35. 背伸び (尽×主)  ☆リクエスト(小学生尽の話)


姉ちゃんははっきり言って可愛い
本人にその自覚がないのがまたいい、と俺は思う
子供っぽくて単純で不器用で、
高校生にもなって、ようやく初恋らしい
それが悔しくて、届かない自分に苛立つこともある

特にこんな日には

「あーーんっ、また失敗したよぉ・・・っ」
「しょーがねぇなぁ、手伝ってやるから泣くなよ」
「もぉ朝になっちゃうよぉ・・・」
「だから泣くなって
 ほら、材料まだあんだから 次作るぞ」
「えーん・・・」
夜中のキッチンで、
あんまりバタバタと騒がしいから目が覚めた
本を見ながら一人チョコレートと大奮闘
ああ、そういえば明日はバレンタインだったっけ
いつもは父さんと俺に、オススメの店で買ってきてくれておわり
なのに今年は、こうやって手作り
葉月はいいな、なんて思いながら 結局俺もつきあって徹夜
大量に買ってあったチョコは、今もまた順調に黒い油のかたまりに変化しつつある

「・・・私不器用なんだ」
「でもやっと それっぽくなったじゃん」
「・・・おいしい?」
「うーん、食べられなくはない」
「・・・・・葉月くん、こんなのあげて怒らないかなぁ」
「手作りってのは見た目じゃなくて気持ちだと思うけど」
もう何度も試食したチョコ(らしきもの)は、大人な味すぎるほどのビター
「こげてるのもマシになったしな
 これで文句言うような男なんか好きになんなくていいよ
 女の子が一生懸命作ってくれたモン、不味いとか形が悪いとか言うような奴は男のクズだからな」
「・・・尽、なんかマセてるね」
「言っとくけど、俺はねぇちゃんより恋愛経験豊富だからね?」
「あはは、そうかも」
笑って、はようやくなんとか形になったチョコレートを丁寧にラッピングした
もぉ朝
窓の外がピクン色に変化して、鳥の声が響いてきた
あーあ、結局徹夜しちゃったよ
こんな手伝っても何の特にもならない、チョコ作りなんかに

毎年、たくさんたくさんもらえるチョコレートにも、尽の心は満たされなかった
「俺があと5年早く生まれてたらな」
5年早かったところで、姉弟であることに変わりはないのだが
どうしても年下の弟であることが我慢できない
この想いに、この条件は過酷すぎる
こんなの、に言っても笑われるだけだけれど
ねぇちゃんが好き、だなんて

「ただいま」
ドアをあけたら、キッチンでまた盛大な騒音がした
「・・・ねぇちゃん? また何かしてんの?」
「あ・・・尽、おかえり」
今朝のようにエプロンをして、うでまくりして、
寝不足の目で、が笑った
「見て見てっ
 ちょっとは綺麗につくれるようになったと思わない?」
どうやらまたチョコを作っていたらしく、机の上にはできたてのチョコが並んでいる
「うん、そうだね
 今朝のやつじゃなくて、こっちを渡すの?」
「ちがうよ
 それは尽の分、食べてみて」
「え・・・?」
片付けをしながら 振り返って笑ったに 尽は不覚にも顔が真っ赤になるのを隠しきれなかった
「俺の・・・?」
「うん、昨日尽の分のチョコもぜーんぶ使っちゃったから」
嬉しくて、照れくさくて
の言葉に、尽は頬を染めながら テーブルに乗ったチョコを一つ手に取った
昨日さんざん失敗して、いびつな形になってたチョコ
これも同じように、ちゃんとした形になってないけれど
それでもが一生懸命作ってくれたもの
「いただきます」
ぱく、と一つ口に放り込んだ
甘いミルクチョコ
その味に、苦笑して
それから、洗い物をするの背中に自然と笑みがこぼれた
「ちぇ、ガキ扱いするなよ・・・」
葉月のは、大人のビターチョコ
尽のは、子供のミルクチョコ
ささやかな差別に唇をとがらせながらも、尽は胸に広がった幸福にいつまでも頬を紅潮させていた
大好きな
こんなだから、好きなんだ

もう一つ、チョコを口にほうりこんで、尽は笑って言った
「ねぇちゃん、来年は俺のもビターにしてよ」
精一杯背伸びして、
精一杯大人ぶって、
「おいしいけど、甘過ぎるよコレ」
大好きなねぇちゃん
笑ったに、尽も笑顔を返した
とりあえずハッピーバレンタイン
今はまだ、甘いミルクチョコで


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理