37. 探し物 (千晴×主)  ☆リクエスト(千晴×主。千晴の可愛いところが見える話)


夏の図書館はとても気持ちいい
静かな雰囲気も好きだし、そこに流れるゆっくりとした時間もいい
1階の受け付けや視聴・コンピューターコーナー、雑誌・新聞コーナー
2階の一般の本や子供の本
比較的いつでも人のいるそれらの階よりさらに上がって、3階
誰が読むのかわからないような分厚い本
資料、文献、なんとか辞典
そこに、千晴はここのところずっと通いづめている

「・・・・こまったな」

3階には職員がいない
ここを利用する人が少ないのと、ここにいてもご用がないのとで朝 本の整理をしたら夜の閉館までほとんど職員はあらわれない
本を探したければ索引を見ろ、とか
1階でコンピューターで検索しろ、とか そういうことだろう
ほぼ無人の3階を、千晴は本棚の間を何度も何度も往復していた
お目当ての本が1册も見つからなくて

夏休みの課題に出た自由研究
日本の文化! と張り切った千晴が選んだのは七夕伝説
近所の図書館には絵本しかなかったから、少し大きい図書館へ行こうと ここまでやってきた
1階で検索して、2階の児童文学の棚で本を借り、
次の日に2階の一般図書で七夕の本を探して ゲットしたのは「みちのく七夕殺人事件」だの「黒の七夕」だの「七夕に願いをこめて-愛と勇気のノンフィクション-」だの 千晴の研究に全く関係のないものばかりだった
家に帰ってカッカリして、今日は3階までやってきた
1.2階と がらっと雰囲気の違う空間にはじめ驚いたけれど
人がほとんどいないのが逆に緊張せずにすんで、
それでもう1時間近く、ここをうろうろしている

「あの〜」
「え?! 」
6回目、千晴が窓際の本棚の前に立った時 その側の机に頬杖をついていた女の子が声をかけてきた
「は、はい・・・」
最初来た時は 机につっぷして眠っていた女の子
この席は窓から明るい光が入っていて、
この館をひんやり冷やしている冷房と この光のあたたかさが丁度いいんだろうな、と
千晴はそう思って微笑したのだ
2度目、3度目とおるたび ちら、と目をやって
今はもう6度目
足音がうるさかったのだろうか
自分が何度もここを通るから起こしてしまったのだろうか
「あの、すみません・・・っ」
まだ何も言われていないのに、先に謝った千晴に 女の子は怪訝そうな顔をした
「何か探してるの?」
「え・・・はい、すみません何度も・・・」
少し不機嫌そうだから、やっぱり起こしてしまったのを怒ってるんだろう、と
千晴はどうしようもなく相手を見た
窓の光に肩までの髪がキラキラした、可愛い女の子
今はちょっと不機嫌そうな顔をしているけれど
「何探してるの?」
「タナバタの本を・・・」
言ったら、女の子は立ち上がってフロアの隅に置いてある索引の引き出しをガガ、と開けた
慣れた手付きでパラパラっと中のカードをめくっていく
そうして、側に置いてあったメモに さらさらと何かのメモをした
どうしようもなく、ただポカン、と後ろに立っている千晴には彼女が何をしているのかさっぱりわからなかったけれど
しばらくして手渡されたそのメモに あったけにとられた
「西王母と七夕伝承」「七夕伝説研究」「郷土-七夕伝説の町-」「中国の伝説・日本の伝説」「七夕のはじまり、伝説のいわれ」「七夕をひもとく」
さっと10種類以上の本の名前と 置いてある棚の名前が書いてあった
「あの・・・っ」
「この図書館にはそれしかないよ
 足りなかったら他行って探したら?」
そうして、女の子はそのまま、さっきの席へと戻って鞄を取ってくると そのまま図書館を出ていってしまった
残されて、呆然と
手の中のメモと もう彼女の消えてしまったさっきの席を見比べ
半分途方に暮れながら 千晴はメモの棚の前に移動した
おもしろい程簡単に、最初の本が見つかった

次の日、昼過ぎに図書館の3階にやって来た千晴は 昨日と同じ席で彼女を見つけた
「あの・・・っ」
嬉しくなって側へと行き、そっと声をかけると やはり机につっぷしていた彼女はむくりと起き上がって千晴を見た
「何?」
「あのっ、昨日、ありがとうございました
 本、見つかりました」
「そ、よかったね」
ほんの少しだけ彼女は笑って、それから眠そうに頬杖をついた
「あの・・・起こしてごめんなさい」
「うん」
「あの、また寝てください
 お礼がどうしても言いたかったので・・・」
「一回起きたら寝れないの」
「・・・・あの、ごめんなさい」
「いいよ、別に」
窓の外の明るすぎる光に眩しそうにしながら 彼女は千晴の手にある本を見た
「それ、借りて帰ったの?」
「はい、家で読みました」
「面白かった?」
「難しかったです」
「何で七夕の本なんか探してるの?」
「宿題です」
「ふぅん・・・」
いつのまにかなりゆきで、彼女の向かいの席に座ってなんだかんだと話しながら
千晴は何かどきどきするようなソワソワするような気分でいた
この本は表になってるからわかりやすい、とか
この本はこの本と同じことが書いてあるから読まなくてもいい、とか
これは最近出てた珍しい研究だから見てみたら、とか
彼女はやたらと詳しかった
そういえば昨日 妙なカードを調べていた時もやたらと手慣れていたし、と
思った千晴に 彼女は笑って言った
「私 本の虫だからね〜」
けして、ひとなつっこいわけじゃなく、愛想がいいわけでもないけれど
慣れない図書館でウロウロしていた千晴に本の場所を教えてくれたり
微妙に日本語が不自由な千晴にわかりやすいよう説明してくれたり、と
何度も何度も感じる優しさに、千晴はすぐに彼女を特別に感じた
そしてまた 次の日も図書館へとやってくる

2週間、千晴の図書館通いは続いた
「あの、名前を教えてください」

「・・・、可愛い名前ですね」
「ありがとう」
はじめて、彼女が笑ってくれたのは 多分その時
照れたようにして、それからちょっとだけ苦笑した
自分の名前を告げたら、あんたも可愛い名前、だなんて照れ隠しを言っていた
そんなが、とても好きだと感じた
毎日のようにこの図書館で
話をしたり、寝てるのを起こさないようにそっと向かいの席で本を読んだり
が学校の図書室で借りたという本を見せてもらったり
「今度は何探してるの?」
「ハイクの本です」
「俳句? 七夕の?」
「はい」
「・・・そんなのあったかな」
「ないですか?」
「あったとしても俳句は読み物だから2階だと思うけど」
毎日のように何かしら探している千晴と
結局最後にはそれを手伝って見つけてくれる
この日の探し物も、二人しておりていった2階の本棚で1册見つけた
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
苦笑したように笑う
もう2週間も一緒にいるから だんだんとわかってきた
少し人見知りで、だからあんまり笑ったりしないけど
面倒見がよくて、優しい
いつも図書館で寝てるのは 本を読むと眠くなるからで
暇な日はたいてい来るというこの図書館で朝から本を読んでいて 丁度千晴の来る時間の少し前に眠気のピークがやってくるとか
それでいつも寝ているんだとか
(可愛い人だな・・・)
自然に、そんなに そんな想いを抱くようになっていった千晴は
自分が研究している間にも 何か難しい本を読みながらウトウトしだしたに微笑した
毎日当然のようにここにいるに、当然会えると思ってやってくる自分
家から結構遠いこの場所に 苦痛なく通えるのはがいるから
千晴にとって難しいこの研究も やりがいがあるのはが色々と教えてくれるから

「あれ・・・・・」
だから当然、今日も会えるんだと思っていた
いつもの時間、いつもの3階
いつもの窓際のあの席に、今日ははいなかった
「・・・2階に行ったのかな」
一日に何冊も本を読むというは、どんな分野でも手当りしだいに読んでいた
本の虫というが、もう活字中毒に近いんじゃないだろうか、と思うほど
いつも何か読んでいる
静かだから、という理由でここにいるけれど、2階の本ももちろん読んでいるから は時々2階へ下りる
丁度今も、そうして下にいるのかもしれない、と
千晴は いつものの席の向かいに座った
ノートやら本やらを広げて1時間
いつもみたいに、研究をはじめた
何かソワソワして、落ち着かなかったけれど

結局、それから一週間、はこなかった
(・・・)
この2週間、自分だけが、楽しくて
自分だけがを特別に思いはじめていて
約束もしてないのに毎日会えたから、だから当然これからもそうだと勝手に思っていた
のいない図書館の3階
いないとわかっていてウロウロと探してみたり
無意味に本棚の間を歩き回ったりした
いるはずないのに

「今日は何をさがしてるの?」

だからふいに、
後ろから声をかけられて、千晴は飛び上がる程に驚いた
「え・・・・・・」
振り返った先には、見たことのない制服姿のがいる
「え・・・?」
「ひさしぶり、今日は何をさがしてるの?」
いつもの、他意のない顔
一週間数学の補習でね、と
いつもの席へと向かったを 思わず後ろから抱き締めた
ああ、がいる
いつもみたいに、そこにいる
「?!!」
驚いたようには身体を硬直させた
「なに・・・?」
その声が震えている
でも千晴はかまわなかった
を、探していました」
「・・・え?」
「一週間ずっと・・・」
もう会えないと思っていた
だって名前しか知らなかったから
当然会えると勝手に思っていたから
約束もせずに毎日いた
こんなに特別になっていたなんて、会えなくなるまで気付かなかった
「もう会えないかと思っていました」
「・・・私 たいていここにいるじゃない」
これからも、と
その言葉に首をふる
「そんな曖昧は嫌です
 ・・・約束を、明日もまた会えるという約束をしてください」
もう探さなくていいように
絶望に似た気持ちのまま、捜しまわらなくていいように
「・・・じゃあ、明日は来る」
「はい、約束です」
約束、と
ようやく笑った千晴に はほんの少し
ほんの少しだけ頬をそめて、居心地悪そうにした
「へんなの」
「へんですか?」
「うん・・・」
そうしてようやく千晴の腕から解放されて、いつもの席へ
ようやくいつもの景色が戻って
千晴はやっと安心した
とりあえず明日の探し物は、約束という形ですでに千晴の手の中にあるから


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