34. 蝋燭 (千晴×主)  ☆リクエスト(千晴と卒業前のクリスマスを過ごす)


妖精の夢をみる
背中に透明の羽をもった、ティンカーベルみたいな光の精
彼女は街角にいたり、坂道にいたり、橋のところで笑ってたり
そして今夜、この美しい庭を歩いていたり

「あ・・・・・っ」
「え?」
千晴が思わず上げた声に、は立ち止まって暗闇を見た
「あの・・・こんばん・・わ・・」
「あっ、千晴・・・?」
寒い冬の夜
灯りのないこの庭
さっき雨がふったせいで、芝生も花も木も、しっとりと濡れて凍えそう
「こ・・・こんなところで何してるの?」
誰もいない広い庭に、ひとり立っているあなたの方が何をしてるの、と
千晴は思ってクス、と笑みをこぼした
今日はクリスマス・イヴ
はばたき学園の理事長宅で毎年行われるクリスマスパーティ
それに呼ばれたシャンパンのウェイター
「それが今夜の僕の正体、です」
笑みに、が頬を染めた
「ほんと? 会えるなんて・・・思ってなかった」
「僕も、です」
千晴は高鳴る胸を抑えて、微笑する
薄ピンク色のドレスをまとったは、幻想的に目に映る
ここは美しい庭
今夜は月もなく、暗闇で何もみえはしないけれど
「私は、ちょっとさぼり
 なんだか疲れちゃったから、人が多すぎて」
「さぼり・・・?」
「休憩ってことよ」
「ああ、そうですか」
悪戯なに、千晴はクス、と笑った
数える程しか出会っていない二人
交わした言葉は、ほとんどが電子メール
なのに目の前にいるは、画面の向こうを想像していたそれと一致している
優し気なしぐさ、キラキラした目
会いたい、と書いたメールに私も、と
返事が返ってきた時は驚いて
それから待ち合わせた場所に来た女の子が、街で何度が見かけた子だったことに運命に似たものを感じた
それから、あの夢をみるようになったのだ
いろんな場所にあらわれる、妖精の夢
美しい夢

「本当は今夜このお庭も使うつもりだった、です」
千晴は、休憩だと言ったをつれて、庭の奥にある離れへとやってきた
「わっ・・・素敵・・・」
「綺麗です、ここ」
真っ白い石の離れ
暗いのに目が慣れたから、周りに植えられているのがバラだとわかる
「晴れてたらもっと綺麗に見えたのにな・・・」
月が出ていたら、月の光にさぞ このバラは美しかっただろう
残念そうに、真っ白い石でできたベンチに腰を下ろしたに 千晴は笑った
会う度好きだと感じた人
だけど、これは自分だけの想いだった
が優しく笑うのを見て、幸せな気分になり
妖精の夢を見るたびに、彼女を捕まえようと手を伸ばした
当然のように、いつもいつも届かなかったけれど
「大丈夫」
今夜はクリスマス・イヴ
奇跡が起こる日
バイトの先輩が熱を出して倒れたからと、ピンチヒッターに入ってここへ来た
どこかの学校のパーティだとしか聞いていなかったけれど
そして自分は、一人この庭で、雨がふったせいで中止になったガーデンパーティの片付けをしていたのだけれど
「見てて・・・」
ポケットからマッチを取り出して 千晴はまだ片付いていないテーブルに置かれた燭台へそれを掲げた
次々に、灯りがともる
この離れの周りに設置された蝋燭にも、全て灯をともした
幻想的な夜
まるで星に囲まれたように 淡く照らしだされる白い空間
「すてき・・・」
ここを囲むように植えられたバラも、輝いてみえた
夢のような、
あの夢のような景色が広がる

「ねぇ、こんなことして叱られないの?」
「今日はクリスマスです、店長も許してくれます」
「そう?」
はい、と
にっこり笑った千晴に、もまた笑みをこぼす
優し気な男の子
最初女の子だと思ってメールを書いていたから余計に
彼が男だとわかっても、警戒心は生まれなかった
メールと同じ
口調もしぐさも、どこか少したどたどしくて、でも優しい
初めて会う人に緊張していたの心をほぐしてくれたのは、千晴の笑顔だった
だって本当に優し気に、笑うから
(今も、そんに顔をしてる・・・)
子供みたいに 全部の蝋燭に灯をつけて
きっと片付けろと言われたものなのに
後で叱られるかもしれないのに
「どうぞ、・・・」
「え?」
目の前の 蝋燭の光で輝くテーブルに コトリとグラスが置かれた
心地よい響きとともに、白い泡をたてながら透明な液体が満たされていく
「シャンパン、です」
「ありがとう」
クリスマスパーティ
理事長が毎年用意する、アルコールの入ってないシャンパンジュース
それでも、こんな場所でこんな風に
優しく微笑する専属ウェイターに入れてもらったら それだけで酔える気がする
気分がボンヤリとなっていく
「おいしい・・・」
さっき会場で飲んだ時は こんな風には感じなかった
人がたくさんいて、ザワザワとうるさくて
ちょっと苦手な空気
プレゼント交換がはじまると ますます会場は盛り上がって
それで辛くなって出てきた
外の空気を吸おうと思って
もう少し、静かなイヴを楽しみたいと思って
「ねぇ、千晴は飲まないの?」
「僕はウェイター、です、から」
「いいじゃない
 今日はクリスマスなんでしょ?
 すこしくらいさぼっても店長さん許してくれるよ」
「・・・休憩ですね?」
「そうよ」
くす、と
思わずこぼれた笑みに、千晴も側でくすくす笑った
そして、今度はがクラスにその透明を注ぐ
「なんだか泡だらけになっちゃったね・・・」
「ふふ、はじめて、です、か?」
「うん、ごめんね」
恥ずかしそうにしたに、千晴はもう一度笑った
「いいえ」
そして、それを咽に流し込む
今夜は寒くて、ここは外で
なのに身体は熱いから
その冷たい液体は 火照った身体に気持ちよかった
ああ、この時間がずっと続けばいいのに
ここで時間が止まればいいのに

突然、びゅっ、と突風が吹いた
何本かの蝋燭の灯が消え あたりがほんの少し暗くなる
「あ・・・」
そうして、の髪に
その風で飛んできたのであろうバラの花びらが ふわっと絡んだ
鮮明な赤に、意識が一瞬ぼぅ・・・とする
「じっとして・・・取り、ます」
「あ・・・うん」
側へ寄り、そっと髪にふれた
どき、とする
こんなに近くにがいる
今、この指がに触れている
ドクドク、と
聞こえるんじゃないかと思う程に その音は千晴の意識をいっぱいにした
細い髪にからんだ花びらをつまみ
それで顔を上げたと、視線がぶつかった

ドキン

それは、あの夢を思い出させた
いつも逃げる妖精
手は届かない
想い焦がれているのに、をこの手に触れられない
意識がぼんやりして、
夢と現実が混ざったのだろう
ここは幻想的な庭
妖精みたいなドレスの、
初めて触れた髪
こんなに側に感じる体温
に、触れたい
に、触れたい

ふ、と
気付いた時 の唇に千晴の優しい口付けが降りていた
寒い夜に それでも凍えないのは 今二人でいるから
側に千晴がいるから
会いたいと想っても、会えない人だから
今夜ここで見つけて、本当に驚いた
神様っているんだと思って、生まれてはじめてクリスマスに感謝した
こんなの偶然なんかじゃない
騒がしい喧噪から逃げて、この庭に足を踏み入れて
逢いたいなんて、願っていたから

「あ・・・あの・・・」
千晴が離れた途端、の思考は一気に現実に戻ってきた
今、千晴がしたこと
それに身体が硬直した
今、千晴は何をした
「あっ・・・」
そうして、千晴もまた同様に 意識を現実へと戻して真っ赤になった
「ごっ・・・ごめんなさい・・・っ」
慌てたようにしどろもどろと
千晴はを見つめた
毎晩追い掛けて手を伸ばした妖精を、今夜捕まえて
触れられる距離にいたから、思わず触れた
キスをした

「ごめんなさい・・・・」
「う・・・うん・・・」
二人、どうしようもなく俯いて
真っ赤になって、ただ立ち尽くした
ドクンドクン、と
お互いの心臓が鳴る
どうしようもないくらいに、想いが溢れる
「あの・・・っ」
「な、何・・・?」
言葉もなく俯いて 必死に顔の温度を下げようとしていたに 千晴は言った
「あの、でも、想いは、ここにあり、ます」
多分共有しているこの切なさや愛しさを、言葉にするのに千晴は苦戦して
それから困ったようにをみつめた
「僕は・・・あなただけ、です」

それはまだ発展途上の想いだけれど
千晴にはそれしか言い表わす言葉がなかった
だから、です」
そうして、
囁くように告げられた言葉に、もまたうなずいた
「うん・・・ありがとう」
真っ赤になった頬の熱は、もた下がりそうもない
突然のキスの感触が、唇に残っている
鼓動は早いまま
千晴の顔もまともに見られないくらいに、ドキドキしているけれど
二人、この距離を保ったまま やがてどちらもぎこちなく微笑した
同じ想いを確信しながら
幻想的な夢の庭で、見つめあいながら

夢の妖精を捕まえた
蝋燭の灯が、二人とバラの園を照らし出す
今夜は奇跡のクリスマス・イヴ


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理