43. 揶揄 (三原×主)  ☆リクエスト(色。ラブラブ)


色の言葉には棘がある
でもそれが彼の真実
色は偽らないし、飾らない
無垢な言葉は、時々だれかを傷つける

「私・・・時々色がわからない・・・」

ある日の夕方
ちょっとまってて、と色が急な用事に電話をかけに行ってる間
ボンヤリベンチで待っていたに 軟派な男の声がかかった
「彼女ひとり? よかったらお茶でもどう?」
見上げると明るい顔をした、年上の人
大学生かな、なんて
思ったら 彼は笑顔をふりまいて大袈裟に身ぶりをつけながら言う
「その後カラオケなんかどう?
 良かったら食事も、奢るよ?」
君綺麗だね、と
その言葉には内心苦笑した
綺麗っていうのは、色みたいなののことを言うんだろうと
彼にはじめて会った時に思った
その微笑みも、瞳も、指も髪も、
色は人じゃないみたいに、
まるで夢の住人みたいに美しい
「ねぇ本当に一緒にどう?」
「・・・すみません、人を待ってるんです」
「えー・・・」
色を想いながら苦笑して伝えたに、男はあからさまに不服そうな顔をした
そして、さらにしつこく誘おうと
口を開きかけた時 彼の背後に色が立った
に何の用かな?
 醜い君は僕達の素敵な時間の邪魔者だよ」
「・・・え?」
いつもの微笑みを唇に浮かべ 色は男をすずしげに見遣った
深い色の目
いつも余裕ある表情は、微笑していても
女性と見間違うような容姿でも 意志強い男性的なものを感じる
「さ、美しい僕達の邪魔をしないでくれたまえ
 君はこの場には相応しくない
 ・・・早くここから去るといいよ」
相手が一瞬何を言われたのか理解できない程に、その表情からは想像もできない程に失礼な発言は
色にとっては当然の言葉で
ももう聞き慣れてしまった言葉だった
だが、それでもその度に心が痛む
色に魅かれて
想いを交わしあって
二人こうして休日にデートを繰り返すようになったけれど
「色・・・」
悔し気に、顔を真っ赤にして退散した男の後ろ姿を見遣って は小さくため息をついた
「どうしたんだい?」
「色、今のはちょっとひどくない?」
「何が?」
「・・・あの人に、失礼よ」
「・・・・・・どうしてさ?」

キョトン、とこちらを見下ろした色と
不安な色を浮かべたの視線が交差した
色の言葉
美しいものが全てだと言う彼の言葉
美の化身みたいな色には、美しいものしか見えないんだという
だからクラスメイトの顔も覚えないし、美術部員の顔だって未だにちゃんとわからないまま
それが色だし、それでいいと思う
でもの心は確実に、締め付けられるように痛んで傷つく

「ねぇ、じゃあ 私が綺麗じゃなかったら 色は私を好きにはなってくれないの?」

初めて美術部に入って、三原 色という芸術家が同じ部にいると知って
はドキドキしたものだった
色の作品は知ってたから
小さい頃に海の絵を見て、水の青さを知ったくらい
その絵には、深い魅力があったから
「素敵、あの三原 色が同じ学校だなんて」
どんな人なのか会うのが楽しみだった
そして、めったにクラプに顔を出さない彼を初めて見た雨の日
その美しさに驚いて 言葉もなかった
彼は、部長と少しだけ話をして帰ってしまったけけど
その時の彼に、絵の具でどろどろのエプロンをつけた汚いなんて映ってなかったんだろうけれど

「ねぇ、どうして色は私の側にいてくれるの?
 私・・・綺麗なんかじゃないのに」
「何を言ってるんだい?
「色には綺麗なものしか見えないんでしょう?
 だったら、私が今の姿じゃなくなったら嫌いになる・・・?」
ずっと心にあった不安が、溢れてきてしまった
美を好む色
彼には当然に、美しいものが似合う
自分は、不釣り合いなんじゃないかと そう考えることが多い
いくらオシャレに気を使っても
色の好きな服を着ていても
自分というものが 色の美に遠く及ばないのを知っているから余計
は色の言葉に 悲しくなることが多い
今も、
閉じ込めていたものが、溢れてもう止まらない

は綺麗だよ」
困ったように、色が言った
夕陽が傾いて そろそろ帰らなきゃならない時間なのに
急ぎの用があったと言って
今から戻るから、と電話を入れに行ったほどなのに
時間なんか気にしない様子で 色はにかがみこんだ
、泣かないで」
いつのまにか頬をすべっていった涙に 色は切なそうな声を出す
その綺麗な指で、雫をぬぐい
それから そのままそっとくちづけた
この胸を、次第に支配していったという存在が 今の色には全てといえる程になっている
優しい表情
絵を描いている横顔
普段は優柔不断なくらいなのに、
人のことを考えて自分のことを後回しにするような性格なのに
の絵は、思いのままに描いたという勢いがあって
最初、が描いただなんて思えなかった
譲らない強さを持ってる絵
それに魅かれた
初めて美術部に顔を出した日、チラ、と見たのことが忘れられなかったように
その絵もいつまでも色の印象に残り続けた

だから色はを見るようになった
色の目に、は最初から映っていた

「どうして急にそんなことを言うの」
「だって、色は綺麗なものしか見えないんでしょう?」
「そうだよ、
 この騒がしいけれど君がいる街や、遠いけれどこの空気を澄んだものにしてくれる向こうの山や
 今にも落ちてきそうな程広がる空や、ここでこうして泣いている君や・・・」
微笑して、色はもう一度の涙を指ですくった
「僕がどうして君を好きになったかわかる?
 、君の目がまっすぐだったからだ
 君はいつも人に気を使ってばかりで、優柔不断で、誰にでも優しいくせに
 君の絵はまったく頑固だ、そう思わないかい?」
「え・・・」
悪戯な瞳が、こちらを覗き込んで
色は涙を浮かべながら自分を見上げたにクス、と笑った
「最初に見た君は絵の具で汚れたエプロンをつけてた
 髪は無造作にくくって、寝不足なのか肌も荒れてた」
「・・・・・」
何を言おうとしているのだろう、と
は色の顔をみつめた
初めて会った時とはいつのことを言っているのだろう
彼が自分を認識したのがいつだなんて にはわからない
「次に会った時は体育祭の後だった
 日焼けしてそばかすを作って、やっぱり君は綺麗な髪を無造作にくくって絵を描いていた」
夜明けの絵だよ、と
付け加えられて はそれが1年の時のことだと知る
そして、驚いて色を見た
そんな頃に 色は自分の顔を覚えていたのか
あの頃けして、オシャレにも身だしなみにも気を使ってなかったのに
けして綺麗だなんていえるものではなかったのに
「じゃあは綺麗って何をもって言うの?」
「・・・それは、色みたいな人」
「・・・嬉しいけれど、それだけ?
 僕の容姿だけで 君はこにいてくれているの?」
「・・・え?」

綺麗な色
誰もが天使のようだといい
本人もまた、その美しさを自覚している
自信はさらに色を輝かせ、磨き、高めていく
彼の存在は美そのもの
の問いに答えるのなら
 僕はが何に姿を変えたって だとわかる
 雑草になったって、そこらを歩いている猫になったって」
そうして、意味深なため息を吐き出すと 色は切な気に笑った
「多分、が僕を想うより 僕は君を想っているよ」
どんな姿をしていても
あの見かけなんかに気を一切使っていなかったあの頃ののこと見ていたんだから
たとえその頃に戻ったとしても
たとえ他のものに姿を変えたんだとしても
なら、わかる
想いはに、魅かれるだろうから
「じゃあ・・・どうして・・・」
心があたたかいもので満たされるのを感じながら 震える声で言ったに色は悪戯な視線を返した
「どうしてあんなことを言うのか?
 ちょっと、からかっただけさ」
あの男の人を、醜いから去れと言って追いやってしまった色
学校でも、そういう発言はよく聞く
君と僕とではどちらが美しいか、わかるよね? とか
僕達の邪魔をしないでくれ、とか
醜いものは、こういう時遠慮するべきだよ、とか

「本心だよ
 だって彼らは僕からを奪おうとするからね」

微笑して、色はにもう一度くちづけた
優しいキス
女の子なんだから もう少し自分を大切に扱うようにと
髪を無造作にくくっていたのもやめさせて
夜はちゃんと寝ないと肌に悪いだの何だのと
そう言っているのは全て 綺麗な女の子が好きだからだと思っていたけれど
そういうところに気を使っているオシャレな子が好きだからだと思っていたけれど
・・・君はひどいよ・・・」
この優しいくちづけに、そうじゃないんだとやっとわかる
色は、を大切に思ってくれているから
だから が自分を適当に扱うのが許せないんだと知る
大切に優しくしないと、女の子は華奢なんだから すぐに壊れてしまうよ、と
よくそう言っていた
色は、を優しく優しく扱ってくれていたんだと
好きだと思った女の子だから、
特別になりつつある人だから、
そうやって言うんだと知る
今 ようやく

泣き止んだを見て、色は満足そうに笑った
「貴重なものを見たよ
 君の涙なんて、めったに見られないね」
色は優しいから
普段はを泣かせるなんてことは絶対にしない
わからなくて、不安になって
一人泣くことはあっても、色の前で泣いたのなんて初めてだったから
だから余計に思う
わからなければ、言えばいいんだと知る
色の言葉には棘があるけれど、
そこに偽りや嘘はないんだから
彼は思ったままに表現する、そういう人なんだから
「ごめんなさい・・・色」
「今回は許すよ」
の手を取り、色はクス、と笑った
普段何も言わないが こういう風に色を責めるように言葉を吐くのは初めてで
その内容に、失敬な、と
自分がを見た目だけで判断していると思われていたことに いささかショックではあったが
たしかに、他人に対しての自分の言葉がきついのも知っているし
それを があまりよく思っていないのも知っている
に男が近付くたび
それに妬くたび、
醜いものは邪魔だよ、なんて言って追いやっているから
これからも、多分そうするから
「今回だけは許してあげるよ」
言って色は満足気に笑った
の言葉は、いうなれば色を想っているということの裏返し
だから不安になって、
だから泣いたんだろう、と
ちゃんとわかっているから
自分はちゃんとを見ているから

陽も傾いた夕方の街
天使も恥じらう容姿の色と、
それを虜にしたまっすぐな
本当に美しいものって、何だか知ってるかい? と
芸術家たる色は微笑した
「本当に美しいものは、まっすぐな君だよ」


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