47. 目立ちたがり屋 (氷室×主)  ☆リクエスト(氷室の話)


教室の左側、前から三番目に座っている生徒
彼女は多分、目立ちたがり屋なんだろうと思う

「文化祭委員を選出する
 クラスをまとめ文化祭準備をリードする重要な役割だが、誰かやってくれる者は・・・」
こういうH.Rの時、たいていの教師は 委員が決まらなくてうんざりする
最近の生徒には自主性がないだの、やる気に欠けているだの職員室でぼやいているのをよく耳にする
だが、この学年を担任して2年目、
氷室は一度も、そういったことで辟易したことはなかった
なぜなら そういう委員や当番、係の類いは大抵氷室が話をふった瞬間に手が上がるから
左側の、前から三番目の席から
元気に、少し高い声で

「はいっ、私やりますっ」
視線をやると、はにこっとはにかんで笑った
1年の時から思っていた
こういうことを積極的にやりたがるに感心する
そして同時に可笑しいような気分になる
相当なお祭り好きか、目立ちたがり屋なのだろう
他のクラスでは、決めるのに1時間も2時間もかかるものを こうして自らやりたいなんて手を上げるのだから

「そうか、やってくれるか、
「はい」
の笑った顔に、氷室は満足気に微笑した
可愛い生徒だと思う
頬を染めた様子に、自然表情が柔らかくなった
何にしても、こういう経験は多い方がいいのだから

、まだ残っていたのか」
「あ・・・はい
 終わらなくて・・・・」
「昨日も遅かったようだが、あまり無理をするな」
「はい」
放課後の教室で、もう1週間も下校時刻まで居残って委員の仕事をしているに、見かねて氷室が注意した
外はもう真っ暗で、女の子が一人で帰るには少し危ない気がする
「また明日にしなさい
 今日は送っていく」
「・・・え」
見上げたの目が、軽く見開かれて その頬が紅潮した
「早く支度をしなさい
 下校時間は過ぎたのだから」
「あ・・・はいっ」
ばたばたと慌てて鞄に荷物をつめるを見遣り、窓の戸締まりを確認した氷室は 暗い窓に映ったの姿を盗み見した
少し背が低くて、いつも元気な少女
1年も2年も担任をして、ずっと見てきた
責任感が強くて、しっかりしていて、こういう委員なんかをやるのが好き
数学の成績も良い、できのいい生徒
「来なさい」
「はい・・・っ」
小走りに、後をついてくるを氷室は見下ろした
「このあいだのテストはよく頑張っていたな
 君は私の授業をしっかり理解しているようだ」
「あ・・・はい」
こちらを見上げたが また頬を紅潮させた
よく赤くなる子だ、などとボンヤリ思いながら 氷室は微笑した
今やっている授業は少し難しい
それでも授業中しっかり聞いていればわかるレベルで、解けるテスト
平均点が62点のところ、は90点を取った
クラスでは、5番目くらいに位置している
「勉強熱心なのはいいことだ」
「先生は・・・やっぱりちゃんと勉強できる子が好きなんですよね?」
「当然だ
 教えたことを理解もしてくれない生徒ではこちらもやり甲斐がない」
「そうですよね・・・」
は、少しだけ笑った
促して、助手席に乗せ それからいつものように勉強の話だとか文化祭の話だとかをしながら帰る
「あの・・・ありがとうございました」
帰り際、言ったの顔が少しだけ曇っていたのが氷室の頭に残った
いつも笑ってる印象があるから、それは少し珍しく感じる

それからまた1週間、は毎日のように遅くまで残って仕事をしていた
そして金曜日の四時間目、授業中に当てられて立ち上がった途端、倒れた
一瞬、教室が騒然とした中 氷室はなぜかの曇った顔を思い出していた
できのいい、何でもやりたがる感心な生徒
目立ちたがり屋なんだと思っていたけれど

「・・・・・あれ・・・?」
ぼんやりと目を開けたが最初に見たのは、怒ったような氷室の顔だった
「先生・・・」
途端に、の顔が真っ赤になる
それを見て、氷室がため息をついた
「君の友達に聞いたが、最近あまり寝ていないそうだな」
倒れたを抱き上げて、保健室へ運ぼうとした氷室に奈津実が言った
「この子、勉強ばっかりしてて、あんまり寝てないみたいだから」
腕の中でぐったりしたの身体
自分と比べたら 華奢で今にも壊れてしまいそうな少女のもの
そっと保健室へ運んで、ベッドへ寝かせた
その顔色を失った横顔に、胸がぞわぞわするような不快感があった
はもしかして、無理をしているんじゃないだろうか

「えへへ・・・私頭わるいので、勉強しないとついてけなくて・・・」
困ったように、が言うのを 氷室は絶望的な思いで聞いていた
「文化祭委員の仕事って思ってたより忙しくて
 数学 今難しいし・・・私バカだから・・・」
「それで寝る時間を削ってまで勉強をしていたのか
 だったら委員などしなければいい
 自分のペースを崩して体調を悪くしてまで、やりたかったものでもないだろう」
自分の声が思っていたよりも厳しいものになってしまったのに、氷室は一瞬しまったと思った
の表情が目に見て沈んでいく
それでも、は苦笑してつぶやいた
「でも・・・先生に見ててほしかったから・・・」
へへ、と
力なく笑って、
だが、毛布の上でぎゅっと握られたの手に ぽたっと雫がいくつもこぼれた
震える身体
瞬間、氷室はの言いたいことがわかった気がした
の想いも、わかってしまった
「先生は勉強できる子の方が好きだから、私一生懸命勉強してる
 わかんないとこいっぱいで授業だけじゃ理解できないから・・・
 私がもっと頭良かったら こんな遅くまでやんなくてもいいんだろうけど・・・
 私・・・頭わるいから・・・
 い・・・委員だって・・・やったらきっと先生見てくれると思ったから・・・
 私なんか そんくらいやんなきゃ先生に見てもらえない・・・から・・・」
しゃくりあげながら泣くに、いたたまれなくなる
どうして自分は2年もを見ていながら、気づかなかったのだろう
が色んな委員や当番や係を自らやるのは、目立ちたいからなどではなく
自分に見てほしかったから
そのために、きっと苦手なのであろう数学の勉強も 寝る時間を削ってまでしてやっているのだということを
「・・・それで体調を壊してしては意味がない」
心が痛んだ
何でも積極的にやる可愛い生徒
授業もよく聞き、テストの点もいいできた生徒
何の文句もない
そう思っていた
なんて、上辺だけしか見ていなかったんだろう
こんなにも、見えないところで努力していたのに
こんなにも、頑張っていたのに
「すまない」
苦い思いは、胸の中に広がっていった
知ってしまったら、愛しくて仕方がなくなった
泣いているの、涙をそっと拭った
顔を上げてこちらを見た目から ぽろぽろと雫がこぼれていく
そんな想いでいたなんて、
これほどに一途な想いに気づかなかったなんて
「君が倒れた時は本当に驚いた
 君は大切な生徒だ、こんな心配を、させないでくれ」
苦笑を噛み潰しながら、氷室は自分にため息をついた
蒼白な顔をしたを抱き上げた時に、胸を支配した不安
どうしてこんな、と
苦しくなった
は、自分にとって大切な存在だったから
「・・・私は君をちゃんと見ている、だから無理をしなくてもいい」
自分の許容範囲を超えてまで、委員なんかをやらなくていい
苦手な勉強を頑張るのも、眠る時間を削ってまでしなくていい
「君は一人で頑張りすぎだ
 ・・・それでは私がここにいる、意味がない」
苦笑した
を倒れさせたのは自分なのに、こんな台詞、と
だがそれでも、氷室は言った
「体調が回復したら、君には特別授業を行う
 わからないことは私が教える
 だから家に帰ったら、ちゃんと眠りなさい」
また、の頬が紅潮した
そうか、こういうのも
がいつも自分の言葉や行動に頬を染めるのも
はにかんだように笑うのも
が自分に対して好意を抱いているからか
一途な想いを 向けてくれているからか
「いつまでも泣いていないで、少し眠りなさい」
「は・・い・・・」
もう一度、こぼれた涙を指で拭った
可愛い生徒
気づかずに、ずっと踏みにじっていた自分
のことはいつも見ていただけに、悔やまれた
自分はなんてマヌケなんだろうと思う
「おやすみ」
目を閉じたに、囁いた
想いが確実に形を変えた
素顔を知ってしまったから
その想いに気付いてしまったから

そして数日後、放課後に特別授業が行われる
休日の、社会見学というオマケつきで


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