母親だろう
 子供は一人で立てる
 そうやって教育をしていくのだから 勝手に手を出して邪魔をしてはいけない」
氷室の言葉に は驚いて氷室の視線の先
ちょっと離れたところで様子を見ている女性を見た
たしかに、彼女が母親なのだろう
ぐすぐすと泣きながら それでも助けを待つのを諦めた子供が 起き上がってキョロキョロしているのに 彼女は少しだけ笑ったような感じだった
「=====ちゃんっ」
そしてその子供の名を呼ぶ
泣いていた子供は、頬を涙と泥で汚しながらも へらっと笑って立ち上がった
そうして嬉しそうに母親の元へと駆けていく
その後ろ姿に、はぁ・・・と
はため息をついて苦笑した
すごいなぁ、なんて思って
それから、感心したように氷室の顔をしみじみと見た
「・・・なんだ」
「先生って、子供いるんですか?」
「は・・・・?!!!」
「だって、あんな風に子供の教育のことがわかるなんて実は子持ちとか・・・」
「バカを言うんじゃない
 私は子供などいない」
まったく、と
出来の悪い生徒を見遣るような目で氷室が大きくため息を吐き、
それからほんの少し、また元気に走り出した子供を嬉しそうに見ているの横顔に目を細めた
まだ高校生のが子供を持つのは 大分先のことだろう
今の様子では彼女の方が子供のようだし、
想いを通わせ合ったばかりの二人には 子育てなんてまだ想像もできなかった
「先生と私の子供ってどんな感じなのかなっ」
だから突然のの言葉に 氷室は大きくむせこんだ
目を白黒させて、無邪気に言ってのけたを見る
「な・・・君は・・何を・・・っ」
「だって、いつかは・・・ね?」
くす、と
小悪魔な笑みが返ってくる
見上げてくる目が悪戯っぽく光って
まだ身体も合わせたことがないのに、なんて気が早いと
氷室はコホン、と一つせき払いをした
「君が成人して精神的にも大人になったら・・・だ」
「そんなに待てません」
「・・・・・・」
ああ、最近の若者は、なんて
思いながら氷室は眉を寄せ 楽しそうに笑っているをねめつけた
高校生であると、教師である自分の恋愛
想いは止められなくても
を大事に想うからこそ、まだこの理性を保っていられる
二人、一つになるのもまだ先
新しい命が生まれるのも きっとまだ先
「その時まで 先生 私のこと好きでいてくれますか?」
「・・・何を・・・・」
「私は先生が大好きです
 先生の子供が欲しいって思うくらい」
「・・・・・ッ」
かぁ、と
体温が上がるのを感じながら 氷室は慌ててから目を逸らした
愛しくてたまらない小悪魔は、こうして自分を翻弄する
愛しているのも、大事にしているのも
が思うより ずっとずっと氷室の方が大きいはずだ
自分でそう自覚する程に 日に日にへの想いが増えていくのに
こんなにもこんなにも想っているのに
「私は君を愛している・・・」
コホン、と
心持ち小声になりながら それでも氷室はそう告げた
まっすぐに、こちらを見上げる恋人に向かって
そして、そっとくちづける
今はまだ、じれったい恋
お互いに心を許していても、こうやって身体の関係をセーブしているけれど
いつか、いつか
二人熱を分け合って眠る夜が来るだろう
いつか

「私、早く大人になりたいなぁ」
「私はいつまでも待っているから、そう焦らずに今を大切にしなさい」
秋の色付く公園の出口に向いながら 冷たくなったの手を取って氷室は告げた
隣でがこちらを見上げるのが視線の端に入る
恥ずかしい発言も
愛を囁く言葉も
苦手だけれど、相手になら
が望むなら、と言葉にする
そうして伝える
「本当? 子供だからって飽きたりしませんか?
 ちゃんと・・・大人になるまで待っててくれますか?」
「ああ」
ぎゅ、と
強く握り返してきた手の温もりに 氷室は微笑した
ゆっくりと巡る季節
少しずつ大人になる
心も身体も欲しいと思っているけれど
が大切だからこそ、焦ったりしてはいけないと言い聞かせる
少女から大人になるのにもう少し時間をかけて
その時がきたら、その身体をこの腕に
最愛の恋人とひとつになって、いつか生まれるだろう新しい命の話をするのもいい
そうやって、幸せを一つずつ迎えるのがいい
と二人で

「ねぇ、先生
 子供が生まれたらどんな風に教育するんですか?」
「・・・強く賢く自立した子供にする」
「・・・さっきの子みたいに一人で立てるような?」
「いや、転んでも泣かないような子にする」
「そんな、子供は泣くものだって言ってたのに」
「私の子なら可能だろう」
「・・・私泣き虫ですよぉ
 先生は泣かないかもしれないけど」
「そうだ、私は物心ついた頃から泣くなどという行為は・・・」
少し得意気に話す氷室の横顔に はくす、と笑みをもらす
大好きな人との子供なら どんなにどんなに可愛いだろうと思う
そして、嬉しそうに延々と子供の教育方針について語る氷室には言った
「ねぇじゃあ
 先生は私と赤ちゃんが泣いてたら どっちをかまってくれるんですか?」
「は・・・?!!」
「私?」
「・・・・・・」
「赤ちゃんばっかりかまって、私への愛が減ったりしませんか?」
「・・・君はそんなだから子供だというんだ
 比べられるものではないだろう
 その質問は却下だ」
「あっ、逃げた〜」
「逃げていない・・・」
ふい、と
困った顔をしながらも どこか明後日の方向を向いた氷室に はクスクス笑った
「私なら赤ちゃんかな〜
 先生と赤ちゃんが泣いてたら」
「・・・私は泣いたりしないからかまわんがな」
「ふふっ」
楽しい、と
遠い未来の話をしながら 二人はそうして笑いあった
まだ見ぬ二人の子供
その頃の自分達はどんな風なのかなんて、想像もつかないけれど
「ああっ、やっぱり早く大人になりたい」
「そうか・・・」
大きく伸びをしたに、氷室は優しく笑った
との子供なら 泣き顔も笑った顔もさぞ可愛かろう、と
想像して顔が緩むのに苦笑した
まだ先のこと
それでも、幸せを感じるこの瞬間
こういう想像も、いいかもしれない


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